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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第4章

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167.神王様、恐怖を味わう


「帰ろうかな」


そうしよう。

親子の感動シーンを見た後にボソリと呟けば、「やっとかよ」とリンが溜め息を吐いた。

何かゴメンネ。と思いつつ「奇跡だっ」「精霊様のおかげだ!!」と抱き合う親子から逃げるようにリンと外に転移した。




「……お前帰るんじゃないのかよ」


嬉し涙を流し、顔をくしゃくしゃにして喜ぶ親子を思い出しながらほっこりした気分で街を歩いていると、リンが浸っていた気分を壊すような事を言ってくる。


しかし前よりも賑わいをみせる街を眺めているとどうしてか気分が良くなった。


「せっかくだし、街をぶらつきながらお城まで行こうかなぁって」

「今すぐ師団長の元へ戻ってくれ。頼むから」


疲れたような声を出すリンに、まだお土産買ってないしと答えれば、「勘弁してくれ」と言われた。


「大丈夫、大丈夫。まだ2時間も経ってないし」

「もうすぐ2時間だよ!! お前人族のつがいを甘くみんなよ!? 普段大人しい奴でもつがいのせいで狂ったりすんだからな!?」

「大丈夫だよー。ロードは仕事が忙しいんだか、らッ ぐふぅ!?」


突然後ろからお腹と胸の上辺りを圧迫され、潰れたような呻き声が出てしまった。

しかも口を塞がれ路地裏へ引きずり込まれる。


「ミヤビィィ!!!」


リンが咄嗟に私の腕を掴んだが、凄い力で一緒に引きずり込まれたのだ。

あまりの事に心臓がドッドッドと鳴り、恐怖で動けなくなる。


「何者だ!? そいつを離せ!!」


私の腕を掴んだまま、もう片方の手で剣を抜くリンを頼もしく思う。

しかし、後ろで私を拘束している人物は、地をはうような唸り声を上げるとリンのお腹を蹴りあげたっ


「ぐぅ……ッ」


衝撃でリンの手が離れ、宙に浮く。

そこまでがスローモーションのように見えて血の気が引いた。しかし後ろの人物は追い討ちをかけるように、さらにそこへ蹴りをいれたのだ。


リンが勢い良く壁へ激突する。


ドンッ ドサッ と鈍い音がして、ごほっと口から血を吐いたリンは、立ち上がろうとしているが立ち上がれないでいる。

もしかしたら内臓が傷付いているか、骨が折れているのかもしれない。


「んんっ!!」


リンっ!! 叫ぶが口を塞がれ声を出せない。

必死で拘束を解こうともがくが、拘束する腕の力が強く全く動けない状態なのだ。



「……2時間だ」


拘束している人物が唸るような声ではなく、言葉らしい言葉を喋った。


「んん?」


…………この地をはうような声には聞き覚えが


「1時間が約束だったよなぁ?」

「ん……」


サァっと血の気が引き、力も抜ける。

塞がれた口に手をやり、撫でるようにそぉっと、退けてもらえませんかね? アピールをすれば、ゆっくりと大きな手が口から離れていった。

そろ~り後ろを向けば、ローブにすっぽり覆われた巨体が居りぎょっとする。


「ろ、ロードサン……?」

「俺との約束を破って仲良くデートとはなぁ」


本人が右手でローブのフードを捲ると、現れた顔はゴリ…ロードであった。


「デートって何!? そんな事してないよ!!」

「そいつと手を繋いでたじゃねぇか」


グルル…と肉食獣のように鼻の頭にシワを寄せて唸るロードが恐ろしい。


「いつどこで手を繋いだの!? というかリン!! 手当てしないとっ ぅぐぅ!!」


またぎゅっと抱き込まれて腹を圧迫される。


「今っそいつがミヤビの腕を掴んでただろうがよぉっ」

「そりゃ裏路地に引っ張り込むから人拐いだと思って助けてくれようとしたんでしょうが!!」


拘束している腕を叩くとぺしんっと軽い音がたち、気が抜けた。


「もぅ。本当に拐われるかと思ってびっくりしたよ~…ロードで良かったぁ」


リンの怪我の治療を願いながらロードに凭れると、ロードの拘束が若干弛みホッとする。


「ミヤビ、テメェふざけんなよ。約束の時間を1時間もオーバーするなんてどういうつもりだ。ぁ゛あ゛?」


多少和らいだ雰囲気で、しかし詰め寄ってくるロードにヘラリと笑う。


「やだなぁ、もう帰路についてたんだよ? 多少遅くなっても帰ろうとしてるんだから大目に見て?」

「大目に見れるか!! オメェは油断しすぎなんだよ! ぽやぽやしてっから裏路地に引き込まれるんだろうが」


自分なりに可愛らしく言い訳したが、ロードには無意味だったらしい。ものすごく怒られた。


「それはスイマセンー。でも、リンを瀕死に追い込む事はないでしょうが。自分が護衛を頼んだくせに」


自分の遅刻を棚にあげて非難すれば、ギンッと鋭く睨まれた。怖い。


「1時間も過ぎたあげくにミヤビを簡単にかっさらわれて、腕にも触れやがったんだぞ。あの程度で済んだなら優しいもんだろうが」


怪我が治ったのに一言も発しないリンは、ロードの言葉に青冷めた顔をしてコクコク頷いている。

私に対してはもう何も言わず速やかに解放してくれと言わんばかりの顔だ。


「……そ、うなの? えっと…リン、護衛ありがとうね。ロードが来たからもう大丈夫だよ」


空気を読んだ私に一瞬喜色を浮かべたリンへ「さっさと持ち場へ戻れ」というような目で睨むロードは大人げない。


「はっ!! 失礼致します!!」


リンは気にしていないようで、本当にさっさと行ってしまった。

そんなにこの場から逃げたかったんだね…ゴメンよ。


「ロード…」


路地裏に不機嫌なゴリラと二人きりになってしまい気まずい。

しかしロードのローブ姿は怪しいなぁとじっと見てしまった。


「んだよ…」


顔を歪めて睨んでくるのでよしよしと頭を撫でれば、顔がゆるんでくる。


「迎えに来てくれてありがとう」

「……ったりめぇだろ」


不機嫌そうに顔をそらすわりに、少しだけ抱き込む腕に力が入ったので怒りは収まってきたらしい。


「ねぇ、ねぇ、お土産まだ買ってないんだけど、付き合ってくれる?」

「っ…しょうがねぇなぁ。可愛いつがいの頼みだしよぉ、付き合ってやるか」

「やったぁ! じゃあ行こう!!」


ロードの腕に腕を絡めればまんざらでもないのか、頬を赤く染めてフードを被った。


私は思う。

あ、フード被るんだ…怪しいなぁ。職質受けるんじゃないか、と。



この後見事に職質されたロードは、王宮に帰った後騎士団に顔を出し部下を扱きに扱いたらしい。


あれは地獄のようだったと、後にリンは語った。



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