以降の難易度は追加コンテンツ(3)
と、そんなやり取りを経て、まるでビデオの逆再生を見ているかの様に、消えた場所に再びルージュが姿を現した。それに気が付くと同時、おふざけパートはそこでお終いと気持ちを切り替えて、あたしは身体ごと彼女に向き直った。
「すみません、お待たせ致しました
「ううん、全然。私事なのに、ありがとうね。それで、どうだったのかしら?」
彼女の言葉に対して、あたしがそう言ってお礼を述べた後、早速そう問い掛ける。するとルージュは、その問いに対する答えとばかりに、眉間に皺を寄せて首を横に振ったのだった。
「…そう。駄目だったの
「余計な期待をさせてしまい、申し訳ありませんでした。イフリータ様からは、お2人を帝国まで護衛した時点で、サービスはお終いだ。と、言われてしまいました。エイミー殿たっての願いともお伝えしたのですが…
「…ん?なんでそこでエイミーの名前を出したの?」
彼女の顔色から、良くない返事なんだろう事は、簡単に想像出来たから、それについては別に良いんだけど、エイミーの事をわざわざ推して、イフリータと交渉したかの様なその口振りに、あたしは真っ先に疑問を覚えた。
そう言えば、あたしが気を失っている間の事を聞いた時も、なんかエイミーがイフリータの事を圧してた様な、言い負かしてた感じに聞こえてたのよね~
「あぁ、それはですね、エイミー殿が精霊の寵愛を受けているからなんですよ
「えっ?!
「え?」
あたしの疑問から出た質問に、ルージュがそんな風に答えて、真っ先にエイミーが驚きの声を上げて、それに驚いたあたしが声を上げた。いやエイミーたん、なんであなたがそんなに驚いてるん?
「…ご本人が、こんな調子で無自覚の様なのですけれど…」
そんなエイミーの姿を、苦笑しながらルージュが見つめ、説明する為に口を開いたので、あたしもそれを聞く為に、彼女に視線を移した。
「本来、精霊使いを目指す方々は、契約出来る数が大体2~3体位なのですよ。誰が相手だろうと、契約や加護を与えてしまう精霊王や、元々自分の産まれの種族以外と、決して契約したがらない精霊王もいますが、基本的には同種族から昇華した精霊王と、種族的相性だったりよほど個人との波長が良かったりしないと、複数の精霊王との契約は難しいのです
「と言う事は、エイミーって確か…
「えぇ、雷の精霊王、トール様以外の6種と契約を結んでいますからね。エイミー殿以外に、これ程の数の精霊王と契約を結んでいる方は、彼女以外居ないはずですよ。」
そう語るルージュから、視線をエイミーへと移したんだけど、どうやらまだ寝耳に水状態の様だった。だから、なんでそんな驚いてるん?
「…その雷の精霊って言うのが、身内としか契約しない精霊って事?
「はい。そして優姫さんと同じく、精霊種以外で精霊王になられた方でもあります
「へぇ。」
とりあえず、一旦エイミーの事は置いといて、気になった点について聞いてみた所、思わぬ新事実が発覚した。あたし以外にも、前例が居るって言うのは、結構安心出来る事柄だからね~
精霊の力を使うと、前向きに決めたとは言っても、エイミーが心配するから表には出さないけれど、これでも一応は不安がっているのよ。さっきも述べた力の使い方はもちろんだけれど、それ以上にあたしの身体の健康面に関しての不安が大きい。
当たり前だけれど、元々普通に生活していたただの人間が、意味不明の巨大な力を与えられた。それはラノベでもよく聞く展開だけれども、その力が大きすぎて、身体が耐えられなくなって、壊れちゃうなんて言うのもよくある展開だからね。
そこまでいかないとしても、精霊の力を使い続ける上で、身体にどんな影響や変化が出るか、そう考えてしまうのは当たり前だし、解らないからって見て見ぬままになんて、出来る事でもないからね~そう言った点で言えば、前例があるって言うのは、ほんのちょっぴりだけれども救いを感じる事だわ。
まぁ、だからって楽観出来ないんだけどね。それについては、この後女神様ってのに会って、直接聞けば良いか。
「…ま、とにかく残念だけど仕方ないわね
「すみません。個人契約を結ぶのであれば、構わないと言われたんですが…」
そう言って、ルージュはエイミーへと視線を移した。その視線に気が付いて、ようやく我に返った彼女が、何故か複雑な表情を浮かべる。
「その個人契約って?
「…精霊術には、大きく分けて2種類あるんです。1つは、最高位精霊の精霊王と契約して、その力の一部を呼び出す術。そしてもう一つが、最高位以下の中位精霊から高位精霊と個人的に契約を結び、力の一部では無く本人を呼び出すという術です
「個人契約では、本人を呼び出すと言う事なので、私の様な成り立ての高位精霊でも、精霊王の力の一部を呼び出すよりも、強い力を発揮する事が出来ます。その上、召喚の際の魔力量も余り変わりませんし、召還し続ける為の魔力は必要ないので、効率が良いと言う事もあって、精霊術士はもっぱら個人契約を結びたがる物なのですよ。」
あたしの質問に、言いずらそうにまずはエイミーが、そしてその補足をする様にルージュが続ける。話を聞くだけなら、メリットの方が多そうなんだけれど、エイミーの表情を見る限りだと、そう簡単な事でも無いんでしょうね。
「しかし当然ですが、誰でも簡単に高位精霊と契約が出来る訳ではありません。当然ですが、術者の実力を示すだけで無く、信用に足りるか見極めねば、こちらとしても軽々しく契約は出来ませんから。その点で言うと、エイミー殿は実力も申し分ないのですが…
「なんだ。ならメリットも多いみたいだし、ルージュさんと契約したら?」
そう言ったあたしの言葉に、今度はルージュが困った表情を浮かべて、あたしとエイミーを交互に見つめる。
ん?なんぞ??あたしそんな変な事言ったかしら?
「その…個人契約は精霊王との契約とは違い、重複契約が出来ないのですよ。解除するにも手間が掛かるので、気軽に出来る物でも在りませんし…
「あ…そうなんだ。ごめんなさい、軽々しく言う事じゃなかったわね
「いえ…」
次いで聞かされた説明に、あたしは彼女の真意を察して素直に謝る。要するに、彼女はあたしに対してこう告げたかったのだ…『貴女を差し置いて、自分がエイミーと契約してしまって、本当に構わないのか』って。
話を聞く限りだけど、術者と精霊との個人契約って、よほど神聖な物なんでしょうね~重複は認められず、解除するにも手間が掛かるって言うんだったら、お互いに信頼し合える確信でも無い限り、そりゃ軽々しく気軽に出来ないわよね。
それなら、彼女があたし達に気を遣うのも納得よね~イフリータの眷属なら、あの時あたしがエイミーに告げた、告白まがいの台詞だって聞いてた筈なんだから。
ただ単純に思ったんだけれど、精霊術の個人契約って言うのは、まるで婚姻の様な儀式なのかもね。他に替えのきかない、唯一無二の契約者なんて、まんま人生のパートナーみたいなものじゃない?
なんて、自分でも恥ずかしいなって思う様な事を考えるくらいには、あたしだって乙女なんですのよ?少しはあたしの見方も変わったかしら?え、変わらない…デスヨネー
「…優姫の今後の為なら…」
ふと、口を開いたエイミーの肩を叩いて、それ以上の台詞を遮らせる。気持ちはありがたいけれど、そんな思い詰めた表情してたら、ただでさえ気を遣わせてるルージュに対して、失礼極まりないってのに、ほんとこの子は…
「…ありがとうルージュさん。まぁ、自分でどうにかしてみるわ
「そうですか。もし何か聞きたい事があれば、カザンウェル山で私の事を呼んでください。そこでなら、いくら話し込んでも、イフリータ様も咎めないでしょうから
「そうね。その時はお願いするわね…けど、あそこ熱いからね~。」
そう告げてあたしは、茶目っ気たっぷりに舌を出して笑って、ウィンクをして見せた。
「ハハッ、それではまたお目にかかりましょう。」
そしてルージュは、あたし達に微笑みを向けながらそう言って、再び姿を消したのだった。
「…ルージュ…」
暫く、消えた彼女をそのまま見送っていると、寂しそうにその名を呟いて、あたしの肩に元気なく座り込んでしまうオヒメ。その姿に苦笑しながら、その頭をそっと指の腹で撫でる。
「…あの、良かったんですか?ルージュさんに、その…」
そして一瞬間を置いて、あたしに向かってエイミーが呟きながら言い淀む。その姿を視線を向けて確認し、彼女に対しても苦笑を向けた。
「そんな顔して何言ってんだか…別に良いのよ。だからあなたも、そんな気にしないでよね。」
あたしがそう告げると、彼女は本当に申し訳なさそうにして、頭を下げたのだった。その姿から、もしかしたらエイミーは、過去に個人契約で精霊と何かあったんじゃ無いかって、余計な勘ぐりをしてしまう。
さっきルージュが言っていた様に、精霊術士なら個人契約を結びたがるって言うなら、当然その考えはエイミーだって同じだと思う。なのに、さっきの会話の流れからすると、エイミーは現在個人契約を結んで居る相手は、きっと居ないはずなのよね。
今まで個人契約を結んだ事が無い可能性も考えられるけど、さっきのエイミーの様子を見る限りだと、恐らく居たんでしょうね。まぁそれ自体は、彼女は1000年以上生きているエルフなんだから、別に不思議でも何でも無いのよね。
問題は、今の時点でその相手が居ないと言う事実。面倒と言うだけで、契約解除の方法もあるんだから、普通に別れたとも考えられるんだけれど…そうじゃ無いとしたら?
各属性の精霊王達には、不滅の加護が女神イリナスから与えられるそうだ。じゃぁ、精霊王以下の下位から高位の精霊達はどうだろう?
少なくともこの世界は、あたしが元居た世界よりもずっと剣呑で、おまけに明確な人類の敵が存在していて、長い間それらとの戦いが続いている…それなら、円満な契約解除以外の契約解消方法だって、きっと存在するのよね。
まぁそもそも、人生のパートナーと言っても過言じゃ無い様な契約を、解除するって時点で既に円満な筈無いんだけどね~これも、オタクの性ってヤツかしらね?妄想力ばっかり鍛えられちゃって、考え過ぎちゃうのよね。
そう自分の中で結論付けて、一瞬よぎった嫌な考えを追い払う。こればっかりは、ただの考え過ぎだと思いたい。
「…さて。忘れてないから、そんなどうしたら良いかわかんないって顔しないでくれます?マティスさん
「あ、覚えておいででしたか。」
気持ちを切り替えて、若干背景と同化しかかっていた、執事服の男性に振り返って声を掛ける。彼は、あたしの言葉通り困った表情で、ただただ根気強くあたし達のやり取りを見守っていた。
まぁ、意図して無視していた訳じゃ無いけれど、結果的に無視していた彼は、だけど別段怒った様子も無く、こっちから声を掛けるとニッコリと営業スマイルを浮かべて、言葉を返してくる。
まぁその言葉からは、剣山が可愛く見えるくらいの、トゲが見え隠れしているから、表情に出してないだけってのはすぐ解ったけどね。とりあえずサーセンっと。
「では、ご案内致します。」
ふと、営業スマイルを消して、マティスが恭しく一礼して歩き出す。向かう先は勿論、あの精霊教の支部教会だ。
あたしとエイミーも、顔を引き締め意を決し、うなずき合ってその後に続いて歩き出した。
マティスに先導されて、教会の入り口をくぐる。入り口前の衛兵には、ちゃんと話が通っていた様で、マティスが軽く会釈するだけで、問題なく通過出来た。
中が思った以上に、豪華な作りになっていたのには正直驚いた。教会なんだから、いわゆる普通の礼拝堂になっているのは当たり前なんだけれど、お城に負けない程の大きさなのに、上下階が無い完全な吹き抜けになっているんだからね~
外見も立派は立派だったけど、中は3段階くらい突き抜けて立派なのよ。壁一面には彫刻が施されているし、ステンドグラスも凄く素敵な作りなのよね~
正直、カタンの建築物や、カザンウェル山までの間に寄った村を見た限りじゃ、この世界の建築技術って大したことないかも~なんて思ってたんだけど、正直すまんかったわ異世界。
ここまで立派な建築物なら、元の世界だったら間違いなく世界遺産決定でしょうね。正直侮ってたわ異世界。
まぁ、それは置いといて、教会特有のズラッと並んだ長椅子の間の通路を、マティスに続いて歩いて行く。当然、今この瞬間には、その長椅子のどれにも人の姿は見受けられない。
けれど、軽く見積もっても、200人は座れそうな長椅子が用意されている所を見ると、参拝に来る人が全く居ない訳でも無さそうね。元の世界の常識が通じるか解らないけれど、今日が礼拝日じゃないってだけなのかしら?
なんて、興味からキョロキョロ周囲を観察して、そんなどうでも良い事を考える。ちなみにエイミーは、これからこの国の王やイリナスに会うからでしょうね、少し緊張した表情をしていた。
そしてオヒメはと言えば、そんなにルージュとの別れが寂しかったのか、未だにあたしの肩でションボリしています。ちょっと~あたしに似た顔で、そんな表情しないでよ~
これで可愛いなんて言ったら、あたしが単なるナルシス子みたいに思うじゃ無い!畜生可愛いな!!
ん?あたしは緊張しないのかって?しね~ッス、緊張?何それ美味しいの??
ん~、あたし大事な試合の前とかでも、緊張した事無いからね~インタビューとかも何度か受けたけど、そう言えば今まで緊張した事全く無いわ。
心臓に毛が生えてるって思った?ん?お?んん??やんのかこらー!
やがて(無かったかの様に)マティスは、礼拝堂の奥、カーテンで仕切られている場所へと侵入していく。続いて這入ると、そこから雰囲気ががらりと変わって、何の飾り気も無い廊下が、その奥に続いていた。
飾り気は無いと言っても、広がって4人は通れそうなくらい、幅が取られているし、所々壺や絵画なんかも掛けられているけどね。あくまでも表側に比べれば、大分落ち着いた雰囲気なのは確かだった。
「…エイミー、悪いけど交渉はあたしに一任してくれないかしら?」
周囲のチェックを終えて、他に人の気配が無い事を確認してから、先頭を歩くマティスには、決して聞こえない様に注意を払いつつ、歩きながら小声で囁く。ふっふっふ、ただの物珍しさから、田舎者っぽくキョロキョロしてた訳じゃ無いのだよ?
無警戒にキョロキョロしながらも、周囲の様子を伺っていたのよね。いくら小声でとは言っても、あんな吹き抜けの礼拝堂じゃ、息を殺して潜んでいた人が居たとして、唇の動きを読まれる可能性だってあるからね。
まぁ、読まれたとしても、この世界じゃ異世界語になる日本語で話しているから、そんな心配は要らないとは思うんだけど一応ね。廊下に入って、少なくとも正面に立たれでもしない限りは、そんな心配も必要ないと思って、今このタイミングで囁いたのよ。
呟いた後、先頭を歩くマティスを用心深く観察する。この為に少し距離を取っていた事も合って、気付いた様子はうかがえなかった。
次いで、視線だけを移してエイミーを見ると、ちゃんとあたしの言葉は伝わっていた様で、困惑気味にあたしを見ながらも、少ししてから頷いてくれた。物語の中のエルフ達がそうな様に、この世界のエルフもまた、その長耳に見合った聴力がある事は、事前にエイミーから教えて貰っていたのよね。
「ごめんね。けれどこれは、あたしの今後の事に関してだからさ…」
次いでそうあたしが呟くと、彼女は目を伏して首を左右に振ってみせる。その姿を見て、もう一度心の中で謝罪してから、あたしは視線を正面へと戻した。
エイミーにしてみたら、あたしを巻き込んだって思っているんでしょうけど、その彼女だって実は巻き込まれた側なのよね。そんな彼女を頼って、何時までもおんぶに抱っこって言う訳にもいかないし、何よりそれはあたしが嫌なのよね。
あたしは、自分のやりたい事、やらないといけない事、出来る事は自分でやらないと気が済まない。我ながら我が強いとは思うけれど、こればっかりは譲れないのよね。
勿論、必要なら他人の手は借りるし、必要なら助言はいくらでも欲しいとは思っている。でも、人の手を借りてそれが元で失敗したり、助言をそのまま実行して失敗して、その責任を他の人の手を借りたからだとか、言われるがままに実行したからだ、なんて思いたくないのよ。
手を貸してくれた事も、助言してくれた事も、ただただ好意からだと思いたいから。だから、大事な部分は必ず自分の手で、自分の意思で実行する。
人の所為にして後悔するよりも、自分の意思で後悔した方が、幾分楽って言うのもあるんだけどね~それ以上に、人の善意を恨みたくないのよ、あたしは。
その辺りは、流石年の功って言うのかしらね?短い付き合いだって言うのに、悟ってくれてるみたいでありがたいわ。ほんと、普段はポケポケなのにね~(笑




