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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第4章

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201.いっとき


???視点




━━…君は綺麗だ





「……よく言われるよ」


嘘だ。

そんな事誰にも言われた事がない。


「だってとても綺麗だから……世界で一番綺麗だよ」





この世に生まれて丁度100年。


男と出会ったのは、主様の神域外にある枯れ果てた森の中。

生まれてこのかた神域から出た事はなかったけれど、目と鼻の先が神域なのだから大丈夫だろうと、そんな軽い気持ちだった。


「っ…精霊……?」


気が付けば男がそばに立っていて、僕を見て呆然と呟いていたんだ。


僕は主様の精霊の中で唯一女型をしていたけど、その時はまだ100歳の子供だったから男女の区別がついてなくて、皆に倣って自分の事を“僕”って言ってた。

特に注意もされなかったし、今でも僕は僕だ。


「お前、誰?」


人間だ。人間を見るのは初めてで、ちょっと怖かったけど話し掛けてみる事にした。


「オレは━━…」




男は毎日そこへやって来た。

僕は、男が何で毎日来るのか知りたかったから、だから毎日会いに行った。


「ねぇ、何でこんな枯れ果てた森に毎日来てるの?」

「だって、君が居るから」




僕は男の“つがい”なんだそうだ。

よく分からなかったから、その時はふ~んって適当に相槌うってた。


神域に戻って仲間の精霊に聞いたら、そいつは人族だって。つがいっていうのは魂で惹かれ合うから出会ったら離れられないって教わった。

けど、人族ではない僕にはピンとこないから、その話にもやっぱり適当に相槌をうったんだ。


何度も何度も男と逢ってたら、コイツと離れたくないなぁって思うようになってた。

そのうちに男が一緒に暮らそうって言ったから、僕は人族の一生分の時間位そばにいたって支障はないよねって…そんな軽い気持ちで男について行く事にしたわけ。


男の生まれはグリッドアーデンっていう人族の国だったけど、僕と会ってからはずっとバイリン国で暮らしてた。

僕が住む神域に近いからね。

ただ、神域以外は魔素が尽きかけていたから砂漠と枯れた森しか周りにはなかったんだ。だから男はルマンド王国に行こうって言い出した。


何処に住もうが拘りなんてないから、また男について行くことにしたんだ。その頃には僕のお腹の中に小さな小さな光が灯っていたから、僕はその光を消さないように頑張ったんだよ。


ルマンド王国で暮らし始めて幾重も経たない内に、お腹の光が外に出て来て僕達はとっても嬉しくて、腕の中の重みが温かくて、幸せだった。

けど、男は魔素が尽きかけていたこの世界では生きていけなかった。弱い人間だもん。


「━━…、いとおしい君を、置いていってしまうこと…許して、くれ」


「ミィ、を……たのんだ、よ……」


男は、トリマーは、最後にそう言って息を引き取った。


腕の中で眠るミィを、僕は胸にぽっかりと穴が空いてしまったような気分で見下ろして呟いたんだ。


「ねぇミィ、僕はこれからどうすればいいの? 君の父親は…トリマーは逝ってしまったんだ。置いていかれた僕は…君は、」


これからどうやって生きていけばいいの?


教えてよ。僕のトリミー。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「━━…へぇ、そうだったんですか~」

「じゃあご主人と出会った後すぐトリミーさんのお母様は行方不明に?」


トリミーさんにご両親の事を覚えているのかと話の流れで聞いてみた午後のティータイム。


暇していた私達をお茶に誘ってくれたトリミーさんの家に喜び勇んでやって来た私とトモコだが、精霊のハーフと自覚のない彼女にそれとなく話を振って見事聞き出す事に成功したのだ。


「父は人族だったらしいんだけど、私が小さい頃に亡くなってねぇ……覚えていないんだよ。母は老いもなかったし多分魔族だろうね。たった一人で私を育ててくれたよ」


との事。そのお母さんが精霊だったのだろう。


トリミーさんが旦那さんと出会った日に行方不明になったらしいので、まだ生きている可能性はある。

もしかしたら神域へ戻ったのかもしれないと考える。


「まぁ変わった人だったからね~。常識もなかったし、少女のような人だったよ。容姿は絶世の美女だったけどね」


カラカラ笑うトリミーさんは、自分が父親似だって事は確かだとまた声を上げて笑った。

トリミーさんも顔立ちが整っているが、こう言うのだから相当綺麗な人だったのだろう。


そういえば精霊は美人ばかりだと聞いた事がある。

ルーベンスさんよ。私が精霊って無理があったんじゃあ……。


「紅茶作りは母が教えてくれてねぇ。今となっては私の生きる糧さ」


優しい瞳で茶葉を見るトリミーさんは、お母さんが大好きなんだろう。

きっと優しい人だったんだろうなぁと、まだ熱い紅茶を口に含み「あっつ!!」と叫んだ私の声は、笑い声に消えていったのだ。



それはゆっくりと流れる午後の一時だった。


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