表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第二章 訪問編
54/398

るなてぃくす☆(2)

「Je suis désolé, tu veux maintenant ?(すみません、今よろしいですか?)

「えぇ、何ですか?」


 ルージュの手によって開かれた小窓の向こうから、聞き慣れない男性の声が聞こえてきた。それにエイミーが、やや警戒気味に固い口調で聞き返した。


 …って言うか、ちょっと待って。


「…フランス語?」


 あたしは、聞こえてきた言葉にビックリしつつ、思わず口に出していた。そうなのだ、彼が使っている言語は、あたしが元居た世界の言葉だった。


 ママが映画好きで、よく吹き替え版じゃ無いのを見ていたから、なんとなくニュアンスとかで、フランス語かなってのは解ったけど、さすがになんて言ったかまでは解らなかったわ。英語だったら少しは出来るんだけどね~


 プロのスポーツ選手は、世界で活躍する場合も多いから、共通語の英語を習得している人って意外と多いのよね。あたしの場合も、海外を視野に入れているんだったら、英語は覚えとけって、大学生の方の兄さんに言われてから、結構勉強してるのよ。


「あ、そう言えば説明していませんでしたね…

「オー…スミマセン、ワタシモ、イツモノクセデ、ハナシテマシタ。ニホンゴ、スコシワカリマス。」


 あたしの反応に、エイミーと小窓の向こうの彼から、申し訳なさそう声が聞こえてくる。うん、今更エイミーたんの、ついうっかりな説明漏れは気にしてないから。


「I am sorry in wonder. If it is English, I understand it a little(驚いてすみません、あたしも英語だったら少し解ります)んで、どういう事?」


 とりあえず気を取り直して、小窓の向こう側の彼に英語で話しかけて、そのままとって返して、エイミーへと視線を向けた。


「えっとですね、以前異世界から来た方々には、言語理解の魔術が施されると説明しましたが、それはあくまでもこの世界の住人とのコミュニケーションが取れるようにとの配慮からで、異世界人の方々同士には適用されないんですよ

「つまり、異世界人同士のコミュニケーションは、元の世界の通りでお願いしますって事?

「ま、まぁそうですね。」


 その説明に、え~?って思いながら、その思いを隠さずそのまま顔に出す。とりあえず率直に、何そのめんどくさい設定って思いました。


 どうせ気遣うなら、その辺も考慮して気遣いなさいよ!微妙に詰めが甘いわよそれ。っとも思うけれど、冷静に考えたらそれも当然なのかもしれないわね。


 この世界にやって来て、最初にエイミーから説明を受けていたけれど、あたし達異世界人は、この世界の住人達と意思疎通出来るように、もれなく言語理解の魔法が掛けられているそうだ。そして、それが誰の手による物かと言えば、この世界に顕現した女神、イリナス・オリジンによって施されているそうだ。


 どう言う原理で、言語理解しているのかは、エイミーにも解らないそうだけれど、今聞かされた事実から推察すると、イリナス・オリジンの見方って言うのが、少し変わってくるのよね~まぁ、歪んだ見方なのかもしれないけどさ。


 エイミー達にとっては、実際に目に見えている神だし、自分達の信仰の対象なんだろうから、こんな事言うのは憚られるんだけれど…あたしをこの世界に召喚した張本人って言う事実を抜きにしても、あたしにはその女神様が、エイミーが言う程『お優しい女神様』には思えないのよね。


 考えてみれば単純な話だけれど、元々この世界に住んでいる住人達(家族)と、突然何かのイレギュラーでやって来てしまった異世界人(部外者)。その女神にとって、神に護るべきはどちらかなんて事は、まぁ火を見るより明らかだと思う。


 おまけに、異世界人はもれなく、この世界の住民達以上の身体能力を有しているとなったら、尚更な話だと思うのよね。いくらこの世界には、それを補う『スキル』があるとは言っても、全ての人が使える訳じゃ無いし、自衛手段の心得がある訳でも無いでしょう。


 まぁ、自衛云々に関して言えば、あたし達異世界人にも言える事なんだけれども、圧倒的な力の差って言うのは、多少の気休めみたいな要因で、簡単に覆せる物じゃ無いのよ。


 例えば、一般的な女性が、男性に組み伏されてしまっては、どう抵抗した所で抗えないように。例えば、剣道三倍段なんて言葉がある位、短い得の武器と長い柄の武器では、長い柄の方が圧倒的に有利なようにね。


 もしも、それ程までに身体能力に差があって、意思疎通が出来なかったらどうなるか?集団心理だとか、個人の精神問題や、武術経験の有無等々、様々な要因が絡み合ってくるんでしょうけれど…答えは大体歴史の教科書に載っているんじゃ無いかしら?


 それを防ぐ為に、最も原始的で効果的なのは、やっぱり意思疎通なのよね~


 人に置き換えるべきじゃ無いんだけれど…仮にもし、家畜の言葉を理解出来たなら、人はその家畜を食べる事が出来るのか?なんて、お決まりの命題がある位だもの。


 言葉が通じるって言う事は、そりゃ考え方の違いだとか言い方の問題で、すれ違ったり簡単に人の心を傷つけてしまう物だけれど、本来それだけで争いの抑止になり得る筈なのよね。


 そう思うから、あたしにはその女神が、単なる親切心から、あたし達異世界人に言語理解の魔法を掛けているとは、最初に説明を受けた時から素直に思えなかったのよね。むしろ、この世界の住人達のリスクを、少しでも軽減する為だって言われた方が、よっぽど腑に落ちるもの。


 仮に、純粋な親切心からだったのなら、ずっと昔からこの世界に、異世界人達が行き来していたなら、あたし達の世界に言語が複数あるなんて事は、すぐに気付いてた筈よね。ならこの世界に居る間だけでも、あたし達の間の言語の壁だって、取っ払ってくれたって良さそうなものじゃない。


 それに、これはあたしの勘だけれど…


「ねぇ?そう言えばこの世界の言語って、1つだけだったりするの?」


 良い機会だったから、以前から気になっていた事を、この際聞いてみる事にした。その問いに対して、返ってきたエイミーの答えは、概ねあたしの予測通りだった。


「いえ、そんな事無いですよ?共通言語は、種族の多い人種語が一般的ですが、獣人語や精霊語等も、同じくらい使われていますし、各種族の固有言語も使われたりします。まぁ、世界中で活動する事の多い冒険者は、人種語と精霊語か獣人語のどちらかを修めている人がほとんどだと思いますよ

「ふぅ~ん、なるほどね。」


 と、思った通りこの世界もちゃんとバベられて居ました。


 それで何が解るのかって?単純な話だけれど、本当にその女神がお優しいのなら、いつ来るかどれだけ来るのか解らない異世界人相手に、言語理解の魔術をいつでも掛けられるようにしておくよりも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 にも関わらず、この世界の言語だって統一されていないのに、よそ者であるはずの異世界人が、この世界の()()()()()を話せるのよ?()()()()()()()()()、なんて誰が信じるのよ。


 言語理解については、例えばどの地域に行っても、異世界人がこの世界の兵士の指示なんかに従えるようにする為。異世界人同士の、言語理解を敢えて行わない理由は、例えば異国人同士の意思疎通を阻害して、少しでも徒党を組ませる様な状況を作らない為。


 少し見方を斜めからずらしてみれば、そんな思惑だって見え隠れしてきそうじゃない?まぁ、考えすぎだとは思うけれどね。


 むしろ、言語理解の魔法とは別に、なんらかの攻撃性魔法も掛けられてんじゃ無いかって心配になるくらいだわ。今まで何の異常も無かったからって、これからも何の異常が無いなんて保証は無いのに、上辺だけの事実だけで、会った事の無い女神を信用するなんて、よく出来るわねって思うわよ。


 まぁ、少なくともあたしは信じられないし、最初から疑って掛かっていたのよね。とは言っても、何の確証も無いし、単なるあたしの用心深さの不安から来る、行き過ぎた思い過ごしの可能性だってあるし。


 むしろ、あたしとしてはそうであって欲しい位よ。今この場で、そんな推測を披露したら、目の前に居る高位精霊が、どういう反応を示すか解らないし、エイミーだってどう思うか解らないからね~まったく胃が痛くなりそうだわ。


「それで、どういったご用件ですか?

「ツルマキサン、メザメタヨウダッタノデ、ゴアイサツオモッタデス。」


 あたしが1人、ため息交じりに考えを巡らせていると、隣に座るエイミーが、小窓の向こう側の人に、再び固い口調で話しかける。すると、カタコトの日本語でそう返ってきたので、一旦思考を切り替えて小窓に視線を移した。


 窓は小さくて、本当に御者と会話する為だけと言った感じなので、声の主の姿は影さえ見えなかった。ただ、そこから見えた風景は、どんよりとした曇り空と、白いお城が遠くに見えるだけだった。


 多分だけど、この馬車の行き先はあそこなんでしょうね。まどろみの中じゃ、結構激しく雨が降っていたと思うんだけど、見る限りじゃ降ってる様子も無いみたいね。


「ハジメマシテ、ワタシ、マティス イイマス

「Nice to meet you, Yuuki Tsurumaki(はじめまして、鶴巻優姫です)」


 なんとなく、カタコトの日本語に英語で返す。以下同時通訳でお送りします♪


「それで、マティスさんは異世界人…フランスの方?で良いのかしら?

「えぇ、その通りでございます。今は帝都ヤマトのクラマ公爵邸で、執事をしております。」


 質問に対するその答えに、あたしは再び思考を巡らせ始める。大和に鞍馬…ねぇ?和名に聞こえるのは、きっと気のせいじゃないんでしょうね。


 それに、公爵って確か王様の次に偉いんだっけ?ふむふむ、なんとなくだけど、エイミー達が警戒気味な理由が解った気がするわね。


「…ねぇ、あたしどの位寝てたのかしら?」


 一旦、マティスとの会話を切り上げて、隣に座るエイミーに問い掛ける。今のやり取りで、少なくともご挨拶って言うのは済んだと思うし、悪いけれどあたしもエイミー達同様、警戒させてもらうわ。


「あ、はい。えぇっとですね…」


 そしてエイミー達の口から、あのイフリータとの試練の後、気を失っていた3日間の出来事を、伝え聞く事になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ