108.呪いの指輪
そういえば、ロードの魔石の指輪はどんな能力があるのだろうか?
ロードも半分とはいえ神だし、石に力を込めた時にバチバチッと静電気の火花が散っていた位だから強力なマジックアイテムになっていそうだ。
そう思い、薬指にはめてある指輪を見た。
願えば叶う私の能力は、勿論勝手に指輪の鑑定をしてくれる。
なになに━━…
“半鬼神の魔石を使用し、神王の創り出した神王の為の誓いの指輪”
いや長い。
もっと簡潔にならないのか。
能力: 神王に邪な思いを持って近付こうとする者には雷が落ちる。邪度合いにもよるが、死に至る場合も有り。
他にも攻撃力、防御力、回復力がアップするが、神王には無意味。
特徴: つがいへの気持ちが重すぎて呪いの指輪と化している。一度はめると二度と外せない。
ちょっと待ってェェェェ!!!? 駄目コレ!! コレ駄目なやつ!!
「ロードっこの指輪呪われてる!! 一度はめると二度と外せないって!!」
「あ゛? 別に構わねぇだろ。どうせもう外さねぇし。大体そりゃ呪いじゃなくて俺の愛だろうが」
愛じゃねぇよぉぉ!? 呪いだって鑑定されてんだよ!!
「みーちゃん、呪いと愛は紙一重だよ」
バカと天才は紙一重みたいに言うんじゃない!!
トモコのその慈愛に満ちた顔が腹立つんですけど。
「あーあ、これでみーちゃんも奥様かぁ~。師団長の奥様って肩書き、何かセレブっぽいよね。語尾に“ざます”とか付きそう」
『馬鹿者。ミヤビ様は“師団長の奥様”などではない。ロードが、“神王様の伴侶”なのだ。常に中心はミヤビ様と決まっているではないか。愚か者が』
ヴェリウスから愚者扱いをされたトモコは、「そっか~、みーちゃんこの世界で一番偉いもんね~」とへらへら笑ってアホの子丸出しな返しをしていた。
ヴェリウスはフンッと鼻息を荒くし、私のそばへとやって来た。
『ミヤビ様、ロードの身に付けている指輪ですが、力がもれぬよう周りに結界を施しておいたほうがよろしいかと。何せ神王様のお力を閉じ込めた魔石なのです。たかが石が神王様のお力に耐えられるとは思えません』
石がすぐに壊れてしまう可能性を危惧したらしいヴェリウスは、私にそんなアドバイスをしてくれたのですぐにコーティングしておいた。
ロードは嬉しそうにコーティングされた指輪を握り、私に微笑みを向ける。
『これで指輪の力に人間が惑わされる事もなかろう』
ヴェリウスがポツリともらした言葉は、小さすぎて聞き取れなかったが、その安堵した表情と優しい性格を考えれば、石が壊れて私が悲しい思いをしないように気を回してくれたんだろうと思い至り、ありがとうとお礼を言っておいた。
驚いた顔をしたヴェリウスだったが、『やはりミヤビ様も気付いておられましたか』とよくわからない事をいうので、取り敢えず曖昧に笑って誤魔化した。『さすがはミヤビ様だ』という声には聞こえないフリをしておいた。
「そういえば、ロードさんお仕事大丈夫~?」
というトモコの言葉に、指輪を握りニヤニヤしていたロードの表情が真顔になり、「やべっ」と慌て出したのでさぼったのかと理解した。
「何か私のせいで仕事さぼらせてごめんなさい」
異世界で買い物をしていたばかりに、大変な時に仕事を投げ出させてしまったと反省する。
が、異世界での買い物は大変実りのあるものになったので後悔はしていない。
「ミヤビっ なんて可愛いんだ!!」
と抱き締めてきたが、早く仕事に戻った方がいいのではないだろうか?
「このゴタゴタが全部終わったら、“蜜月休暇”を取るからな!!」
“蜜月休暇”って何!?
所謂新婚旅行にいく為の休暇の事だろうか?? よくわからないが、まだ結婚してないよね?
「急いで片付けてくるから、おかしな事しねぇように大人しく待ってろよ!! 余計な事すんなよ!?」
「ロードさん、それはやるなよ~やるなよ~って言いながらやれっていうフリですか? ダチョウ倶○部ですか?」
ロードの失礼な物言いにトモコが変な受け止めをしたが、急いでいたロードには聞こえておらず、そのまま王宮へと戻って行ったのだ。
慌ただしく行ってしまったロードを見送り、「神王様の魔石を参考にします!!」とはりきって帰って行った魔神の少年に首を傾げて気付けば夜の9時過ぎになっていた。
「ご飯食べてない!!」
晩御飯を食べていないと騒ぎ出した私を、母の如く見守るヴェリウスが生肉を持って来ようと動き出したので、素早くリビングの机の上にチーズタッカルビを出す。
「みーちゃん、夜の9時からチーズタッカルビは重いよ~。絶対太るぅ~」
「ならお前は冷奴でも食ってろ」
「扱い酷くない!?」
トモコの、絶対太るぅ~の言い方がムカついたので、冷めた目で冷めた料理を出したら、酷い酷いと言いながらしっかり冷奴を食べていた。「めっちゃうまい!! この冷奴」と言いながら。
チーズタッカルビの匂いに尻尾をパタパタさせて、リビングの机の周りに寄っていくヴェリウス。
彼女は犬なのに辛いものも乳製品も食べる事が出来るのだ。さすが神獣。
私も席について2人と1匹で食卓を囲む。
ちょっと遅い晩御飯になってしまったが、たまには良いだろう。
「ヴェリウス、タッカルビは熱いから気を付けて食べてね」
ヴェリウスの取り皿にタッカルビをチーズを絡めて入れてあげれば、嬉しそうにはふはふと食べ始めた。やはり食べている所は犬だよなぁ。
『そういえば、深淵の森の魔獣達から要望を受けました』
食べている途中にふと思い出したのか、ウチの珍獣達からの要望を話し始めた。
「みーちゃんが人型にした魔獣達だよね?」
結局タッカルビを食べているトモコが、ヴェリウスの話に反応する。
ヴェリウスはトモコの言葉に頷いて続けた。
『ミヤビ様が人型に変えた事で、現在は主に天空神殿で人型としての生活を送っているのですが、奴らの拠点は元々深淵の森なのです』
ヴェリウスの言葉に血の気が引いた。
深淵の森の魔獣を人型にした事で森から魔獣を追い出してしまったのかと。
毎日魔獣型の姿は見る(見回りしている)から何とも思っていなかったが、大変な事をしてしまっていたらしい。
『ミヤビ様、誤解なさらないで下さい。人型になった時に便利なのが、天空神殿の施設という事であって、魔獣型に戻れば奴らは洞窟でも道端でもどこでも生活出来ます』
ん? どういう事だろうか?
私はてっきり人型から魔獣型に戻れない珍獣がいるのかと思っていたのだが?
『人として暮らすには森での野宿は難しく、しかし奴らはミヤビ様と直接話したいが故に人型でいたいと魔獣型に戻る事を拒む始末……にも関わらず深淵の森で暮らしたいと我が儘を言っているわけです』
「それは……元々深淵の森に暮らしていたのだから、我が儘ではないのでは?」
『……奴らが、深淵の森のこの家のそばに村を作りたいと言っていても、ですか?』
村ぁぁぁ!?
「確かに人型の魔獣達には必要かも~」
トモコがヘラヘラとタッカルビを食べながら頷いている。
「ちょっと待ってぇ!? 村だよ!?」
「私は良いと思うよ~? 元々この森に住んでるし、見回りもしてくれてる魔獣達だよ。見知らぬ人じゃないんだから良いでしょ。何ならもうみーちゃんが村を創ってあげたら~?」
みにょーんとチーズを伸ばしながらそんな事を言われても…。
まぁこの森の先住民は珍獣達だし、私がどうこう言う事ではない。しかも珍獣達にはお世話になりっぱなしだ。
今や森だけでなく天空神殿まで管理してもらっているようだし。
『ミヤビ様、魔獣達を甘やかすべきではありませんよ』
「ヴェリウス、私はずっと珍…魔獣達にお世話になってるのにお礼もできてない。だから、お礼も兼ねて村を創るよ」
『ミヤビ様……分かりました。では私も、ミヤビ様がやり過ぎぬようにお付き合い致します』
え゛……やり過ぎる前提?
「勿論私も手伝うよ!!」
お前はタッカルビを食べる手を一旦止めろ。「絶対太るぅ~」はどうした。
そんなわけで、この深淵の森に珍獣達の村を創る事になったのだが……取り敢えず今日はお風呂に入って寝るとするか。
村創りは明日からだね。




