169.死刑だ
「ミヤビ、トモコも仕事で帰って来ねぇし、今日は家で過ごすんだろ?」
「ううん。今日は王都をぶらつく予定」
朝御飯を食べているといつもより遅出のロードにスケジュールを確認され正直に答える。
ヴェリウスもトモコも“神族の仕事”とやらで起きたらすでにいなかった。
「ぁ゛あ゛!? テメェ一人で街を散策すんなって言ったばかりだろうが!!」
予想通りの反応にニヤリと笑う。
「それなんだけど、このロードの指輪って私の居場所がわかるようになってるし、これを目印にして来れるようにロードの執務室に転移扉も創ったし、防御も完璧でしょ? それならロードが憑いて…ゴホンッついているようなものなんだから、王都散策なら良いかなと」
そう、この間のぶらり王都散策後にロードに説教された後、執務室にこの指輪を目印にした転移扉を創らされたのだ。
「…でもなぁ」
「それに、王都ならロードの仕事場も近いし、少しでもそばに居たいなぁって」
「ミヤビぃ!! それなら俺の執務室に居りゃいいだろっ 俺だってオメェと一緒に居たいんだ!!」
ぎゅうぎゅう抱き締めてくるロードを宥め心の中でほくそ笑む。
「仕事の邪魔はしたくないから。ね?」
「ミヤビぃ~っ」
という事で、ロードを説得し仕事へ行ったのを確認した後、いそいそと支度をしてからルマンド王都へと転移した。
朝の8時。既にお店は開店しているようだが、客はまばらだ。
開店したばかりだからかなと思っていれば、営業していた店が閉店しだしたのだ。
どうやら早朝に開店する市場だったらしい。
そんな街並みを眺めつつギルドへと向かう。
ヴェリウスに聞いた所、ヤコウ鳥はそんなに珍しい鳥ではないらしい。だが、味は絶品の為高級食材として高く売れるそうなのだ。
亜空間の中のヤコウ鳥を思いながら、いくらで買い取ってくれるだろうかとドキドキしてきた。
そして━━…
やって来たギルド。おっさん達(冒険者達)はほとんどおらず閑古鳥が鳴いている様子。
「おはよーございまーす」
元気よく挨拶しながら足を踏み入れる。
「おう嬢ちゃん。今日は朝から来たのかぃ?」
「おはよう嬢ちゃん。朝から元気だね~」
「おはよ~。なんか人少ないね~?」
「ばっかオメェ、この時間はとっくに仕事に出てんだよ」
「そうなの? おっさん達も真面目に仕事しろよ~」
「うるっせぇ。俺らは今仕事終えて帰ってきたばっかだっての」
等と数人いたおっさん達と挨拶を交わしながら受付を見れば、今日は禿げ散らかしたおっさんではなく、がっしりしたお姉さんの方だった。
目が合い挨拶をすると、お姉さんも笑顔で挨拶してくれる。
「買い取って欲しいものがあるんですが、おじいちゃんいますか?」
「今は裏で作業しているわ。呼んでくるわね」
お姉さんが立ち上がろうとしたので待ったをかける。
「あ、大丈夫です。ちょうど大きな獲物だったので裏に回りますね」
「分かったわ。お願いね」
「はい」
お姉さんに断りを入れてから一旦ギルドを出、裏へと回ったのだ。
グランドにはおじいちゃんの姿はなく探していると、裏の倉庫の扉が開いており、ガタガタと物音がするので近寄ってみた。
中には買い取りのおじいちゃんがいて、「おはようございまーす」と声を掛ける。
「ん? おおっ 嬢ちゃんじゃねぇか。どうした」
解体用の道具だろうか、ナイフや見たこともないような器具を手入れしていたおじいちゃんは、動きを止めて私を見た。
「買い取ってほしいものがあるんだけどいいかな?」
「おうっ ちょっと待ってな」
ニヤリと笑ったおじいちゃんは、道具を丁寧に立て掛けていく。
「よし、見せてみろ」
「はーい」
返事をしてこの間の様にグランドに出、おじいちゃんの足元にヤコウ鳥(解体済み)を出したのだ。
「こ、こいつは…っ」
何故か驚いているおじいちゃんに胸を張り、「ヤコウ鳥だよ!」と言えば、おじいちゃんは「何て事だっ」と真っ青になった。
「嬢ちゃん、俺は何も見なかった。今すぐこいつを隠すんだ!!」
「え? 何で? ヤコウ鳥、買い取りNGだったの?」
おじいちゃんの慌てように困惑していたその時、
「じぃさん、今日の予定なんだが……」
ギルドの裏戸が開き、禿げ散らかしたおっさんがやる気のなさそうな顔をしてやって来たのだ。
「ん? 嬢ちゃんじゃねぇか。何してん、……!!? そいつは!!」
禿げ散らかしたおっさんは足元のヤコウ鳥を見ると、あのダルそうな顔が嘘みたいに険しい表情に変わり、私とおじいちゃんを見た。
「じぃさん、コイツは何だ……」
ヤコウ鳥を指して、少し低めの声でおじいちゃんに問うおっさんは、いつもと様子が違う。
「ヤコウ鳥、買い取ってほしくて持って来たんだけど……」
「バカ…ッ 嬢ちゃん何で言っちまったんだ…っ」
答えた私に、おじいちゃんが慌て出す。
「買い取る……なぁ嬢ちゃん、こりゃああんたが狩ってきたもんかぃ?」
「え、あ、はい。そうです……」
本当はロードが狩ってコピーしたものだが、自分で狩ってきたと嘘をついた。
「ッ…何て事だ!! 俺はこんな小さな嬢ちゃんを騎士団に通報しないといけねぇのか!!」
苦悩するような声で、不穏な言葉が聞こえてくる。
「え? 通報って??」
動揺していると、禿げ散らかしたおっさんにガシッと両肩を掴まれ、そして険しい表情のまま言われたのだ。
「いいか嬢ちゃん、“ヤコウ鳥”はな、深淵の森にしか生息してねぇ鳥だ。そりゃあ昔はあの辺りで狩りをしていた奴もいたが、それも2年前に変わっちまった。
今、深淵の森は神域だ。俺達人間が絶対に侵しちゃなんねぇ絶対領域。一歩でも踏み入っちゃならねぇと、国王様が禁止されたのさ」
「禁止……」
「それを破れば、…………死刑だ」




