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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第3章

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129.ラップのような結界


ジャラ…


トモコの風魔法を使用しても、こちらに聞こえてきたのは鎖が引きずられるような音だけだった。

しかし、それも微かにだけで後は物音一つしないのだ。


「風魔法で音を集約させても微かな音しかしないって、死にかけの何かが居るとしか思えないんだけど……」


私の言葉に「寝こけてんのかもしれねぇぞ」と返してくるロード。ヴェリウスはずっと難しい顔をしていて、トモコは今にも扉を開けそうだ。


「こうしていても仕方ないし、扉を開けようか」

「だね!! 開けるよ~!!」


言った途端にトモコが食い気味で返事をし、扉に手をかけた。


「扉を破壊するか?」

『ならば私がやろう。お主らは退いていろ』


ロードもヴェリウスもやる気満々だ。いつの間にか攻撃態勢を取っている。


「ちょっと待って。何で皆そんなに本気で攻撃しようとしてるの?」


神力を使うまでもなく、ロードなら拳で破壊出来そうな木の扉なのだ。それをヴェリウスもロードも神力を使って破壊しようとしている。まさに、小さな虫を全力で潰そうとする獅子のようだ。


「何言ってるのみーちゃん。この扉、結構強力な結界が張られてるよ。多分張った何かは精霊レベル以上の力を持ってる」

『しかも内側から張られているようです』


何だって!?

結界が張られてるなぁとは気付いていたよ? でもラップみたいな薄さだし、すぐに破れそうだし?


「ミヤビの力は規格外だからなぁ。そう思うのも無理はねぇだろう」


ロードが苦笑いしつつ頭を撫でてくる。

「さすがみーちゃん。ラップかぁ~」とトモコは笑い、ヴェリウスはうんうんと頷いていた。


「という事は、中に居るのは少なくとも精霊と同レベルの力を持った何かだよね……」

「そうなるな」


だからさっきからヴェリウスの顔が険しかったのかと納得する。


「内側から入って来れないような結界を張ってるわけだから……引き籠り系か」

「みーちゃん、今“引き籠り仲間”って思ったでしょ」


何故バレた!?


「ミヤビは最近よく外出してんだろ。引き籠りじゃねぇなぁ」


ククッとロードに笑われ、ショックを受ける。


「2年も引き籠り続けてたのに……アウトドア派が多いおかげで引きずり出されるハメに。だれかインドア派はいないのか」


求むインドア。仲間募集。


「変な仲間作ろうとすんな。ただでさえオメェは体力がねぇのによぉ。もっと体力つけて、せめて朝まで意識飛ばさねぇようにしねぇとなぁ」


このエロゴリラ逮捕してもらえませんかーーー!!!!


『ふむ…もしかしたらこの力はエルフのものかもしれぬ』


ゴリラが話を下ネタに持っていこうとしていると、ヴェリウスが突然そう言い出しぎょっとした。


「エルフ?! やっぱりエルフが扉の向こうにいるの!?」

『はい。その可能性が高いかと』


その言葉に期待が増し、心なしかドキドキしてきた。

トモコの瞳もより輝きを増している。


「それなら、エルフを驚かさないよう私が結界を破るよ」


張ってある結界を指で触ると。やはり、手触りもピンと張られたラップのようだ。

そのまま少し力をいれただけでプツッと破れた。

指を上下に動かすと、縦に裂けていく。


「うわぁ~。指一本で強力な結界破っちゃった~」


信じられないという顔をした2人と1匹は、そのまま私の動向に注目しだし、いたたまれない気持ちになるのであった。


張られていたラップ……結界は指で破るとフワリと消え、残るは南京錠をかけられた扉のみとなった。

両開きとなっている扉の、2つある取っ手は鉄で出来ており、錆びつき古びた様子を見せる。それをガッチガチに鎖で巻いて固め、さらにばかデカイ南京錠を一つ鎖が外れないようにかけてあるのだ。

それらもまた錆び付いていて、取るのに苦労しそうな感じではあるのだが。


「鍵を開けるね」


後ろをうかがうと、2人と1匹がじっとこちらを見ていて何故だか緊張してしまう。


鍵よ開けと心の中で願えば、南京錠が勢いよく外れてガチャンと音をたて床に転がった。ジャラジャラと巻かれていたくさりも南京錠の上へと滑るように落ちていく。


外側(・・)に鍵がかけられているのに、何で内側(・・)から結界を張ってたんだろう?」

「確かに、何だかちぐはぐだよね~」


疑問を口にすると、トモコもそう思っていたのか肯定した。


『別々の人物が行ったとしか思えません』

「結界は中にいる何かが。外側の鍵はこの城に住む誰かがやった事は確かだなぁ」


ヴェリウスもロードもそう言って、難しい表情で扉を見ている。

何というか、鍵の掛け方がまるで何かを封印しているような、そんな印象を受けたのだ。


「さ、入ろうっか~」


トモコだけが緊張感のない調子で取っ手に手を伸ばしたが、それをロードに止められた。


「先に様子を見てくる。オメェらは危ねぇから下がってろ」


さすが腐っても騎士である。

ロードは扉の取っ手に手を掛けると、中の気配を探るように扉に近づきゆっくりと開けた。


中はやはり石造りのようで、床も壁も石で出来ている。

冬は寒そうだと思いながらロードの後ろから奥を覗く。明かり取りの窓があるのだろうか、思ったよりも明るく(とはいえ薄暗くはあるが)、部屋の内部がどうなっているかもしっかりと見える。

しかし、入ってすぐはキッチンのようになっているようで奥までは見えない構造のようだ。

扉はないが、壁で上手く部屋を仕切っているらしい。

1Rかと思っていたら、1K以上の物件だった。案外広そうだ。

右手側の奥から明かりが漏れているので、そちらに部屋があるのだろう。


警戒しながら進むロードの姿は、さながらTVでよく観る特殊部隊のようだと頭をよぎった。


「結界も破っちゃったし、鍵を開けた時結構音が響いたから、中にいる何かも私達が来た事に気付いてるだろうにね~」


トモコはそう呟いてキョロキョロと周りを見ている。しかし立ち位置は、私を守るように前を歩いているようだ。

誰も出て来ない事に、より警戒を深めたのだろうと察する。


2人と1匹にはすでに守りの結界を張っているので何事も無いとは思うが、どうしてか心配になってしまうものなのだ。


ゆっくりと奥に進み、こちらの姿が見えないにもかかわらず壁に身を隠しながら中を覗く様は何と滑稽だろうか。




「……お姿は見えませんが、この荘厳とした空気……まさか、このような所に神がお出でになったと……?」



右側奥の部屋を覗けば、返ってきたのは男女ともつかない声であった。





びくっとして足を止めれば、ロードとヴェリウスが壁になるように私の前に立つ。

ゥ゛ウ゛…と鼻の頭にシワを寄せ、警戒しだすヴェリウスとピリッとした空気を醸し出すロードに変な汗が浮かんだ。


「…このような無作法でお許し下さい」


ジャラリ…と鎖が擦れる音が耳に届く。

ロードが大きすぎて何が起きているのかまったく見えないが、耳に届く音だけで想像するに、男女ともつかない中性的な美人さんが、鎖に捕まっているような状況にあるのかもしれない。あくまで想像だが。


『…ミヤビ様、エルフ(・・・)です』


ヴェリウスのその言葉に、目を見開いた。


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