139.珍獣村のお披露目
エルフを天空神殿に連れて来て、そのお世話を珍獣3人娘に任せると、早速お風呂に連れて行かれたようだ。
エルフ、お風呂入ってなさそうだもんね……。と思いながら見送り、天空神殿の自身の部屋に戻れば、ロードがすでにスタンバっていた。
「ロードさん、何をされているのデスカ?」
「ミヤビと一緒に過ごす為の布団を敷いたんだが何かおかしいか?」
「過ごすって何!? 布団は寝る為にある物で、過ごす為の物じゃないからね!? 大体部屋の真ん中にそんな大きな布団を一組だけ敷くっておかしいよね!?」
「おかしくねぇよ。俺達まだ“蜜月中”だぜ。むしろ布団のねぇ所に居るのがおかしいんだろうがよ」
ロードはそうハッキリ答えてから、私の手を取り自身の方へ引き寄せた。
この大きな人に軽くでも引っ張られると、自分の身体が綿にでもなったかのようにふわりと浮かび、簡単に腕の中に閉じ込められるのだ。
「ミヤビ」
ちゅっと音をたてながら髪や額、こめかみや鼻の頭等に次々とキスを落とすロードに抵抗は無駄だと諦めた。
大人しくなった私を布団の上に組み敷くと、上機嫌に微笑んで優しく唇を啄んでくる。
嫌ではない…むしろ好きな口付けにうっとりとしてしまう。
「ん…ロード、もう眠い……」
心地良くて眠くなってきた為、呟けば「そりゃないぜ」と身体をまさぐってくるのでくすぐったくて笑ってしまった。
「ミヤビ、もうちょい付き合え」
良い声で囁いてくるロードは、色気があってゾクリと肌が粟立った。
『━━…近いうちにバイリン国はフォルプローム国に侵略されるだろう』
「……だろうな」
『お主はそれで良いのか? このままでは戦争が起きるやも知れぬぞ』
「それを阻止する為に、フォルプロームに諜報部隊を送ったんだぜぇ。何とかなんだろ」
『フンッまぁ我らには関係のない事だが、ミヤビ様を悲しませるような事はするでないぞ』
「ったりめぇだ。つがいを悲しませるような事ぁしねぇよ」
月に煌々と照らされた日本庭園をヴェリウスと眺めながら酒を傾けていたロードは、自身のつがいが眠る部屋を優しい瞳で見つめ立ち上がると、真上にある大きな月に向かってぐぐっと腕を伸ばした。
「さてと、もうひと踏ん張りしますかね~」と、軽い足取りで部屋に向かおうとしたのだが……
『馬鹿者。ミヤビ様に無茶をさせるでない!!』
と声を張り上げたヴェリウスは、ロードを足蹴にして庭に落とし、ミヤビの眠る部屋へと入り込み障子をピシャリと閉めたのだった。
「え、ちょっ、おい! テメェふざけんなよ!? 開けろッそこは俺とミヤビの寝室だろうが!!」
ミヤビとの営みはミヤビが眠ってしまった事で終わってしまい、トイレに行く為に廊下へ出た所で庭を散歩していたヴェリウスとばったり出会って飲み比べに発展したのが運の尽きだった。
ロードはそのまま部屋を追い出され、しばらく部屋の前でガタガタしていたが、結局隣の部屋で泣き寝入りする事になったのである。
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「ん…ふわふわ……」
隣で寝ているはずのロードがいやに毛深く、柔らかくなっている事に気付き目が覚めた。
『おはようございます。ミヤビ様』
降ってきた声に驚いてパッチリ目を開く。
「ヴェリウス?」
どうやら私は、ヴェリウスの首もとに顔を埋めて眠っていたらしい。
「もふもふして気持ち良い……幸せ」
すりすりと頬をふわふわの毛にそわせ目を閉じれば、
『ミヤビ様、朝ですよ』
とクスクス笑われながら起こされたのだ。
最近は硬い筋肉に包まれての起床だったので、ここは天国かと思ってしまった。
朝の支度をするのが面倒だったので、力を使って一瞬で支度すればヴェリウスに呆れた目で見られた。
「ミヤビぃ!! テメェ浮気かコラァッ」
部屋を出た途端抱きしめられて、そんな言葉を投げ掛けられる。
「ロード、何言ってるの?」
「オメェが幸せそうな顔して部屋から出てくるからだろうが!!」
何を言ってるんだこの男は。
「そういえば、今日はヴェリウスに起こされたよ。ロードってばいつの間にか部屋から出てたんだね。熟睡してて全然気付かなかったよ」
ヘラヘラ笑っていれば、トモコがバタバタと廊下を走ってきた。
「みーちゃんおっはよー!! 今日は北の国に行くんだよね~?」
今日!?
そうなの!? とヴェリウスを見ればくぅ~んと鳴いて首を傾げる。
「トモコ、さすがに昨日の今日は無理がない? エルフだってまだ休ませてあげた方がいいと思うけど」
「え~? じゃあ今日は村を見に行く? そろそろ1週間経つし」
チラリとロードを見れば、複雑そうな表情をしている。
やはり何も言わずに村を作り出した事に思うところがあるらしい。
「そうだね。ロードは……「行くに決まってんだろ」あ、うん」
という事で、村作りの様子を見に行く事になりました。
村を見に行こう!! とノリノリのトモコに待ったをかける。
その前に、朝食を頂きたい。
そう言えばタイミング良く珍獣3人娘がやってきて、「朝餉の準備が出来ております」といつもご飯を食べる部屋へと案内してくれた。
「そういえば、エルフの彼はどうしてるの?」
席につけば朝食を出してくれる3人娘の一人に尋ねる。
「お疲れのようでまだお休みになっております」
「お元気そうに見えましたが、お身体は傷だらけで酷い状態でした……」
「ミヤビ様から頂いた秘薬で傷は回復致しましたが、お心までは……」
目を伏せる3人娘に「お世話をしてくれてありがとう」とお礼を言い、ゆっくり休ませてあげてと伝えれば、お辞儀をして下がっていった。
エルフの彼の状態がまさかそこまで酷かったとは思わなかったとあのバイリン親子を思い出して顔をしかめていると、ロードの膝の上に移動させられ頭を撫でられた。
「ミヤビ、エルフの事より俺の事を考えてくれよ」
「は?」
バカな事を言い出したロードに半目になる。
「みーちゃん、ロードさんはみーちゃんにエルフの彼の事を考えて悲しそうな顔をして欲しくないんだってさ」
だし巻き玉子を口に入れてモグモグしていたトモコが通訳してきた。
『ミヤビ様の悲しむお顔を見たくないのは私も同じです。むしろその駄目弟子よりも私の方がミヤビ様を大切に思っております』
「ちょっと待て。オメェ昨日からふざけんなよ。ミヤビは俺のつがいだぞ」
『貴様がふざけるなよ。駄目弟子。ミヤビ様にそのようなお顔をさせておいて、つがいだから何だと言うのだ』
口喧嘩が始まったんだが。
チラリとトモコを見れば、美味しそうに朝御飯を食べている。
「みーちゃんも早く食べなよ。冷めるよ」
と言われるが、頭上で喧嘩されていては落ち着いて食べられない。
「2人共みーちゃんが大好きだからね~。勿論一番みーちゃんを好きなのは私だよ」
漬物をボリボリ食べながら言われても……。
『トモコよ。聞き捨てならんな』
「ミヤビを一番愛してんのは俺だろうが」
トモコの迂闊な一言に言い合いを止めて絡んできた1人と1匹に、フフンと鼻で笑うと
「みーちゃんと一番付き合いが長いのは私だもんね。ぽっと出の君らには私達の深い絆は超えられないのだよ」
と味噌汁をすするトモコに、段々とおかしくなってきてつい噴き出してしまった。
それを2人と1匹が優しい瞳で見ていた事に気付き、恥ずかしくなって急いで手を合わせると朝御飯を食べ始めたのだ。
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「━━…何これ」
1週間ぶりに帰宅した我が家の裏は、どういうわけか白川郷の合掌造り集落と化していた。
呆然と呟けば、ヘラリと笑ったトモコが事の顛末を語り出したのだ。
「ファンタジーな村も可愛くていいけど、やっぱりここはみーちゃんの神域なわけだし、日本家屋が一番なんじゃないかなぁって皆で話し合ってやり直したんだ~」
確かに1週間前はファンタジーな木の家が並んでいた。
しかし今や茅葺き屋根の日本家屋。
同じ木の家ではあるがファンタジーというよりは日本昔話……合掌造りの家である。
ここは世界遺産か!! とツッコミたくなるが、なんだか懐かしい景色に見えてくるから不思議なものだ。
昭和の町並みが平成生まれの子にも懐かしいと言わしめてしまう日本人の遺伝子が私の中にも健在していたのだろう。
「珍しい建物だなぁ」
『なかなか味わいがあって良いではないか』
ロードとヴェリウスが外国人観光客に見えてくる。
「あの屋根は茅葺き屋根と言ってね、特徴が屋根の角度が急勾配って所かなぁ。雨水が屋根に溜まらないように、雨漏りを防ぐためのものなんだよ~。通気性や保温性にも優れてて、断熱性も高いという素晴らしい屋根なのですよ」
「あんな草みてぇな屋根がか?」
「そう思うでしょ~近付いて見て。この厚み! 原始的な屋根だけど急勾配なこの角度と厚みが大切なの」
『ほぅ…草の屋根にしては繊細で美しい造りだな』
ロードもヴェリウスも興味津々のようでトモコの説明に聞き入っている。
それにしても詳しいな。
何となくほっこりする白川郷……深淵の森、珍獣村の中を歩いていると、お土産屋さんを探してしまうのは何故だろうか。後うどん屋さんとか蕎麦屋さんも探してしまう。
「神王様!!」
「神王様がお帰りになられたぞーー!!」
「キャーッ神王様ァァァァ!!」
畑から戻って来たらしいお年寄りと女性に擬態した珍獣達と目が合い、何故か“田舎にアイドルがやって来た”みたいな騒ぎになっているんだが……。




