女子のあるあるネタですね!(それに付き合うのが甲斐性です(2)
「…これ、値段が付いていないみたいですね
「そいつは売りもんじゃ無いからな。」ガタッ
横に並んだエイミーが、同じように飾られていた刀剣を長め、値札が付いていない事に気が付いた彼女がそう呟いた。それに応えるように、あたし達から興味を失っていたはずの店主が、そう言って席を立つのが気配でわかった。
「嬢ちゃん何者だ?いきなりそれに目を付けるし、それにその腰に下げた刀…異世界人か?
「えぇ、そうです。一応…」
そう問われて、振り向きながら答えた後、すぐにまた壁に掛けられた2対の刀剣に視線を戻した。何か吸い込まれるような魅力が、その双剣には感じられた。
「それよりこれ、あたし達の世界の武器じゃ無いですよね?だけど、純粋にこの世界の武器でも無い。一体何なんなんです?
「ほぉ?見ただけで判るのか。そいつはな、異世界人の刀匠が打ったって言う代物でな、2つとも異世界の金属とこっちで採れる金属を合わせてあるんだとよ
「へぇ、面白い事を考える人が居るのね。」
説明を聞いて、あたしは素直な感想を口にする。浩太さんもそうだったけど、あたしじゃ思いつきもしない事を、考えたり気が付いたりするんだから、その道の専門家って言われている人達って、本当に凄いわよね、素直に感服だわ。
「何でも、異世界の金属に混ぜる金属によって、そんな色合いになるんだそうだ…
「ふ~ん、不思議ね。ちょっと触っても良いですか?
「あん?まぁ、触る位なら構わないが…だが気をつけろよ?うちの店で1番の切れ味だからな
「これが相当な業物だってのは、見れば判りますよ。」
店主に許可を貰ってから、荷物をその場に置いて、その双剣に手を差し伸べる。別に眷属化させようなんて、微塵も考えていなかった。
ただ、単純に触れてみたいとそう思っただけだった。そして…
「ッ?!」バチンッ!!!!
「きゃっ?!
「な、何だ!!」
あたしの指先が触れた瞬間、触れた部分から目を開いていられないほどの閃光が走り、思わず強く瞳を閉ざした。そして、ゆっくりと瞳を開いて、チカチカする視界で、双剣が掛けられていた場所を見てみる。
「…おい、おいおいおい!
「優姫!いきなりなんて事を…
「ち、違うわよ!あたしの意思じゃ無いってば!!」
視線の先に、掛けられていた双剣は無かった。文字通り跡形も無く消え去っていたから、それに気が付いた店主は、大慌てであたしを押しのけて壁に近づいていく。
一方エイミーは、きっとあたしが眷属化させたんだろうと、当たりを付けたからだろう、責める感じで声を張り上げてくる。それにあたしは慌てて反論した。
「おい!一体どこに隠しやがった
「だから、わざとじゃ無いってば!!来なさい!夜天・銀星!!」ブオンッ
「な?!一体全体何処から…それに、なんでそいつらの銘を知ってんだ
「この子達に教えて貰ったのよ…」
そう言って、あたしは深いため息を、両手に召喚した姉妹双剣目掛けて吐き出した。まったく、今日はつくづく面倒な目に合う日のようね。
「…こうなったからには、1から説明しないといけ無いんでしょうね…」
ひとまず壁に双剣を戻してから、店主に対してそう告げた後、あらましについて包み隠さず話し始めた。
自分が異世界人で、この世界に精霊として召喚された事も、イリナスとヤマト王の頼みで、異世界の武具を中心に眷属を増やさないといけない事も、あたしが夜天・銀星と呼んだ双剣に、呼ばれた気がしてこの店に来た事も、その姉妹双剣が、あたしの意思を無視して、無理矢理眷属になった事も包み隠さずね。
「フンッ成る程な…」
正直、いきなりこんな突拍子も無い事を話して、信じて貰えないと思っていたので、店主のその反応は全くの予想外だったので、あたしは目を丸くして彼を見つめた。
「信じてくれたんですか?自分で話しておいて何ですけど、こんな突拍子も無い話、普通信じませんよ
「あぁ?そりゃ俺だって信じられねぇよ。けど、少し前に王城からいきなりお達しがあって、異世界の武具や道具を扱っている店は、国で買い取るので申し出ろって御触れが在ったんだよ。それで、うちからもいくつか出したばかりだったんだ。それに…」
店主はそこまで言うと、一旦言葉を区切ってから、壁に戻した夫婦剣を顎で差し示した。
「こいつ等が売り物じゃ無い理由は
「インテリジェンスソード…意思ある武器だからですよね
「…そう言うこった。触れる事なら誰でも出来るが、装備するとなったら話は別だ。今まで何人も挑戦したが、まともに振れた奴は1人も居なかったし、力任せに振り回しただけじゃ紙すら切れないなまくらになっちまうんだよ。だから、こいつ等が自分から眷属ってのに成ったって聞いて、逆に納得しちまったよ。」
店主の話を先回りして、あたしがその単語を口に出すと、不機嫌そうに鼻を鳴らしながら、どこか諦めた様子で、言い捨てるようにそう語った。
「インテリジェンスソードだなんて…初めて見ました。どういった経緯で、この店にあったんですか?
「俺の親父が若い頃に、行き倒れていた異世界人を介抱して、この家まで連れて帰ったそうだ。そいつは元の世界で、鍛冶師をしていたそうでな、うちが武器屋だと知って、礼代わりに打ったのがその双剣だったんだとよ。」
エイミーの質問に、店の店主はぶっきらぼうにそう答える。最初はなんか気難しそうな人って思ったけど、聞いた事にはちゃんと答えてくれるし、あたしの突拍子も無い話を、頭ごなしに否定しないでちゃんと聞いてくれた辺り、根が素直で丁寧な人みたいね。
「それで、あの…あたし達の事なんですけど…
「噂にされるのも困るから、口外しないで欲しいってんだろ?解ってるよ、この国の王様に目を付けられたくも無いからな。」
あたしが言い淀んでいると、今度は店主が先回りして、あたしの言葉を引き継いで答える。その答えを聞いて、あたしとエイミーは互いに顔を見合わせて、ホッと胸をなで下ろした。
別に、ヤマト王の言いつけを、一から十まで護る気なんてあたしにはさらさら無い。バレて噂になったら、その時はその時だって思ってる。
だけど、事情から話さないといけなくなってしまったとは言っても、関係ない人をこうして巻き込む形になってしまった。これでこの店から噂が広まったなんて箏になったら、その店主や家族にどれだけ迷惑を掛けるか、解ったものじゃ無いからね~
「ありがとうございます。それであの…言いにくいのですが…
「金貨100枚
「えっ…」
その値段に、あたしもエイミーも一瞬で凍り付く。その金額、今日王城で貰った金貨の枚数と同数なんだから、そりゃそうよね。
なんたって、既にMAX100枚無いんだもん!主に服とか服とか服とか買って、既に金貨5枚使っちゃってんだからさ!元々の所持金足したって、全然足んないわよ。
売り物じゃ無いって言われても、いくらわざとじゃ無いって言っても、こうなっちゃったからには、こっちも誠意を見せないといけないわよね…こっちが悪いんだし、値切るなんて出来ないしな~
どうしよう、今から王城行って追加資金貰ってこようかしら?けど、まだ1日も経っていないのに、いきなり金貨100枚使い切ったなんて思われるのもなぁ~う、う~ん…
「…と、言いたい所だが10枚にまけてやる。うちの看板みたいなもんだったからな、その位は吹っ掛けさせろ。」
あたし達が固まっているのを一瞥して、鼻を鳴らしながらぶっきらぼうに店主がそう呟いた。それを聞いて、再びホッと安堵したあたしとは対照的に、怯えながら申し訳なさそうな態度を、エイミーは店主に向ける。
「い、良いんですか?インテリジェンスソードなんて、それこそ伝説級の武器なのに…金貨100枚でも安い位じゃないですか
「フン、金貨100枚以上の価値があっても、実際に使えないんじゃただのモノと変わらんのさ。モノってのはなぁ、使われてナンボなんだよ。このままあそこに飾られていたって、精々が埃の肥やしが関の山だったんだ。だってのに、テメェ等の使われる道をテメェ等で決めたってんなら、その門出を祝ってやるのが、武具屋の主の心意気だろうが
「フフッ、良いですねそういう考え方。好きですよあたし
「フン、小娘がおだてたって、これ以上はまけてやらんからな。」
武器屋の店主の粋な計らいに、思わずあたしは笑みを浮かべながらそう答えた。口は悪いし言い方も汚いけれど、店主のその考え方は、物に対する確かな熱量を感じさせられた。
「だが、そうだな…もしも安過ぎて気になるって言うんなら、1つ条件を着けさせろ
「えぇ、もちろん良いですよ。聞ける範囲で良ければ…ですがね
「それで良い。なに、そんな難しい条件じゃ無いさ。ただ単純に、今後もうちの店を贔屓にしてくれってだけさ。市場に異世界の武具が出回ったりしたら仕入れて置くし、同業が手に入れたりしたら、融通して貰えるようにして置いてやる
「そ、そんな!安くしていただくだけでも申し訳ないのに、そこまでして貰う訳には…」
店主の予想外の申し出に、完全に恐縮しているエイミーが慌てて口を開く。その言葉を遮るように、店主は真剣な表情で顔を横に振った。
「なにもタダでそんな事しようってんじゃねぇ、その都度代金はちゃんと貰って稼がせて貰うさ。それに、邪神の軍勢に対抗する為ってんなら、回り回って俺たち民衆の為って事じゃねぇか。奴等はこの世界に生を受けた俺達の、不倶戴天の敵なんだからな
「それはそうですが…」
それでも尚、申し訳なさそうにして、言い淀んでいる彼女の肩を、あたしはポンと軽く叩いた。
「あたし達の所為で、巻き込んじゃう様で心苦しいですが、そう言って貰えると心強いです。鶴巻優姫と言います。」
今更自己紹介をして、あたしが右手を彼に差し出すと、彼はニヤッと口角をつり上げて自信たっぷりに笑う。
「交渉成立だな。俺はクライムだ、クライム=ウォレンス
「もぉ、優姫ったら…エイミー・スローネです。よろしくお願いします、クライムさん
「エイミー・スローネ?金色の精霊姫か。ハハッ成る程な…」
エイミーの名を聞いた途端、1人で何か納得気味に頷き出すクライムさん。きっとあたしのした説明が、まだ半信半疑だったけど、金色の精霊姫なんて呼ばれてるエイミーが一緒だと解って、8割位は信じてもらえたって、そう言う事なんでしょうね。
「さて、ずいぶん話し込んじまったな。そろそろ店を閉める時間なんだ
「あ、そうなんですか。それじゃ…」
そう呟いて、壁に戻した双剣を手にしようと振り返った所で、あたしの肩にクライムさんの手が乗せられてので、動きを止めて肩越しに振り返った。見ると彼は、どこか寂しげな表情で、あたしの顔を見つめていた。
「もう1つだけ、条件を足して良いか?
「えぇ
「今日だけは、このまま…
「いいですよ。」
彼が最後まで言い終わる前に、あたしは微笑んでそう返した。そのまま床に置いた荷物を取りに向かい、来た時のようにエイミーと一緒に、両手いっぱいに荷物を持って店の入り口向かっていく。
「悪いな。俺がガキの頃から、ずっと其処に在ったんだ…こんなあっさり居なくなっちまう日が来るなんて、想像もしてなかったんだよ
「誰にだって、思い入れのある物の1つや2つ在りますよ。あたしが必要になったら何時でも手元に呼べるんで、その時まで其処に在った方が、きっとその子達も喜ぶでしょうね。クライムさんに大事にされてるって、ちゃんとその子達も解ってるみたいですよ
「ハハッ、そうかい。」
あたしの言葉に、彼は寂しそうに笑って答えた。彼が子供の頃から、その場所に在ったって言う事は、それだけ長い年月を共に過ごしたって言う事だ。
なら、それだけ想い入れも一入って事よね。今まで変わらず其処に在ったのなら、変わらない今までが、きっとこれからも続くと信じて疑わなかったんでしょうね。
なのに、成り行きとはいえ、道具が使われたがってると聞いて、快く送り出そうって言うんだから、本当に粋な人よね。ならせめて、別れの一時ぐらい、無粋な邪魔者はサッサと退散しなくっちゃね。
「行きましょうか
「はい、そいうですね。代金はここに置いておきますね、また来ますクライムさん
「あぁ、いつでも来な。」
最後に短い会話を交わして、一時の別れを彼に告げた後、あたし達はその武具店を後にした。そして、あたし達が何を置いても、まず真っ先にやらないといけない事は…
「お話終わった?お腹空いたよぉ~
「はいはい、解ってますよ~あたし達だってお腹空いてんだから
「フフッ、まだ露店も開いているみたいですし、軽くつまみながら宿に戻りましょうか
「そうね
「わ~い。」
一応空気読んで、話に割り込んでこなかった欠食児童に、ご褒美の食事を振る舞う事でした。ちゃんちゃん




