182.自己紹介します!!
ギャオォォッ!!
ティラー姉さんがサンショー兄さんを尻尾でぶち殴った。サンショー兄さんはえぇ!? という表情をした後涙目になっている。
しかし、そんな思わず吹き出しそうになる場面で、パニックになっていたおっさん達に緊張が走る。
「とにかく今のうちにここから離れようっ」
M字ハゲのおっさんが皆を促せば、移動しようとするので「待って、待って」と慌てて止めた。
「大丈夫。この子達は私達を傷つけたりしないから」
俵のように抱き上げられている私は、未だ地面に降ろしてはもらえない。この世界のおっさんは皆人を抱き上げるのが好きなのだろうか。
「どういうこった」
鋭い目付きで黒髪無精髭のおっさんに睨まれる。
「さっき助っ人を呼ぶって言ってたでしょ。彼らが助っ人のティラー姉さんとサンショー兄さん。えっと、一人で良いって言ったのに、二人で来ちゃったティラー姉さん達が揉めてるみたい」
グゥゥとサンショー兄さんが唸り、ティラー姉さんがゲギャア!! と圧力をかけている。サンショー兄さんはちょっとビクリとしてそれでも負けるもんかと睨みをきかせているがティラー姉さんには敵わないようだ。
「揉めてるっておめぇさん…」
M字ハゲのおっさんが引きつった顔で珍獣達の話し合い(?)を見る。
「魔獣同士の喧嘩にしか見えねぇが」
「話し合いです」
多分。
ティラー姉さんの尻尾で顔連打の応酬に涙目どころかポロポロと泣き出したサンショー兄さんは、攻撃するのをぐっと堪えてグゥゥと何かを訴えている。
たまにティラー姉さんの尻尾を噛んでいるが、ティラー姉さんは噛まれると激しく尻尾を振って、サンショー兄さんの口から離れると今度は勢いをつけバシンッと胴体に尻尾をぶつけるのだ。
その攻撃でまた涙をポロポロこぼして私を見るサンショー兄さんが可哀想になってきた。
「ティラー姉さん、もう止めてあげて。サンショー兄さんが泣いてるよ…」
ギャウ!? ギャオゥ…と私を見て鳴いたティラー姉さんは、サンショー兄さんから離れて私のそばにやって来る。
それにおっさん達がぎょっとしてまた逃げようとするので「大丈夫ですよ」と宥めた。
「ティラー姉さんヤコウ鳥のいる場所や薬草の生息地は知ってる?」
聞けばブンブンと首を縦に振る。
「嘘だろ…」
「この魔獣って確か、SSランクの幻の魔獣“レックス”だよな…」
「ああ…あっちの黒いのは“サラマンダー”だ。どっちも絶滅したはずのSSランク魔獣だぜ」
「そんな魔獣が嬢ちゃんになついてるだと…っ」
おっさん達は信じられないような顔をしてヒソヒソ話しているが、いい加減下に降ろして欲しい。
「狩りをする時は気配を消して、このおっさん達が狩るのを大人しく見てないとだめだけど、出来そうかな?」
ギャウッと鳴いてまた首を縦に振ったティラー姉さんに、「じゃあ案内頼める?」と言えばギャオォォ!! と嬉しそうに勝利の雄叫びをあげたのだ。
しかし反対に、サンショー兄さんがボロボロと涙を流し肩を落としているので可哀想すぎて声をかける。
「じゃあ、サンショー兄さんも一緒に来てくれるかな? 薬草探すの得意そうだし」
言えばキュルルルッと高い声を出して跳躍するのでおっさん達が本気でびびっていた。
土埃も舞うのでぴょんぴょん跳ねるのは止めて欲しい。全長8メートル以上もある巨体でそれをやられるとこっちも飛び跳ねちゃうからね。
「おい嬢ちゃん…おめぇ何者だ?」
黒髪無精髭のおっさんがそんな事を言ってくるので、そういえば自己紹介してなかったなぁと思いここで自己紹介タイムを設ける事にしたのだ。
「はい! というわけで、自己紹介タイムーー!!」
ドンドンパフパフ~と昭和なノリで始めた自己紹介タイム。
白熊のおっさんの肩の上からやっと解放されて、今はティラー姉さんとサンショー兄さんの間に挟まれています。
「何が“というわけで”だ」
「俺ぁもうどっと疲れが…」
「SS魔獣に挟まれて……」
「すげーな嬢ちゃん…」
4人のおっさんが色んな反応を返してくるが自己紹介は必要だ。
「ではまずは私から。名前はミヤビと申します。この森で暮らしている人間で、年は39歳になるかならないかの瀬戸際。趣味はゴロゴロする事と美味しい物を食べる事。特技は裁縫です! よろしくお願いしまーす!!」
完璧な自己紹介だとティラー姉さんとサンショー兄さんが褒めてくれている。…気がする!!
「「「「ツッコミ所が多すぎだろうが!!!!」」」」
おっさん達にとってはそうではなかったらしい。
「この森で暮らしている時点で人間じゃねぇし、何で暮らしてる森で迷ってんだ」
黒髪無精髭のおっさんさっきからチクリチクリとキツくない?
「おまっ39はねぇだろ!! どうみても12、3。高く見積もっても14歳だぜ!?」
この中で一番若い男が年の事を話題にあげる。まだまだ若造だな。
「俺も美味い物を探して食べ歩きをよくしている。最近は“チョコ”といったか…スイーツなんだが、美味かったな」
白熊のおっさんスイーツ男子!!
「ん? チョコ? ショコレートっていう単語に聞き覚えが…それの仲間??」
「似ているがショコレートは精力剤だ! 嬢ちゃんみてぇに若い女がそんな単語を口に出しちゃならねぇっ」
そうだ。精力剤だ。ショコラの名前を付ける時にロードがそんな話をしてたからうっすら記憶に残っていたんだ。
というか、白熊のおっさんは乙女だなぁ。
「39歳なんだから若くねぇだろうが」等と若造が言ってくるが気にしない。お前は白熊のおっさんを見習え。
「それより、おめぇさんのそばにいる魔獣について教えちゃくれねぇか?」
M字ハゲのおっさんがチラチラと珍獣達を見ながら恐る恐る聞いてくるので、次は珍獣達の自己紹介をする事にした。
「えっと、この子達はこの深淵の森を守っている魔獣達で、私のご近所に住んでいる友達です。名前はさっき伝えたように、こっちのティラノサウルスみたいな方が“ティラー”。女の子で、こっちのサンショウウオみたいな子が“サンショー”。男の子です」
珍獣二人は嬉しそうにすり寄ってくるので、その顔を撫でておいた。
「ティラノ…? サンショ…??」
「何かよく分からんが、ご近所のお友達なんだな」
「名前付けて飼ってんのかよ…」
「深淵の森の守護獣…」




