160.ぶらり、一人散策
「つーか、オメェ何しに王宮へ来たんだ?」
ロードが訝しげに見てくるが、自分の妻をそんな目で見る夫はいない。しかもまた来やがってというような表情だ。
「今日はルーベンスさんにお礼を持って来たの。でも今王様とお話し中らしいから待ってる所」
「あ゛? お礼だぁ? んなもんあのおっさんにゃ必要ねぇだろ」
嫌そうな顔をして毒を吐くロードに、カルロさんは首を傾げている。お礼が何の事か分からないのだろう。
「大体、陛下と話し中ってこたぁ定例会についてだろ」
ロードがそう言ってチラリとカルロさんを見れば、カルロさんは小さく頷いた。
「それなら夕方まで終わらねぇわ」
「そうなの?」
ロードの言葉に、タイミングが悪かったと肩を落とす。
今は昼前。夕方まで王宮で待つのは憚られた。
「じゃあ王都にでもくり出そうかな」
「なら俺も一緒に…「ロードは仕事があるでしょう」ミヤビィ~」
仕事をサボってついて来ようとするロードに、間髪入れずに断りを入れるが泣きついてきたので頭を撫でておく。
「一人で王都に行くなんて危ねぇだろ」
「危ないわけないでしょ。ここは治安が良いし、前にギルドへ行った時は子供と間違えられてお世話を焼かれたヨ」
どうやら中身38歳の私は、見た目を20代にしたからか異世界人(外国人)には10代に見えるらしい。(※自前の薬を使って若返ったよ。第一章参考にしてネ)
ここの人達は皆背も高いし、160センチ程度なら13、4の子よりも低いようなのだ。
「それに王都はすぐそこでしょ。何かあったらロードの所に戻るし、ね?」
おねがぁ~い。と可愛くおねだりは出来ないが、真面目に頼んでみる。
「ロード、王都なら今の時間騎士団も巡回しているし、夜ではないのだから女性の一人歩き位大丈夫だろう。許してあげたらどうだい? むしろ王宮内の方が精霊様にとっては危険だと思うが?」
私の事を人族の神と勘違いしていたカルロさんは、いつの間にか神ではなく精霊にランクを下げていた。
次に会った時には精霊から人間に認識が変わっているかもしれない。
「……1時間だけだぞ」
ロードがものすごく渋って時間を限定してきた。
「お昼休憩じゃないんだから1時間はおかしいだろ!? ご飯屋さんに行ったら終わるんですけど!?」
「飯は俺の執務室で食えば良いだろ!?」
「それって、お昼ご飯食べてから王都に1時間だけ観光に行くって事? ルーベンスさんは夕方まで打ち合わせが終わらないんでしょ。夕方までは王都観光してるよ」
「ミヤビを4時間も一人にしろっていうのか!? だったら一旦帰ってショコラ連れて来い!!」
お父さん!?
ロードのお父さんのような心配性に近くに居るカルロさんは呆れ顔だ。
「ショコラはマカロンと何処かに行ってるし、トモコは今日は神族の仕事で、ヴェリウスにいたっては何処にも居ないよ!! 珍獣達はロードがダメって言うでしょ」
「珍獣でも3人娘ならマシだからアイツら連れて来いって」
「あの子達は今エルフのお世話中!!」
◇◇◇
という事で、ロードの心配性を振り切りやって来ました王都。
前よりも発展しているようで、お店も増えて賑やかだ。
カルロさんが教えてくれた女性に人気のお菓子のお店は、行列が出来ていて近寄れない。
さっきのプレゼントはこのお店のお菓子らしい。どうやらチョコのお店のようだ。
可愛らしい外観に行ってみたい気もするが、行列がなぁ…。
遠目から様子を伺っていると、「あれ? ミヤビ」と話しかけられた。
人間の知り合いはほぼ居ない為、体が強張る。
恐る恐る振り返ればそこにいたのは……
「リン!!」
フォルプローム国からロードに憧れ騎士を目指してやって来た(連れて来た)第3王子の猫獣人、リンであった。
「一人なのか?」
すっかり騎士の格好が板についたリンは、私が一人なのが珍しいのか周りをキョロキョロと見て目を見開いた。
「一人だよ。リンは何してるの?」
「オレは巡回…って、よくロード様…師団長が許したな」
ロードの私への執着を知っているリンは顔を引きつらせながら聞いてきた。
「1時間だけって渋られたけどね。勿論1時間じゃ帰らないもんね~」
「バカっ お前ちゃんと帰らねぇと師団長が王都に捜索しに来るだろうがッ そうなったら大騒動だぞ! 絶対帰れよ!?」
「えー…」
私の返事にますます顔を引きつらせるリンに、「仕事頑張れよ~」と別れようとすれば、ガシッと後ろの襟を掴まれた。
「ぐぇっ」
首が絞まり変な声が出る。
「分かった。俺が1時間護衛してから、送って行ってやる。だから、頼むから1時間で切り上げてくれ」
切願されて何故かリンと街を見て回る事となった。
リンは念の為と言って、布の切れ端に炭っぽいもので何かを書き、私を連れて鳥が沢山居るお店へ入ると、お金を払ってその布を1羽の鳥の足に巻きつけ飛ばしたのだ。
鳥は王宮へ向かって飛んで行く。
「何? あの鳥」
「伝書鳥な。師団長が心配してるだろうし、一応現状を伝える為に飛ばした」
どうやらこの鳥屋さんは、伝書鳩ならぬ伝書鳥屋だったのだ。
つまりここは交信所という事である。
「師団長が手紙を受け取ったら返事と一緒に鳥がここに帰ってくるからちょっと待ってろ」
と言われて5分。
同じ鳥が足に紙を巻き付けて戻ってきた。
手慣れたように外し、鳥は店主へと渡して紙を開いたリンは、それを見てまたもや顔を引きつらせる。
「……師団長から、お前を護衛して1時間後には必ず王宮に連れて帰って来るように。ってよ」
「えー」
本当にロードは心配性だなぁと唇を尖らせていた時、「触れるな、1メートル以上近づくなでどうやって護衛すんだよ」とリンが呟いていたなど、人々の声にかき消されて聞こえてはいなかったのだ。




