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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第3章

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125.北の国とバイリン国


『“エルフ”といえば、昔、大々的に奴隷狩りにあった種族です。別名“森の民”とも呼ばれ、自然と共存する事を得意とした人族に似た種であったと記憶しています』


さすが博識のヴェリウス。エルフの事も知っているようだ。


『しかし近年では奴隷狩りで数を減らした上に、魔素の枯渇で8割以上が亡くなり、絶滅の危機にあるようです。その為幻の種族として、他種族の記憶からは薄れその行方を知る者はほとんどいないのだとか』


生きる辞典のようなヴェリウスに感心しつつ、頷く。


「ルーベンスさんからも確かに幻と言われる位数を減らしていると聞いてるよ。ただ、北の国に居るという情報が得られたから探しに行こうと思ってるの」

『ふむ…北の国は冬は雪に閉ざされる過酷な環境だと聞きます。そんな所に本当に居るのでしょうか?』

「行ってみないと分からないけど、隠れ住む(・・・・)なら過酷な場所の方が誰も来ないから最適だよね」

『成る程。エルフの隠れ里がある可能性は高いですね』


私の話に頷きながら考えを巡らせているのか、時折目を細めるヴェリウスの前に地図を出す。

そうすると興味深そうに皆が覗き込んでくるので苦笑した。


「そういえば、西はヴェリウス、東はランタンさんの神域があるでしょ。北には神域ってあるの?」

『ございます。北は魔神ジュリアスの神域。我らは山ですが、ジュリアスは山ではなく山の麓にある湖近辺を神域としております。ただし、現在そこへは住んでおりません』


北は魔神の少年の神域か。だから魔族のルーベンスさんは北の国について詳しかったのだろうか。

しかし神域に住んでないとはどういう意味だろうか?


『ミヤビ様、北の国ですが……現在は“国”としての体はなしておりません』

「それはどういう事?」


ヴェリウスの発言に首を傾げる。

ロードも目を見開いていた。どうやら彼も知らない情報なのだろう。

地図を見れば確かに北の国はルマンド王国からはかなり距離がある。通信手段が限られたこの世界では、交流のない国の情報は知らなくて当然なのかもしれない。


『150年程前は、“魔族の国”として存在しました。しかし、魔素の枯渇から魔族は一気に数を減らし、100年程前には国自体の存続が危うい程になってしまったのです。それも当然でしょう。魔素は人族や獣人族より魔力量の多い魔族にこそ必要な糧なのですから。特に王族、貴族は魔力量も一般人とは桁違いでした。それにより、国の要の者から亡くなっていった事で“国”としての体をなさなくなったのです』


確かに上の者から亡くなれば国が崩壊するのは時間の問題だろう。

国が無くなったから神域も移動したのだろうか??


『前にも少しお伝えしたと思うのですが、自分たちの王族(ルーツ)を失う事を恐れた民は、自身の魔力を王族へ渡す事で王族の命を繋いでいたとか……。魔族とは誇り高い種族のようですね』


そういえば聞いた事があったな。自分たちの命を犠牲にしても王族の血を残そうとしたって。執念を感じるな。


「あれ? じゃあ今生き残っている魔族は王族って事?」

『勿論王族もいるでしょうが、魔力量の無い魔族で他国に移り生き残った民もいますので……』


それはそうか。ルーベンスさんや騎士団のか、か、カールじゃなくて……そう、カルロさん!! も王族ではなく一般人かぁ。

カルロさんはステータスを見た事がないけど、ルーベンスさんは少なくとも王族でなかったのは確かだ。大体カルロさんが王族なら、騎士団になんていないだろうし、ルーベンスさんより地位も低くないだろう。


「なぁミヤビ、北の国の前に竜人の奴隷になったとかいうエルフも調べた方が良くねぇか?」


ロードが難しい顔をして提案してきた。


「え? その話って100年は前の話なんだよね?」

「言っただろ。竜人や魔族は寿命が長ぇんだって。もしエルフも同じように寿命が長けりゃ、まだ生きているかもしれねぇ」


そう言われてみればそうだ。


「エルフを奴隷にした竜人って、確か“バイリン”っていう国の王族かなんかだったよね?」

「そうだ。それに、“バイリン国”ってなぁどうもキナ臭ぇ。フォルプローム国の件に関わってるかもしれねぇんだ」


どうやらロードはエルフの事とフォルプローム国の事を一気に解決したいらしい。確かにそれが出来れば面倒な仕事も一気に片付くしね。


「そうだねぇ、じゃあ、北の国に行く前にバイリン国に行ってみますかね」

「賛成~!!」


1人楽しそうなトモコだが、ヴェリウスもロードも笑っていない。

早く気付けトモコ。空気を読むんだ!!




◇◇◇




“竜人の国バイリン”


フォルプローム国とは砂漠を挟んだ隣に位置する。

東の山、ランタンさんの神域に程近いのだが、

竜人の管轄は竜神ではなく竜人族の神よ!! アタクシはドラゴンを管理する神なの! 間違えないで欲しいわ! と、散々間違われて怒っているそうだ。そのせいで竜人族の神とギクシャクしているらしいのだから触れないでいてあげよう。

触らぬ神に祟りなしというだろう。


フォルプローム国と同じように暑い国だが、こちらの方が街に活気があるようだ。しかし、治安はよろしくなさそうで、チンピラっぽい荒んだ目をした者がチラホラ見える。


「うっわ~目付き悪い人があちこちにいる~。竜人と人族って見分けが付きにくいから、どっちがどっちかわからないよね~」


フォルプローム国と同じようにアバヤのような服を着込み、スカーフを顔に巻いたトモコがはしゃいでいる。やはり美人は顔を隠しても美人だなと羨ましく思う。

その隣には、アラブの人が着るようなカンドゥーラと呼ばれる民族衣装のような服を着込んだロードが、私を抱き上げ立っている。頭にはターバンを巻いているが、外国人顔の彼には良く似合っている。

黒みがかったグレーのローブがゴリラ感を出していてより本物に近付いたなと心の中で思っていると、トモコの後ろをぴったりついてくるおじさんと目が合った。

海外旅行あるあるの怪しい人と目が合うパターンだ。


すると怪しいおじさんは次の瞬間、トモコの持っていたバッグを引ったくったのだ。


「あ、ひったくりだ」


ロードの腕の中でそう呟けば、ひったくりのおじさんは感電したように痙攣し、倒れてしまった。


「ビックリした~。ロードさんありがとう! でもこの人死んでないよね?」


どうやらひったくりの感電の原因はロードだったようだ。

鬼神だけあって雷魔(神)法が得意なのだろうか? 雷神??

トモコがお礼を言いながら、ピクピクしているおじさんを見下ろして心配している。


「殺すわけねぇだろ。手加減ぐれぇしてらぁ。それより、気を付けろよ。ここいらの奴はひったくりだけじゃねぇ。人拐いもいるからな」


それは危険だ。トモコは一応外見だけは美人なので、人拐いに遭いかねない。


『フンッ 神に手を出す愚か者はおるまい』


ヴェリウスが足下から鼻を鳴らした。


そう。私達3人と1匹は今、竜人の国“バイリン国”へやって来ている。

ここはバイリン国の中で一番大きな都市(?)、“リウォン”という街だ。都市という程なので期待していたが、ルマンド王国よりも栄えてはいないようで、ルマンドの王都より人口も少なく規模も小さい。とはいえ、フォルプローム国よりは栄えている気がする。


竜人は人族に似ているので、一見見分けがつかないが、よく見ると耳が少し尖っていて、喉の辺りにうっすら鱗のようなものがある。さらに牙や爪が人族より鋭いのも特徴だ。

魔族や獣人と同じで“つがい”は居ないらしい。


「……竜人の国って治安が悪いんだね」

「フォルプローム国と同じように食料不足が続いているからな。とはいえ、東の山の麓は神域の近くという事もあって豊作だから、フォルプローム国よりはマシだろうな」


そう教えてくれるロードに、成る程と頷く。

フォルプローム国は水も食料も不足しているけど、バイリン国は神域のそばという事で、フォルプローム国よりは切迫していないと。しかし、不足している事実は変わらないから治安も悪いと。


「魔素が増えて少し余裕が出たから、犯罪もその分増えてるのかな……」

「それもだけど、やっぱり統治者に問題があるんじゃないかなぁ~」


トモコの言葉に、何か知っているのかと視線をやる。


「ここの統治者、あまり良い噂聞かないよ」


何故トモコがそんな事を知っているのか。それが顔に出ていたのだろう。


「だって井戸端会議してるあそこのおばちゃん達がひそひそ話してるし、あっちのお店の人もお客さんとそんな話してたよ」


と教えてくれた。さすがトモコだ。元々耳は良かったが、人族の神になってからそれは顕著で、内緒話も何かと聞きつけてひょっこりやって来るのだ。


『トモコ、お主まさか新たな魔法を生み出したのか』

「フフフ…音は空気が振動して伝わるわけだから、風魔法を利用して空気に人工的な振動を作りだしそれをこちらに伝わるようにすれば内緒話でもハッキリ聞こえるというわけ。他にも色々やり方はあるけれど、それが一番やり易かったからね!」


魔法を扱う天才か!!

ヴェリウスも驚いているようで、目を大きく開いてトモコを見ていた。


『新たな魔法を作ったら私にも教えろと言っておいただろうが』

「いやいや~オリジナル魔法は秘密にすべきでしょ~」

『出し惜しみするでない』


内容は厨二病っぽいが、キャッキャとはしゃぐ女子高生のような2人に笑みがもれた。治安の悪いこの国では、こんな軽い感じのノリが癒しになるのだ。


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