14.どうやら私は神様らしい
私の他に“シンオウサマ”はいないらしい。
成る程、人違いか。
「人違いですけど」
『え…』
ヤバイ。テンション上げて来たけど人違いだった!! 恥ずかしいっめっちゃ恥ずかしい!! って多分思って固まったんだな。
私なら「すみません!!」って逃げる。
昔、ものすごく良い笑顔で「久しぶり~」って声をかけてきた全然知らない人に、あっもしかして!? みたいな顔で話しかけようとしたら自分の後ろに居る人に声をかけてたって事があったけど、あれ並みに恥ずかしいんだろうなぁ。
『あの…貴方様が神王様で間違いありませんが…』
「違います。私は“シンオウサマ”という名前ではありません」
間違いを認めない黒犬に、英語の教科書に載っているような返しをしてしまった。
黒犬は耳をペタンと後ろに倒して瞳をうるうるさせ始める。
何か私が虐めてるみたいな雰囲気が漂い始めたぞ。
『神王様で間違いないです…っ 貴方様のお力を感じれば、貴方様が神王様であることは明白です!!』
断定された。
本人が違うというのに、今まで一度も会った事がなかった他人(犬)に“シンオウサマ”だと断定されたんだが、これは反論すべきなのだろうか?
しかし、チワワのように今にも泣いてしまいそうな顔をしてそんな事を叫ぶので、抱き締めて撫で回したくなる。
大きいので触り甲斐がありそうだ。
『神王様? あの、私の話を聞いていらっしゃいますか?』
私の邪な思いを感じとったのか、一歩引いて話し掛けてきた黒犬に触りたい願望を引っ込め、ずっと聞いてみたかった事を質問してみようと口を開く。
「そもそも、“シンオウサマ”や“シンジュウ”、“シンイキ”って何ですか?」
黒犬は金色の目を見開き、口を半開きにして私を見た後、何度か瞬きをしてから何かを思い付いたように頷いた。
その仕草が可愛らしくてまた撫で回したくなってくる。
『大変失礼致しました』
そう言って頭を下げ、続けるのだ。
『神王様がご誕生されて間もない事も忘れ、何もご説明さし上げず数々のご無礼…謝っても許される事ではありません。かくなる上は、この身をかっさばいて「ちょっと待ってェェ!?」』
物騒な事を言い出した黒犬の前に、青白い光が集まっているなと思ったらその光が氷の塊になり、パキパキと音をさせながら氷柱のように尖っていく。
最後には巨大な氷の杭となり、空中でピタリと的を狙うよう停まった。
黒犬の喉に今にも突き刺さりそうな位置で。
これはマズイと慌てて言葉を遮り止めたのだが…。
「何やってんのォ!? ちょ、その氷の杭を下に降ろしなさい! 早まらないでっ」
『神王様にご無礼な事をしてしまった私に生きている価値はありません!』
「恐い恐いっその気持ちが重すぎて恐い! というか説明もないまま死を選ばれても困るんですけど!?」
とにかく落ち着いてほしい。そしてきちんと説明をしてほしい。説明もないのに目の前にワンちゃんの死骸とか嫌すぎる。いや、説明があったとしても犬の死骸は見たくないけどね。
この後、私は10分程必死に説得を続けたのだ。
何とか思い止まった黒犬に、“シンオウサマ”や“シンジュウ”の説明をしてもらえるよう促すと、やっと落ち着いたらしい。質問に丁寧に答えてくれた。
まず“シンジュウ”だが、魔物にも色々種類があるらしく、その中でも魔獣と呼ばれる種類の者を、統括している神様の事を指すらしい。
漢字を当てると“神獣”となるようだ。
ちなみに魔獣とは、今私の周りにいる恐竜のような魔物達の事で、ヴェリウスと名乗るこの黒犬は神様らしい。
他にもドラゴンやワイヴァーン、ワイアームのようなトカゲに羽があるタイプの魔物を統括する“竜神”や、魔族を統括する“魔神”等の神々がいるそうで、その全ての神族の王様が“シンオウサマ”なるものなのだそうだ。
漢字を当てると“神王”だな。
で、その“神王様”が2年前にこの“深淵の森”で生まれたらしく、それが私、と……。
「んなわけあるか。こちとら38年の人生を歩んできた一般人だよ」
『神王様です!! 私共神族は“神力”を感じる事が出来ます。神力とは神のみが持つ力。その中で神王様が持つ神力は桁違いなのです。貴方様からはその桁違いの神力を感じるのです。よって貴方様が神王様である事は間違いありません!』
黒犬が必死に食い下がってくる。
とにかく、この黒犬の説明によると、神王様かどうかは措いて置いて神力を持っている私は、どうやら異世界に来て“神様”になっていたらしい。