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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第二章 訪問編
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いちはじ!(は~ど?)(6)

私達(わたくしたち)も、ここに着くと同時に呼び出されて、知らされたばかりなんですの。報せは、今朝方中央から届いたそうですわ

「そんな…一体、どの地域のフェンリル様ですか?!」


 シフォンの言葉に、驚きの余り言葉を失っていたエイミーが、我に返って聞き返す。その問いに対して、彼女は首を横に振って答えた。


 話の内容について行けないけれど、内容からして相当深刻な状況なんだって言う事は、部外者のあたしにだってさすがに解ったわ。きっと、それだけ重大な事だから、情報も錯綜して滅茶苦茶なんでしょう。


 だから、ただ単純にシンプルな事実だけ…フェンリルが死んだと言う情報だけが、真っ先に各地に伝播してしまったんでしょうね。


「ねぇ、フェンリルって確か…

「あ、は、はい。この世界の守護獣で、世界に3体存在していました。実力は世界最強の龍王様に次ぐと言われています。」


 さすがに、エイミーやシフォンに聞ける様な雰囲気じゃ無かったから、隣に座るジョンに小声で耳打ちして聞いてみる。そして返ってきた返事に、あたしは顎に手を当てて、考えを巡らせる。


 世界最強の龍王ってのも気になるけれど、それに次ぐ実力って事は、実質世界ナンバー2の存在って事よね。そんなのが3体居て、1体居なくなった訳だけど…


 その上の龍王ってのがご健在だし、他に2体居て更に守護者・守護獣も居るんだし、そこまで深刻な状況なのかしら?ってか、この世界の防衛力、オーバースペック過ぎやしませんかね?


 ん~、この場合倒せる存在が居るって事実が、一番の問題なのか。少なくとも、そいつにとっての最大の脅威は、最強の龍王だけなんだろうし。


 とは言っても、その世界最強の龍王様の実力も、倒されちゃったフェンリルの事も、あたしは全然知らないし、フェンリルを倒したって言う奴が、複数だったのか単体だったのかも解らないから、なんとも言えないんだけれどね~


 だけど、そのフェンリルが倒されてしまった事と、あたしを冒険者にさせたい事の繋がりが、いまいち解らないのよね~まさかそのフェンリルの実力が、あたしが頑張れば手の届く位だなんて、そんな訳もないだろうしさ。


 フェンリルと言えば、あたしの世界でだって有名な魔獣だ。北欧神話において、悪戯の神ロキの息子として描かれている、神々に災いをもたらすと恐れられ、ラグナロクの際には、主神オーディーンを飲み込んだとされている最強の魔獣。


 その姿は、巨大な狼の姿をしているって話だけど、この世界のフェンリルもそうなのかしらね?


「詳しい事はまだ、何も伝わっていないのです。ただ、フェンリル様がジェネラル級に敗れたと…そのジェネラル級も、深手を負ったようで、次元の穴へと帰還したとしか。」


 あたしがあれこれ考えていると、2人の会話に割って入るように、ルカさんがそう言って、シフォンにも伝えたのであろう情報を、エイミーにも伝える。


「…その情報は、信用出来るんですね?

「中央のギルド本部、グランマスターの印章付きで届きました。ご覧になられますか?

「いいえ、結構です。それで、その情報はどの程度広まっているのですか?

「各支部のギルドマスター級と、次席級。それと、各支部で最も信用出来る、金・銀等級の方々…と言った所でしょうか。少なくとも、この街に限って言えば、(わたくし)と次席。それと貴女方にしか、お伝えしておりません。無用な混乱を、招くだけですから

「そう…そうですね。」


 ルカさんの返答に、納得した様子で呟いたエイミーは、そのまま考え込む仕草を見せる。そのやり取りから、事実を公にしたら、人々が恐慌しかねない程の重大事件なんだと悟った。


 けど、部外者のあたしにとっては、事の重大さがかなり曖昧だから、いまいちピンと来ないのよね~誰かあたしにも判るような、簡単な例えプリ~ズ!


 例えばゴ○ラがメカに負ける様なとか、悟○がベジ○タに倒されるとか、そんな感じ?うん分かり易いわ~


 悪ふざけしてサーセン


「ま、いずれは知れ渡るんだろうし、すぐにどうこうなるって訳でもないんだし、ここまで徹底して、かん口令を敷く必要も無いと、あたいは思うだけどねぇ。」


 重い空気が室内にのし掛かる中、その空気にいまいちついて行けないあたし同様、結構あっけらかんとした感じで、リンダが話を切り出した。


「そうは言いますが、無用な混乱を招けば、民衆に余計な不安を煽るようなものですわ。現時点では、これが一番良い選択ですわ

「けどねぇ…今のうちから準備しといた方が、あたいは良いと思うだけどねぇ…」


 リンダの言葉に対して、ため息交じりにシフォンが苦言を漏らす。その言葉を聞きながら彼女は、何故かあたしに視線を向けつつ、そう続けた。


「準備…って、なんのよ?」


 あたしは、嫌な予感がしつつも、その言葉の真意を確かめる為に聞き返した。すると彼女は、お得意の獰猛な笑みを浮かべて…


「戦争さね。」


 と、愉しそうに呟いた。その一言に、部屋の空気ががらりと変わり、張り詰めた緊張感が走る。


 ゴクリと、隣に座るジョンの生唾飲み込む音が、嫌に大きく聞こえた位に、室内は静寂に包まれていた。あたしは、今なお獰猛な笑みを浮かべて、見つめてくるリンダに向かって、口角を上げて無理矢理笑み作ってみせた。


 なるほど。リンダの思惑が何なのかと思っていたけど、とどのつまりは、起こりうるだろう戦争に対しての、人足って訳ね…彼女的には単純に『今度戦争があるんだけど、一緒にどう?』ってお誘いなのかもだけどね。


 短い付き合いだけど、彼女の場合本当にそういう意味合いで、誘ってる可能性があるから、質が悪いのよね~そんな『通学路に新しくクレープの店出来たんだけど、一緒に行かない?』的なノリで、戦争誘われてもね~


「…早計ですわよ。まだ戦争に発展すると、決まった訳ではありませんわ

「えぇ。ルアナの守護に穴が空いたのなら、大規模侵攻も視野に入れて、緊急招集が全国に掛かる筈です。そうで無いと言うことは、それ以外の地域…おそらくは、ラインのラシャメル草原のフェンリル様が、御隠れになられたのでしょう。」


 しばらくの静寂の後、まずはシフォンが口火を切って、それにエイミーが続く。


(わたくし)も御2人と同意見でございますな。ラシャメルの地域だと仮定して、あの辺りなら、四方の護りも強固ですからな。小規模な侵攻が行われたとしても、いくらでも対処が出来るでしょう

「そうかい?もしラシャメルだとしたら、今まで現れなかったジェネラル級が、いきなり現れたって事の方が、あたいとしちゃ、問題だと思うんだけどねぇ

「それは…確かにそうですが…」


 そうして、更に続く話し合いに、完全にあたしとジョンキュンは蚊帳の外。ウェ~イ!


 まぁね~ジョンキュンは、田舎から出てきたばかりの、上京組みたいな者だから、世界情勢に疎いのは仕方ないし、あたしはそもそもこの世界の地理さえ知らん!


 だからまぁ、話し合いに参加出来なくて、やきもきした気持ちにさえ成らない訳で。ジョンキュンに至っては、完全にフリーズしちゃってるし。


 そんな彼の横腹を、あたしは肘でツンツンして正気に戻して、さっきリンダに渡された紙片を見せて、ジェスチャーで書いてとお願いする。だってあたしじゃ読めにゃいもん。


 それで彼も用紙のことを思い出したのか、テーブルに用紙を広げて、そこに備え付けられていたペンを手に文字を書き始める。それを眺めつつ、今更ながらにお茶位出ないのかしらと、今更過ぎることを考えていました、ちゃんちゃん。


「…だからこそさ、優姫のような奴が、戦力として欲しいのさ。なぁ?

「ん。え?」


 急に話を振られて、あたしは思わず振り返った。見ると、その場の視線があたしに集まってきていた。


 ごっめ~ん、全然聞いてなかったわ。いつの間にか、またあたしの勧誘話にでも成ってたのかしら?


 ん~、どうしよう。思ってること、そのまま言っちゃおうかしら?いい加減めんど臭くなってきたし。


「…あ~、熱くなってる所悪いんだけど、ここで始まってもいない事で、議論を重ねても仕方なくない?」


 と、覚悟を決めて、思っていた事を口にする。その一言は、完璧にそれまでの会話に水を差して、ピタリと時間が止まった様な静けさに包まれた。


 ててれてってて~ つるまきゆうき は えあぶれいかー の しょうごうをてにいれた


 だって、しょうがないじゃん?事実だし。そろそろおなか空いてきたのよ←そんな理由


「…その通りですわね。優姫さんの言う通りですわ。」


 一旦間を置いて、シフォンがそう呟くと、ソファーからゆっくりと立ち上がった。怒気は感じられないし、怒ってないよね…よね?


「起きてもいない事を、あれこれ考えるよりも、まずは目の前の事から…ですわ。リンダ、ジョンさん、そろそろ発ちますわよ

「え、あっは、はい!」


 立ち上がったシフォンは、静かにそう呟いて2人を促す。それにジョンが、慌てた素振りで立ち上がり応えた。


「おいおい大将。急にどうしたんだい?」


 一方のリンダは、未だにソファーに腰を掛けたまま、隣に立つシフォンを見上げながら、そう問いただしていた。そんな彼女をシフォンは、ため息交じりに見やった。


「急では無いですわよ。起きてもいない戦争を、危惧するのも大事ですが、それよりも今助けを求めている、連れ去られた方々の救出が先でしょうが

「そりゃ…チッ、そうだったねぇ。」


  そう答えてリンダは、無造作に頭をかきむしりながら、渋々と言った感じで立ち上がった。


「なぁ。飯食ってからでも良くないかい?あたい、腹減っちまったよ

「話をややこしくしたのは、貴女ですわよ。携行食で我慢なさい

「うぇ~い…」


 シフォンにそうキッパリ告げられて、彼女の要求は問答無用で却下される。それに対して、不満を全く隠さずに、リンダは返事を返しつつ、扉に向き直って歩き出した。


 う~ん、あたしもお腹空いてるし、ちょっと可哀想…


「あ~、優姫

「ん?」


 ふと、扉に手を掛けた所で、言いにくそうにしながら、あたしに向かって振り返るリンダ。


「すまなかったねぇ。色々とあたいの意見を押しつけちまって…あんたが元の世界に帰るつもりだって、知っていたって言うのにさ

「別に、気にしてないわよ

「そうかい。ならすまないついでに、最後にもう1つだけ押しつけさせとくれ。あんたの元の世界が、平和な場所なら、それに越したことは無いけれどね、あんたの実力と秘めたる才能に触れて、もしも戦争になったら、あたいの背中をあんたに預けたいと思っちまったんだよ。だから…」


 ガチャ…「()()()。」


 それだけ告げて、彼女は扉を開いて、あたしの返事を待たずに出て行ってしまった。一方的に押しつけられた、彼女の意見(独善)だったけれど、不思議と悪い気はしなかった。


「全く、本当に一方的ね…

「ですわね。ですが(わたくし)も、貴女には悪いと思いますけれど、少なからずあの子の気持ちも解るんですの

「シフォン…」


 彼女の言葉に、真っ先に反応したのはエイミーだった。多分、彼女がそんなことを言うなんて、単純に意外だったんでしょうね。


「…失言でしたわね。早く帰れると良いですわね、元の世界に

「ありがと。あなた達も、早く仕事が片付くと良いわね

「えぇ。エイミー

「はい?

「彼女を送り届けましたら、私達(わたくしたち)に合流して下さいましね

「えぇ、もちろん。」


 あたし達と短い会話を交わして、彼女も部屋の扉に向き直って歩き出した。そして、扉をくぐる手前で立ち止まって、視線だけこちらに向けて…


「では、また…優姫さんもお元気で。」


 そう微笑んで告げてきたので、あたしも微笑みを浮かべて、手を振って返した。


「あ、あの!

「ん?」


 不意に呼びかけられて、隣に立っているジョンを、座った状態で見上げる。見ると、今にも泣き出しそうな表情をしている、彼の姿が目に飛び込んできた。


「色々、ありがとうございました。その…もう、会えない…んですよね?」


 不安そうな、寂しそうな…そんな、色々な感情がない交ぜになった表情をする彼に、あたしは苦笑を浮かべながら立ち上がって、彼の両頬を手で包み込み、そして…


「え?あ、あの…」チュッ「ふ、ふぇ!?」


 そのおでこに顔を近づけ、あたしの唇を押しつけた。顔を離すと、耳まで真っ赤にして、驚いた表情を浮かべている彼。


 その表情に満足しながら、ニヤリと悪い笑顔を作って見せて、彼の両頬に添えた両手に力を込めて、彼の頭をその場で固定する。


「え…えっ?!」ガツンッ!!「イッッッタッ!!」


 次の瞬間、力加減に気をつけつつ、キスした部分に、寸分違わずヘッドパッドをかました。ジョンの頬から両手を離すと、彼はおでこを押さえつけながら、その場にうずくまる。


「シャキッとしなさいな、男の子。折角冒険者になったってのに、情けないじゃない

「うぅ…だ、だからって、いきなり何するんですか…」


 うずくなり、おでこを押さえながら、抗議の声を上げる彼に、あたしはウィンクしながら、彼に向かって投げキッスをして見せた。


「だから、チッスしてあげたんじゃ無い。物足りないんなら、今度はもうちょっと、濃厚なのしてあげましょうか?ン~チュッ!

「け、結構です!」


 そう言って立ち上がった彼は、足早に部屋の扉へと向かっていく。くぐる前に立ち止まって、こっちを振り向き、深々とお辞儀をした後、そのままシフォンと共に、部屋の外へと出て行った。


 バタン…


 扉が閉まるまで、あたしはニコニコしながら、手を振って見送っていた。手を振るのを止めて、静かになった室内の中、困った風に苦笑しているルカさんと目が合って、あたしも思わず苦笑で返した。


「ふぅ…」ボスンッ…


 何とはなしにため息を漏らして、あたしは再びソファーに座り直す。


「からかい過ぎですよ?

「あっはは~ま、ね。あたし、しんみりしたのが苦手でさ~つい、ね。」


 同じく困った様子のエイミーに、そう咎められたあたしは、悪戯が見つかったみたいな気恥ずかしさを感じながら、彼女にそう返した。


 人数的にも、物寂しくなった室内に、三度の静寂が訪れる。ただでさえ、物の少ない室内は、人が少なくなった事で、寒々しい雰囲気を漂わせていた。


「…あたし達も、そろそろ行きましょうか

「えぇ…」


 静寂に耐えかねた訳じゃ無かったけど、先に口を開いたのはあたしだった。そうしなかったら、いつまでもこうしていそうな予感を感じたから…


 来る時はあんなに賑やかだったのに、これからは2人なのね…やっぱり…


 そこまで考えた所で、考える事を放棄した。それ以上考えたら、胸が締め付けられちゃうからね~

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