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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第二章 訪問編
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いちはじ!(はーど!)(3)

「…優姫さん、大丈夫ですか?」


 その声に、閉じた瞳をゆっくり開くと、開かれた扉の中の光景が目に飛び込んできて、あたしは思わず息をのんだ。


 そこは、山の内部とはとても思えない程、広々とした空間が広がっていて、至る所に例の精霊石が、なるで鍾乳石のような形で、無数に天井から生えていた。そして、天井から垂れた特に太く長い物が、柱のように地面まで達して、見事な天然のオブジェとなっていた。


 そして、さっきも見た蛍のような光が、部屋の中を無数に飛び交って、ただでさえ幻想的な光景に拍車をかけて、神秘性を兼ねそなわせているように見えた。そう感じるのは、その光がとても華やかで、色の種類が、赤を基調に桜色や濃い紅色と、色々な濃淡の光が飛び交っているからでしょうね。


 まるで光に包まれた、天然の神殿ね…綺麗だわ。何時までも見ていられる位に…


 エイミーに声を掛けられていた事も忘れてしまうぐらい、あたしはその光景に魅入っていた。ただただ感動的で、胸が締め付けられる様な感覚に襲われた。


「何だ貴様達。エルフと…人か?」


 不意に、知らない声が聞こえて我に返る。実際には、扉が開かれてから、秒も経ってないんだけど、あまりにも感動的な光景に、時間の流れが引き延ばされていた感覚から、突然戻された妙な感覚に襲われた。


 ブルッと、寒気のような物を感じて、空いた手で身体をさすりながら、聞こえてきた声へと視線を向ける。そこには、腰に短剣を差した精悍な表情の男性だった。


 背は高くて180は軽くあるでしょうね。肌の色は赤黒くて、その髪は炎のような紅蓮の色。


 その体つきは、無駄な物を全てそぎ落としたと思える位、凄く引き締まっていて、何より特徴的なのは、お尻から伸びた蛇のような尻尾でしょうね。その尻尾が、腰に巻いてある布から伸びてるんだけど、身につけてるのがその布だけだから、ハッキリ言って目のやり場に困ります。


 意志の強さを感じる切れ長な瞳は、爬虫類を思わせるように瞳孔が縦長で、太めの深紅の眉はつり上がっていて、眉間に深い皺を刻んでいる。こけた頬にやや低めの鼻、口はきつく結ばれて、その耳はエイミー達エルフ程じゃないけれど、やや長めで尖っていた。


 その彼を先頭に、同じ格好をして手に槍だけ持った男達が、あたし達の行く手を遮るように立ちはだかっていた。


 事前に聞いていた通りの容姿ね。彼等がサラマンダー…精霊種の中で、特に戦闘能力に特化した、少数部族って話だけど…予想以上に、圧が凄いわね。


 まぁ、問答無用で攻撃されなかっただけマシね。最悪、そう言う事もありうるからって、武器の類いを全部置いてきたのよね~


「私は精霊使いのエイミー・スローネです。イフリータ様にお目にかかりに来ました

「黄金の精霊姫か…今更、我らの長に何用だ?おまえとは既に契約済みだろう

「えぇ、まさにその契約の件で、伺いました

「…理由を聞こう。」


 短い会話の後、あたし達がここに訪れた理由を、エイミーが彼に話し始める。その間、あたし達は1歩も動くことが出来ない。


 と言うか、下手に動けないのよね~そもそも精霊術っていうのは、精霊種にしか扱えない術だから、精霊の住む地に他種族が入る事なんて、滅多に無いことらしいのよね。


 特にこの火の精霊が住む地は、あのエルフの隠れ里以上に、外界との交流が無いのそうなのよ。場所が場所だけに、気軽な観光目的で、訪れるような人だって居ないから、必然的にここまで来る人の目的も限られてくるし。


 それこそ、火の精霊イフリータかその眷属サラマンダー達に、何らかの要件がないと、こんな所まで来ないでしょ。それが悪意か好意かは別としてね。


 まぁでも、この大量の精霊石の盗掘ってのも、考えられるわね。エイミーったら、あたしを驚かせようとして、これについて教えてくれてなかったみたいだけど、それなりに価値のありそうな物に見えるし。


 そんなもんだから、サラマンダー達も、この地に来た異種族を必要以上に警戒するんだそうだ。ちょっとでも敵意を見せたら、それこそ問答無用で攻撃される位の覚悟は必要だって、エイミーに釘を刺されたのよね。


 だから、少しでも心証を良くする為にも、手荷物は全て宿に置いてきたって訳。でも正解よね~外は魔法付きでも相当暑かったし、その上荷物込みで山登りなんて、ちょっとしんどそうだわ。


「…と、言うことなのです

「…にわかには信じがたいな。だが

「嘘を吐いた所で、私には何の得もありませんよ

「で、あるな。良かろう、イフリータ様に取り次ごう。そこで少し待て。」


 エイミーの説明を聞き終えて、サラマンダーの男は、疑い半分と言った感じだったけど、どうやらなんとか話が纏まったみたいね。まぁ、ほとんどエイミーに対する信用で、納得してくれたって感じだけどね。


「感謝します。サラマンダーの戦士よ

「カトラスだ。おい…」


 エイミーの言葉に、カトラスと名乗ったサラマンダーの男は、後ろで待機している部下らしい男に視線を送る。そして、視線を向けられた男は1つ頷くと、あたし達に背中を向けて奥へと向かっていった。


 ひとまず、穏便に済みそうで良かったわ~けど、相変わらずあたし達は、開かれた扉の向こう側に入れないままだし、めっちゃ警戒されてるけどさ。


 まぁ、それも仕方ない事だとは思うけどね。人の家に許可無く踏み込んじゃ、誰だって怒るしね~それが、この世界の人間ならまだしも、異世界人なら尚更よね。


 っていうか、あたしもそろそろ喋って良いのかしら?話が纏まるまで、喋んないでって言われてたのよね~


 ほら、あたし喧嘩っ早いし、よく挑発するような事も言うしね。ついにエイミーたんに、トラブルメーカー認定されちゃったって訳ですね、解ります!


 まぁ、エイミーの事だから、きっと他意は無いと思うのよ、うん。無いよね?


 しっかし、どう切り出したもんかなぁ~部下の人が奥に向かってから、誰も何も喋ろうとしないから、妙に居心地が悪いのよね~


 サラマンダーの人達も、敵意は無いけど警戒解いてくれないから、話しかけづらいし。エイミーもエイミーで、黙って待ってるもんだから、完全に話しかけるタイミングを逃しちゃったのよね~


「…ん?

「どうしました?」


 あたしがどう切り出すか考えていた所に、辺りを飛び回っている蛍の光が1つ、あたしの周りを周回するように、飛び回っている事に気が付いて声を漏らした。それに反応したエイミーが、視線をあたしに向けて、不思議そうに聞いてくる。


「いや、この光なんだけど…?」


 そうあたしが呟いた瞬間、周りの空気が明らかに変化したのに気が付いて、不審に思って眉をひそめた。エイミーは何か驚いてるし、あたし達を警戒しているカトラスも、眉間に刻んだ皺を更に強めて、その後ろのサラマンダー達からは、ざわめきが沸き起こっていた。


「え?な、何…あたし、なんか変な事言った?」


 その場に居た一同の反応に、さすがに少したじろぎながら、あたしは更に言葉を続けた。


「優姫さん、まさか…微精霊が見えてらっしゃるんですか?

「微精霊って、この赤い色した光の球の事?」


 エイミーの問い掛けに、あたしがそう答えると、サラマンダーのざわめきが更に大きくなった。え、何?それがなんかまずい事なの??


「…どうやら、おまえの話は本当の様だな、金色の精霊姫よ。確かにその者は、ただの異世界人では無いらしい

「は?どういう箏よ

「それはですね…魔力の弱い下位精霊以下の精霊は、よほど魔力との親和性が強い者か、同じ精霊同士でも無い限り、その存在を目視できないのです

「え?…と、つまり?」


 カトラスの言葉にあたしが反応して聞き返し、その答えをエイミーがする形で引き継がれる。そこまで聞いて、嫌な予感しかしないあたしだけど、聞かない訳にもいかないので聞き返すと、彼女は困った表情を浮かべて、言葉を続ける為にまた口を開いた。


「えっと…今私の目には、優姫さんの言うような、赤い光の球を確認できません。私達精霊種でさえ、下位精霊なら目視できるのですが、微精霊になると、そこに存在しているのは感じ取れても、目視するには様々な条件が重なって、ようやく見る事が出来る位なのです

「微精霊を、普段から目撃できる種となると、フェアリー達くらいだろうな。彼等は、我ら精霊種の中でも、特に魔力との親和性の強い者達だからな。」


 エイミーの言葉に続いて、カトラスが更に補足するように説明してくる。はい、ここに来てまたいただきました、あたし人間じゃ無い説。


 あ~あ~!もう聞こえな~い!!言ってる意味もわかんな~い!!


「…大丈夫ですか?

「ハハッ…大丈夫に見えるん?」


 2人の説明を聞いて、あたしは自嘲気味に苦笑しつつ、うなだれながらやさぐれていた。その様子を見て、エイミーが声を掛けてくるけど、それにあたしは、乾いた笑みを浮かべて応えた。


 いやぁ~途中から予想は出来てたけどさ、しょうが無いじゃない?なんだか、この世界じゃあたしが人間外の存在だって事実が、周りから固められてるような気がするんだけど…


 そんなあたしを、まるで慰めるかのように、さっきからあたしの周りを飛び回る微精霊の1つが、あたしの鼻の上に止まって煌々と輝いていた。


 真っ赤なお鼻の~って、歌ってる場合じゃ無くて。この子、扉の外に居た子みたいなんだけど、どうしてあたしに纏わり付くのかしら?


 何故だか解らないけれど、あたしにはその子が、扉の外で最初に見かけた微精霊だって解った。他にも、似たような色や大きさの微精霊が居るのに、何故かその子だけ他と違うように見えたのよね。


それに、慰めてるようにって、あたしなんでそんな風に思ったのかしら?まるで、この子の考えが伝わってくるような…


「カトラス様!」


 ふと、そんな事を考えていた所に、先ほど奥へと向かっていったサラマンダーの男が、駆け足で戻ってくると、カトラスに近づき耳打ちで何かを伝え始める。


「…イフリータ様が、おまえ達にお会いされるそうだ。」


 耳打ちで何かを伝えられたカトラスは、それだけ告げると、あたし達に背中を向けて、部下達を引き連れて奥へと向かっていく。そんな無愛想な彼の態度に、あたしとエイミーは思わず顔を見合わせて、お互い苦笑を浮かべた後、先行する彼等の後を追って歩き出した。


 ちなみに、まだ恋人つなぎだったりします。いや、なんか離すタイミング逃しちゃってさ~


 まぁ、これはこれで良いんだけどね、気がかりはやっぱり、あたし達の後を追って、あの微精霊が着いてきてるのよね~これが俗に言うあれね、仲間になりたそうに、こっちを見ているってやつね!


 少し考えた後、あたしはため息を吐いて、その微精霊に視線を向けてから、空いてる手で自分の髪に指を向けて合図を送る。すると、意味が伝わったのか、その子はあたしが指差した髪の中に潜り込んだ。


 ま、可愛いものじゃない?害がある風でも無いし、着いてきたいって言うんなら、別に構わないでしょ。周りにたくさん居るんだし、他の人に見えないって言うんなら、1体くらい居なくなったってね。


「…どうかしたんですか?

「フフッ、落ち着いたら後で教えてあげるわよ。」


 不思議そうに聞いてくるエイミーに、あたしが悪戯っぽく笑って返すと、不思議そうに首を傾げたのだった。


 ま、2人旅も悪く無いんだけどね~あたしにしか見えてないみたいだけど、存在は感じ取れるって言うんだし、後でちゃんと紹介してあげないとね、この小さな隣人の事を。

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