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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第3章

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100.ルーベンス・タッカード・ルーテル


お互いに見つめあって数秒。

無言でいる事に限界を感じた私は、目の前のミスターダンディーに話し掛ける事にした。


「……あの、ここはどこでしょうか?」

「最初の一言目がそれとは驚きだな」


確かに。


「ここは私の執務室だ。この部屋の前には護衛騎士が待機しているはず。更に部屋の周りは魔力干渉されぬように結界を張っていたのだが、どういうわけか君はここに居る」


結構お喋りなミスターダンディーは、親切にも私の居場所と状況を教えてくれた。


「へぇ。すごい守りですね。暗殺者とかに警戒してるんですか? そういうのいるんです? 怖いなぁ」

「……君がその候補ではあるのだがね」

「へぇ~……え?」


今、このミスターダンディーは何て言いましたか?


君がその暗殺者(・・・・・・・)なのではないかね?」

「ハハッ まっさかぁ~。私は通りすがりの村人Aです。じゃ!」

「ここは王宮だ。村人は居ない。苦しい言い訳だな」


ガシッと首根っこを掴まれて、淡々と話す美声に冷や汗が流れた。




「━━…それで、君は何者で、ここへは何をしに来たのかね?」


何故か高級ソファに座るよう促され、高級茶葉であろう香り高いお茶と茶菓子(チョコレートっぽい何か)まで出されて尋問? されている私です。


「来たくて来たわけではなく、友人達と“かくれんぼ”中でして、逃げ込んだ場所がここだったという……あ、この紅茶美味しいですね」

「カクレンボとは一体何かな? 逃げ込んだという事は誰かに追われていたと……? 私はお茶をいれる事が趣味でね。そう言ってもらえると嬉しい」


いちいち細かい話まできちんと返してくれるんですけど。すごく良い人なんですけど。


「“かくれんぼ”というのは、“鬼”という役割が目をふさいで数を数えている間に人が隠れ、数秒後に決められた数を数え終えた鬼が、『もういいかーい』と言いながら隠れた人を探しだすという遊びです。制限時間内に隠れた人を見つけて、『みーつけた』と言いながらタッチすれば鬼の勝ち。見つけられなければ負けというルールですね」


かくれんぼのルール説明をするとは思わなかったが、ミスターダンディーがこんな重要な話は他にない、という位真剣に聞いてくるので教えてあげたのだ。


「……君は、成人前とはいえ、デビュタントを控えた年齢に見受けられるが、本当は10にも満たない子供なのかね?」

「いえ、38歳の大人です」

「さんじゅ…!?」


一瞬、嘘だろう!? と驚愕の表情をしたが、すぐに何もなかったように対応し始める様は、さすが紳士だと誉め称えたくなった。


「いや、失礼した。それでその、淑女が何故そのような遊びに興じているのか伺っても良いだろうか?」

「友人にかくれんぼに付き合って欲しいと頼まれたので」

「……そうか。それで今は隠れ場所を探している最中というわけか」

「その通りです」


美味しいお茶を飲みながらチョコレート擬きを食べたが、砂糖の塊のような甘ったるさのわりに、薬のような嫌な苦味もある何とも不思議な味がしたので一つで止めておいた。


「ここは王宮なのだが?」

「王宮ですね~」


紅茶で口の中の嫌な味を洗い流す。


「…………」


黙ってしまったミスターダンディーに、そういえば名前すら聞いてないなぁと気づいた。

王宮にこんな豪華な個人の執務室を与えられるのだから、それなりの身分の人だろうとは推測できる。

私的には、公爵辺りだろうとふんでいる。


「……申し遅れたが、私はルーベンス・タッカード・ルーテルという」

「あ、これはご丁寧にありがとうございます。私は“ミヤビ”と申します」


タイミング良く自己紹介をされたが、公爵かどうか私には判断がつかない。

何か見た目は仕事が出来そうで役員とかしてそうな厳しめダンディーおじ様だが、性格はマメで気遣いの出来る人の良さそうな紳士であるので、もうそれでいいじゃないかと、お茶を飲み干した後のカップを机に置いた。


「友人に見つかりそうなので、そろそろ移動します。お茶とお菓子、ごちそうさまでした」

「は? いや、待ちなさい。まだ君が何者であるか聞いていないのだが? 確かに暗殺者ではあり得ない事は分かるが」


ソファから立ち上がれば、ミスターダンディー……ルーベンスさんが止めてくるのでニヤリと口角を上げる。


「自己紹介はしました。そして、暗殺者ではないと、そう思って下さっているならそれで十分じゃないですか」

「っ……君は…」


息を飲むルーベンスさんを尻目に、格好つけて執務室の扉から堂々と出た私だったが、


「ルーベンス宰相お1人のはずだった部屋から人が!? 貴様何者だ!?」

「宰相閣下っご無事ですか!?」


扉を出た瞬間、物凄い形相の2人の騎士に見つかったのだ。

護衛が居るとか言っていたが、すっかり忘れていた。


どうやら交代の時間だったらしい2人は、1人が逃げ出した私を追いかけてき、もう1人が部屋の中に入っていった。


宰相とか聞こえたが気のせいだろう。


結構な駿足で追いかけてくる追っ手だが、そう簡単には捕まったりしない。なぜなら私、浮いてますから!! 5センチ程浮いた状態で滑るように移動している人間リニアモーターカー。


「バカなっ」


と遥か後方から聞こえてくる声にほくそ笑むと、適当に王宮内を進み、隠れられそうな場所を探す。

そう。これは鬼ごっこではない。かくれんぼなのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ロード視点



王妃の茶会が開催されている場所から、ガキ共の騒ぐ声が聞こえ、話の内容からミヤビがいると思った俺は急いで向かった。


人工的に作られた小川と、そのそばに咲いている花々を横目に駆け抜け、花よりも愛らしいつがいの姿を探す。

ミヤビの力は感じられない。いや、本当にうっすらとだが“王妃の庭園”から力を感じる。やはりここにいるのだ。


急ぎ庭園の奥へと向かう。


“王妃の庭園”とは、王妃の住まう宮の庭園の事であり、そこへは王妃と陛下、護衛騎士に王妃の招いた者しか入れない場所だ。

さらに今は上位貴族のご子息、ご息女を招待しての茶会の最中である。


「ロヴィンゴッドウェル第3師団長! 例え貴方様でも王妃様よりの許可がなければここを通すわけには参りません! 少々お待ち下さいっ」


当然庭園の出入口では騎士が警備にあたっている。足止めをくうのはわかるが、つがいがいるかもしれない場所にすぐに行けないのはどうしようもなく心が急いてしまう。


「王妃様に俺が来た事をさっさと知らせろっ」

「は、はいっ」


王族のそばでの警護というのは第1師団が受け持っている。という事はこの若造もレンメイの部下だろう。


腰にあった小さなポーチから紙切れを取り出し、さらにペンを取り出すと、そのポーチの中にペン先を入れて紙になにやら書き始めた。成る程、ポーチ内にインクがあるのかとその行動を見ながら思う。


サラサラと何かを書いたと思ったら、ピーッと指笛をふいたのだ。

するとすぐに鳥がやってきて、当然のように肩に止まった。

若造は先ほどのメモを鳥の足にくくりつけて飛ばす。


伝書鳥だ。

王妃の護衛騎士にでも飛ばしたのだろう。


暫くして伝書鳥が帰って来たが、俺のイライラはピークに達しようとしていた。

遅い!! いつまで待たせるんだと腹がたってくる。

もうここに来て10分は経っている。たかが王妃の庭園に入るだけでなぜこんなにもまたなければならないのか。


「ロヴィンゴッドウェル第3師団長!! お待たせしております!! 王妃様より許可がおりましたのでこちらをお通りください」


そう言われ、庭園へ入る門を開けてもらった瞬間に駆け出した。


丁寧に整えられた木々や花などどうでもいい。ミヤビはどこだと周りを見渡すが、見えるのはガキ共の姿のみ。しかも一ヶ所に固まっている。

噴水の周りや花の周りではない。茶や菓子がある机の周りにだ。


「何があった?」


その辺にいた護衛騎士に話し掛ければ、緊張した面持ちの騎士は、


「ロヴィンゴッドウェル第3師団長!! いえっ今しがた精霊様が忽然と現れ、王妃様と会話をされたと思ったら、瞬きをしている間に姿を消してしまったのです!! 消える際に、王妃様にお菓子らしきものをプレゼントしていかれました!!」


興奮したように言う騎士の後ろには、チョコレートフォンデュとかいう異世界の菓子、といわれるものとそれに群がっているガキ共の姿が見えた。


「…………」


ミヤビ、何て事をしてくれてんだ。

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