2.目に見えないものって結局見えないからわからないよね
昨日の一件から寝て起きて、夢ではない事を確信した。
せざるを得ない。だって窓の外には相変わらず鬱蒼とした森が存在していたのだから。
ここで暮らそう。
そう決心した私が始めたのは農業だった。
いくらズボラでもやる事がないと暇なのだ。しばらくは食っちゃ寝生活も出来るが、一生をそうして過ごすのはあまりにもアレなので、庭…というか森に畑を作る事にする。勿論耕すなんて面倒臭いのでこのおかしな能力の実験もかねての暇つぶしだ。
望んだものが出てくるのなら、例えば自分が妄想したもの…想像上のものでも出てくるのか?そんな事を実験しようと外へ移動した。
結果、出た。
家の前には、傷を一瞬で治す葉っぱ、病気を治す花、欠けた身体を再生出来るツタ等の茂った薬草畑と、美肌になる美容液の元となる花、若返りの葉が生えた美容畑、そして醤油や味噌、マヨネーズ等が生る木のある調味料畑等々。と、見るからにヤバイものが出来上がった。
効果は使用していないのでわからないが、調味料畑の醤油等を見る限り間違いないだろう。
まずは一番目につく調味料畑の醤油を、緑々と葉が生い茂る醤油の木からもぎ取ってみる。
手の平サイズの滴型をした、透明な硝子の容器には黒い液体が確かに入っている。蓋も硝子で出来ているようでワインのコルクのように容器に刺さっている。
中身が醤油でなければシンプルな香水瓶のようだ。
蓋を引っこ抜くとキュポンッと可愛い音がたった。どうやら鮮度がおちないように密閉されていたらしい。
開けた瞬間鼻につく醤油独特の匂いに感動した。
味も確認してみたが醤油で間違いない。しかもかなり美味しい醤油だった。
マヨネーズや味噌も容器に入って生っていた。マヨネーズはスーパーで売っているあのチューブの容器に入っていて、味噌は厚みのあるビニール袋に入っている。
何だろう…これは私の想像が乏しいからこんな雑な容器なのだろうか。
ともかく、ふわっとした想像だとしても、それを何とか補って形になるらしい事が分かった。
薬草畑と美容畑はまた後程試すとして、次に行う実験は目に見えないものも出す事が出来るのか、だ。
どういう事かというと、日本人なら一度は聞いた事があるアレ。“結界”を創り出せるか。という実験をしたいと思う。
想像するのは範囲と効果。
範囲は家と畑までを円形状に囲んだ大きさ。
効果は、私が許可した者しか入れない。そして結界の外からは内側は見えない(ただの森という認識になる)。
そんな事を想像しながら結界よ出ろと念じると、何やら透明な膜が周りに張られたような感覚があった。
膜が張られた感覚はある。あるけれど、見えないからわからない!!
え?こういうのって普通結界張った側からはなんとなく見えるっていうかさ? わかるものだよね?
ああ、効果の部分で張った側にはうっすら見えるって念じなかったから?
うん。面倒だから張り直しとかいいわ。これでいこう。何か問題あったらその時考えよう。
次は……何かもう面倒になってきた。
美容畑と薬草畑から、花と葉を収穫したら家の中に入ろう。そうしよう。
色々な植物(?)を作ってみたものの、必要なかったなぁ。などと思いながらリビングのソファに寝転ぶ。
結局ご飯は望めば調理後のものが出てくるし、他も薬として出せばいいわけだし、面倒臭がりの私が自ら面倒な事をしてしまったとちょっとだけ後悔する。
まぁ実験目的だったし良いかと無理矢理自分を納得させ、机の上にある収穫した植物達を見た。
植物は時間が経っても萎れたりしなかった。水に浸けてもないのにいつまでも瑞々しく花は綺麗でちょっと怖い。
それに手を伸ばして念じると、まるでマジックのように、綺麗な硝子瓶に入った液体が出来上がった。どうやらこの能力、望んだものを出すだけでなく出したモノを加工する事も出来るらしい。なんと都合の良い能力か!
しかしどれがどの効果のあるものか分からなくなった…硝子瓶の形は全部異なるものの、ラベルが貼ってあるわけじゃないからさぁ…目に見えないものどころか目に見えるものすらわからなくなるなんて!! いくらチート能力でも使う人がへっぽこだとへっぽこ能力になるのか。なら、どれがどれだかわかるようにラベル付きで!
そう念じれば各瓶にラベルが付いた。良かった…。
さっそく試してみようと机の上に並んだ5つの瓶を見る。
やはりこれしかないだろう。
私は日本語で書かれた“若返り”のラベルが貼ってある瓶を手に取った。