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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第二章 訪問編
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いちはじ!(は~ど?)(5)

「まどろっこしいねぇ。さっさと要件を伝えちまえば良いだろうに。」


 リンダは、呆れたようなため息を1つ吐くと、半眼になってルカさんを見据えた。どうやら彼女は、彼がどういった目的で、あたし達をここに呼んだのか、解っているみたいね。


 リンダが解っているって言う事は、当然だけどシフォンも解っているんでしょうね~その上で、静観する姿勢を見せていたって言う事は、ルカさんがあたし達に対して、何らかの害意があるって訳では無いんでしょうね。


「…そうですわね。(わたくし)この子(リンダ)の意見に同意しますわ。回りくどく話した所で、時間の無駄でしょうし、かえって彼女達を警戒させてしまうだけですわよ。」


 痛む手をさすりながら、シフォンがリンダの言葉を継いで、ルカさんに対してそう告げた。彼女のその言葉から、あたしの考えがあながち間違っていないと察する事が出来た。


「まぁ、貴方の考えは解りますし、尤もだとも思いますけれど、私達(わたくしたち)からの助け船は、一切期待しないで下さいましね。」


 ルカさんの返答を聞く前に、彼女は自分の言葉を継いでそう答えると、再び我関せずと言った様子で、ソファーにその小柄な身体を預けて、目を閉じてしまった。それに対してルカさんは、困った様子で苦笑を浮かべると、仕切り直す為だろうか、咳払いを1つした後、真剣な面持ちであたしを見据えた。


「ミスユウキ

「何かしら?

「率直に申しまして、(わたくし)は、貴女をスカウトしたいと考えております。」


 真剣な表情で、一音一句ハッキリと聞こえる言葉で、あたしの目を見て彼はそう告げた。どこか、有無を言わせないような、威圧感さえ感じるその態度は、さっきまで浮かべていた、人当たりの良さそうな笑顔とは、まるで正反対な物だった。


 なるほど、こっちが本当の顔って訳ね。それでこそ、ならず者達を束ねる長って感じね~


 なんて、心の中で感心しながら、口の端を少しつり上げて笑みを作りつつ、あたしの代わりに反論してくれようと、動きだしたエイミーの肩を叩いて止めた。


「理由を伺っても良いかしら?」


 そう言いつつ、あたしはソファーに深く座り直し、作り笑いはそのままに、ルカさんを見据えてそう告げる。すると彼は、一瞬だけど確かに眉をひそめてみせた。


 きっと、あたしを年相応の小娘だと思って、威圧感を見せて話を優位に持って行こうとでも思ったのか…それとも、あたしを試そうとでも思ったのかしら?


 なのに、思っていた反応どころか、真っ向から受け止められて、少し戸惑ったって所かしらね。っていうか、普通の子だったら、そんな威圧感さえ、感じ取れなかったんでしょうけれど。


 けど残念だけれど、その程度の威圧感じゃまだ足りないのよね~こちとら鬼や悪魔なんかよりも、よっぽどおっかないじいちゃんに、散々鍛えられてるんだからね。


 その程度の威圧感、あたしにとってはそよ風みたいな物だわ~女子としてどうなのかしらって、ちょっと本気で考えちゃうけどさ…


「聞く所によると貴女は、生身で騎士崩れの盗賊団首領を、一刀両断にしてみせたとか。それどころか、スキル無しの状態で、銀等級冒険者、女傑リンダ=マクレス女史を、模擬戦とは言え地に着かせたとか。」


 そう告げてきたルカさんに、あたしは苦笑を浮かべながら、大きく息を吸い込み吐き出してから、リンダに視線を動かした。見ると彼女は、すっとぼけた表情で口笛を吹きながら、あたしの視線から逃れるように、顔を横に向けたのでした。


『リンダ・アトデ・シバク』


 そんな彼女に向かって、自撮りする時に見せるような、とびきりのキメ顔で、声に出さずに口パクでそう告げた。見ると、彼女の隣に座るシフォンが、うんうんと頷いているのが見えた。


 きっと、シフォンもシバクのを手伝ってくれる事でしょう。でも、削ぐのは無しでオネシャ~ス!


 って言うか、もぉ~…リンダったら、余計な事言ってくれちゃって…


 彼女の事だから、きっと嬉々としてあたしの事を、売り込んでくれたに違いないわね…変な事、盛り込んで無いと良いんだけれど。


 シフォンは、そんなリンダをきっと止めようとしてくれたんでしょうけれど、手遅れだったんでしょうね…彼女の苦労が目に浮かぶわ~


 まぁ、言っちゃった事はもう仕方ないと諦めて、あたしは気を取り直して、再びルカさんへと視線を向けた。


「…それだけの事で、出自も解らないような、こんな小娘をスカウトしたいと?異世界人の中には、冒険者として活躍されている方々も多く居ると聞いていますが、全員が全員、活躍出来るという程、甘い世界でもないでしょう

「仰る通りですが、それだけの事とはご謙遜を。こちらのリンダ=マクレス女史は、現在は銀等級ではありますが、その実力は金等級の戦士と遜色ないと、言われる程の実力者でございます。いくら手加減していたとは言え、それ程の実力者の身体に泥を付けたとあれば、その実力は低く見積もっても銅等級。それがスキル無しだと言うのであれば、スキルを習得し、練度を高めれば銀等級は確実でございましょう。」


 リンダの実力が、思っていた以上に凄かった件について。う~ん、これはやっちまった感が半端ないわ~


 実力者だって言うのは解っていたけどさ、普段の言動や、彼女の気さくな雰囲気から、かなり軽く見てたのかもしれないわね…もうちょっとこう、威厳とか圧力とか、普段から出しといてほしいものだわ。


 ま、言うだけ無理かしらね、あのリンダだものね。それにそれが、彼女の良さでもある訳だし。


「どうでしょうか?もしお受けいただけるのでしたら、(わたくし)の権限において、特例で銅等級冒険者のライセンスを発行いたします。それに加え、今回の盗賊団の討伐報償とは別に、ギルドより活動資金(ボーナス)も出しましょう。」


 そう告げてくるルカさんの言葉に、あたしは考え込む素振りを見せつつ、間を作って時間を稼ぐ。あたしの中で、どう答えるかはもう決まってるから、即答しちゃってもいいんだけどね~


 まぁ、討伐報償の件については、この街に来る道すがら、エイミー達から説明を受けていのよね。


 本来、ギルド登録していない者が、ギルドから正式に発行された依頼を遂行しても、受け取る権利は発生しない。まぁ当然よね~


 だからこそ、それを受け取り出来るように、この街に来たらまずはギルド登録を済ませる様に言われていたのよ。なんか、時間が経ちすぎてなければ、ギルド登録が後になっても大丈夫らしいからさ。


 なんでも、エイミーが出した依頼以外にも、同じ盗賊団の討伐依頼が何件か重なっていたから、報奨金が結構な額だったんだって。それを頭割りで分配しても良さそうな物なんだけど、シフォンはお堅いからさ、きっちり報告して、それぞれ仕事量に見合った金額を、受け取るべきだって言うもんだからさ。


 まぁもっともなんだけどね~あたし的には、この世界での通貨の価値もわかんないし、遅かれ速かれ元の世界に戻るつもりだから、あたしの分はみんなで分けてとも言ったんだけど、それでも暫くこの世界に居るんだったら、必要になるから持ってなさいって言われたのよね~


 正論過ぎて、イエスマムとしか言えなかったわ~


 まぁ、確かにお金はあって困る物ではないからね~けど、だからってその為に、この世界に残るって言うんじゃ、動機としては弱すぎるわね。


 生活する為には、当然だけどお金は必要よ。そのお金を稼ぐ為に、冒険者になるのは、手段としては間違ってないんでしょうね。


 特に、あたし達異世界人にとっては、この世界に伝手も何も無い状態からスタートする訳だから、実力が物を言うだろう冒険者稼業は、分かり易い上に手っ取り早いわよね。おまけに、元の世界じゃなかなか味わえないような、スリルやロマンなんかも、身の危険と等価交換で味わえたりも出来るんでしょうね。


 けどそう言うのは、夢追いがちな男の子に任せるわ。残念だけどあたし、夢見がちな女の子なのよね。


「…残念ですけど、向こうでやり残してきた事や、家族も居ます。元の世界に帰れないというのであれば、その申し出は願ってもない事なのでしょうけれど…帰れるのでしたら、あたしは帰りたいと思います。」


 もっとも、夢見がちなのは、ラノベを読んでいる時だけだけどね~どちらかと言えば、あたしも夢追いがちな男の子側の思考だから、元の世界じゃ味わえないスリリングな体験は、魅力的に思う部分もあるわ。


 けど実際問題、あの盗賊団の首領に殺されたって言う、俺TUEEEヒャッハー!(あたしの勝手なイメージです)しちゃった異世界人みたいに、調子こいて殺されちゃったら、本末転倒も良い所よ。あたしは、家族も友人達も、誰も知らない所で、人知れず死んでしまうような、不幸者には成りたくないわけ。


 それに、そんなスリルやロマンなんかよりも、読みかけのラノベや、録り溜めしてるアニメの消化の方が大事だっちゅ~の!谷間作る程胸無いっちゅ~の!(シクシク


 とにかく、帰れると解った時から、あたしの気持ちに変化はなかった。魅力的と言っても、向こうに残してきた心残りを、忘れる程かって聞かれたら、ハッキリNOと答えられる位、この世界に残る動機としては弱いしね。


 けれど、この場にあたし達しか居ないとは言え、即答で答えちゃったら、ルカさんの面目も潰れちゃうからね。飛び級の階級やボーナスも、彼の立場で出来る最大限の優遇案だったんでしょうし。


「…ふぅ。やはり駄目ですか。仕方ありませんな…」


 あたしの返答を聞いたルカさんは、深くため息を吐いた後、苦笑を浮かべながら、意外にもあっさりと引き下がってしまった。もう少し食い下がってくるかとも思ったんだけれど、やっぱりなんて言う辺り、もしかしたらシフォンに、釘を刺されていたのかもしれないわね。


 断るようなら、それ以上深追いしないように…とかね、だから静観してたのかしら。


「希に見る逸材でしたのに…残念でなりませんな

「ま、それに関しちゃ、あたいも同意見だけどね。当人が帰りたいって言うんじゃ、仕方ないさね。この世界のいざこざに、部外者を巻き込むのも忍びないさね。」


 それまでの威圧感が、嘘のように消えたルカさんの表情は、本心から残念そうにそう語る彼に、苦笑を浮かべながら、リンダがその言葉に同意する。


「あわよくばと思って、あんたに優姫の事を話したんだがねぇ。まぁ、こうなるとは予想してたけどね

「待って。あたしを引き込もうとしたのあなたなの?」


 続いたリンダの言葉に、聞き捨てならない部分を聞きつけ、間髪入れずに問いただす。すると彼女は、昨日あたしが教えたテヘペロ☆を、早速実演して見せてきた。


 ちくしょう可愛いな!OK許しちゃう!


 こういう茶目っ気も、たっぷりあるんだから、ほんとリンダって憎めないわよね、好きだわ~


「あの、良いかしら?」


 リンダとのやり取りなんかで、少しだけど和やかな雰囲気になった室内に、エイミーが鋭い眼差しで口を開いた。その雰囲気が、少し怒っているように感じられたから、和やかな雰囲気も裸足で逃げ出してしまった。


「異世界の方を引き込もうなどと、前代未聞も良い所です。まして、彼女は私が誤って召喚してしまった被害者です…それをスカウトしようなんて、あなた方は何を考えているのですか。」


 丁寧で、それでいてきつい口調のエイミーの言葉に、その雰囲気に気圧された、リンダとルカさんが怯むのが、手に取るように伝わってきた。休職していたとは言え、そこはさすが一線級の冒険者って言った所ね。


 エイミーは、普段からニコニコしているけれど、その実あたしに対して、負い目を感じているのには気付いてたわ。だって彼女、本当に真面目で優しいんだもの。


 あたしがいくら気にしていないからって言っても、簡単には納得してくれない位にはね。まぁ、当然と言えば当然か…


 そんな彼女が、悪意は無いとは言っても、あたしを利用しようなんて考える輩がいれば、たとえ身内だって言っても、そりゃ怒るわよね~


 エイミーは、その表情のまま、未だに静観し続けている、彼女の元相棒に視線を移した。


「シフォン。どういうつもりですか?貴女なら、リンダさんの考えを察した時点で、止める事だって出来たでしょう。率先した当人の意思なく、異世界人を利用しようなど、イリナス様のお考えから、逸脱していると、貴女も解っているでしょうに…」


 そう問われたシフォンは、臆する事無くエイミーを見返す。暫く、室内にはなんとも言い難い緊張感が支配して、息が詰まりそうになる。


「…別に(わたくし)も、賛成していた訳ではありませんわ。しかし、状況が状況でしたので、反対に徹しきれなかったのですわ。それに、優姫さんでしたら、きっちりと御自分の意思で、返事をして下さると思っていましたし…」


 しばらくの沈黙の後、シフォンがため息を漏らした後、ポツポツと語り始める。まるで、それまでの緊張感に耐えかねたかのように、あたしには見えた。


 彼女には彼女の考えがあったんでしょうし、リンダを止めなかったのは意外だったけれど、率先していた訳でもないのは、彼女の態度を見てたら解るし。それに、仮に率先していたからって、別にあたしを利用するつもりだなんて思えないしね。


 むしろ、シフォンからも、あたしという存在を、高く評価されていたと思えば、それはそれで喜ばしい事だしね~なのに、向こう側の意に添えないのは、本当に残念だけどさ。


 だからあたしは、エイミーが怒ってくれる程、その事に対して気にしていないんだけど…


 けど彼女は、ここに来て気になる事を口にしていた。シフォンまでもが、あわよくばあたしを冒険者として、引き込もうと判断した程の状況って、一体なんぞやってね。


「…その状況とは何なのですか?何があったんです。」


 当然、エイミーもその部分が気になって、訝しげな表情で聞き返す。するとシフォンは、再びため息を1つ吐いて…


「…フェンリル様が1体、ジェネラル級との戦闘の末、御隠れになられましたの。」


 深刻そうな表情で、彼女はそう呟いたのだった。

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