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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第三章 精霊編
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真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす!(顔はダメだぜボディボディ(6)

 ――ズザザザザ…


 暫くの浮遊感の後、頭から地面に突っ込みそうになって、慌てて両腕でガードする。そして、ようやく勢いが無くなった所で身体を起こすと、背中に乗っていた物がガランと金属音を響かせて地面に落ちる。


 その音の元を拾い上げて、表面に付いた土埃を手で払い落としながら、安堵のため息を吐いた。その拾い上げた物とは、バックラー型の金属製の円盾だった。


 あたしの悪運の強さも中々みたいね…無意識にこの子を召喚したお陰で、致命傷は免れたみたい。前に飛んだだけじゃ威力を軽減しきれずに、きっと立ち上がる事さえ出来なかったでしょうから。


「ママーッ!!

「優姫!大丈夫ですか?!」


 命の恩人に感謝しつつ円盾を送還した所で、聞き馴染みのある声に呼びかけられて、そっちへと顔を向ける。見ればエイミー達が、慌てた様子で駆け寄ってくるのが目に映り、さっきの一撃で大分遠くまで吹き飛ばされた事を悟った。


「ん、へ~きへ~き。ちょっと過集中し過ぎて頭痛がするけど、身体の方はなんとも無いから。よっと。」


 あたしの身体を気遣うエイミー達に対し、苦笑を浮かべつつそう告げて、手をひらひらさせて無事をアピールしてから、おもむろに立ち上がって彼女達に向き直った。


「本当に大丈夫ですか?

「うん、心配ばっかり掛けてごめんね、エイミー

「いえそんな…無事なら良いんです。けれど…

「ん、解ってる。大丈夫よ、無理はしないから。」


 あたしと魔力共有しているエイミーだからこそ、真っ先に気が付いて心配そうに聞いてくる。それに対しあたしも頷いて答えながら、吹き飛ばされた際に手放してしまったらしい夜天と銀星を呼び戻し、それらを鞘に戻して送還する。


 そして精霊化も解除すると、それまで感じなかった疲労感や倦怠感が、一気に押し寄せてきて身体を苛んだ。あたしが精霊として活動出来る時間は、どうやらここまでの様だった。


 その事実に、ため息を吐きながら、なんとも中途半端だけれど、ここいらが引き上げ時かと、心の中で独白し…


 ()()()()――と、諦めきれない自分に奮い立った。


 そんなあたしの瞳を見て、心境を悟ったんだろうエイミーが困った様な表情で苦笑すると、荷物の中からマナポーションを取り出して、それをあたしに差し出した。


「ありがと

「いいんですよ。私は貴女のパートナーですからね。」


 お礼を述べてそれを受け取り、一口で飲み干してから、再びガイアースに向き直って歩き出そうとする。ちょうどその時だった…


「ま、待って下さい!!」


 突然アクアに大声で呼び止められて、何事かと思いながら振り返ると、彼女は困惑した表情でオロオロとしていた。


「ま、まさかまだ続けるつもりなんですか?

「え、うん。そうだけど?

「そんなあっさり…見たところもう魔力だって残っていないのに

「イフリータに一太刀入れた時も、ギリギリまでは生身だったし、平気平気行ける逝ける

「はぁ?え、いやいやいやいや!!行けないですって普通!!ってか逝かないで下さい!!

「ナイス突っ込み☆

「ちゃんと聞いて下さい!!」


 親指立ててウィンクしたら、ガチで怒られました、サーセン。ちょっと茶目っ気出しただけなのに…


 シリアスとの落差が激しすぎるって?デスヨネー


「…エイミーさんも、なんで止めないんですか。こんなの自殺行為じゃ無いですか。」


 あたしがまたおふざけすると思ってか、相手をエイミーに変えて苦言を呈した。それに対して彼女は、困り果てたと言わんばかりの仕草で、あたしに視線を向けてくる。


「それで思い止まってくれるんなら、私も困らないんですけれど…

「でも、だからって…

「ねぇ、アクアさん。」


 尚も言い縋ろうとするアクアに対し、あたしはため息を吐いてから彼女に呼びかける。すると、さっきまでのあたしの雰囲気とは、明らかに違うと気が付いたのか、少し怯んだ様子であたしに視線を向けてくる。


「巫山戯ないでちゃんと答えてあげるけれど、ならあなたは、あんな眼をした子を放っておいて、見なかった事にしましょうって、つまりそう言いたいのかしら?

「そ!そんな事は…

「勝ち目なんて無いからやっぱり無かった事にして、穏便に事を納めて立ち去って、そしてあたし達は晴れて日常に戻りましょうと。あんな、生きてるんだか死んでいるんだか、良くわかんない様な眼をした子達が、これまでそうしてきた様にこれからを過ごす。それを解っていながら、知らんぷりしましょうって?」


 まくし立てる様にそう言うと、次第に気まずそうに顔を伏せて、押し黙ってしまうアクアの姿に、少し言い過ぎたと思いつつため息を吐く。


「…まぁ、基本あたしも事勿れ主義だから、それを悪い事だなんて思わないわ。誰も彼もが、他人に労力を割ける程、ゆとりがあるとは思ってもいないしね。」


 そう告げてから、気まずそうに立ち尽くしているアクアに背中を向ける。振り向きざま、エイミーに目配せすると、意図を察したのか頷いてアクアの側に近づいていく。


 2人のやり取りを背後で感じながら、あたしは改めてガイアースへと向き直り、ゆっくりとした足取りで進んでいく。


「待たせたわね

「解らんな…

「ん?何がよ。」


 再びガイアースと対峙したあたしに、彼女は眉間に深く皺を寄せて、怪訝そうに聞いてくる。


「あのウィンディーネの娘の言う通りよ。貴様、よもやこの期に及んで、まだ我に勝てると思っているのか?

「あら、何時から勝つとか負けるとか、そんな勝負事になっていたのかしら?あたしは最初っから、あんたが気に食わないから、試すと言って一発ぶん殴りたかっただけよ

「言葉遊びだな。それはつまり、我に勝つという事だろう

「何言ってるのよ、全然違うっての。そもそもあたし、あんたに勝てるだなんて、露とも思っていないもの

「…何?」


 その一言に、ますます訳がわからないと言った表情を浮かべるガイアース。そして眉間に刻んだ皺を更に深めて、怒気を露わにあたしを睨んでくる。


「ならば何故挑んでくる?勝ち目が無いと解っていて、それで貴様に何の得が在るというのだ?

()()()()――よ。例え勝ち目が無くても、何の得が無いとしても…それでもあたしは、自分の気持ちに正直で居たいの

「自分の気持ちに…だと?」


 そう聞き返してくるガイアースに対し、呆れながらにため息を吐いたあたしは、彼女から視線を外して周囲に向ける。心の中で念じて、中位・上位精霊達の拘束を外していく。


「…なんで挑むのかと、そう聞いたわね。なら教えてあげるわよ…」


 そして呟き、押さえ付けていた怒気を解き放って、鋭い視線でキッとガイアースを睨み付けた。


「あんたが、そんな事も解らない位に、その目が曇ってるからよ。」


 その一言に、僅かにガイアースは肩を震わせ、そして明らかに怒気を強めた。それに構わずあたしは続ける。


「あなたの記憶に触れて、その気持ちを全て理解できただなんて、傲慢な事を言うつもりは無いわ。あたしもママの事は大好きだから、目の前で無残に殺されてしまったらきっと、復讐に駆られてそう大差ない行動を取ると思う。だから、同情もするし涙も流してあげる。けど…」


 そこで一旦言葉を切って、それまで感じていた怒気さえも上回る程の哀愁に、自分の胸が締め付けられそうになりながら、更に彼女に語りかける。


「いつまであんたは、母親の亡骸にしがみついて泣いてるつもりよ

「…なんだと?我が泣いているというのか

「泣いているじゃない、子供みたいに、ずっと…あなたの根っこの部分は、母親を殺された頃のままで止まってるじゃ無い。それだけ好きだったんでしょう、愛おしかったんでしょう…お母さんを殺されて、悲しかったよね?辛かったよね?悔しかったんだよね…周りが一切見えなくなるぐらいに。」


 まるで、小さな子供に言い聞かせる様に、諭す様に語りかける。そうして、見るからに不愉快そうに歯がみし出したガイアースに、それでも尚語りかける。


「別に復讐するなだなんて言わないわ。憎しみは何も生まないだとか、復讐は更なる復讐を呼ぶだとか、そんな聖人みたいな事思える程、人間出来てないからね、あたしは。むしろ、それで気が晴れるんなら、いくらでもすれば良いとさえ思ってる。だけどね…それはあなただけの感情で、あなたの意思で行うべき行動で在って、周りを巻き込むべきでは無いわ

「綺麗事を並べるで無いぞ小娘…奴等は、この世界にとっての害悪よ、不倶戴天の敵よ!ならばこそ、この世界に生を受けたのであるならば、奴等を滅するに望は必定

「綺麗事の何がいけないのよ!あたしが耳触りの良い綺麗事を並べている、平和ボケした偽善者だなんて百も承知よ…けどね、みんなのハッピーエンドを願って何がいけないのよ?」


 これは願いだ…ただただ青臭い1人の小娘の、嘘偽りの無い烏滸がましい願い。


 世界が理不尽で溢れているのは知っている…それでも。


 あたし1人の力じゃ、何も変えられない事も知っている…それでも。


 これが、独りよがりな考えで、その考えを無理矢理押しつけようとしているって事も、もしかしたらトパーズ達にとっては、ただ迷惑なだけなのかも知れないと言う事も…嗚呼、()()()()()


「偽善だと蔑まれようと構わない。綺麗事だと馬鹿にされたって構わない。誰だって傷付けば痛いし、悲しかったら苦しいのよ。それが当たり前なのよ!だから、綺麗事に溢れた世界を望んで何がいけないのよ!!

「世迷い言だな…

「えぇそうよ。あなたがそう思う限りは、ただの世迷い言よ…だから、あんたのそのツラを、一発殴りたいんじゃ無い

「ハッ!成る程な…要するに、共感されぬから気に入らんと、そう言う事か!浅ましいな…」


 そう言って歪に笑うガイアースに対して、あたしは一歩踏み出した。


「…それ以上踏み出すというのであれば、それ相応の覚悟をせよ

「覚悟なら、あんたに喧嘩を売った時点でとっくに出来ているわよ

「正気か?既に精霊化するのも難しい様だが、それで我に勝てるとでも?

「だから、勝てる勝てないの問題じゃ無いの。やるかやらないかの問題なのよ。」


 そう告げて立ち止まり、再び戦いの前のルーティーンを取ろうとした、ちょうどその時だった。


「…む?

「ん、何?」


 不意に、微精霊の群れがあたしの身体に纏わり始める。その色は青く、間違ってもガイアースの眷属では無かった。


 その数はどんどん増えていき、視界を覆い着くす程に成った頃、それらが吸い込まれる様に、あたしの身体の中へと入ってくる。その現象に覚えのあったあたしは、その場で後ろを振り返って、青い微精霊の発生源をすぐに見つける。


「アクア…」


 視線の先、そこに居たのは他でも無い。ウィンデーネの代理人として、あたしの人となりを見極める為に、行動を共にしていた水の上位精霊アクアマリン。


 覚悟した様な表情の彼女が、あたしに向けて両手を突き出し、その手の平から勢いよく青の微精霊が飛び立っていた。


「わ、私だって…私だって!このままで良いだなんて思っていませんからーッ!!」


 あたしの視線に気が付いて、どこか自棄になって叫ぶ彼女は、そうしてキッと力強い眼差しを向けてくる。


「私も綺麗事で溢れた世界の方が良いです!!私だって!ハッピーエンドで溢れた世界が大好きですッ!!

「姫華も-!!」


 真剣な表情でそう叫ぶアクアに、なんか知らないけど触発されたっぽいオヒメも叫んで、彼女の真似をして両手を突き出した。するとその手の平からも、ごく微量の微精霊の様な物が現れて、青い光の奔流に混ざってあたしの元まで届いた。


 それに触れてあたしは気が付く。本来精霊王にしか生み出せない筈の微精霊を、あの子がその存在を削って生み出している事に。


 そんな2人寄り添って、優しく微笑んで見つめていたエイミーが、不意にあたしに視線を向けて力強く頷く。それに頷き返して、再びガイアースと向き合った。


 解ってるわよ…()()()()()()()ここまでされて、奮い立てなきゃ女が廃るってものよね。


「ウィンデーネの娘め、余計な真似を…まぁ良い。今更ウィンデーネの力を取り柄入れたからと言って

「本当に、それだけだと思っているの?

「何…ッ?!何だと!!」


 彼女が驚きに目を剥くのと同時に、あたしの周囲に纏わり付く青い微精霊達の中に、黄色い光も混ざり出す。その光が意味する所は…


「…トパーズ!!」


 あちこちから、意思を持って放出されるその黄色い光の奔流に、その内の1カ所に顔を向けて、再び不愉快そうに歯噛みして、彼女の名前を口にするガイアース。トパーズを始め、さっきまであたしと闘っていた筈のガイアースの眷属達が、あたしに向かって手を翳し、自分達の存在を削って微精霊を飛ばしていた。


 その事実に、ガイアースよりも先に気が付いたあたしは、だからこそ奮い立つ。あたしの想いに共感し、力を託してくれた彼女達の為にも、あたしは…


「…大昔、ドワーフ達に見限られた時の事でも思い出したのかしら?」


 ビクリと、肩を震わせたガイアースが、悔しそうな表情であたしに視線を向けてくる。


「見なさいガイアース。人の心を動かすのは何時だって、人の心なのよ

「…黙れ

「もう少しあの子達に目を向けてあげてよ!あなたが母親を大事に思っていた気持ちに、嘘が無いのは知っているわ。だからこそ向き合いなさい!あの子達にとっては、あなたが母親なんだから!!

「黙れ!

「あなたの復讐を否定するつもりは無い。断ち切れだなんて無責任な事は言わないわ。だけど、それを子供にまで背負わせてどうするのよ!!

「黙れ!!

「フォールメンティーナ!!あなたの母親は、明日への希望をあなたに願っていたのよ!!そのあなたがッ!!子供に業を背負わせてどうするのよッ!!

「黙れえええええええええええええッ!!」


 それはまるで慟哭――


 薄暗い世界に、その世界の主の悲痛とも言える叫びが木霊する。彼女は声の限り叫び、荒々しく肩で呼吸していた。


 そして、ようやく落ち着いた所で、まるで感情が抜け落ちたかの様な表情へと変わった。


「…もう良い、解った。貴様達も我から離れると言うのだな…散々英雄だ何だと持て囃し、共に母の仇を取ると誓っておきながら、付いていけぬと離れていったシルフィーやドワーフ達の様に…


 譫言の様にそう呟いたかと思うと、その手にした戦鎚を高らかに掲げる。そして次の瞬間、この岩だらけの世界に変化が起こる。


 ゴゴゴゴ…「もういい…もうわかった…もう聞きたくも無いわ…潰されたくなければ、全員速やかに我が前から去れ…」


 まるで、この世界が悲鳴でも上げ始めたかと思う様な、激しい振動が空間全体に広がっていく。そして、彼女が掲げた戦鎚に吸い寄せられるかの様に、世界全体を覆っていた岩が砕けて集まっていく。


 今目の前には、世界の終焉が遂に始まったかと錯覚する様な光景が広がっている。そんな世界の中心であたしは、ため息交じりに頭を掻きながら、幼い姿の精霊王を静かに見据える。


「全く…これだからヤンデレは手に負えないのよ。見捨てられたと勝手に思って、自暴自棄になってんじゃないっての。いい加減、目を覚ましなさいって言うのよ、本当…」


 そう呟いて、あたしはゆっくり歩み出した。背後から呼びかけられている気もするけれど、地響きが酷くて聞こえないので、このまま聞かなかった事にしておこう。


 まだやらないといけない事があるのよ。今更はいそうですかって、素直に立ち去れる訳無いでしょう。そうよね?


「兼定。」ブン…


 あたしの呼びかけに応える様に、あたしの手の中にスッと現れる。そして現れると同時に、青みがかった銀色の微精霊が、辺り一帯を覆い尽くす様に姿を現した。


 その微精霊達は、それまであたしの周りに纏わり付いていた、青と黄の微精霊達と混ざり合っていく。


「『舞を以て武を制し、刃を以て神を殺す。故に我等武神也』武神流剣術亜流、武人一刀居合術鶴巻家、鶴巻優姫。そしてその愛刀、11代目和泉守兼定作、和泉守九字兼定、銘『戦鬼』」


 そこまで名乗り終わると同時、混ざり合った微精霊達が一瞬動きを止めたかと思うと、次の瞬間その全てが一瞬にして兼定の中へと吸い込まれていく。


「我等、半人半精にして一身一刀の精霊王。ヴァルキリー・オリジン…推して参る。」


 そう告げてから、腰を低く落として右足を前に出し、左膝を地面に付ける。そして右肩をガイアースへと向けて、上体を半身にして構えた。


「…そうか。来るのか…ならば、潰れてしまえ!!『大地の怒り』!!」


 それまで、ぼーっとした表情で見ていたガイアースは、あたしが構えを取ると目を見開いて叫び、手にした戦鎚を振り下ろした。それに呼応して、今やちょっとした山にまで育った塊が、バランスを崩して倒れ込むかの様に、あたし目掛けて放たれる。


 その大きさから言って、間違いなく回避は不可能。圧倒的質量を前に、抵抗さえ本来なら無意味で、等しく全てを押し潰し飲み込む。


 本来なら…


「武人一刀居合術、秘剣――」


 告げて、左手の親指で鍔を押し上げた瞬間、そこから勢いよく微精霊の奔流が迸った。そのまま一息に抜刀すると、鈴の音にも似た『しゃりん…』という音が耳に届く。


 昔からあたしは、この音を聞くのが好きだった。この音が鳴るという事は、刃を鯉口に当てる事無く、綺麗に抜けたという証拠だからだ。


 同じように、余計な音を響かせず『ぱちん』と乾いた音が聞こえたら、それは綺麗に刀を納刀出来た時の証拠と言って良い。そして、今あたしの耳には、『しゃりん』『ぱちん』『しゃりん』『ぱちん』と、交互に音が聞こえていた。


 居合で最も難しいのは何かと言うと、一般的には抜刀時の刃筋が綺麗に通るかだと思われがちだ。それは別に間違った考え方じゃ無いけれど、あたしの実家の流派、武人一刀居合術だと少し違う。


 抜刀時の刃筋が綺麗に通る事以上に、納刀技術を磨く様に教えられるのだ。居合とは、抜刀時の鞘走りで剣速を早める技術で、どちらかと言えば一撃必殺というイメージが強い。


 一撃一撃に重点を置いた技だけど、なら対多数を相手にするとした場合、居合でどう戦うのか?1人1人相手取って、1回1回居合を放つのか?


 2人3人位が相手なら、それでも良いでしょうけれど、それが10人だったら?20人だったら?


 乱戦になった場合、居合が戦いで向かないのが常識だ。けれど、敢えて乱戦で居合を持ち込むとしたどうしたら良いか?


 答えは実に単純明快で、鞘走りの速度と()()()()()納刀してしまえば良い。そんな、子供の発想みたいな思いつきで、武人一刀居合術はうまれた。


「――六道輪廻。」ぱちん…


 都合6回繰り返された音が鳴り止むと、ガイアースを中心にして、見えている世界に6本の軌跡が走る。それが滑る様にズルリとズレて、そして…


「…な!馬鹿…な…」


 ガラガラと、音を立てて世界が崩れていった。

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