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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第3章

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118.ようこそ、浮島の街へ


「例えば私がその話を受けたとして、私には何も利はないだろう」


はっきりそう言われて衝撃が走った。


報酬の話をし忘れていた!! と。


ロードに関しては、ルーベンスさんならそういう事を言うだろうな、というような侮蔑を浮かべた表情をしている。


「ミヤビ、断られたならもう良いだろう。行くぜぇ」


手を取られ、ソファから強引に立たされたが、報酬の話をしたかったのでロードの手を握り返して首を横に振った。


「っミヤビ……」


もう少し待ってと目で訴えれば、頬を赤く染めて抱き締められたので何か勘違いしているようだ。

ゴホンッとルーベンスさんがわざとらしく咳をしてくるので、余計恥ずかしくなる。


「ロード、もう少し待って」


改めて口にすれば、私の真剣(?)な表情から気持ちを汲んでくれたのか、ソファに座ってくれた。

私を膝の間に座らせて。


空気を読んでくれ! とは思うが、ロードなので仕方ないと死んだような目で前を向く。まぁ、死んだような目は生まれつきなのだが。


「本当にその体勢でいいのか」


暗に改めろとルーベンスさんに言われたが諦めて欲しい。これがロードなのだ。


一向に改める気配のない私達に呆れたのか見切りをつけたのか、それ以上は何も言われる事はなかった。


「ちなみに、ルーベンスさんは見返りに何が望みでしょうか?」


これを聞かなければ始まらない。

何をすれば、街創りに協力してくれるのか。


「ふむ……本当に空に街があるのだとしたら、その街を私の領土とし、統治させてもらえるなら考えても良い」


おお~、そうきたか。まぁ予想は出来ていたけどね。


「ふざけるな。街は神王様のお創りになったもの。たかだか人間ごときに治められるものじゃねぇ」


しかし返答したのはロードであった。

何だかロードはルーベンスさんを毛嫌いしているようなのだ。事あるごとに敵意を剥き出しにしている。


「ほぅ。やはり神王様のお創りになった街か。さしずめ、神の1人であるミヤビ殿に管理を一任されたのだろう」


いや、創ったのは私なんですけど。


どうやら誤解されてしまったらしい。


「そして行き詰まったミヤビ殿は、宰相である私に相談した、と」


経緯はほぼ合ってます。とうんうん頷いていれば、当たったと言わんばかりに口の端をあげるので面白く見えてきた。


「理解しているのなら話は早い。断ってくれて正解だ」

「私は街の統治を任せてくれるなら考えると言ったのだ」


ロードの話を切り上げようとする言葉を余裕の表情でかわし、私を見てくるのでもう一度頷く。


「分かりました。街の統治を貴方にお任せします」


そう言葉に出せば、一瞬その場が静かになり、ハッとしたロードが私の名前を叫ぶまで、誰一人喋る事はおろか、他の音をもらす事すらもしなかった。


「ミヤビ!?」


ロードは驚き、正気か!? という目で見てくる。

逆にルーベンスさんは冷静で、「ほぅ?」と発言の本意を探ろうとしているようだ。

本意も何も、浮島とはいえ人間が住む街なのだから、人間が統治するのが順当だろうと思っただけだ。

だがルーベンスさんは、職業(立場)柄裏があると思ったのか、疑いを向けてくる。


「とはいえ、こちらが貴方の言い分を飲むのですから、“考える”だけでは困るのです。統治されるなら“完全にお任せ”するわけですから、貴方には浮島の街をより良いものにしていただかなければなりません」


そう。ここが正念場だ。

ルーベンスさんに完全に丸投げしてしまえれば後は楽になるのだから!


「……君は本気で、神王様から任された街を私に託す気か?」


ルーベンスさんよ、ここで怖じ気づかれては困るのだ。せっかく統治するという言質を取れる一歩手前まで来たのだから。


「本気ですよ」

神王様の街(・・・・・)だぞ?」


顔が引きつっているのでマズイと思い、ロードに助けを求めたが、ロードの方が顔が引きつっていた。


「神王様は……浮島とはいえ、人間が住む街。人間に統治させるが吉。と言っております」

「今考えたような言葉に聞こえるが?」


なかなか鋭いルーベンスさんに冷や汗が出てくる。


「ムッならば神王様を私に降ろして直接話をなされるか!?」

「君はイタコか」


冷静にツッコミが出来るだとぅ!? なんというハイスペック宰相。

このままではこの駆け引きに負けてしまう。何とかしなくては!!


「ロード! 神王様はルーベンスさんに街を任せても良いって言ってるよね~」


ロードが頷けば信憑性が高くなる、はず。


「…………」


しかし援護射撃担当のロードは黙秘を続けた。


「……『そ…ゴホンッ そうだな~。神王様もそれを望んでいる』」

「虚しくないかね? 下手くそな腹話術など披露して」


だってロードが何も言ってくれないんだもん!! ロードになりきって腹話術するしかないでしょ!?


「とにかく!! 神王様からのお許しはいただいてます!! はい決定!! 今日からルーベンスさんは浮島の街の統治者だ。おめでとう!! 頑張ってくれたまえ」

「本当は、街作りを考えるのが面倒で、誰かに丸投げしたかった。というのが本音か」


何故バレた!?


「しかし私に任せるという事は、“浮島の街”はルマンド王国の一部という事になるがそれでもいいのかね?」

「もう何でも良い…「良くはねぇだろ。浮島はすでに神々の楽園と化している。それがルマンド王国の領土となるのは、ミヤビはよくても他の神々が黙ってねぇぞ」」


私の言葉を遮ってやっと喋ったロードは、援護どころか敵に寝返ったのだ。



微妙な空気が室内を支配する。

ルーベンスさんは何も言わずにロードと私を見ていて、何を考えているのか読めない。


「だ、大丈夫じゃないかなぁ。だって神々も人間を住まわせるのは許しているから候補者を出してきているわけだし」


反対なら候補者など出さないだろう。ヴェリウスだってランタンさんだって反対しなかったわけだし。


「それは神々の候補者(・・・・・・)が住むだけならという話だろう。神々の候補者でもない者が街を統治するのは他の神が許してもヴェリウス辺りは反対するんじゃねぇか」


もっともな事を言われるが、そこに関してはこっちにも考えがあるのだ。


「それなら、ルーベンスさんを私の候補者って事にすれば良いでしょ?」

「良いわけあるか!!」


自信満々にドヤ顔で伝えたら、ロードに怒鳴られた。


「オメェは自分の立場を分かってんのか!?」


予期せぬ言葉に首を傾げていれば、頬をムニッとつねられた。


「オメェが一人の人間に肩入れしたとなりゃどうなると思ってんだ」

「?それならロードも人間だったし……」

「俺ぁオメェのつがいだろうが」


優しい声と眼差しでつがいを強調され、手を握られる。


ルーベンスさんが目の前にいますけどぉ!?


ルーベンスさんの眉がピクピク動いてて、今にも「不愉快極まりない」とか言い出しそうですからァァ!!


「それに、


オメェがそんなにこの人に肩入れしたら、俺が不安になるんだが?」


おっさんのくたびれた感じの色気を放ちながらそんな事を言ってくるロードに、心の中で絶叫する。

ルーベンスさんの眉間のシワが一つ増えた。


「ロードさん、そういう話はまた後程お伺いシマスので…」


今度はロードの眉間にシワが寄る。

交互に眉間にシワを寄せている2人に、実は気が合うのでは? と思いながら動揺していると、ルーベンスさんがついに動いた。


ゴホンッ とわざとらしく咳払いをして、口を開く。


「すまないが、私も色々と忙しいのでね。考えがまとまっていないのなら、出ていってくれたまえ」


ごもっともな事を言われてますます動揺していると、ロードが私を抱き上げてソファから立ち上がったのだ。


「宰相閣下殿、すまねぇな。今回の話は忘れてくれ」


勝手に話を終わりにされて、そのまま扉に向かい始めたのでこのままではダメだと心の中で願った。

その刹那、私とロード、ルーベンスさんは、澄みわたる青空の下に立っていたのだ。


「!? な、何だ…っ」


今までいた執務室ではなく、外のしかも異様に空の近い場所に立っていたルーベンさんは驚愕で固まっている。


しかも、ゴウッと飛行機のような音がして突然巨大な影が私達を覆ったので上を見れば、真っ白なドラゴンが上空すれすれを飛んでいるではないか。「ヒッ」と声を上げるルーベンスさんは、きっとドラゴンを見たことが無いのだろう。


しかし、遠くにも数頭のドラゴンが楽しそうにじゃれあいながら飛んでいる所を見ると、ドラゴンの為に創った浮島は気に入ってくれたらしいのでほっとした。


「おい、何で浮島にドラゴンが飛んでやがる」


さすがロードである。

“転移”した場所が即座に浮島(・・)と理解するなんて。やはり来たことがある者は違うな。


そう。ここは浮島。しかも天空神殿のお膝元にある第1の浮島だ。


「ランタンさんから、ドラゴン達を保護して欲しいってお願いされたから、あっちの方角にドラゴン専用の浮島を創ったの」


じゃれあいながら飛んでいるドラゴンがいる方向を指差せば、大きな溜め息が返ってきた。


「俺が居ない間は何もすんなって言ってあったはずだが?」


ギロリと睨まれるので縮こまりながらも反論する。


「だって、ドラゴン達が絶滅の危機に陥ってたから…」

「ぐっ、上目遣いは卑怯だろうがっ」


何故か頬を赤く染めたロードがすり寄ってくるので小首を傾げる。


「ッ君達は、よくこんな状況でちちくりあっていられるものだな!!」


ルーベンスさんの初めての怒鳴り声に驚き振り返ると、青筋をたててこちらを見ていたのだ。


「ヘヘッ ようこそ、第1の浮島へ!! 観光していきませんか~?」


笑って誤魔化し、街人Aのようなセリフを吐けば、ますます引きつるその顔にどうしようもなくなって、私を抱き上げているロードに助けを求めたのだ。

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