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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第二章 訪問編
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い~んふぇるの!!(4)

 あたしが何に対して覚悟を決めていたのか、彼女の懐に飛び込むのが、単純に罠だって事が解っていたからだ。その上、さっき起こった爆発さえも、あたしは予想出来ていた。


 さっきの攻撃の正体は、なんて箏は無い単なる爆発。ただ今までと違うのは、火球という媒体を使用せずに、空間を指定して結果だけを起こしたものと想像出来た。


 それは正に、あたしが出来たとしても出来ない、刀を振るわずに斬撃を起こすと同じ事だった。あたしにとって、出来るとしても想像出来ない事は、詰まる所イフリータには出来る事なのよ。


 そうひねくれた考えを持って、あたしが彼女を観察すれば、ある程度その手の内が想像出来た。圧倒的存在とは言っても、結局その力は『対軍』に向けてであって、『対個』には不向きでしか無いのよ。


 どんなに火力があったとしても、結局は『個対個』である以上、小手先の探り合いという意味では、あたしの方に圧倒的に分があった。結局、どんなに強力な一撃も、直撃しなければ意味が無いのよ。


 そう言った意味では、さっきの爆発でもっと威力を出されていたら、あたしもただじゃ済まなかったんだろうけれど、そこは彼女の目的が、勝敗にある訳じゃ無くて、あたしを試すだけのものだったから、あそこで決めるとは考えにくかった。むしろ、ここからどう行動するかをこそ、彼女は期待して見ているんだ。


 それは正しく、圧倒的強者の振る舞いだった。けれど、あたしはそれが解るからこそ、ただただ気に入らないのよ。


 だから、少しくらい驚いてもらわないとね。


 落下していくあたしの視界に、迫る火球の群れを見据え、左手を兼定から離して天に向ける。そして、再びイメージを膨らませて、兼定のコピーを生み出した。


 それを敢えて握らずに、イメージの中でプロペラの様に高速回転させると、現実に反映されて回転し出す。そこに、迫った火球がぶつかっていき、立て続けに小爆発を繰り返していく。


「…へぇ。けれど、そんなもんじゃでかいのは防げないし、これならどうだ?」


 天上から降り注ぐ声と同時に、それまでぶつかっていた火球の群れが、回転する刀に触れる直前で静止したかと思うと、一気に左右にばらけて、再び襲いかかってくる。


 更に、落下先から感じる嫌な悪寒に、地面にも地雷のような細工がされているんでしょうね。更に、見上げた先から落下してくる、曰く防ぎきれないと断言された炎の玉。


 完全に四方を取り囲まれた形で、正に絶体絶命に見えるだろう。こうなってしまっては、イフリータみたいに空でも飛べない限り、回避は難しいでしょうね。


 恐らくあたしも飛べる。飛べると思う…けど、そのイメージが上手く想像出来なかった。


 そもそも、簡単に飛べていたら、相手との距離を跳躍で縮めようとなんかしないわよ。だから、あたしは、飛ぶという行為は早々に諦めていた。


 人は飛べないし、仮に飛べたとしても、そもそも身体の構造が、360度の戦闘に対して不向きな作りなのよ。そう考えると、鳥のフォルムは本当に完成された姿だと思う。


 ならこの窮地をどう脱するか…飛べないなら、跳べば良い。


 あたしは、回転し続ける刀を左手で掴むと同時、思いっきり上空に向かって投げつける。その一投は、迫る炎の玉に突き刺さっていき、進行上に存在する玉が爆発していき、煙を巻き上げる。


 と同時に、身体を屈めて()()()()。下は決して見ない、見てしまったらイメージが壊れてしまうから。


 あたしはこれまで、落下中1度も下を見ていなかった。下を向いて、地面との距離感を図ってしまったら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、きっと出来ないと判断したからだ。


 その考えが功を奏したのか、確かにあたしの足の裏に、足場が存在していた。そのイメージが崩れないうちに、さっき刀を投げつけた進路に向かって、垂直に飛び上がった。


「…へぇ。」ドゴゴゴンッ!!


 そして、眼下から聞こえてきた感心した様な呟きと、急な方向転換に着いてこようとした火球が、炎の玉にぶつかって爆発を巻き起こした音が響く。


 天高く飛び上がったあたしは、静かにイフリータを見下ろす。測らずとも、これでさっきまでとは立場が逆になった。


 飛べない、自分が飛んでいるイメージが湧かない、そもそも飛んで戦うなんて非効率だ。なら、見えない壁や地面を想像して、飛び跳ねてしまえば良い。


 空間機動よりも立体機動の方が、イメージしやすいし闘いやすい。それが、あたしなりに見出した、空中戦に対する答えだった。


「ハハハッ!凄い凄い!!こんな短時間で、そこまで出来るなんてさ!予想以上に才能在るよおまえ。」


 眼下から、本当に楽しそうな声が聞こえてくる。まったく嬉しくないお褒めの言葉だから、普段だったらカチンともきたでしょうけれど、今のあたしは全く取り合う気も起きなかった。


 それだけ、余計な考えを削ぎ落として、ただただ目的を成し得る為だけに集中していく。


「けど、そろそろ決めないとな?でないと…」


 次いで聞こえた意味深な台詞と、イフリータの向けた視線の先を、自然とあたしも追っていた。その先に見た者は…


 やっぱり…あの子ったら。


 あたし達の視線の先に居のは、言うまでも無くエイミーだった。いつもピンと立った耳は、力なく垂れ下がっていて、その表情は苦悶にゆがみながらも、懸命に顔を上げていたけれど、その身体は四つん這いに近い形で、地面に手をついて肩で荒く息をしていた。


 何もしていない筈の彼女が、なんであんな姿になっているのか…その答えは、簡単に想像出来た。


 あたしが産み出した、斬撃波や兼定のコピー。明らかに、更に強化されたあたしの身体能力は、ではその力の源が何処にあるのか?


 その全てが、魔力という力を元にしているのであれば、その魔力をあたしが使えないのであれば、ではその力は何処からやって来ていたのか?


 答えは簡単ね…あたしとエイミーの間に、未だに繋がったままのパスを通して、エイミーから流れ込んでいたのよ。


 あたしの精霊化は、何の制約も無しに、行使し続けられる物じゃ無い。それが解っていたから、なるべく短期決戦で決めたかったのよ。


 こうなる事は解っていたから、急いでいたんだけれど、こうなってしまったら、これ以上力を行使する訳にもいかなかった。けれどそれは同時に、あたしの勝ち筋に対して、どうしても一手足りない事も告げていた。


 落ち着け…一手足りないのなら、数手跳ばしてしまえば良い。危険な賭になるけれど、あたしの身の安全よりも、あの子の安全の方が優先だわ。


 でなければ、エイミーの力を借りて、あたしが闘う意味が無いのよ。あたしは、あの子を護りたいから腹を括ったのに、逆に苦しめてるようじゃ本末転倒じゃない。


「…あん?

「ゆ、優姫さん?」


 思うが早いか、あたしは上空で天地を入れ替え、身体を再び縮める。そして、天井があると強く念じると、足の裏が足場に触れた。


 そして、手にした兼定を鞘に滑り込ませ、刀身が出るか出ないかギリギリの所で、力を下半身に溜めていく。このまま刀身を閉まってしまえばどうなるかなんて、想像するまでも無く予測出来た。


 現在のあたしは、自分の意思で精霊化なんて出来ず、そのスイッチの代わりになっているのが、この刀・九字兼定だった。なら、その刀身を閉まってしまえば、当然生身の状態になってしまう。


 これは、自分でも理解しているけれど、相当危険な賭だった。いくらこっちの世界のあたしの身体が、少しばかり頑丈だったとしても、この高さから落ちてしまってはただでは済まないでしょう。


 おまけに、精霊として更に強化された状態で、足場を蹴って更に加速しようだなんて、自殺行為も良い所でしょうね。身体に掛かる圧力も考えれば、息さえ出来ないでしょうし、目を開けてもいられないかもしれない。


 けれど…


「ハッ!なるほど、特攻って訳か!!思い切った事するなぁ~けど良いぜ、正面から受けてやる!!」


 そう叫んで、イフリータは地面に向かって降下していく。


「地面に激突する覚悟があるなら、来い!!

「いけない…や、止めて下さい!優姫さん!!」


 そうして、同時に聞こえてくる2人の叫びを耳に、更に更にと集中力を研ぎ澄ませていく。


 今のあたしなら…出来る!!


 ダンッ!!


 意を決し、足場を蹴ると同時に、刀を鞘に完全にしまう。同時に身体に掛かる圧力に、まともに目を開けていられない。


 それどころか、気を許してしまえば、あっけなく意識を手放してしまいそうになる中で、必死に繋ぎ止めて見つめた先に、不遜に笑う絶対強者の姿があった。


 決着は一瞬。けれど、引き延ばした思考速度が、それを許さなかった。


 頭から急降下する中で、あたしは手にした兼定を強く握りしめた。狙うは交錯する瞬間…早過ぎたら意味が無い上、遅すぎたら頭から地面に叩き付けられて、目も当てられない姿になってしまうんでしょうね。


 そんな極限の瞬間の中にあって、でも不思議と不安も恐怖も無かった。成功させるという強い意志が、あたしにそれをさせなかった。


 そして…


 ガギイイイィィィーーーン…「…お見事。」


 甲高い音を響かせて、あたしの斬撃は見事、イフリータの手によって阻まれた。そこに遅れて、彼女の賞賛の声があたしに届く。


 そのまま彼女は、あたしの身体毎刀を放り投げられ、弧を描きながらエイミーのすぐ側の所で着地した。そのまま刀を鞘に収めると、ドカッとお尻から地面に倒れ込んだ。


「…プハァー。あ~もう疲れた、頭痛い~」


 同時に緊張の糸が途切れたあたしは、深く息を吐き出しながら、頭を押さえて弱音を吐いた。その言葉通り、酷い頭痛にあたしは苛まれていた。


 いや~、あの状態になった後って、いっつもこうなのよね~頭痛いだけならまだしも、眉間の血管が浮き出てピクピクしてんだもん。


 女子としてホントどうなの?って思うわ~だからやりたくなかったのよね。


 けどまぁ、そうも言っていられない状態だったから、仕方ないんだけどさ~


「ゆ、優姫さん…

「ん?」ガシッ!「わっと?!」


 不意に、呼びかけられて振り返ると、首の後ろから急に抱きつかれて体勢を崩しかけた。それをなんとか踏み留まって、首だけ向けると、今にも泣きそうな表情のエイミーの姿があった。


「馬鹿!馬鹿!!なんて危険な事してるんですか!!もしあなたに何かあったら、私は…

「あ~、ごめんって。だから泣かないで…危険は承知だったけれど、そのお陰で、()()()()()()()()()()()()()()

「え?」


 目の端に今にも溢れそうな滴を溜めていた彼女は、あたしの言葉を聞いて、視線をイフリータへと向ける。それにならって、あたしも視線を向けると、そこには…


「ハハハッ!思った以上に凄いなおまえ!!一太刀入れるどころか、オレの身体を傷つけるなんて!」


 楽しそうに喋るイフリータの身体に、今まで無かった炎の筋が、袈裟掛けに走っていた。その位置は、確かに最後の一撃で、あたしが入れた位置に相違なかった。


 血の代わりに炎が吹き出すんだ。彼女自身が炎で出来てるって事か…


 そんな事を思いながらも、確かな戦果を目にして、思わず安堵してため息を吐いていた。


 交錯する瞬間、あたしの斬撃はイフリータの炎を纏った腕によって阻まれた。けれどそれは、所詮実体部分でしか無かったのよね~


 あたしの使う武人一刀居合術の境地は、全てを一刀の元に平らにし、後の先の極致に至る事。平らにするとはつまり、大気さえも切り裂くと言う事なのよ。


 それを目指す為に、あたしの流派では、ありとあらゆる体勢・姿勢から、一寸のブレのない抜刀を目指し、それこそが極意とされていた。あたしはそう言った、小手先の技術に関して言えば、兄妹の誰よりも覚えは良い方だったからね~


 けど流石に、あんな極限の状態で出来るかは賭けだったけれど、鍔を押し上げた瞬間、身体に掛かる圧力が一気に和らいだお陰で、どうにか成功させる事が出来たって所ね。


「喜んでくれて何よりね。それで、及第点はくれるのかしら?

「あぁ、文句なく合格だ。」


 その一言に、苦笑を浮かべて再びため息を吐いた。その直後、何故か周囲の温度が跳ね上がった。


「ちょ…ちょちょちょ!ちょい!ちょい!!ちょいッ!!

「イ、イフリータ様?!」


 その原因を確認したあたしは、思わず焦って目を見開き、同じ光景を目の当たりにしたエイミーも、驚きと焦りに悲鳴じみた声を上げた。


「何をそんなに慌ててるんだ?約束通り、オレの力の一部をくれてやろうってのに。」


 あたし達の焦りに対して、イフリータは涼しい表情で、事も無げにそう応えてくる。そして、そんな彼女の頭上には、直径20mは軽くある超巨大な業火の塊が、ゴウゴウと音を上げて渦巻いていた。


 いやいや、あんなもんくれるって言われても、ハッキリ言って要らないわよ!!


「炎帝…オレが唯一名前を付けた技だ。さぁ仕上げだ!コイツを見事斬って見せろ!!

「いやいやいやいや!ないないないない!!」


 要らないってのに、切って捨てろと申しますか!ボスケテ~!!


「あん?オレの身体を傷つけられたんだ。この位出来るだろう?これで出力2割位だぞ

「いやそれで2割とか!どんだけ火力インフレしてんのよ?!今時そんなの、サービス末期のアプリゲー位だっての!!

「はぁ?なんだそりゃ。ちゃんと解る言葉で喋れっての!ほらほら、構えないと危ないぞ~?」


 あたしの抗議の言葉に対して、全く取り合う気が無いのか、イフリータがそう言うと同時に、『炎帝』がゆっくりと動き出した。あ、これあかんヤツだ…


「ゆ、優姫さん…」


 呼びかけられて振り向いた先に、不安そうなエイミーの顔があった。それに対してあたしは、三度ため息を吐くと、身体の位置を入れ替えて彼女と向かい合い、そして…


 グイィ~「い、いひゃい?!」


 おもむろにその両の頬を、両手でつねって引っ張った。


「ユ・ウ・キ!!さんハイ

「ゆ、ゆうひ…い、いひゃいでしゅ~」


 あたしの両手をタップしながら、抗議の声を上げる彼女を見て、苦笑を浮かべつつその手を離すと、彼女は赤くなった頬を、自分の両手でさすりだした。あ~ちくしょ~可愛いなぁ~


「さってと。」


 その姿に満足したあたしは、おもむろに立ち上がると、腰に手をあてがいながら振り返って、ゆっくりと向かってくる『炎帝』を静かに見据える。


「ねぇエイミー…とんでもない無茶振りされたんだけどさ。あたしにアレ、どうにか出来ると思う?

「優姫さんなら…」


 またさん付けで呼ばれて、思わず彼女にこれ以上無いくらいの笑顔を向けると、慌てた素振りで顔をぷるぷる横に振り出した。あ~もう、抱きしめたいなぁ~


「ゆ、優姫なら!あんな凄い戦いが出来るあなたなら…私は、出来ると信じられます。」


 まっすぐ見据えられて、そう断言されてしまった。その答えを聞いてあたしは、思わず自嘲しながら、再び『炎帝』と向かい合う。


「…なら、その期待に応えなきゃね。あなたの前に立ち塞がる障害は、地平の彼方までぶっ飛ばすって、約束したばっかりだしね。」


 そう言いながらあたしは、半身になって構える。右足を前に出してやや膝を折り、重心はやや前のめりに置き、左手に持った兼定を、鞘に収めたまま頭上へと掲げる。


 そして、頭の上に柄が来るように構え、その柄に右手を緩く添えた。


「武人一刀居合術、立合の構え一之段、唐竹…」


 そもそも居合とは、座して構える抜刀術の総称を言い、それ以外の立ちでの構えの事は、そのまま立合と呼ぶ。詰まる所、言い方が変わっただけで、居合の本質って言うは、様々な古流剣術の技において、必ず存在する抜刀の型に重点を置いて、究極まで高めた技の事を言うのよ。


 そして、あたしの実家の武人一刀居合術には、様々な体勢・姿勢で抜刀術を行えるように、真っ先に鍛えられる。そしてこの構えは、うちの流派の中でも、一番オーソドックスな立ち居での構え。


 たとえどんな構えであろうとも、武人一刀居合術の理念は、等しく『全てを一刀の元に平らにする』と言う事に変わりない。ならば、たとえ太陽(炎帝)が相手であろうと、見事斬って見せましょう!


「…『断罪』!!」 


 迫る『炎帝』を見据え、間合いに入ると同時に、九字兼定を一息に抜刀する。銀の煌めきが走ると同時に、その刀身には超大に伸びた蒼銀のオーラが、巨大な炎の天辺から入り、文字通り一刀の元に両断した。


「お見事!!

「ッ?!」


 直後に両断された『炎帝』に変化が起きた。イフリータの感嘆の声と共に、業火だったそれは無数の赤い粒子と変わって、それら全てが九字兼定へと吸い込まれていった。


 何が起きたのか、正直解らなかったけれど…1つだけ確かに言える事は、こうしてイフリータの試練は、紆余曲折を経て納得いかない事も多々あったけれども、無事に幕を下ろしたと言う事だけだった。

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