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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第3章

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132.エルフの得意な魔法


「ろ……ろ、ろ、ろ、ロードさぁぁん!? 今アレ、ムキッボコッってならなかったぁ!?」


一瞬だったが確かに足枷されている方の膝から下が、合成された映像かといわんばかりのムキムキ足に変化したのだ。

見間違いではないだろう。トモコが目を見開いてエルフの足を見、私の顔を見てアレアレと指を差しているのだから。


身体強化(・・・・)じゃねぇか? 一部分に“身体強化魔法”をかければああいう状態になるだろ」


成る程、身体強化魔法かぁ……ん? エルフってそういう種類の魔法得意だっけ? 私が読んだ異世界小説ではもっとこう、スマートな魔法が得意なイメージが……。

癒し魔法とか、植物を成長させる魔法とか、はたまた水魔法的な?

脳筋魔法のトップに君臨するような身体強化魔法をエルフが使う!? いや、使ったとしてもムキッとなるのはどうかなぁ!? ビジュアル的にダメだと思うなぁ!!


「エルフのイメージが……」


トモコが泣きそうだ。エルフの一部ムキムキダメージが大きかったらしい。


「何だ? ミヤビは身体強化魔法が苦手か?」

「苦手なわけじゃないけど、身体強化って女性が使ってもあんなムキムキになるの?」


ロードが私を見下ろして、頭の上で頬擦りをしてくるので聞いてみた。


「魔法なんて使える奴がほとんどいねぇからなぁ。まぁ、筋力を跳ね上げる魔法だ。筋肉量もそれなりにねぇと強化は難しい。男女に関わらずある程度は太くなるんじゃねぇか」

「ロードも身体強化を使ったら、(今以上に)ムキムキになるの?」


恐る恐る聞けば、「あ? そうさなぁ」と考えだした。


「身体強化なんて俺にゃ必要ねぇからほぼ使わねぇが、マカロンに乗った時に一度使ったっけか……あまり変わらなかったと思うがなぁ」


元々スーパーサ○ヤ人並にムキムキなロードは、身体強化をしても大して変わらないんだな。てっきりもっとデカくなるのかと思ってたよ。




「エルフは、植物を成長させるような魔法が得意だと聞いていたが?」


たまらなくなったのか、エルフに質問しているトモコの声が聞こえてき、そちらへと聞き耳をたてる。

トモコの口の端は引きつってピクピクしており、何とも複雑そうな表情である。


「確かに大昔のエルフは緑の民と呼ばれ、植物の成長を促進させるような魔法を得意と致しました。しかし我々の世代では魔素の枯渇が原因なのか、魔力を持って生まれる者もほとんどおらず、例え魔力があったとしても直ぐに死んでしまうか、生き残っても魔法のまの字も使えませんでした」


魔素の枯渇はこの世界から魔法を奪ったんだったよね。


「しかし、私は何故か魔力を持って生まれ、物心がつく頃には身体強化魔法を使う事が出来ました。とはいえ、小さな頃に一度使用して死にかけましたが」


そりゃあ魔素が少ない状態で魔法を使ったら死にかけるよ。例えば僅かしか酸素が無い場所で思いっきり息を吸って吐いたら死にかけるのと同じような事だ。


「偶々精霊様に助けていただけたので、こうして今命があるのですが」


トモコとヴェリウスを見上げると、うやうやしく頭を下げたのだ。

精霊は神にもっとも近い眷族である。精霊がエルフを救ったという事は、神が救ったと同義とエルフが考えていても無理はない。


「魔素が満ちている今は、まるで自身の身体の一部のように身体強化の魔法が使えます」


エルフの話を聞きながらヴェリウスを見れば、頷いてこちらへとやって来た。

突然移動したヴェリウスに、エルフは何か失礼な事をしてしまったかと慌てだし、トモコが大丈夫だと宥めている。


『“身体強化”は魔法の中でももっとも基本的な魔法です。比較的魔力を使用しなくても発動できる魔法の一つだからです』


と、ヴェリウス先生が説明してくれる。

さすが物知りなワンちゃんだ。


『しかし、一部だけに身体強化をかける事は余程のコントロール力が無いと難しいでしょう。あれを息をするように行っている事から、奴は魔法の才があるのやもしれません。エルフ族の魔力は高くも低くもありませんでしたが、コントロールだけは抜群でしたから、それを受け継いだのでしょう』



エルフは魔力のコントロールが上手い一族らしい。

ヴェリウスによれば、植物の成長を促す魔法というのは相当魔力コントロールを必要とするのだとか。

イメージするなら、魔力を精製してより澄んだものを量を調整して植物に与えるという事らしく、まず普通の人間は魔力を精製する作業ですら、魔法の勉強を何十年としている者でも難しいそうだ。


という事は、魔法の使える者が少ない今はそんな事を出来る人間は居ないも同然という事か。


『もう少しすれば、あのエルフも大昔のエルフと同じように植物の成長を促す魔法が使えるようになるやもしれませんね』


魔素が世界に満ちたからか、後10年もすれば大昔のように魔法が使える人間が増えるだろうという話だが、エルフもその頃には昔のように“緑の民”と呼ばれるようになっているかもしれない。


「そうだね」と頷きながら、頭を切り替える。

本来の目的であるエルフ奪還だが、私達は未だバイリン国の王宮の中に居るわけで、これでは目的を遂げたとは言えないのだ。



「さぁ、エルフを北の国へ連れて行「貴様ら…ッ何者だ!! 何故呪いが解けている!?」」



私の言葉を遮り突然怒鳴り声を上げたのは、ロードでもヴェリウスでもトモコでもなく、今まで影も形もなかった者であった。

きっとここにエルフを閉じ込めていた張本人であろうと当たりをつける。


どんなでっぷりしたオッサンだろうと声の上がった方へ顔を向けると、意外や意外。

背の高い、細マッチョなイケメン青年であった。


「あれ? 思ってた人と違うんだけど」

「奇遇だね~。私もイメージは、小太りメタボで短足おチビなオッサンだと思ってたよ~」


さすが心友。同じ事を考えていたらしいトモコと共にその細マッチョなイケメンを凝視してしまう。


髪の色は青みがかった黒。短く切り揃えられており、男らしい爽やかさがある。眉はきりりとしており、瞳は群青で理知的だ。鼻筋は通っていて高い。

身長は190センチあるかないかの長身で、服装は生地を見るだけでも上等のものだと分かる。

明らかに貴族位かそれ以上の立場であった。


エルフとは正反対の男らしいイケメンは、トモコとヴェリウスに向かって随分と警戒しているらしい。

敵意を剥き出しにして腰にぶら下げている剣に手をかけているのだ。


「私はもう呪いに縛られてはおりません。いつまでも貴方のオモチャではないのです」

「!?」


エルフは今にも剣を抜きそうなイケメンに向かってはっきりと言い放ち、魔法を行使しようとしている。


止めなさい。貴方の魔法はムキムキになるアレでしょう。とは思ったが、何だか腐の香りが漂っているので様子を見る事にする。


しかし、今のエルフの発言であのイケメンがエルフを監禁していた者だと断定出来た。


「あの強力な呪いが解ける筈はない!! 先祖が遺してくれた魔道具なのだぞ! 貴様ら、一体何をしたというのだ!!」


イケメンは動揺しすぎて冷静な判断が出来なかったのか、トモコとヴェリウスに怒鳴り散らすと帯剣していた剣を抜いたのだ。


その行動が不味かった。



攻撃の意思ありと見なしたヴェリウスが牙を剥いたのだ。



パキパキッと氷が軋む音をたて、イケメンの両足を覆っていく。


「な!?」


動きを封じられたイケメンは必死にもがき、剣を氷に覆われた足に突き立てている。

アイスピックじゃないんだからさぁ、とトモコが呟いた時、イケメンは状況を把握したのだろうか、真っ青になった顔を恐怖に染めてトモコとヴェリウスを見て震えたのだ。


『貴様がバイリンの国王か』


ヴェリウスの問いに、声も無く首を横に振るイケメンは、どうやらバイリン国の国王ではなかったようだ。

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