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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第二章 訪問編
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Re:1から…

 精霊教の教会を後にして、あたし達は城下町にある宿屋へと移動してきた。折角パトロンも出来た事だし、奮発して貴族御用達だって言う宿を選んだんだけど、予想以上の豪華すぎる造りに少し気後れしちゃって、ちょっと後悔しているのは内緒。


 無駄に広い室内に、天蓋付きのキングサイズのベットと、豪華なシャンデリアまであるんだから、一般家庭で育った身としては、目の毒でしか無いわね~これが貧乏性ってヤツかしら?


 そんな豪華な室内には居たたまれなさ過ぎて、バルコニーに設けられたテーブルセットに腰掛けて、そこから夕日に染まる帝都を、なんとなく眺めていた。


「…そう言えば、久しぶりに1人ね。」


 帝都を眺めながら、今更ながらに気が付いた事を呟いた。厳密に言えば1人きりって訳じゃ無いんだけど、はしゃぎ疲れたオヒメは今眠っているので、この呟きに応える人物が居ないと言う点では、この場に居るのはあたしだけで間違ってないわね。


 エイミーはどこ行ったんかって言うと、宿を決めてすぐにこの街のギルドに向かって、シフォン達の行き先について調べに向かっていた。あたし達と別れた後、彼女達は一足先にこの街に立ち寄った筈だからね。


 彼女達の仕事が上手くいっていれば、この街で合流出来る筈なんだけど、そっちはどうなったのかしらね~


 エイミーについて行こうかとも思ったんだけど、オヒメがおねむだったし、1人にもさせておけないからって事で留守番なう。普段ならあたしもおねむになっていそうなんだけど、3日も爆睡していた所為か、全然眠くないのよね~


 だからって訳でも無いけれど、イリナスから受け取った情報を整理しつつ、エイミーの帰りを待ちながら、夕陽に彩られた異世界の街並みを感慨深い物を感じながら眺めていた。思えば遠くへ来たものだって、誰の言葉だったかしらね…


 ガチャ「すみません、今戻りました。」


 不意に扉が開く音が聞こえて振り返ると、少し息を弾ませた様子のエイミーが、扉を開いて這入ってくる姿が見えた。


「お帰りなさい。どうだった?

「それが、シフォン達は今朝方発ったらしいんですよ

「そう、タッチ差だったのね、残念だわ

「えぇ。行き先はギルドの係員に告げてくれていたので、手紙を書いてギルドの方に渡してきました

「そっか、お疲れ様。」


 労いの言葉を口にして、あたしの座るバルコニーのテーブルセットまでやって来るエイミーを、笑顔を浮かべて迎える。


「オヒメちゃんは…まだ寝てるんですね

「えぇ。」


 あたしの側まで来たエイミーが、その場で振り返って、キングベットを1人で占領している小さな人物に視線を向けて微笑む。それをなんとなくあたしも追って、オヒメの居る場所に視線を向けた。


「…あの子が起きたら、夕飯に行きましょうか

「そうですね…それより優姫、私が居ない間に精霊化していましたか?

「あぁ、うん。()()を作るついでに、自分の能力を把握しておこうと思ってね。」


 そう言ってあたしは、テーブルの上に置いておいた兼定のレプリカを手に取って、それをエイミーへと差し出した。


「はい

「私に…ですか?」


 あたしのうなずきを見て、それを訝しがりながら彼女は受け取ると、鞘に収められたままのその刀を不思議そうに見つめる。


「…これ、重さが

「気が付いたみたいね~そうなのよ、重さも変えられるみたいだったからさ、こっちの人用に試しに作ってみたの。どう?

「えぇ…これなら私にも扱えると思います…けど、どうしてこれを私に?」


 その不思議そうな彼女の問いに、自嘲気味に苦笑を浮かべながら、彼女に渡したのとは別の本物の兼定を手にして、その輪郭をなぞるように撫でる。


「イリナスから情報を受け取ってるなら、もう解っていると思うけど…いずれあたしは、この子(九字兼定)に取って代わられる訳だけど、そうなったら例えレプリカだろうと、あたしがこの刀を使う事は出来なくなるからね。」


 それは自分で自分の身体を扱うようなものだからね。いずれ兼定は、この手の内から姿を消すだろう…そうなったらきっと、付喪神としての意識の覚醒が近くなるはず。


 もしかしたら、兼定の覚醒し始めてる意識が、既にあたしに影響を与え始めているのかも知れない。そう思う節は、初めて人を殺めても嫌悪感を感じなかった事や、リンダとの模擬戦時に彼女に向けられた、本気の殺気を前にして冷徹に気持ちを切り替えられた事を考えると、あながち無いとも言いきれないからね。


 まぁ、それはこの際良いのよ。問題なのはそこじゃ無くて…


「兼定の意識が完全に覚醒すると同時に、あたしはあっち(元の世界)に戻されちゃうみたいだからさ。そうなった時、挨拶も出来ずにさよならする可能性だってあるから、今のうちにこっちの世界にひっかき傷を作っておこうと思ってね

「優姫…

「オヒメが眠っててくれて助かったわね。あの子が起きてたら、きっとギャン泣きされてたでしょうから

「フフッ…そうですね。」


 あたしの言葉に、しんみりとした空気が一瞬漂ったのを感じて、すぐさまおどけてそう語りかけると、それを察してくれたエイミーが、少し寂しそうに微笑んだ。


「…貰ってくれる?

「…はい、喜んで

「ありがと

「フフッ、ここでお礼を言うのは、私の方じゃないですか

「クスッ、それもそうね。」


 短く会話を交わして、お互いに笑い合う。


 こんな穏やかなやり取りが、これからあと何回続けられるだろう…そんな、どうしょうも無い考えが不意に頭を過って、それを吐き出すようにため息を吐いてみせる。


 何はともあれ…ようやく、スタートラインに立った気分だわ。


 面倒な事になった…そう思う反面、少しだけワクワクしているのも事実だった。イリナスに言って聞かせた様に、あたしは元の世界での生活に、心から満足してはいなかった。


 家庭環境に不満なんか無かった…むしろ他と比べたら、やたら仲の良い家族関係だと思う位だし、友人と呼べる人だってたくさん居たけど…好敵手(ライバル)と呼べる人は少なかった。


 それが、あたしが向こうで感じていた不満だと、今はちゃんと目を背けずに認めてる。まぁ、異世界に来たからって、その不満がキッチリ解消されるとは限らないけれど。


 けど、その不満を解消出来そうな人物の目星は、ここに来て着ける事が出来たけどね~


「それで、早速で悪いんだけど、皇旺(すめらぎおう)について何か解った?

「あ、はい。」


 エイミーとの談笑を切り上げて、早速あたしは気になっていた人物の事を、彼女に聞いてみた。この世界で皇旺と名乗るその人物は、間違いなくあたしの知る人物と別人なのは間違いない。


 だって、今年の新年の挨拶の時に、今代の皇旺さんの事は総本家で見かけたからね。その日からあたしがこっちの世界に来るまでに、彼がやって来ていたなんて事は考えられないし。


 ヤマト王の口振りだと、こっちの世界じゃ有名な人物みたいだったんだけど、エイミーは名前位しか知らないみたいだったので、ギルドに行くついでに調べておいてって頼んでおいたのよね。その名前を出したヤマト王から聞こうともしたんだけど、ギルドで聞いた方が詳しく解るし、公務があるとか言われてはぐらかされたのよね~


「ギルドに公式記録があったので、それを控えてきました。えっとですね…オウ・スメラギ。今から約80年位前にユズリハ・アマツと共に、この世界に召喚術で召喚されたみたいですね

「アマツ…槍術宗家の天津家の人ね。ならあたしの知ってる皇家縁の人で間違いないみたいね。けど、異世界人召喚術って、禁止されているんじゃなかったの?

「勿論禁止ですよ。発覚したら国際法違反は間違いありません…ですが軍国辺りは、裏では今でも続けていると、もっぱらの噂です

「噂ね…けどイリナスなら真偽も解るんじゃない?」


 そう、イリナスならその真偽を確かめられるはずだった。だって彼女は、この世界にやって来た異世界人の数を、その気になれば正確に把握する事だって出来るんだから。


「多分解っているはずだと思います。ですが、物的証拠も無しに嫌疑を掛けたら、どうやってその事を知ったのかと、探りを入れられてしまいます。何故かは解りませんが、イリナス様は異世界人探知の法を、隠しておきたいご様子ですし…

「フン、火の無いところに煙は立たないって言うし、理由なんてでっち上げちゃえば良いのよ…って、そうもいかないのが、大人の世界か。それにしても、80年前ってずいぶん昔ね…生きていたとしても、ボケちゃってそうよね

「いえ2人ともご存命ですし、今でも活躍されてますよ

「は?」


 その予想外の答えに、あたしは思わず間の抜けた声を出して聞き返していた。


「お2人とも、今は白金階級…女神教の7人の守護者で、『希望のスメラギ』と『正義のユズリハ』と呼ばれているそうです

「はぁ~…こっちの世界の彼ってば、そんな風に呼ばれてるのね

「彼?

「ん?」


 不意に漏れたあたしの言葉に、不思議そうに聞き返した彼女は、そのままあたしが予想さえしていなかった事を口にした。


「お2人とも女性の筈ですよ?

「え…マジ?

「は、はい。何か問題があるんですか?

「問題?…は、無いのかな?無いはずよね…」


 そう呟きながら、あたしは彼女から視線を外して、首を傾げながら考え始めた。


 この世界での皇旺は女性…武神流を知らない人から見たら、一見問題は何も無いように思うけど、関係者のあたしにとっては、その事実は違和感しか無かった。


 あたしの家は分家も分家だから、あまり詳しくは知らないんだけれど…伝え聞いた話だと、皇旺の名前は、男性の継承者にしか名乗る事を許されていない、特別な名前だったはずだ。


 その名前の由来は、古事記にも出てくる神須佐之男命からきていると言われていた。須佐之男命の名前には色々な説があるんだけど、その1つに『スサの王』って言うものがあるそうで、それからあやかって付けられたって教えられた。


 『スサの王』って言うのは、昔の言葉で『凄まじく強い王』って言う意味だったらしい。それを知った初代皇旺は、『我こそ凄まじき王の中の王である』と宣言して、その名前を付けたんだそうだ。


 要するに、世界の中心で馬鹿な事を恥ずかしげも無く叫んだ困った人なのだ。以来、皇家は正当伝承者として認められた男児には、その名を与えるのが習わしになっていて、あたしの知るその人は確か50代目位に成るはずだ。


 だから、その名の由来を知っている人物は…まして女子なら尚更、軽々しくそんな馬鹿げた名前を付けたいとは思わない筈なのよね~名前の重みもあるけど、それ以上に馬鹿な子供みたいじゃない?


 けど、だからってその名を知っている以上、武神流の関係者で間違いないでしょうね。あの天津家の人も一緒だって言うんなら、六芸の使い手でもおかしくない…かな?


「あの…大丈夫ですか?

「あ、うん。ごめんごめん…それで、どんな人達なの?」


 ちょっと深く考え込んでいた所為で、心配そうな表情で、あたしの顔を覗き込んでくるエイミーに気付いて、慌てて笑みを作って取り繕いながら先を促した。


「えぇっと、スメラギさんとユズリハさんは、いつも行動を共にされているようですね。守護者に選ばれた時期も、ほぼ同時のようです

「そう言えば、現役で活動してるんだっけ。こっちの世界の人の寿命が、どんだけ長いのか知らないけど、うちの世界で80才越えって言ったら、ヨボヨボのおばあちゃんだと思うんだけど?

「それは守護者に成って、ラズベル様から授かった加護の所為ですね

「加護…そう言えば精霊王って不滅なんだっけ

「えぇ。デモニア様とラズベル様の眷属の方々は、肉体を持っているのでこの場合『不死』ですが。」


 出たわ、異世界理不尽クオリティー。でもちょっと待ってよ?


「…不死なら、代替わりする事なんて無くない?」


 なんて、率直に思った事が口をついたけど、すぐにその疑問の答えに自分で気がついた。不死の対処法なんて、それこそファンタジー物にはよくある話だけど、そう言えばいくらでも対処法があるんだったわね。


 それに、確か同じくクロノスから加護を受けていた、世界の守護者だったフェンリルが、ついこの間倒されたばかりだったわね。


 あたしのその疑問に、エイミーも困り顔で苦笑を浮かべて、どう説明しようか考えあぐねいている様子だった。


「その…言いにくいんですが、不死・不滅と言っても完璧ではないのですよ。色々対処法もあって…

「良い。自分で思いついたから大丈夫。これからご飯食べに行こうって言うのに、する様な話題じゃ無かったわね…」


 そう言いながら、自分で考えついた行為について、頭を振って追い払ってため息を吐いた。


「…話を戻すけど、その人達の特徴とか何かわかった?

「え?う~ん…そうですね。スメラギさんは背の凄く低い女性で、その事を気にしているらしいって言う事と、逆にユズリハさんは背が高いって事位でしょうか

「背が低い女性ね…そう言えば、イリナスの護衛の精霊も、背が低かったわよね。なのにサイズの合って無さそうな甲冑着てたから、正直笑いそうになっちゃったわよ

「フフッ、確かにそうでしたね。でも、あの方は精霊ではありませんよ

「そうなの?

「えぇ、精霊特有の気配も感じませんでしたし、イリナス様から生まれた精霊は、精霊王達だけの筈です」ガタッ!


 なんとなく思い出した人物を話題に出して、自分の勘違いに気が付く。そして、それをきっかけに、ふと思いついた考えに、思わずあたしは席を立って悔しげに表情を歪めた。


「ど、どうしました?

「やられた…

「え?

「あの甲冑の中身よ!あの中に、皇旺が居たのよ!!

「そ、そんなまさか…

「まず間違いないわ…あのタイミングで、ヤマト王が皇旺の名前を出したのがずっと引っかかってたのよ。おまけに、自分から持ち出した話題なのに、公務だ何だって言ってはぐらかしたのも気になってたのよね。チッ、あの狸親父…」


 苛立ちを隠しもしないで、舌打ち混じりに悪態を吐いて見せた後、ため息と一緒に苛つく気持ちを吐き出しながら、再び席に座って頬杖をつきながら、視線を夕暮れに染まる街並みへと向ける。


 そんなあたしの頭を、苦笑交じりにエイミーが何度も優しくなで上げて、苛立つあたしの心を静めようとする。


「フフッ、優姫がそんなに悔しがる姿、初めてですね。貴女でも悔しがる事があるんですね…

「当たり前よ、あたしをなんだと思ってるのよ…その辺に居る小娘と、そう大差ないんだからね?

「フフッ…」


 そう悪態をつくあたしの姿に、何か思うところでもあったのか、それから彼女はずっとあたしの頭を、ニコニコしながらなで続けた。その姿を横目で眺めつつ、徐々に毒気が抜けていくのが自分でも解った。


 そのまま暫く、彼女のされるがままに過ごしていると、夕暮れに染まっていた街並みは夜の帳が下りて、そこかしこの家々から生活の光が灯された。その夜景はとても綺麗で、ロマンチックだったからつい…


「…ちゃんと契約しましょうか。」


 不意に漏れた言葉に、それまであたしの頭を撫で続けていた彼女の手が、一際大きくビクリと跳ねる。今エイミーがどんな表情をしているのか、確認するのがなんだか怖かったあたしは、視線は街並みに向けたままに、だけど離れていく彼女の手を追って無意識に掴んでいた。


「優姫、それは…

「もちろん個人契約よ。嫌かしら?

「嫌…じゃないです。けど…ずるいです、そんな言い方。」


 そして再び訪れた静寂。


 ルージュから聞かされて、精霊と契約者の間で取り交わされる、特別な契約だって言う事は、ちゃんと理解している。エイミーの様子を見た上で、彼女はきっと他の(精霊)かと、元々契約を結んでいたんだろう事と、あくまでも予想だけど、その精霊とあまり良くない解約をしたんだろう事を、ちゃんと理解した上で。


 それでも、彼女と契約を結ぶべきだと、兼定のレプリカを造りながら、あたしはそう考えていた。


「あたしが居なくなっても、あたしの変わりにこの子達が、きっと貴女と貴女の仲間達を護ってみせる…これはその為の契約よ

「優姫…」


 そう告げてあたしは、意を決して立ち上がって、意を決して振り返った。その先に見た彼女の表情は…


「泣かないでよ、エイミー。」


 彼女は、困ったような表情をして、目尻に溢れそうな涙を必死に堪えた様子で立っていた。その姿を見て、苦笑を浮かべながらそう語りかけ、空いた方の手でその涙を拭ってあげる。


「だって、無理言わないでください…まるで、これでお別れだみたいな言い方されたら…

「アッハハッ、ま~ね。けど実際、明日も知れないのも事実だからさ

「そうやって貴女は、泣きそうな顔をして笑うんですね…

「あたしだって泣く時は泣くわよ。けど…」


 そこで言葉を切ったあたしは、自分のおでこをエイミーのおでこにコツンとぶつける。


「泣き虫ちゃんが先に泣いちゃうんだもの。ありがとね、あたしの分まで泣いてくれて…」


 そして聞こえてくる静かな嗚咽。


 あたしだって、これだけ仲良くなった人との別れは寂しい。その別れが、何時突然訪れるかも解らない上、お別れさえ言えないかも知れないって言うんだから、寂しいを通り越して怖くさえある。


 本当に勝手な話だ。勝手に呼び出されて、こき使われたあげく、用が済んだら『はい、さようなら』だって言うんだから。


 けど、この世界に来て出会った彼女の為に…彼女の仲間達と、あたしを母と慕う姫華の未来の為に。それだけの為に、神様の走狗にだってなってやろうじゃ無いのよ。


 本当に、あたしの思っていた異世界物とは違うわね…全く、全ての元凶のクロノスに会う事があったら、その尻を蹴っ飛ばしてやる位、許されるわよねきっと。


 もしも、あたしにそれが出来い様だったら、その時は…あんたにその役を任せるわね、兼定。


「…解りました。」


 どれだけどうしていただろう。不意にエイミーがそう呟くのを聞いて、合わせていたおでこを離してお互い見つめ合う。


 どうやら彼女も、個人契約をする事に納得してくれたようだけど、何故かすぐにまた困った表情を浮かべる。


「どうしたの?

「いえその…イリナス様より精霊名をいただいていない状態なので、その状態で契約出来るのかと思いまして…

「優姫のままじゃ駄目なの?

「それだと、精霊名としての優姫の名称が、優姫・オリジンになって、オヒメちゃんの正式名称が、姫華・優姫って成っちゃいますよ?

「あ~…それは流石に酷いわね。」


 さっきまでの、まるで恋人同士の様な雰囲気はどこへやら、そんな調子で会話を続ける。まぁ、これがあたし達らしくて、ちょうど良いんだけどね~


 しっかし名前か~イリナスにつけて貰うのも、なんだか癪に障って嫌だし、ここは自分で付けちゃおうかしら?


 真っ先に思いかんだのは、よくアプリゲーとかで使い回しているキャラネなんだけど、それだと安直過ぎだしなぁ~そもそも、あたしだけの名前って訳でも無いんだし。


 あれやこれやと考えつつ、なんとなく九字兼定に視線を向けて、その銘が自分の名前と似通っている事に思い至った。


「優姫…戦鬼…『戦姫』と言えば、ヴァルキリーかしら

「ヴァルキリー…ですか?どう言う意味なんです?」


 その言葉を聞いて、一応この世界にその名を名乗る有名人がいない事に、内心ほっと安堵した。だって、フェンリルが居るんだったら、同じ北欧神話の登場人物が、居たって全然おかしくないからね~


「あたしの世界にある神話に出てくる、戦場を駆ける女神様だったかしら?

「女神様の呼び名を拝借するんですか?ずいぶん大胆な事をしますね…

「ま、うちの世界じゃ、許可をもらいたくっても、ご本人は降臨されていないしね~それに

「それに?」


 不思議そうに聞き返してくるエイミーに、あたしは意地の悪い笑みを浮かべて…


「あたしの世界じゃ、こういうのは名乗った者勝ちなのよ

「クスクスッ、優姫らしいですね。」


 あたしの言葉に、おかしそうに微笑むエイミーを見て、つられてあたしも吹き出して笑う。あながち、この世界で皇旺と名乗り始めた女性も、そう考えていたのかも知れない、なんて思いながら。


「…では、改めて。剣の精霊ヴァルキリー・オリジン様、私と契約を結んでいただけますか?

「えぇ、もちろん喜んで。」


 彼女の仕切り直しの言葉に、あたしは力強くそう答えた後、1歩下がって兼定を抜き放ち精霊化する。


 そしてようやく、ここからあたし達の物語は始まった。

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