以降の難易度は追加コンテンツ(1)
帝都に入り、お城へと繋がる大通りを進んで程なく、馬車がメインストリートを離れて、豪華な家々が立ち並ぶエリアへと侵入した。それに気が付いたエイミーと、マティスとの間に一悶着合ったんだけど、向かう先にイリナスが居る事は間違いないと、ルージュに言われて落ち着いた。
ま~ね。イリナス所か、帝都ヤマトのヤマト王も呼んでるって言われたら、そりゃお城に招かれたって思うよね、普通。
けど、実際にこの馬車が向かっている先は、この国のお城なんかじゃ無くて、マティスさんが現在仕えているという、クラマ公爵邸宅らしい。ちなみに、このクラマ公爵という人物は、この国の王の弟にあたる方だそうだ。
このクラマ邸宅の敷地内に、イリナス専用の建物があって、ヤマト王も足繁く通っているという事らしい。お城からもそんなに離れていないらしいしね。
まぁ、それは良いんだけれども、何時までも彼を蚊帳の外に、ガールズトークを続けている訳にもいかないので、街の中に入ってからは、あたしの方からもちょこちょこ彼に質問をしていた。
まず1番気になる事は、どうやってあたし達の居場所がわかったかって言う事なのよね。それがそのまま、エイミーとルージュが警戒している理由でもある訳だし。
眠りこけていたから、当時の状況を推測する事しか出来ないけれど…まぁ、起きてたとしても2人と同じく警戒して、その申し出を断って自主手段でこの帝都を目指していたでしょうね。
そりゃ、元の世界で面識があったんならいざ知らず、異世界で初めて出会った同じ境遇の人とは言っても、初めて会ったよく知りもしない人に、ちょこちょこっと説明されただけで、はいそうですかって着いていくなんて、警戒心無いにも程があるってものよ。
これぞ正に、子供の頃さんざん保育園や幼稚園の先生に、耳たこで教え込まれた伝説のアレじゃ無い。『ぐっへっへ、お菓子上げるから、おじちゃんと一緒に行かない?』とか『パパやママが、病気や事故で倒れたから、一緒におじちゃんと病院行こうぜ!ヒャッハー』とか『オレオレ、オレだよオレ!』ってヤツじゃ無い。
…まぁ、最後のは若干違うけど、警戒次第で被害が出ないって言う点では一緒よね、うん。
海外旅行とかの旅行先で、同郷の人と偶然出会ったりすると、運命感じたりするって言う話はよく聞くけどさ~それが異性だったら、恋に発展しちゃって結婚しちゃうなんていう、いわゆる旅行先マジックってヤツね。
ああ言うのも解らないでも無いんだけどね~旅先のテンションとか、言葉の不自由とかもあって、同郷の人が心強く思えたり、頼もしく見えたりしちゃうって心境なんでしょうけど、でもそれってある程度旅先の知識もあっての事だと思うのよね。
例えば、アメリカで自由の女神を見に行こう!と思って出かけたら、見事に道に迷ってしまいました。そこで現地に詳しい日本人に出会いました、その人の案内で無事目的地に着きました、まぁ頼もしい!ってなるのは当然よね。
例えば、内紛巻き起こる様な場所に、ボランティア活動で参加しました。そこで海外派兵されていた自衛隊に、護って貰いながら活動できたので、事なきを得ました、まぁ心強い!って、そりゃなるでしょうよ。
ここで肝心なのが、『自由の女神がある場所』や『内紛が起きている場所』と言う情報と、『現地に詳しい』と『派兵されている事を知っていた』と言う情報だ。このそれぞれがかみ合うからこそ、その人物達を無意識に信用してしまうんだと思う。
でもここ異世界。あたしにとって、『自由の女神』が何処にあるのかも、『内紛が起きている地域』も解らない、生まれたての子鹿もビックリな、足下ガクガクで左右を見回すしか出来ないような状況で、ポッと出の同郷者に『こっちが自由の女神のある場所だよ~』『あっちは内紛起きてて危ないよ~』なんて言われたら、『あ、そうなんだ』って鵜呑みにして、相手を信頼しまいかねない。
実にこれが1番危ない状況だと思わない?縋ってしまいたい状況で、縋るしかない心境なのは解るし、信頼したくなるのも解るけど、前情報が一切無い状況で、いきなり現れた相手を、無条件で信じてしまうなんて、これほど危険な心理なんて無いと思うのよね。
目隠しした状態で、相手に全幅の信頼を寄せて、手を引かれてボロい吊り橋の上を歩く行為にしか、あたしには思えないのよね。ニコニコして近づいてきた相手が、悪徳の王で無い保証なんて無いし、真に恐ろしい悪意は、笑顔とともにやって来るものなんだから。
信用と信頼は違う物なのよ。少なくともあたしは、ちゃんと言葉を交わして、相手をある程度信用してからじゃないと、信頼なんて出来ないのよね。
それでも、2人が怪しいと思いながらも、マティスに促されて馬車に同乗した理由なんだけど、それが実はオヒメにあるらしいのよね~オヒメと言うか、下位精霊の中でも姿を持ったばかりの個体って言うのは、精霊としての力が最弱な変わりに、他者の悪意に対してかなり敏感なんだそうだ。
そのオヒメが、少なくともマティスの言葉に嘘はないと言ったから、2人もその言葉を信用して、眠っているあたしの事も考えた上で、警戒しつつも同乗する事にしたらしい。さっきあたしに、オヒメが大丈夫と言った理由は、そう言う事だったって訳ね~
さっき名前を決めてから、今に至るまでずっと、うれしさから室内をはしゃぎ回っている姿からは、全然想像出来ない特技よね~アホの子にしか見えないわよ(笑)
話が逸れちゃったけど、肝心のあたし達の居場所がわかった理由なんだけど、マティスにもそれは解らないそうなのよね。彼が主のクラマ公爵から受けた命令は、カザンウェル山に現れるだろう異世界人のあたしと、あたしを道案内しているエルフの女性を、イリナスの元まで連れてくる事。
それが王命であると言う事と、あたし達の名前だけを教えられて、送り出されてしまったらしい。ちなみに、彼が選ばれた理由についてだけど、単純に同じ異世界人で心境がわかるだろうって事と、クラマ公爵の執事兼護衛として、彼がとても優秀だったからだそうだ。
けど結局、合流したらあたしは眠っちゃってたし、聞いてた話と違って、もう1人ルージュがその時居たから、最初彼女をあたしと勘違いしていたらしい。それで余計怪しまれる結果になったのは、まぁ言うまでも無いわね。
まぁ、例えあたしが起きていたとしても、警戒してたでしょうねって話したら…
「ですよね。私も逆の立場だったなら、貴方と同じく警戒していたと思いますよ。それも私の方から、旦那様にお伝えしたのですが…」
と、意外にも彼もあたしと同意見だったらしい。最後の方、彼が言葉を濁して言い淀んでいたけれど、その後に続く筈だった言葉は、異世界人が本気で暴れたら、それを抑えられるのも異世界人だけって言うのが、世間一般の認識なんだと、エイミーが耳打ちで教えてくれた。
まぁ、何人もこっちの世界に来て、その内の何割かはこの世界に留まって生活していると言っても、きっとこの世界の全人口の、1%にも満たないんだから、普段から接触していないような人達からすれば、自分達の数段優れた身体能力のある、異世界人に対する認識なんて、案外そんな物なのかもね。
けど、これだけは声を大にして言いたいわね、あたしたちそんな野蛮人じゃ無いから!そんな暴れたら手に負えない酔っ払いみたいな、カテゴライズしないでほしいわね。
そんな感じで、迎えに来たって言うのに、残念な事にマティスが知りうる情報は、思った以上に少ないって言う事が解った訳で。つっかえないわね~
まぁ、それもしょうが無いか。彼がいくら優秀で、公爵邸の執事兼護衛を務めて、王の密命を任されるくらいには信用されていたとしても、言い方悪いけど使いっ走りさせられてる時点で、結局は使いっ走りなんだし。
逆に考えて、この国の王様の命だって言うのなら、その王様かイリナスが、あたしの所在を知る術を持っているって話だからね。まぁ、十中八九イリナスでしょうけれど。
カタンからカザンウェル山に向かうまでの間、尾行の類いは感じなかったしね。奇異の視線ならいくらでも感じられたけど、監視されているって感じもしなかったし、多分間違いないでしょうね。
2つ目に気になって聞いた事は、勿論あたし達が呼ばれた理由なんだけれど、これについても、前述した通り何も聞かされて居ないとの事。ほんっと、つっかえないわ~
こうなってくると、いよいよ聞きたい事も無くなってきて、彼に対する興味も無くなってきた次第です、はい。初めて出逢えた異世界人なのに、対応がしょっぱくないかって?そんな事知らん!!
さっき熱く語ってた、旅行先マジックならぬ異世界マジックで、恋の1つにでも落ちないのかって?無いな~少なくともあたしは無いわ。第一、今の今に至るまで、マティスとは小窓越しで会話しているだけで、顔も見えないから。
それに少なくともあたし、好きな人がちゃんと居るし。まぁ、片思いな上にその人はちゃんと彼女も居るけどね。
エイミーに対して、あたしがよくキャッキャウフフで、百合ゆり~んなセクハラばっかりしてるから、てっきりそっちの趣味だと思った?残念でしたね!
百合がいけなくも無いだけです!!(•̀ᴗ•́)و ̑̑ぐっ
こう言うのなんて言うんだけ、両刀?
実を言うと、その好きな人の彼女って、あたしにとってお姉ちゃんみたいな存在だし、昔から大好きな人なのよね。だから、2人さえ良ければ…ゲフンゲフン!なんて画策している訳ですよ、ぐっへっへっ。
まぁ、2人ともあたしにとって大事な存在だから、NTRなんて考えても居ないし、かといって間男ならぬ間女になりたくも無いし。ならいっそなんて冗談で思ったんだけど、これが意外とあたしの中で、全然嫌じゃ無いもんだから困っちゃうのよね~
あ、これあかんヤツだ。赤裸々に語りすぎて今また無意味に、変なキャラ立てた気がするわ…ほんとあたしって、このままどこに向かうのかしらね…(遠い目
脱線しまくっててサーセン。そろそろ目的地に着きますんで、勘弁して下さい。
「お待たせいたいしました御嬢様方。目的地に到着いたしました。」
不意に、馬車が停止したかと思うと、小窓越しにマティスの声が届いた。その後に聞こえてきた、ガタガタと言う音から、彼が表であたし達の下車の準備をしているんだろうなと予想する。
ガチャ…「失礼致します。」
待つ事数秒、そんな声と共に馬車のドアが開かれ、そこから目映い程の光が差し込む。起きた時には、あれだけ曇っていたというのに、今ではすっかり雲も散り散りになって、合間から陽の光が差し込んでいて、偶然にもそれがドアに当たっていたのだ。
「いっちば~ん!!
「あ、コラ!オヒメ!!」
余りの陽の光の眩しさに、あたしが一瞬視界を手で遮った瞬間、開け放たれたドアから、勢いよくオヒメが飛び出していく。それを咎めながら、あたしも次いでドアから身を乗り出した。
ほんと、精霊と言ってもこういう所は見た目通りの子供なのね。全く、手が掛かるったら…
そこまで考えて、ふとママに言われた言葉を思い出して、自嘲気味に苦笑した。そう言えば、ほんのつい最近まで、同じような事を言われていたなと、思い出したからだ。
特にあたしは、昔っから何事にも全力で取り組んで、よく身体を壊したりもしていたから、兄妹の中で1番手が掛かったと、笑いながら言われたのよね~
そんな事を考えながら、ドアをくぐって外へと出ると、ドアの横で会釈している執事服を着た金髪白人男性を見つける。彼がマティスで間違いないみたいね~
会釈しているから、顔の全体が見えた訳じゃ無いんだけど、見た感じ美形の部類に入るんじゃ無いかしら?向こうの俳優とかで、こんな人居そうって感じには、整った顔立ちだと思う。
まぁ、イケメンだとは思うけれど、あたしの趣味じゃ無いわね~なんて、ずいぶん失礼な感想を抱いていると、ふと顔を上げた彼と視線が合った。
「…すみません、ずっと気になっていたのですが…御3名様以外に、どなたかいらっしゃったのでしょうか?
「ん?え、あっ!」
彼にそんな風に訪ねられて、あたしは忘れていた事実を思い出してハッとした。
そうだった、カザンウェル山でサラマンダーのカトラスとの会話の中に、微精霊や下位精霊って一般の人には見えないんだった。エイミーでさえ、微精霊の頃のオヒメは見えていなかったみたいだけど、今はちゃんと見えているし、ルージュは同じ精霊だから問題なかったから、すっかり忘れてたわ。
と言う事は、今の今までマティスはオヒメの存在を、一切関知できていなかったんでしょうね。ただ、車内のあたし達の会話の流れで、見落としていたもう1人が居るかも知れない位には、きっと思っていたんでしょうけれど、ドアを開けて飛び出したオヒメは見えない上、顔を上げてパッと見ても、4人目が居るようには見えなかったから、今こうして質問してきたと。
まぁ、そんな所なのかしらね?彼からしたら、あたし達が無意味にドタバタ騒いでるくらいに、聞こえてるだけだったのかも知れないわね~
「ママ!早く早く!!すごいよ~」
その元凶を作った当の本人はと言えば、少し離れた空中でふよふよ浮かんだ状態のまま、ニコニコしながら、あたしの事を呼んでいました。それに彼が振り返らない所を見ると、声もやっぱり聞こえていないみたいだった。
「あ~…うん、まぁなんて言うか。実はあたし、霊感があってね?
「は?はぁ…」
暫く逡巡したあげく、面倒になってそう答える事にしました。まぁ、在る意味間違いでは無いしね?精『霊』だからさ。
1から説明なんてしないわよ、めんどくさ!後ろから、クスクスエイミーたんの笑い声が聞こえてくるけど、この際無視!って言うかフォローしなさいよ、ったく。