180.解禁
その日、ルマンド王国の冒険者達に激震が走った。
神域として近付く事さえ出来なくなった“深淵の森”。
希少な動植物が多い場所として様々な冒険者達が挑んできた森が、一部の冒険者にのみ解禁されるというのだ。
条件は大きく分けて5つである。
1. Aランク以上の“パーティー”である事
2. ルマンド王国に所属している冒険者である事
3. 深淵の森の結界を通り抜ける事の出来る者
4. 深淵の森で狩った動植物は国が買い取るものとする(それ以外での売買を禁ずる)
5. 深淵の森で手に入れたものは私物化してはならない
その他にも細々とした禁止事項はあるが、それは他にも適応される常識であるので省略する。
しかし当然その条件に漏れる冒険者達からは非難や反論の声もあがった。が、深淵の森の難易度を国から示され、そんな声もすぐに消えていった。
そう。神域と化した深淵の森は、今や最高難易度のダンジョンと変わりないものとなっていたのだから。
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ブロンズのドッグタグを胸元に光らせ、革の編み上げブーツと革の胸当て、背中には弓矢を背負った厳つい男達が土煙をあげながら歩いている。
腰に剣やナイフをぶら下げて武装している集団が、一路向かうのは“深淵の森”だ。
ギルドから深淵の森行きの乗り合い馬車が出発したのは1時間前。Aランクの冒険者パーティーが乗り合わせてやって来たのだ。
「本当に大丈夫なのか? もし神罰にでもあったら……」
「国から許可が降りたんだ。て事ぁ例の精霊様からお許しを頂いたってこったろ」
「そりゃそうだが……」
「何はともあれ、この神域の結界を通り抜けられねぇと神罰も何もねぇしよぉ」
そんな事を言い合いながら見上げた森は鬱蒼としており、大の男でも不安に駈られるほど深い森であった。
Aランクの冒険者で結成されたパーティー、“焔の鳥”。
平均年齢45歳の、国内外でも名のしれた男達である。
彼らがこれから挑むのは、“深淵の森”。
神域になる前から難易度の高かった場所ではあるが、人族の神の神域となってからは更に厄介になっているに違いないと確信している。
何しろ国から、この神域で狩りを許されたのはAランク以上のパーティーのみ。それもルマンド王国に所属し、結界を越えられる冒険者だけなのだ。
そして解禁日、選ばれたのが件のパーティーだった。所謂先行隊というやつだ。
「ほら、おっさん達!! さくさく行くよー!!」
しかし“焔の鳥”が一番困惑していたのは、この先頭を行く子供の事だった。
彼らが少女と出会ったのは数ヶ月前。同じ位の女の子と少し小さな女の子を引き連れてギルドにやってきた目の前の少女。
次に顔を見せた時には騎士らしき青年とまた別の小さな女の子を伴って、ヴェアを狩ってきたらしいというのが噂になっていた。騎士らしき青年が狩ったのだろうと言われていたが。
三度目にギルドを訪れた時は一人で、何故か騎士団に連行されていった。
ギルドマスターも買い取りカウンターの老人も、その事については一切口にしようとはしなかった。
冒険者達は皆酷く心配したが、数日後には何もなかったかのように顔を出していたので大した事はなかったのだろうと誰もがホッとしたものだ。
ギルドマスターと老人の顔色は悪かったが皆特には気に留めていなかった。
年明けからすぐ、国から深淵の森の解禁令が出た事でギルドが大騒ぎになり、その内容に賛否両論あったのが2週間前。それと同時にギルドマスターから“焔の鳥”が推薦された事を知ったのだ。
とまぁこのようにトントン拍子で深淵の森にやって来る事になった男達だったが、乗り合い馬車の中で出会ったのがこの少女であった。
当然のように乗り合わせ、当然のように同行しようとする少女に男達は困惑しているのだ。
「嬢ちゃんよぉ、おめぇさん何でしれっとついてきてんだ?」
男の一人が怖がらさないようにと優しく聞けば、小首を傾げて男達を見る。
男達は益々困惑して「ここは危ねぇから帰んな」「ほら、まだ乗り合い馬車も待っててくれてんだからよぉ」等と宥めるように少女を囲んで、いつもは凛々しくつり上がった眉を下げているのだ。
「でも…今日は私、“案内人”のバイトでここにいるし」
少女の言葉に狼狽した男達は、控えとして貰った依頼書をその場で見直したのだ。
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※冒険者のランクとドッグタグのカラー
Gランク…赤色のドッグタグ
Fランク…黄色のドッグタグ
Eランク…緑色のドッグタグ
Dランク…青色のドッグタグ
Cランク…紫色のドッグタグ
Bランク…白色のドッグタグ
Aランク…ブロンズのドッグタグ
Sランク…シルバーのドッグタグ
SSランク…ゴールドのドッグタグ




