異世界召喚ってそんなお手軽なものでしたっけ?(1)
ありのまま今起こってる事を話すわ!金髪碧眼の見た事もない様な美女が、テーブルの上で土下座してるんだ。な、何言ってるかわかんないと思うけど、あたしも何言ってるんだかわかんないんだ。
「本当に!申し訳ありませんでしたー‼︎」
いやぁ引くね、良い大人のマジ土下座って、マジ引くね。腰を落ち着けて、とりあえず色々聞こうと思ったのに、案内されたと思ったら、ヨロヨロと机の上に登ってからのこの状況。うん、無いわこれ。
「…あ〜、とりあえず恥ずかしいんで、頭上げてもらえます?エイミーさん」
そう言って、周りを気にしながら、エイミーと紹介された彼女に言う。なんでかって?答え、周りにいる美男美女のエルフ達の視線が気になるから。
何だろうこの罰ゲーム…
「…本当に申し訳ありません。まさかこんな事になるなんて…」
そう言って、ようやくエイミーが顔を上げてくれた。けどその表現には、苦渋の色が張り付いているが見て取れた。
改めて、順を追って説明すると、あの後すぐに、他のエルフ達が応援に現れて、負傷した男達の応急処置がその場で行われたんだけど、その時あたしも、不審者として取り調べられたのよね~
その時に、彼女『エイミー・スローネ』の証言と、あたしの見慣れない身なりから、異世界者と結論付けられて保護されたのよ。
それからすぐに、彼女達エルフの隠れ里へと案内されて、割と大きな木のウロに通され、詳しい話を聞けると思いきや、美女のマジ土下座を経て今に至ります。はい、状況説明終了!
「改めてまして、エイミー・スローネと申します。」
そう言って、エイミーはその場で正座したまま、頭をペコッと下げた。ちくしょう、可愛いな。
腰を据えられた事で、ようやく人心地ついたので、じっくり彼女を観察してみる。煌めく様な長い金髪に、透き通る様な白い肌と、ややタレ目な切れ長の瞳。小ぶりで形のいい鼻はやや高く、スッと筋が通っていて、口も小さくて少し厚みのある唇はプリッとしていた。ちくしょう!可愛いな‼︎
今は正座してるから判りずらいけれど、並んで歩いた時に確かめた感じだと、背はあたしと同じくらいはあるはずだ。ちなみにあたしは170cmなので、大体そのくらいあるはず。
そして、同性のあたしから見ても羨ましい位に、そのスタイルも抜群で、腕と脚はスラッと長く、胸は…まぁ身長の割には慎ましい方だけど、その代わりに腰のくびれが凄いのよね~正直エロいわ。
まぁ全体的に見ても羨ましいプロポーションで、パリコレに出ても違和感ない感じの整った体型だった。いいなぁ〜あたし昔から根っからのスポーツ少女で、全体的に細いは細いんだけど、基本筋肉質だから固いのよね、腹筋割れてるしー。胸は結構あるけどハト胸だしー。
あぁ言うシュッとした体型とか本当羨ましいわ。顔も可愛い系で、何より長い金髪の隙間から見える、長く尖った耳がピコピコよく動いてるのを見ると、マジこの可愛い生き物反則だわーとしか言えない。
ほら、現に今も影のある顔で少しうなだれ気味なのに、耳がピコピコ…ドチクショウ‼︎本当可愛いなもう‼︎
え、しつこい?サーセン。
「鶴巻優姫です。あの、落ち着かないので椅子に座り直してくれませんか?
「あぁ!すみません!」
喉まで出かけた本音をごっくん飲み込み、あたしはそう切り出した。だってさ~マジ目と鼻の先だからさ~彼女の顔を見るには、見上げないといけないから、首が疲れるのよね~視線を戻すと、身体のラインがはっきり分かるくらい、ピッチリした服着てるもんだから、色々目のやり場にも困るし。
あたしの言葉に従って、彼女はテーブルを挟んだ向かいの席に座った。ようやくまともに会話が再開出来ると思い、あたしはとりあえず気になっていた事を聞く事にした。
「それにしても驚きました。こっちの世界では土下座が主流なんですか?
「土下座…って何です?」
あたしの質問に、不思議そうに彼女は小首を傾げた。だからその仕草がいちいち可愛いんだっての。
「異世界での誠意の見せ方だと、昔知り合った方が言っていたのですが、何か間違えていましたか?
「あー、間違っちゃいないですけど、それ随分古いし、しかもかなり偏った情報ですよ。」
ぶっちゃけ罰ゲームですよと、続く言葉を飲み込んで、後学の為にも彼女の間違いを訂正しておく。今後、私じゃない誰かが同じ様な罰ゲームを受けない為にもね。
「そうなのですか。もう600年位前ですものね、色々変わっているのでしょうね~」
その一言に、あたしの表情が若干引きつる。マジか〜まぁエルフって時点で、そうだろうとは思ってたけどさ。
でも、考えていただきたい。この目の前の見た目20代前半の可愛い系美人が、少なくとも600歳は超えていると言うこの理不尽を!
ちなみに、男達に襲われていた、10代くらいの少年が居たじゃない?彼はジョンと言う名前の62歳のナイスミドルガイでした。
ジョン『くん』じゃないです、ジョン『さん』です。ここ重要!
「…な、なんか異世界人について詳しいみたいですけど、こう言う事って頻繁にある事なんですか?」
年齢の事を詳しく聞くと長くなりそうだから、とりあえずその話題は放り投げて、別の話題にすり替える事にした。異世界物じゃ、エルフの実はうん千歳って話題にびっくりして、そこからトークを広げていくとかがテンプレなんだろうけど~…そんな事知らん!
そんなお決まりの空気なんて読まぬ!空気なんて読むものじゃなく作るものだ。うん、あたし今良い事言ったわ~だからそこ、モノローグで良い事言ってもとか思わない。
「全然頻繁にある事じゃないですよ!この里は外と隔絶されているので、外の世界を知らない里の者達には珍しいでしょうけど、話に聞く位はありますし。私自身、数十年位前まで冒険者をしていたんですが、異世界人の冒険者って割と多いんです。先程の土下座…?も、600年位前に知り合った、お侍と言う職業だった冒険者に教えて頂いたんです。」
あたしの言葉に、彼女は両手をパタパタと振りながら、慌てた様子でそう話を続けた。お侍は職業と言うかむしろ階級と思ったけど、とりあえずスルーする。
「すみません本当に。私も長く精霊術師をしていますが、こんな事起きた事なんて、今までありませんでしたし、聞いた事もないんです。本当に、どうしてこうなってしまったのか…」
さらにそう続けて、また落ち込んでしまった。さっきからあたし達の間で話題になっている、あんな事やらこんな事ってのは、つまりあたしがこの世界に召喚された経緯についてだ。
彼女『エイミー・スローネ』女史は、今彼女が自分でも言った通り精霊術師なんだそうだ。それも結構有名な。
精霊術って言うと、異世界物じゃお決まりの能力よね〜あたしの知ってる代表的なものだと、精霊と契約して、その一端の力を使えたり、精霊と契約した事で、その系統の魔法を使える様になったり、一番強そうなのだと、契約した精霊を召喚したり出来るのよね。んで、この世界の精霊術って言うのは、その一番強そうな、精霊自体を召喚するという、某○イルズ系の術だそうだ。
ここに通される迄の間、歩きがてら彼女から事のあらましを簡単に聞いていた。最近この里の近辺で、エルフを狙った人攫いの集団が、頻繁に出没するようになったらしい。
それだけだったら、許可の無い他種族が、勝手に入ってこれない様、結界的なものが張られているから、その中に閉じこもっちゃえば平気だったらしいんだけど、さすがになんでもかんでも、その結界内で自給自足出来る訳じゃないし、見回りもしないといけないから、結界外に出る際は、複数人で行動する事になっていたんだそうだ。
それであの男達に狙われた場面まで戻るんだけど、エイミーさんとジョン『さん』も、見回りと食料調達の任務をしていたんだって。言いたい事は分かるよ?見た目ショタ美少年が、なんで自警団的な事してるのかって思ったよね?
それもまぁ、仕方ない事なのよね〜隠れ里って言うだけあって、ここの人口は50人位しか居ないらしい。その内、戦えるのが見習い含めてせいぜい15人。
その人数だけで里の警備を賄うのは、さすがに厳しいでしょうね。本来なら、他の住民と協力して、分業出来るんでしょうけど、事態が事態だけにそうもいかないわよね。
そう言った理由から、人材を遊ばせておく余裕が無いので、彼の様な将来有望なショタ美少年まで、駆り出さないといけない事態だったって訳。まぁそうは言っても、将来有望なショタ様なので、安全性を考慮して、この里一番のベテランで、彼が師事しているエイミーさんとペアを組んで行動していたんだって。
うん、間違いなく人選ミスだよね、それ。妥当な組み合わせだと思うけど、パッと見美女にしか見えない女性と、どう見ても子供にしか見えない2人組みなんて、誘拐犯からしたら鴨がネギしょって、鍋で水浴びしてる様にしか見えないよね?
んで、結果的に運悪く誘拐犯達に見つかる→ショタ様実戦経験の無さからお荷物→エイミーさんがショタ様護って、あばばばば。と言う図式が出来上がったと、嫌な三段跳びもあったもんだわ~
その後、咄嗟に精霊術でイフリータを召喚したつもりが、バッバーンとあたし参上!で、切った張ったでめでたしめでたし。なんていかないのよね〜って言うか、イフリータってよく聞く火の精霊よね。
いくら咄嗟にと言っても、可燃物満載の森のど真ん中で、炎を千切っては投げるようなもん召喚しようとするとか…エイミーさん、恐ろしい子!
ま、炎を自在に操れるって事は、逆に消したりも出来るんだろうから、大惨事にはならないんだろうけどね〜それでも、絵に描いたような美しい森の一部でも焼いちゃって、せっかくの景観を台無しにしなくて済んだあたり、あたしが召喚されてめでたしめでたしなのかもね。
「まぁ、起きた事は仕方ないですし、何か別の原因があったのかもしれないですし。じゃぁあたしは、イフリータとして間違えて召喚された、人族って括りでいいんですかね?」
なんて、自分が間違いから召喚された事に、無理矢理納得して話を続ける。なんで間違えたのかとか、まぁ放置していい問題じゃないけど、起きた原因探していつまでも立ち止まっているよりも、今後の方針をまず決めて行動した方が生産的だしね。
問題は山積みだけど、だからこそ優先順位をしっかりつけて、片ずけていった方が効率的よね。基本合理主義なのよね〜あたしは。
「それなんですけど…私が起動した精霊術で、鶴巻優姫さんが召喚されたのは
「優姫で良いですよ。
「では、私の事もエイミーとお呼び下さい。それは間違いないと思いますが、それだと色々説明がつかないんです。まず精霊術についてなのですが、そもそも精霊術とは、召喚して必要な時間の間使役し、召喚した者を帰還させる。ここまででワンセットの術式なのです。
「…つまり、用が済んだ筈なのに、あたしが帰還しないのがまずおかしいと?」
彼女の説明を聞いて、率直に思った事を口に出してみた。すると彼女は、真剣な表情で頷いて、あたしの考えを首肯した。
「はい。精霊術は、術師が契約を結んだ精霊様との間に、まずパスを繋いで、召喚に必要なマナを送り、精霊様の分体をそのパスを通して送ってもらうのです。そして、必要な時間パスにマナを送り続ける事で、精霊様側から流れてくる力は、こちら側に顕現させる事が出来ます。その間だけ精霊様を使役する事が出来る、という仕組みなのです
「なるほど、様は水道の蛇口って事か…けどそれだと、急にそのマナってのを止めちゃったら、その分体ってのは残っちゃうでしょ?
「いえ、分体に精霊様の意識が宿っているので、そんな事をしたら、純粋な力の塊となって弾けてしまいますし、精霊様にも負担がかかってしまいます。それに、これが一番重要なのですが、精霊様と繋がるパスにも影響を与えてしまうでしょうから、最悪精霊術が使えなくなる可能性もあります。そうならない様に、マナを送るのをやめると、パスに蓄積されたマナを消費して、力を帰還させる術式が自動展開されるんです
「なるほどね〜」
理解出来たのかって?ふ、愚問ね…これでもあたしは異世界ラノベ好きなのよ!様するに、1精霊術には相手側が必要、2召喚する前に精霊と術者をパイプで繋ぐ必要がある、3召喚、使役、帰還までの術式は、一度発動するとオートで行われる、4その術式は1種類ではなく、複数の術式が組み合わされている、って事でしょう。あたしが思っていたより、ずっとデジタルな感じでびっくりだわ。
これってまんまアレよね?術式1つ1つがプログラムで、それらのプログラムを連結したり連携させたりして、召喚術って大きなソフトを起動してるって事でしょ?すっごいシステマティックよね〜




