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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第二章 訪問編
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るなてぃくす☆(3)

「…そう。」


 時間にして約10分くらい、気を失ってから後の事を、エイミーから大まかに説明してもらい、あたしは頬杖を付きながら状況を整理していた。『炎帝』を真っ二つにした辺りは、あたしも確かに覚えているんだけれど、それから約2日も眠り続けていたらしい。


 っていうか、まぁそれはこの際良いんだけれど、やっぱりあたし地味に命の危険があったんじゃ無い!まったく…今度会ったら、イフリータの事ひっぱたいてやるんだから。


 まぁ、そんな事を思っても、意外に思われるかもしれないけれど、あんな事があったって言うのに、そこまでイフリータの事を、悪く思えないって言うのが正直な所なのよね~愛嬌があって憎めないって言うか、なんて言うか。


 ほら、アホの子程可愛いって言うじゃない?(笑)


「…それでルージュさんは、下山して示し合わせたタイミングで、待ち伏せしていたマティスさんを不審に思って、ここまであたし達に付き添ってくれたと

「えぇ、及ばずながら。イフリータ様より許可もいただきましたので

「そう、ありがとう。」


 一旦アホの子の事は置いといて、対面に座るルージュに視線を向けて問い掛け、返ってきた期待通りの答えに、微笑みを浮かべながら素直に感謝の意を述べる。それに対して、無言の会釈で返すその姿は、着ている恰好も相まって、騎士の立ち居振る舞いってこうなのかしら?なんて感想を抱いてしまった。


 まぁ、リアル騎士なんて今まで見た事無いしね~騎士崩れってモブキャラならあるけどさ。いわゆる姫騎士ってやつかしら?


 う~ん、しっかし見た目からして頼りになる人だなぁ~本当にこの人、あのアホの子の子なのかしら?


 そんな事を考えながら、チラリとあたしの肩にちょこんと座る、自称あたしの子に視線を向ける。見るとその子は、めっちゃニコニコしながら、期待に満ちあふれたと言っても過言じゃ無い表情で、ずっとあたしを見つめていた。


 いや~視線が痛いわね、さっきからずっとこんな感じだし。ひとまずもう一回フェードアウトしとこ。


 そんな事を思いながら、そっと視線を外して、分かり易く考える人のポーズを取った。彼女がそんな状態の理由は、エイミーから説明を受けてちゃんと解ってるんだけどね。


 けど、この子がこんなあからさまに喜んでる様じゃ、流石のあたしもプレッシャーを感じざるを得ないわよ。


「それにしても名前、名前ねぇ…」


 そう呟きつつ、肩に座る少女の表情を横目で伺うと、幻視で花が見えそうなくらい、一際眩しく輝き出す。それはもう、眩しさの余り直視出来ないくらいに…


 そう、この肩に座る少女は、現在進行形で名前の無い、名無しの権兵衛ちゃんなのだ。本来なら、生まれてすぐに付けてあげるべきなんだろうけれど、ゴタゴタの直後であたしも意識失っちゃってたからね~


 なので、大体丸2日間名無しの状態で過ごす事になってしまったと。


「なまえ!なまえ!!」


 名前を付けてもらえるのが、よっぽど嬉しいんでしょうね~あたしの肩の上で、踊り出さんばかりの勢いで、楽しそうに左右に上体を振る彼女。


 いや、そんなはしゃがんでも…ますますプレッシャーが高まるんですけど…


 この子には悪いんだけど、正直勘弁して欲しいのよね。あたし、ネーミングセンスとか自信ないのよ…


「…ねぇ、何か良い名前とか無いかしら?」


 と、直視出来ない純粋無垢な視線から逃げるように、隣に座るエイミーに視線を移そうとすると…


「め!ママが付けてくれないと嫌!!

「…だ、そうですよ?

「えぇ~…」


 あたしの眼前に飛び出して、逃げ道を塞いでしまう小さな強敵。これが『しかし、回り込まれてしまった!』ってやつですね、解ります。


 そんなあたし達の光景を前に、エイミーは苦笑を浮かべつつも、優しく微笑み見守っている。どうやら彼女からの助け船は、期待出来そうにも無いわね。


 まじか~間違いなくこの子、あたしがこの世界に来てから、一番厄介な強敵なんですけれど。きっと将来は、優秀なラスボスになってくれそうね。


 仕方なく、観念したあたしは、腕組みしながら考え始める。パッと思う浮かぶのは、いくつも思い浮かぶんだけれども、例によって例の如くオタクの(さが)的な物ばかり…


 ティンカー…げふんげふん、コーティ…げふんげふん!ホーリ…げふんげふん!!


 うん、どれもあかん名前ばっかりだわ。しょーも無いヤツでサーセン。


 でもしょうが無いじゃない?好きなキャラの名前を、ペットやゲームのキャラ名にするのって、オタクにとってどうしようも無い(さが)だし、キャラに対するたゆまぬ愛故になのよ!(力説


 だからって、子供に小っ恥ずかしいキラキラネーム以上の業を、背負わせるなって話しですよね、ほんっとサーセン。


「…他の精霊王達は、精霊としての名を、イリナス様より授かった際に、それまで名乗っていた個としての名前を、最初の子供達に与えたそうですよ

「ん?そうなんだ。」


 エイミーからの援軍は期待出来ず、孤軍奮闘であ~でも無いこ~でも無いと、暫く考え続けていたあたしに、予想外の所から助け船がやって来た。渡りに船とは、まさにこの事だと思いながら、対面に座るルージュへと視線を移した。


「その言い方からすると、ルージュさんは最初の子って訳じゃ無いのよね?

「えぇ。私は数えて10番目に、意識を持って産まれた個体です

「意識を持ってって?」


 脱線するとは解りつつ、ルージュの話に気になる言葉が出てきたので、時間稼ぎも兼ねつつ掘り下げる為に聞き返した。


「我々精霊は、元々は微精霊から成長していくのですが、精霊王から無数に産まれる微精霊全てに、意識がある訳ではないのです。ほとんどの場合、その地に蓄積され結晶化して精霊石となるんですが、ごく希に意思を持って、他の周りの微精霊を取り込んで成長していく個体が現れます。それが王より名を与えられて、私達のように子として認められるのです

「ふ~ん。じゃぁこの子も、あたしから産まれる微精霊を吸収して、ルージュさん位の大きさまで成長するって訳?

「そうですね。ですが、優姫様の場合

「様なんて要らないわ、むずかゆいから止めてちょ~だい。」


 あたしの言葉に、ルージュは苦笑を浮かべて頷いた。敬語苦手な現代っ子のあたしにとって、年上の人に敬語使われるのって、居心地悪くてたまんなくなるのよね~


 見た目的には、ルージュも20代前半かそれ以下って感じで、あたしとそこまで違わないようにしか見えないけれど、この世界見た目の年齢で実年齢が推察出来ないのは、エイミーやジョンで経験済みだからね~エイミーと同じか、それ以上だったとしても不思議じゃ無い訳よ。


「優姫さんの場合は、他の精霊王様達とは少し状況が違いますから、私からハッキリとした事は言えません。同行中観察させていただいたのですが、精霊化していない状態では、微精霊も産まれないようですしね。その子の成長は、イフリータ様の加護を受けて、一気にそこまで成長したのですが、本来産まれてから彼女のサイズまで成長するには、大体100年は掛かるのですよ

「100年?!」


 その単語に驚いて視線を移すと、その視線に気が付いた自称あたしの子は、きっとよく判ってないんでしょうけれど、両手を腰に当て薄い胸板を逸らして、『えっへん!』って擬音が聞こえてきそうな感じで、威張った態度を取り出した。心なしか、鼻息も荒いような気がするわ。


 そんな彼女の態度を、呆れた表情で見ながら、薄っぺらい胸ね~と出かかった言葉を飲み込んだ。口に出しちゃったら、ブーメランで自分の胸にも突き刺さるからね!


 しっかし、こういう所を見ると、まるで鏡を見ている様な気分になるわね~あたしに似て、良い性格してるわよホント。


「私が今の背丈になるまで成長するのに、大体800年程掛かりましたが、彼女の場合はイフリータ様の加護も受けていますし、もしかしたら成長も早いかもしれませんね。正直羨ましいですよ、実子の私達でさえ、母の直接的な加護は受けていませんから。」


 次いで聞こえてきた声に、視線をルージュへと戻すと、自嘲気味に苦笑を浮かべて語る彼女の姿があった。


「あ~…それは何というか、申し訳ないわね…

「いえ、お気になさらず。」


 彼女の言葉を聞いて、どう答えて良いのか解らなくて、頬をかきながらとりあえず謝罪した。上手い事フォローしようとも思ったんだけど、なんとなく何を言ってもバツが悪くなるだけのような気がしたのよね。


 そう思ったのは、彼女が一瞬見せた表情の所為だった。騎士の立ち居振る舞いなんて例えるくらい、あたしとは比べるまでもなくキチッとしている上、時々優しげな表情も見せるけれど、基本的な本来の表情は、知的でキリッと引き締まっていて、どことなく冷たい印象さえ感じさせる。


 客観的に見て、よく言えばクール系美人だし、悪く言っちゃえば、どことなく近寄りがたく、何も知らなければ、怖い印象を相手に与えてしまうんじゃないかな?って、あたしが心の中で勝手に想像していた彼女が、イフリータの事を『母』と敢えて口に出した瞬間、どことなく寂しそうな表情になった様な気がしたのよね。


 その表情から、なんとなくだけど、彼女のイフリータに対する愛情の深さが、少しだけ垣間見えた気がした。そんな風に思えた自分が、少しだけ可笑しくて、人知れず肩を透かして自嘲する。


 彼女に、そこまで想われる何かが、イフリータにもちゃんとあるって事なのね。しゃ~ない、彼女に免じて、ひっぱたくのは無しにしときますか。


 なんて、内心独りごちていた所に…


「わっ!!!!

「うわぁ?!ちょ、何よいきなり?!」


 耳元でいきなり大声を出されて、耳を押さえながら慌てて振り向く。するとそこには、またまたふぐみたいに、頬を大きく膨らませた、ふくれっ面の少女の姿。


 あ、はい。名前ッスね、サーセン。


「…流石に、優姫が悪いですよ?

「わ、解ってるわよ!?」


 そして、追撃のエイミーの言葉に、慌てて取り繕い出すあたし。あのエイミーが呆れてる上、ふくれっ面の彼女に至っては、うっすら目尻に涙が浮かんでんだもん、そりゃ慌てもするわよ。


 あたしは、頭をかきながらため息を吐いて、心を決める事にした。何と言うか、ここであたしがこの子の名前を決めてしまったら、この子を自分の子だと認知する事になるなんて、そんな風に思ってしまっていたのよね。


 だから、あの手この手で逃れようと、少しでも引き延ばそうだなんて、カッコ悪い事をしてしまったのよね。本当は、ひと目見た時から、他人だなんて思えなかった癖してね…


 ほんと、カッコ悪いわよね~それもこれも、この世界が悪いのよ。彼氏も初体験もまだだって言うのに、出産が先とかほんと無いわ~


 そうして終には、自分の不甲斐なさとカッコ悪さを、盛大に責任転嫁している辺りが、一番カッコ悪いなと思いつつ自嘲して…


「…姫華。」


 と、彼女に向かってそう呟いた。


「ヒメ…カ?

「そ。あたしの世界の字で、優姫の『姫』に、あんたのその屈託の無い笑顔を見てたら、あたしの一番好きなひまわりの花を思い出したから、花って意味の『華』で姫華。んで、普段呼びはオヒメでど~よ?」


 そう言って、彼女の様子をじっと伺う。実を言うと、ルージュから名前のヒントを聞いた時点で、この名前を思いついていたのよね。


 あたしの『優』の字をもじっても良かったんだけど、それだと普段呼びの時に紛らわしいしね。ちなみに、オヒメって愛称は、あたしの小学校の頃のあだ名だったりするのは、ご愛敬ってヤツよね。


「ま、『お姫様のお花』って所かしらね。良い名前でしょ?

「オヒメ…姫華…ヒメカ!オヒメ!!」


 確認するように、言葉の意味を噛みしめるように、何度も同じ単語を繰り返す彼女は、繰り返す度にその表情が、みるみる明るくなっていく。そして遂に、その名前の示す通り、満開に咲いた華のような笑顔になって、その華をあたし達へとふりまき始めた。


「ヒメカ!オヒメ!!

「ちょっとオヒメ、嬉しいのは解ったから、そんなはしゃがないでよ

「ふふ、良いじゃ無いですか。良かったわねオヒメちゃん、良い名前を付けてもらえて

「うん!えへへ、ルージュ!ルージュ!!あたしヒメカ!!

「あぁ。良い名だな、ヒメカ。」


 そんな感じで、室内ではしゃぐオヒメを、エイミーとルージュはニコニコして見守り、あたしはと言えば、疲れたようにため息を吐いた後、温かな気持ちを感じながら、気が付けば2人と同じように笑顔で見守っていた。


 …ま、こんなに喜んでくれるんなら、名前を付けた甲斐もあるってものよね。


「ママ、ママ!

「ん?

「えへへ…ありがとう。」


 不意に呼びかけられた後、はにかんだ表情でオヒメがそう呟く。それを見て、一瞬間を置いた後、一気に自分の顔が熱を帯びて赤くなっていくのが解って、慌てて顔を腕で隠しながら横に向ける。


「?ママ?」


 うわ~…やられたわ。なによそれ、完全に不意打ちじゃ無い…


 不思議な気分だった。自分とそっくりの少女が、照れたような、はにかんだような表情で、ただ一言感謝の言葉を口にした。


 ただそれだけなのに、胸の奥をギュッと掴まれたような感覚と、なんとも言えない温かな気持ちが、奥の方から沸き起こってくるような感覚。その2つの感覚に、自然と顔がふやけていくのが、自分でも解った。


「…優姫が照れてる所、初めて見た気がします。凄いですね、オヒメちゃん

「え?あたしスゴイ?

「えぇ、凄いです。見たところ、オヒメちゃんの魅力に、優姫も陥落寸前みたいですよ?

「ほんと?えへへ

「ちょ、エイミー!ここぞとばかりに、たたみ掛けようとしないでよ。」


 まさかのエイミーの攻撃に、あたしは悲鳴を上げるほか無かった。ちくせう、まさかこんな所で、セクハラの仕返しを受けるとは思わなかったわ。


 と、そんな感じでバタバタ車内で過ごしていたあたし達に、不意に割って入ってくる1人の人物が居た。


「あの~…よろしいですか?」


 不意に聞こえてきた声、すっかり蚊帳の外で忘れ気味だったマティスの言葉に、それまでの騒ぎが嘘のように、ピタッと静まった。


「ごめんなさい、マティスさん。すっかり忘れてたわ

「あ、やっぱりですか…

「よくこのガールズトークに割って入れましたね

「えぇ本当に。心苦しくて仕方ありませんでした。」


 声を掛けられて、瞬時に警戒し始めた2人に変わり、あたしが軽口を交えつつ会話を進めていく。


 ま、2人が警戒する理由は簡単よね。下山したらマティスさんが待ち伏せてて、一国の王と女神がお呼びですなんてさ。


 それだけでも胡散臭いのに、お出迎えが見ず知らずの異世界人で男性なら、今のエイミーだけならどうにでも出来るからね~そう言う意味では、ルージュの判断は正しいのよね。


「それで、どうしたんですか?

「そろそろ帝都に入りますので、お知らせしようと思いまして。」


 そう言われて、あたしは窓へと視線を向ける。すると言われたとおり、街の外縁と思われる壁が確認出来た。


「…あの街が、女神イリナスが居るって言う、ヤマトで間違いないの?

「えぇ、そうです

「そう、なら…」


 隣に座るエイミーに耳打ちして、事実を確認したあたしは、密かに兼定を手に取って強く握りしめた。


「どんな御方だか、この目でしっかりと見定めなくっちゃね。」


 そして、気に入らないような相手だったら、その時は…きっちり落とし前を着けさせて貰おうじゃない。

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