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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第二章 訪問編
61/398

以降の難易度は追加コンテンツ(5)

『茶番はお終いですか?』


 急に室内が全体が、小刻みに震えたかの様な揺れと同時に、なんて言えば良いのかしら…声に成っていない音の振動が、身体に当たって声に聞こえたと言えば良いのかしら?


 大きなスピーカーから、重低音の音が全身に当たった時の、お腹の底から響く様なそんな音の声が、突然響き渡った。それと同時に、あたしの正面…さっきまでTHE貴族が座っていた椅子に、徐々に姿を現していく人影があった。


「お時間を取らせてしまい、申し訳ありませんでした、イリナス様…

「い、イリナス様?!」


 人影が女性の姿としてハッキリ形作られると、その彼女に向かって一国の王が、その名を口にして頭を下げ、その名を聞いて、慌ててエイミーも頭を下げる。オヒメはと言えば、突然のイリナスの登場に驚いたのか、慌てた様子であたしの長着の胸元から中に這入ってしまった。


 そんな3人をよそに、ある程度こうなるだろう事を予想していたあたしは、目の前に出現した女性を、さっきと変わらない姿勢と表情のまま、挨拶もせずに観察していく。


 そう…彼女がイリナス・オリジン。この世界の女神様で、あたしをこの世界に召喚した張本人なのね。


 正直、あたしがイメージしていた女神とは、真逆の存在だった。うん千年前に降臨した女神にしては、幼いと言うか貫禄が無いと言うか…


 彼女は、白というよりかは灰色に近い色合いのショートヘアーの髪に、透き通る様な白い肌をした小柄な少女だった。ぱっちりとしたその瞳は碧く、小ぶりな鼻とちょっと肉厚なのが印象的な、口紅を引いたように艶のある唇が、彼女の幼さを更に強調している風に見えた。


 身に付けている服は、彼女のその白さを更に強調するように、白を基調に金銀の細かい細工が施された、豪華なドレスを纏っているのに、服以外の装飾品の類いは一切無かった。多分、清廉潔白さをイメージして、それを全面に押し出したいんだろうけれど、ハッキリ言ってやり過ぎている感じしかしないのよね~


 そしてもう1人、彼女と一緒に現れた人物へと視線を向ける。その人物は、イリナスの背後に気配を消して立っていた。


 その背は低く、多分145センチちょっとと低く、恐らく女性…性別が見た目で解らない理由は単純で、外見が確認出来ないからだった。


 イリナスの眷属で、その護衛なんでしょうね~その全身はフルプレートの鎧で覆われ、その手に身の丈から考えても、あまりに不釣り合いな槍を所持している。


 この建物の入り口に居た衛兵とは鎧の作りが違うし、槍は量産品じゃ無く重厚でいて細かな細工も施された、銘が付いていてもおかしくないような造りをしている事からも、明らかに彼女専属の護衛だと解る。


 女性だと思った理由は、単純にその小さな身長と感じた気配の所為ね。あと、イリナスの眷属なら、その護衛もきっと精霊だろうからね~女性の姿の精霊しか居ないって話だし。


 だけど強い。正直、ちぐはぐな格好をしていて、全然弱そうに見えるけれど、相手を見た目で判断するのは愚の骨頂だしね。


 あたしも相手の力量を見誤ることもまだまだあるけど、それなりに見る目はある方だと思っている。そのあたしが、実力が全く計り知れないんだから、勝てる見込みなんてないと言って良いと思う。


 そんな風に、突如現れた2人の存在を値踏みするような視線を向けるあたしに対して、嫌な顔所か柔らかい笑顔を浮かべて見返してくるイリナス。護衛の方は、顔が見えないから解らん。


『ようやくお会い出来ましたね』


 そして再び、部屋全体が震えるような、振動の音が骨身に響く感覚。それにあたしは、眉間に皺を寄せて、あからさまに難色を示した。


「それがあなたの素の喋り方なの?悪いんだけど、口でしゃべっ…んぐっ?!

「ゆ、優姫~…お願いですから、それ以上無礼な事を言わないでください!!」


 あたしが口を開いて喋り始めると、いきなり物理的な方法でエイミーに口を塞がれてしまった。なにすんのよと、視線を動かして肩越しに見やると、今にも泣きそうな表情で困り果てている彼女と眼が合った。


 う~ん、さすがにエイミーの肝っ玉に掛かる負担を、考えなさすぎる言動だったかしら?こっちの人から見たら、あたしの行動って偉い人に馬鹿みたいに突っかかってる、チンピラみたいなもんだからね。


 そりゃ、彼女みたいな真面目な人にとっては、いくら交渉の為とは言っても、自分の連れが明らかに身分の高い人物に、不遜な態度ばっか取ってれば肝も冷えっぱなしに成って、こういう行動に出るのも仕方ないわよね。


 って言うか、地味に鼻まで押さえてるんだけど…ちょwおまwwww


「すいません、すいません!彼女悪気は無いんです。」


 あたしに変わって、あたしの無礼な態度を謝罪するエイミー。そんな彼女の腕をタップして、外すように要求するけど、その行為の意味が判らないのか、或いは口を解放したら、またあたしが無礼な台詞を口にするとでも思っているのか、彼女があたしの口を解放する事は無かった。


 まぁ、多分両方だとは思うけどね~とりあえず、鼻だけでも解放してください、息出来ね~ッス。


 力ずくで退けるなんて、造作も無いんだけどね~出来ればそれはしたくないのよ。異世界人とこの世界の住人とじゃ、身体能力に大きな差があるんだから。


 だからこそ、力加減を間違えると、骨折くらい簡単に起こしてしまいそうで怖いのよね。正直、気に入った相手に対するスキンシップ過多なあたしにとって、この世界に来て1番の脅威って、そう言った力加減だったりするのよね。


 だからお願い!早く気付いてエイミー!!その綺麗なお手々を、あたしがベロベロなめ回す前に!!


 ひくわ~いくら呼吸する為とは言っても、口を塞ぐ手の平をベロベロなめ回すなんて、流石のあたしでもマジひくわ~


『気にしていませんよ。』


 と、そんなあたし達のやり取りを、楽しそうにクスクス笑いながら見つめていたイリナスが、やはり口を開かずに語りかけてきた。ただし今度は、空間を振動させる会話じゃなく、頭の中に直接聞こえてきた。


『すみませんね。精霊界以外で口を使うと、無意識に空間干渉を起こしてしまうのですよ。』

「プハッ!はぁ…ちゃんとした理由があるんじゃ仕方ないわね。まぁ、テレパシー?も変な感じだけど、さっきのだと耳がきぃーんとして嫌だったのよね

「ゆ、優姫!」


 頭に直接語りかけながら、自嘲してみせるイリナスに対し、ようやく口を解放されたあたしが、懲りずにぶっきらぼうな口調で語りかける。それをまた咎めようと、エイミーが口を開くけれど、それを手で制して止めさせる。


 エイミーには悪いんだけれど、今は堪えて貰いたかった。あたしの雰囲気が彼女に伝わったのか、彼女もそれ以上何も言わなかった。


 イリナス・オリジン、この世界の実在する女神にして、あたしをこの世界に召喚した張本人。彼女に対して、言いたい事や聞きたい事がたくさんある。


 でも、そんな事がどれもこれもどうでも良いと感じる位、ただ1つ…たった1つの事柄が、あたしにはどうしても許せなかった。


「あなた…解った上で、あたしをエイミーに召喚させたわね?今すぐ、彼女との間のパスを切りなさい。」


 この世界の神を静かに睨み付け、殺気さえも感じさせる視線で、静かにそう告げる。その一言で、あたしが何を言いたのか理解したんだろう、エイミーは口を閉ざし、イリナスも笑みを消して真顔で押し黙る。


 あたしが怒っている理由はただ1つ。この世界で最初に出会ったエイミーが、()()()()()()()()()()()()()()()()みたいな扱いを、よりにもよって()()()()()()()()()に、なんの断りも無くさせられていると言う事だ。


 あたしは、この世界に精霊として召喚された…それは良い。正確には、精霊として召喚されたのは、あたしの実家に代々伝わっていた九字兼定で、あたしはその使い手に過ぎない…これもこの際どうでも良い。


 あたしに精霊としての力を付けさせて、恐らくは邪神の一派と闘わせたいと考えている…これもまぁ良いだろう。それ以外にも、色々と利用したい思惑がある…今この瞬間は目をつぶろうじゃない。


 けれど、()()()()()()()()。いくらあたしに、魔力ってのを扱う術が無い上に、精霊の権能を十分に振るえるだけの量が無いからって、エイミーを燃料タンクにしたのよ。


 それが、どれだけ危険な行為かって言うことは、イフリータとの試練の時に目の当たりにしていた。あそこで勝負を決めにいかないで、更にずるずる長引かせていたら、あの時の彼女の様子を見る限りだと、それこそ命の危険だってあった筈よ。


 そんな危険な役目を、自分の信者だからって理由で、なんの断りも無くやらせたのよ。それじゃまるで、さっき退出していった、さも相手がひれ伏すのが当然とでも考えていたような、その身に付いた贅肉の分だけ、魂に贅肉の着いたあの王族の男とどっこいよ。


 『あなたは、人柱として選ばれました。光栄に思いなさい』とでも考えているのかしら?だったら、『巫山戯るな!』よ。


 信心深くないあたしにとって、地球に神様ってのが居るかどうかは知らないけれど、うちの『何もしない事が等しく全ての人々にとって平等』の神様よりも、よっぽど質が悪いわ。それがこの世界の神様のやり方だって言うのなら、その時は…


 十中八九、あたしが何か事を起こそうとしても、イリナスの背後に控える護衛によって、結局何も出来ないと直感で悟っている。けれど、それでも示さないといけない態度だってあるわ。


 あたしは、尊厳を軽んじる相手に頭を垂れるつもりは無い。それでも、相手が無理矢理頭を地に着かせようとするのなら、勝てない相手に挑んで殺される方がまだマシよ。


『…何を置いても、まずその件ですか。もっと罵られると思っていたのですが…』

「罵って、解決するならいくらでもしてあげるわよ。口汚くわめき散らしたって、満足するのはあたしとあなただけよ。」


 と、イリナスのテレパシーに対して、怒気を押さえ込みながらそう呟く。そして、右手の人差し指をテーブルの上に突き立てて、トントンと数度叩く仕草を見せた。


「けれど、()()()()()()…あなたを信仰する者を、利用して道具にした。完全にエイミーを裏切る行為よ。だと言うのに、()()()()()()()()()()()…で?そんな人物が、あたしに何の用かしら?

「優姫…」


 例え神であろうと、手を出した所で、まるで赤子を相手にするかのように、簡単に制圧されてしまう相手が控えて居ようと、決して物怖じするつもりも無く、ここに来た一番重要な要件を静かに口にした。あたしだけの問題だったのなら、感情にまかせて、言いたい事を言ってしまえば、それでスッキリしただろう。


 相手がもし、罪悪感を感じるような人物なら、口汚く罵倒されていれば、きっとその罪悪感も多少薄れただろうし、逆に見下すような人物なら、滑稽だと思われ鼻で笑われてお終いだっただろう。あたしとイリナスの問題だったのなら、むしろそれで良かった。


 けれどそうじゃ無い。もう1人この問題に関与している人物がいる。


 しかもその人物は、状況を考えればあたし以上の被害者なのよ。自分が崇める対象に利用され、あたしみたいな厄介者を押し付けられた上、自分の力は封印されている。


 だって言うのに、自分の心配よりもあたしの心配ばかりして、この期に及んで自分を利用した人物を、様付けで呼んだ上に敬意さえ示している。そんな彼女を、ないがしろにして良い訳が無いし、あたしがそれをさせはしない。


『…勿論、謝罪して済むなどと思っていませんよ。』


 暫くの沈黙の後…まぁテレパシーだから結局は沈黙したまんまなんだけど、誰もが固唾をのんで見守る中、イリナスがそうテレパシーで語りかけてきた後、視線をあたしの横に立つエイミーへと移す。


『思っては居ませんが、まずは謝罪をさせてください。大変申し訳ありませんでした…』


 そうテレパシーで語りかけて、座ったままとは言っても、この世界の神がたった1人の個人に対して、深々と頭を下げて見せた。


「イ、イリナス様?!

「なんと…」


 それを見て驚いたのは、当然だけれどその場に居合わせた他の面々達だ。この国の国王は、女神のその姿に絶句して言葉を失っていた。


 一方、慌てた様子で近付こうとするエイミーの腕を、あたしは掴んで制止させると、そのままの表情で、何度かあたしとイリナスを順に見返す。まぁ、この世界の住人にとっては、それが正しい反応なんでしょうね~


 意外だったのはイリナスと共に現れた、彼女の護衛の反応だった。一応彼女と仮定するけど、イリナスが深々と頭を下げたって言うのに、ピクリとさえ動かなかったからね。


 いや、う~ん…まさか、中身入って無いとかじゃないわよね?気配あるし。あたしを警戒してるって風でも無いのよね~


 正直癪だけれども、あたしの事なんて眼中に無いと思われていても仕方ない。それ位の実力差が、きっとあたし達の間には存在している筈だ。


「あ、頭をお上げくださいイリナス様!もう十分でございます

「良いのよエイミー。この程度じゃ、あたしの溜飲はまだ下がらないんだから

「ゆ、優姫もそんな事言わないでください…」


 全く頭を上げない女神の姿に、いよいよ居たたまれなくなったエイミーが声を上げる。それを冷ややかな視線で、女神を見据えたままのあたしが、冷たくそう言い放つと、彼女は泣きそうな表情であたしに訴えかけてくる。


 う~ん、これ端から見たらどっちが悪者か解らないわね~まぁ、あたしは気にしないけど。


『彼女の言うとおりです、エイミー・スローネ。(わたし)はそれだけの事を、我が子にしてしまったと自覚しております。』

「イリナス様…」


 そうテレパシーで告げて、ようやく顔を上げたイリナスの表情は、作り物じゃ無い心からの謝罪の念が感じられた。それを見て、ようやくあたしも少しだけ溜飲が下がった気分になった。


 ま、でもまだまだ許さんけどね。謝罪して済む位なら、警察なんていらんのですよ。


『謝罪の言葉を口にして頭を下げた所で、誠意を示せたとも思っていません。ですので…』


 そう語りかけてくると同時に、イリナスがエイミーに向かって手を差し出した。その手に青白く柔らかな光が集まり始め、それが一定の大きさに成ると彼女の手から離れて、空中を漂うようにエイミーの元へと向かっていく。


『我が加護を貴女に…』


 そしてその光がエイミーに届くと、その身体全体を青白く柔らかな光が包み込んだ。


『そして、貴女が望むのなら、(わたし)との精霊契約を結ぼうと考えております。』

「…えぇ!!

「なっ?!」


 そのイリナスの思いがけなかった語りかけに、一瞬間を置いた後にエイミーは驚きに声を上げ、事の成り行きを見守っていた国王さえも、明らかに狼狽えている様子だった。


「イ、イリナス様?!そのような事成りませんぞ!どうかお考え直しを!!

「そ、そうです!私の身に余る光栄な申し出でございますが、それをお受けする訳にはいきません!!」


 縋るようにイリナスを説得し始めた王様と、それに同意して慌てた様子で語るエイミー。彼女のその勢いから、あたしが腕掴んでなかったら、下手したら土下座しそうな勢いだった。


 まぁ、2人が慌てるのも無理ないわよね~精霊の始祖たる女神が、個人契約じゃ無いとは言っても、精霊契約するなんて前代未聞でしょうから。


 きっと、今まで誰とも契約した事が無いだろう女神が、個人の命令の下に召喚に応じるように成るなんて、不敬罪所の騒ぎじゃ無いでしょうね。もしもこの場に、精霊教の大司教でも居合わせていたら、今のやり取りだけでエイミーの身の危険だってあったはずだ。


 それだけの問題発言なんだから、撤回させようと周りが必死に成るのも解る。けれど、そんな慌てた2人とは対照的に、イリナスの表情は至って真面目なままで、その発言が本心だという事が感じられた。


 その表情を見て、ひとまずは満足したあたしは、ため息を吐いて表情を和らげた。まぁ、落とし処としては、この辺りが妥当でしょうね~


「そんな難しく考えなくても良いじゃ無い?本人が良いって言ってんだし、バレなきゃ平気よ。」

「「そういう訳にはいきません!!(いかんだろう!!)」」


 表情を和らげると同時に、ヘラッと軽薄な笑みを浮かべて、いつもの調子で軽口を告げると、キッと2人に睨まれステレオ音声で怒られました。ですよね~サーセン。

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