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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第1章

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19/303

19. 死にそうなのは私だ!

吐き気がする。



部屋の中を一歩進む度に、足の裏にぬるりとした液体がまとわりつき、鉄の匂いが鼻をつく。



部屋の隅に転がる大きな塊が目に入った時から、今までうるさい位にドクドクいっていた私の心臓が、鼓動を止めたみたいに何も聞こえなくなった。


深淵の森と、この部屋とを繋げた扉から漏れる光で、床の液体が赤黒く光る。


足の裏も、パンツの裾も、歩く度に赤く染まっていく。




大きな塊は、そんな赤黒い溜まりの中心に在った。


「…ロード」


ひきつるような喉の奥から絞りだした、この世界で唯一知っている人の名に、その塊はぴくりと反応した。


「み……や、び……」


消え入りそうな掠れた声で私を呼び、俯いていた顔を上げたのは…………ロードだった。


「ゆめ、か……?」



たったひと月、会わなかった期間はそれだけなのに、目の前のロードはやつれ、傷だらけのうえ目は虚ろで、まるで別人のようだった。


「ああ…夢でも、いい。会いたかった…っ」


意識が朦朧としているのか、夢だと勘違いしているらしいロードに近付き、手を伸ばす。


「ミヤビ…お前に触れてぇ…」


ロードの言葉に唇を噛む。


「…けど、これじゃあ触れる事も、出来ねぇな…夢なら、腕ぐれぇ生やしてくれりゃあいいのによぉ…」


眉を下げて力なく笑うロードの両腕は、無くなっていた。



「…ばかロード」


所々血で固まった髪を撫でると、「神王様も最後の最期にゃ粋な夢を見させてくれるじゃねぇか」と目を細める。

そんな様子に、胸が締め付けられた。


彼は、もう自身が長くはないと思っている。


腕からの出血量は確かに致死量に達しているし、いつ失血死してもおかしくない。

見ればわかる程、足元には血の溜まりが出来ていた。


ショック状態に陥っていないのが不思議な位だ。



「……私は、何にも出来ないズボラ女だけどさ…」


35過ぎても、誰かに頼りっぱなしのダメな女だけど。


「ミヤビ…?」


いつまでも人に甘えてばかりな奴だけど。


でも、


「何でも出来る神様になってたらしいんだよね」



自分でも悪役じゃないかと思う位、不敵な笑みを浮かべて、欠損部位の修復と増血、身体機能の回復等を願った。




私の言葉に戸惑っていたロードは目を見開き、そして、

“自分の腕”で私に触れたのだ。


「…やっぱり良い夢だな。腕が生えやがった」


ニヤリと笑うこのオッサンに、突然腰を抱かれ引き寄せられたものだから、プロレス技でもかけられるんじゃないかと不安に襲われる。

ロードの腕は丸太並に太いのだ。


「ミヤビ…最期に見たのがオメェの夢だなんて、こんな嬉しい事はねぇよ」


まだ夢だと思っているのか、そんな事を言って腕に力を込めてくるので腰が破壊されそうだ。

オッサンより私の方が最期になりそうだから離してほしい。切実に。


「どうせなら、《ロード大好き! 愛してる~》って言ってくれねぇかな。ついでに口づけとかしてもらえると心置き無く逝ける…いや、それはそれで逆に死ねねぇな」


すみませーん。誰か警察呼んでもらっていいですか? このエロゴリラ今すぐ豚箱へ放り込んでもらうんで。


「夢ならせめてベッド出てこねぇか? 色々ヤるにしても床だとミヤビの肌に傷が…「正気に戻れェェェ!!! そして助けてヴェリえもーん!!」」


『ヴェリえもんって誰ですか。私の名はヴェリウスですよ。ミヤビ様』


雅はヴェリえもんの召喚に成功した。


中型犬の大きさで現れたヴェリウスは、元の大きさだと扉を潜れなかったのだろう。せっかく威嚇の為に元に戻っていたのに、結局小さくならざるを得なかった我が家のペット様は、若干機嫌が悪そうだ。


「ヴェリえもん! このオッサンが離れる道具を早く出してよーっ」

『ヴェリウスです。道具、ですか? あの…喰い殺してはダメでしょうか?』


ヴェリえもんは真面目すぎて冗談が通じない上、物騒だった。



「…おい、ヴェリエモンってなぁ誰だ? あ゛ぁ゛?」


ギブ!ギブ!!

骨がメキメキいってるからァァァ!!


ヴェリウスの名前を呼んだら、ロードが何故かヤクザに変貌した。

さっきまでの、死にかけだったあのしおらしさはどこへやったのか。


『ヴェリエモンではなくヴェリウスです。ところで……いい加減ミヤビ様を離さんか。小僧』


鼻の頭にシワを寄せ、牙を見せつけながらロードに対面したヴェリウスと、ばか力で腰を砕きそうなロードとの間で、私は死にそうになっていた。

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