ウィンディーネに会いに行こう!(ブラは貝殻じゃないと許しません(3)
そんな感じで雑談しながら、更に4回位の休憩を挟んで車を走らせる事10時間後、陽がとっぷり暮れた頃になってようやく、カラクニド海岸に設けられた海洋都市セゼリに到着した。いくら何度も休憩挟んだからって、初めての運転で10時間も運転したから流石に疲れたわ。
帝都を出る前にしてた打ち合わせじゃ、最初は車中泊する事も考えてたのよね~セゼリまで魔力が保つかも怪しかったし、ジープだったら車中泊するにしても、結構快適に過ごせる位車内広いから。
なんだけど、思った以上に順調に進めた事もあって、日が暮れだす頃には目と鼻の先位にセゼリも見えてきてたので、一気に走破しちゃおうって事になった。運転で疲れたし、出来たらベッドで落ち着いて寝たいしね~
セゼリに着いたら、運転の疲れもあってあたしはすぐに寝ちゃったので、特に面白い事もありませんでしたと。ようやくこっちの時間感覚に馴れてきて、仮眠しなくてもなんとか成るようになったから、早い時間に眠くなったって言うのもあるんだけどね。
そんな感じで一夜明かして、日課も朝食も済ませた現在、あたし達はカラクニド海岸の砂浜を、海岸線に沿って歩いていた。
………
……
…
「綺麗な砂浜ね
「ね~」
まるで海外のリゾートビーチのような、白い砂浜を踏みしめて、蒼く澄んだ海を望みながら、エイミーを先頭に歩く。歩きながら漏れた感想を聞いて、あたしの肩に腰を落ち着かせているオヒメが、ニコニコしながらあたしの言葉尻だけを捉えて伸ばした。
抜けるような青空と降り注ぐ太陽の日差し、そして空の色を更に濃くしたような色合いの海に、打ち寄せる波を優しく受け止める様な白い砂浜。先頭を歩くエイミーの金色の髪が、海風に吹かれ太陽光を一身に受けて、キラキラと輝き踊っている様はまるで、名画にでも描かれていそうな光景で、思わず感嘆の声が漏れていた。
「…?どうしました?
「うん?エイミーの後ろ姿が綺麗だなと思って。ね?
「ね~!」
あたしの視線に気が付いて、その場で振り返ってくる彼女に向かって、心の中で思っていた事を素直に告げて、肩に乗るオヒメにオヒメに同意を求めた。それを聞いてエイミーは、顔を真っ赤に上気させながら、恥じらいに身をよじっていた。
「も、もう!変な事言わないでください
「別に変な事じゃないでしょ?思わず惚れ直しちゃったわよ、ね?
「ね~!
「そ、そういう所がずるいって言うんです!もう!!」
顔を真っ赤にさせて抗議の声を上げるエイミーを、からかうようにあたしは笑う。穏やかな日差しと心地よい海風で、流れてないはずのラテンの血が騒いじゃって、いつも以上に軽やかな軽口が、出てしまったに違いないわ。
「う~ん!気持ちいいわね~昨日の運転の疲れが、一気に吹き飛びそうだわ。」
これ以上エイミーをからかうのも可哀想なので、話題を変える意味でも、背伸びをして身体をほぐし、海を一望しながらそう告げた。お世辞じゃ無く、実際に吹き飛びそうな位、気持ちよく心地良い空間だった。
正直、ここに来た目的は急ぐような要件じゃ無いし、折角の海で天気も良いんだから、思い切って海水浴と洒落込みたい所なんだけど、残念だけど少し肌寒いのよね~4月の頭に入った海に来たみたいな?
まぁそれも悪く無いんだけど、どうせだったら暑い時期に来たかったわね~この世界の気候が、どういう風なのかは知らないから、単なる願望だけど。
いつかみんなで、海水浴とか良いわよね~水着選びではしゃいだりしてさ。
ほら、テコ入れの為にも水着回って必要じゃ無い?え、メタな話し過ぎだって?サーセン
「それで、海底洞窟の入り口ってどの辺りにあるの?
「ええっと…もう少し行った場所から海に入ります
「入り口が地上にあるとかじゃ無いんだ?
「えぇ。この辺一帯に住んでいるマーメイドやマーマン達の巣に…あら?」
説明しながら先頭を歩くエイミーが、ふと何かに気が付いた様子で立ち止まって、海の方角へと視線を向けた。それに習ってあたしもそっちを見てみると、そこには海から顔を覗かせている人物が居た。
それに気が付いて内心ヒヤッとして、驚きに声を上げそうに成るのを必死に堪えて、喉まで出かかった声をなんとか飲み込んだ。元の世界の感覚で言って、人が泳いでない海から、静かに顔だけ出してこっちを伺ってる人影なんて、入水ナウな希望者か船幽霊のどっちかでしょ。
「ちょうど、マーメイドの方がいらっしゃったみたいですね。すみませ~ん!」
心拍数が跳ね上がった、あたしの内心なんてお構いなしに、エイミーがそのマーメイドさんに向かって大きな声で呼びかける。それに応えるように、彼女の姿が徐々に近づいてきて、やがて胸元が露わになり腹部が見えて、そして…
…え~?なんか思ってたマーメイドの姿と違う…
バチャ!バチャ!!「森精の方と人間さん?それに下位精霊まで…どういった組み合わせかしら?不思議だわ~」
そう呟きながら、二足歩行で陸地に上がったマーメイドさん。え~っと…こういう場合も打ち上げられたって表現の方が適切なのかしら?
ウェーブの掛かった水色の髪に白い肌。耳が魚の尖ったヒレの様な形をしていて、腕と足の側面にもヒレのようなヒダヒダが着いていた。
そして、手の平には河童を連想させるような水掻きが、指の合間広がっていて、地上での生活を想定した2足歩行出来る足の平はと言えば、スキューバダイビングなんかで、ダイバーの人が足に着けるような、長く幅広い水掻きに成っていた。
細部が色々可笑しいけれど、その姿形はあたし達と変わらない人の姿形だった。元の世界では通説となっていた、人の上半身に魚の下半身を持った、あの夢の国でお馴染みのリトルマーメイドの姿とは、はっきり言って似ても似つかなかった。
ついでに言うと、服装も全然イメージと違っていてショック!人魚って言えば、貝殻のブラを着けてるイメージだったんだけど、実際にはチューブトップみたいなスタイルのビキニに、パレオみたいな腰布を付けていて、裏切られた感が半端ないって言うね…
まぁ、服装については、完璧あたしの願望だったんだけど、姿形は流石にビックリしたわ…
あたしの感想はとりあえずさて置き、肝心のマーメイドの女性は、バチャバチャと音を立てながら、不思議そうに首を傾げながらあたし達の方へとやって来る。
「始めまして、エイミー・スローネと申します。精霊王ウィンディーネ様に拝謁したく参上しました
「まぁ!あなたが高名な金色の精霊姫の…ではそちらの方が、異世界人のユウキ・ツルマキですか?
「え?
「ご存じなんですか?」
まだ自己紹介していないはずの彼女に、名前を言い当てられて、驚きに目を見開いた。そんなあたし達の様子を見て、彼女はニコニコしながら首肯する。
「ウィンディーネ様より伺っていました。4~5日以内にエルフと異世界人の2人組が来るので、丁重にお連れしなさいって。けど、昨日聞いたばかりなんですが、どうやってこんな早く着いたんです?
「あ~それはちょっと色々ありまして…」
そして、逆に彼女にそう聞かれ、あたし達は苦笑を浮かべながら曖昧に濁したのだった。
「それよりも、お話を聞いてて下さったのでしたら、話が早くて助かります。ここから私達を、海底洞窟まで案内して下さいますか?
「えぇ、もちろん喜んで。バブルの魔術は使えますよね?
「はい、問題ありません。」
あたしを置き去りに会話は進んで、話が纏まったところで、マーメイドの彼女は来た道を引き返し、海の中へと戻っていく。それに合わせるように、エイミーが何やら呪文を唱え始めた。
「…バブルッ!」もわん…
呪文を唱え終わったエイミーが、一際大きく言葉を紡ぐと、あたし達の周りに球状の膜が現れる。
「さ、これで大丈夫です。私達もいきましょうか
「えぇ。」
彼女にそう言われて、先に海の中へと潜っていったマーメイドを追って、あたし達も海へと入っていく。予想はしていたけど、さっきエイミーが唱えてくれた魔法が壁となって、水の浸入を防いでくれているから、服も濡れないし息も出来るんだけど、歩いて海の中へと進んでいくなんて、妙な感じがして落ち着かない。
やがて頭上にまで海水が到達したところで、マーメイドの女性と合流する。そこでようやく、彼女の名前をまだ聞いていない事に思い至った。
「そういえば、彼女の事なんて呼べば良いのかしら?
「あっ、そう言えばそうですね。」
思った事を口にすると、エイミーも同じく忘れていたようで、ついうっかりと言った感じで声を上げた。
『あら、私ったらごめんなさいね。クララと呼んで下さいな。』
そんな風に話していると、頭の中に直接響くような声が聞こえてくる。その感覚は、イリナスとの会話の時に体験した、テレパシーと同じだった。
「びっくりした。水中じゃマーメイドの人達って、テレパシーで会話するのね
『えぇ、そうですよ。』
「最初は驚きますよね、私も初めてここを訪れた時は驚きましたから
『陸地に上がる事自体、私達は滅多にありませんからね。セゼリの漁師さん達と話す時も、大体海面から顔を出して、船上に向けて話しかけていますから、テレパシーなんて使いませんし。だから、他種族の方に全然知られてないんですよね~』
「へぇ、そうなんだ。浩太さんが知ったら、きっと興味津々で調べに来そうね
「ウフフ、そうですね。」
クララさんの説明を聞いて、帝都で出会った生物学専攻してたって言う浩太さんの事を思い出した。この事実を知ったら、あれだけ得意げに自分の知識を披露していた彼の事だから、その探究心に火を付ける事間違い無しだろう。
というか、こっちの世界には生物学とかに限らず、専門的な分野の学問が無いのかしらね?今まで立ち寄った街からには、地球みたいな近代科学がそこまで発展している風でも無いし、学問として確立してないのかも知れないわね。
『では案内致しますね。どうぞこちらへ。』
そう言って、クララさんはあたし達の先頭に立って、水中で立ち泳ぎしながら進んでいく。その後を追って海底を歩いて行くと、最初は砂や砂利だった地面が、やがてゴツゴツとした岩場へと変化していく。
「クララさんは、どうしてあそこに1人で居らしたんですか?住処からは少し離れていませんでしたっけ?
『見回りしていただけですよ。最近は少なくなりましたが、密猟者が来たりしてこの辺りを荒らすもんですから、セゼリの漁師さん達が、困っていた時期もあるんですよ。』
「それ1人で大丈夫なの?
『アハハッ!心配には及びませんよ~海辺やまして水中で、私達に挑もうなんて愚か者、この辺りにはもう居ませんよ。』
「…居ないじゃ無くて、もう居ないなのね。頼もしいわ~」
歩きながら、世間話するつもりで会話をしてて、地味に聞き捨てならない言葉の端々を捉えて、あたしは思わず苦笑を浮かべた。要するに、最近少なくなった愚かな密猟者達は、もう彼女達にちょっかい出す気が失せてるって、そう言う事なんでしょうね。
まぁね、そりゃ水中を自由自在に遊泳出来る彼女達と、水辺ならまだしも水中に引きずり込まれたりしたら、それだけで勝敗が決まっちゃうもんね。実際、地球の人魚伝説にはよく出てくる内容だし。
だって言うのに、人を警戒している素振りが無いのが不思議ね。あたし達の場合、彼女と同じ精霊種のエイミーと、下位精霊のオヒメが居たから、すぐに警戒を解いてくれたみたいだけど、彼女の口振りからだと、普通にセゼリの街と交流している所か、協力関係にあるような感じもするし。
「…優姫、どうかしたんですか?
「うん?いや、ちょっと色々考え事しててね~
「一体どんな?
「いや、あたしも詳しくないんだけど、元の世界で伝承とかで伝わってる人魚…マーメイドとは、イメージが随分違うな~と思って
「そうなんですか
『異世界のマーメイド?!何それ凄い気になる!教えて教えて!!』
歩きながらエイミーとそんな会話をしていると、興味を引かれる内容だったようで、興奮したクララのテレパシーが、頭の中でガンガン響くような感覚に襲われた。その感覚にめまいを覚えて、あたし達が眉間を押さえると、それに気が付いた彼女が、すまなそうにして両手を合わせて謝罪してくる。
「…まぁいいですけど、今のもう止めて下さいね?
『ご、ごめんなさい!もちろんもうしないから、だから教えて下さい!!』
そんな風に懇願されて、あたしはため息交じりに、うろ覚えな知識とかも引っ張り出しつつ、知っている限りの人魚伝説について、懇切丁寧に説明していく。有名な物では、童話の人魚姫だったり、映画でお馴染みリトルマーメードの話。
日本の八尾比丘尼伝説や、歌声で船を沈めるって言われているローレライの話なんかを、移動しながら語って聞かせる。その話をクララは、あたし達に身体を向けて器用に後ろ泳ぎしながら、どれも興味深そうに聞いていた。
『ふむふむ。異世界のあたし達って、そんな風なんだ~』
「上半身が人の姿で、下半身が魚だから人魚ですか…興味深いですね
「そうそう。だから、最初クララさん見た時ビックリしたのよね~」
語り終わって、それぞれの反応を見ながら、一番最初にクララを見た時の印象を、思い出しながら答える。まさか二足歩行で海から出てくるとは、想像出来なかったからね。
二足歩行する架空の海の生物って言ったら、それこそカッパか半漁人位でしょ。広義じゃ似たような者なのかも知れないけどさ、イメージでいうと怪人の類いだかんね。
いくら何でも、クララみたいな美人さんを、全身緑のザビエル禿や、全身うろこに覆われた逆シーマンと同一視するなんて無理だから、そう言うのも居ますよなんて、口が裂けても言えないわよ。
「私達からしたら、下半身魚の生物が現れた方がビックリしますね
『だよね~』
「いや、あたしだって実際に見た事無いわよ?あくまでも想像上の生き物なんだから
『けどそれ、もし存在していたとしたら、繁殖とかどうしてるの?』
「ですよね
『私達はちゃんと交尾して出産するんだけど、下半身魚なら産卵なの?』
「え?いや…どうかしら…」
話しているうちに、純粋に疑問に思ったんでしょうけど、話が妙な方向に向かい始めた。って言うか、交尾ってそんな直球な…
彼女にとっては、全く意識していないんでしょうけど、その単語を耳にしたあたしは、ちょっと頬を染めつつ考える。だから、直球なのはあたし苦手なんだってば…
意外なのがエイミーで、あたしみたいに赤面してんのかなと見てみれば、全くそんな風でも無く、クララと一緒に不思議そうにしているだけだった。見た目に騙されがちだけど、よくよく考えてみれば1000歳超えてるんだし、あからさまな下ネタだったらまだしも、こういう流れの話だったら平気なのかしら。
こう言う所で大人の余裕出せるんなら、もう少し普段から出して欲しいわね~精霊の寵愛を受けた、パシリで保母のエイミーさん。
「…あ~、そうそう。あたしの世界じゃ魚の姿をしてても、人間と同じ哺乳類って言う、交尾して出産する海洋生物も居るのよ。その内の1種類が、人魚のモチーフになったって言われてるんだったわ
「魚の姿をした人間と同じ種類ですか
『へぇ~面白いんだね~』
未だ頬が熱いのを自覚しながら、昔何かのテレビで聞いた内容を、彼女達に言って聞かせる。それを聞いて、彼女達も納得してくれたようで、ひとまずホッと胸をなで下ろした。
「ママなんで顔赤いの?
「なんでもないわよ。」
そんなあたしの表情を見て、不思議そうに聞いてくるオヒメに、自嘲気味に苦笑しながら答える。あたしは改めて、専門知識の優位性について考えさせられ、浩太さんに是非頑張って貰って、この世界にも専門分野の学問を広めて貰いたいと強く思いました。
この世界、イルカやクジラみたいな海洋哺乳類居ないのかな?居てくれて、一般に広く知られてたら、こんな恥ずい思いしなくて済んだと思うのよね…




