表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
軍国編、最終章群『善悪の彼岸』
388/398

怪物と戦う者よ…(3)

「嬉しそうで何よりだがよ、幾ら何でも気が早いさね。」


 そんな事を考えていると、再び背後からリンダの声。それが耳に届いたのだろう、ヘボの笑いがピタリと止まった。


「そう言うのは、あたい等をとっ捕まえてからにするんだね。」

「ハッ!言われなくてもそうするさ‼︎まとめて掛かって来なかった事を、後悔させてやるぜ。」

「そうかい。そりゃ楽しみだがねぇ、そう上手い事行くと安易に考えてると、手酷いしっぺ返しを受けた時に、そっちが後悔する事になるよ?」

「あぁ⁉︎後悔!この俺が?ハッ‼︎どうやらこの俺の実力を、よく解っていない様だな‼︎」


 続いた彼女の()()。わざわざ敵に塩を送ってあげたと言うのに、ヘボはまるで聞く耳を持ち合わせていなかった。


 所か、自分の力を過信し、あたし達を軽んじている始末。これでは、背後から盛大なため息の音が聞こえても仕方ないだろう。


 でも、まぁ…裏を返せば、その程度の相手という事だ。


 どう始末をつけるか、ずっと悩んでたけど…決めたわ。


 自分が、どれだけ井の中の蛙なのか。それを徹底的に教えた上で、己がした事を後悔させてやろう。


 そう、考えを纏めたと同時――


「――あんたこそ、よく解っていない様だから教えとくよ。」

「あぁ⁉︎何をだ‼︎」

「この世にゃね、決して怒らせちゃならん奴ってのが居るんだよ。」


 その言葉に併せて。ゆっくりとした動作で、戦闘体制を取り始める。


「これからあんたが相手をするのは、そう言った類の奴さね。」


 右足をやや前に出し体は傾斜に。脇を閉めて拳を作ると顎を引き、腕を持ち上げ緩く構える。


「あんたは、知らぬ間に龍の逆鱗に触れちまったんだよ。」


 身体を上下に揺らし、リズムを刻み…


「同情するさね…精々、足掻いてみるこったね。」


 構えた両腕の隙間から、冷めた瞳でヘボのビッチを見据える。


 そうして準備を終え、相手の出方を待つ。すると、そんなあたしを暫く眺めて、ヘボがつまらなさそうに鼻を鳴らした。


「ご大層な事を言って、何かと思えばボクシングかよ…」


 続け様のその言葉。あたしは無反応を決め込み、いつもの調子で呼吸を整える。


 まずは、過集中一段階目…この位なら、頭痛を感じないまでには回復したみたいね。


「格好は様になってるみたいだがな!そんなヒョロっちい身体で、勝負になると思ってんのか。あぁっ⁉︎」


 変わらず、無反応で聞き流す。すると、見るからに苛立たしげに舌打ちするヘボ。


 更に、態度の悪い事に唾を吐き捨てると、姿勢を低くして構えた。


「言っても無駄らしいな。なら、力づくで解らせてやるよ!」


 その格好からして、打撃を無視してタックルで飛び掛かり、体格差で抑え込む腹づもりなのだろう――


「捕まえたら!この場で裸にひん剥いて犯してやるからな⁉︎覚悟しろ‼︎ギャッハッハッハッ‼︎」


 ――…全く、なんて分かり易い。品性の欠片も感じない笑い方とか、聞くに耐えないわね…


 その後、ヘボは薄汚い笑みを浮かべたまま、ジリジリと距離を詰めてくる。あれだけ吹いておいて、一思いに掛かって来ないのは、余裕のつもりなんだろう。


 あたしの思ってる通りに、行動してるとも知らずにね。


「さっき迄の威勢はどうした!あぁっ⁉︎とっとと掛かってこいよ!なぁっ‼︎」


 距離を詰める事暫く。相も変わらず、薄ら笑いを浮かべるヘボのその煽り。


 もうあと一歩を進めば、勢いが最高の状態で飛び着けると判断して、こちらの攻撃を誘ったつもりなんでしょうね。けど、その程度の煽りじゃ、こちとらビクともしないっての。


「オラッ!突っ立ってリズム刻むだけか?なぁ‼︎」


 尚も続く、その幼稚な煽り。


 仕方ないわね…


 そう思うと同時。あたしは左の拳を解いた。


「…あ?」


 そのまま、ゆっくりとした動作で鼻を摘むと、思い切り嫌な表情でヘボを見下し――


「――息がね、臭いのよ。」


 続け様に、静かな口調でそう一言。するとその瞬間、ヘボの薄ら笑いが消え真顔に戻った。


 気にせずあたしはそのまま続ける。


「ここまで近寄って、ようやく気がついたわ。あんたの腹ん中、馬の糞でも詰まってるんじゃないの?」

「テメェ…ようやく口を開いたかと思えばソレか…安っぽい挑発ばかりしてんじゃねぇよ!」

「だから臭いって言ってるでしょ。悪いけど、口閉じて相手してくんない?」


 悪びれもなくそう提案するや、ヘボの表情が更に変化。忌々しげに歪むと、歯噛みからの舌打ち。


「いい加減にしろよメスガキ!狙いが見え見えなんだよ‼︎雑魚の分際で――ッ」


 続け様、怒声を上げるヘボ。けれどその途中、驚いた様子で言葉を飲み込む。


 何故なら…


「あ〜あ〜臭い!臭い‼︎こりゃ、言っても聞いてくれそうにないわね。仕方ない、鼻を摘んで相手をしてあげるから、掛かってきんしゃい。」


 鼻を摘んだまま、相手から完全に視線を外しそっぽを向いての挑発。


 距離は既に目と鼻の先。顔を突き合わせた状態で、格下と判断した小娘にここまで虚仮にされたのだ。


 その反応は…


 ――ギリリィッ!


 はっきりと聞き取れる程の歯軋り音。表情なんて、まるで絵に描いたような怒りの形相だった。


 存外、簡単に掛かるものだわね。


「貴様…」

「あら、怒ったの?ごめんなさいね。でも、そっちにだって非はあるのよ?口腔ケアなんて、マナーの範疇なんだし。」

「舐め腐りやがって…戦る気あんのか!あぁッ⁉︎」

「在るから、掛かってこいって言ってるんじゃない。ほら、早くしなさいよ。それとも、まだ()()()が必要⁉︎」


 ――ギリリリィィィッ‼︎


 再び聞こえた、先ほどよりも大きい歯軋り音。ソレが響いた次の瞬間、ヘボの身体から怒気が膨らみ外に溢れ出した。


「そんなに言うなら良いだろう…」


 そして聞こえた、その腹の底から響く様な低い声。次いで、ヘボの身体がだんだん前のめりとなっていき――


 ――パァンッ‼︎


「――ッ⁉︎」


 飛び掛かろうと、ヘボが両足に力を込めた瞬間を狙い澄まして、その横っ面に左のハイキック。ちゃんと宣言通り、鼻は摘んだままでね。


 さておき、出鼻を挫いてやったヘボの反応。自分が何をされたのか、まだ理解が追いついていないらしく、文字通り目が点になっている。


 かと思えば、不意にその目がギョロリ。あたしの左足を視界に捉え、瞳孔が収縮していく様を目の当たりにする。


 ソレを目視で確認してから次の動作。すかさず左足を引くと共に、右足よりも踏み込んだ位置で接地。


 ――ズンッ‼︎


 そのまま、勢いよく震脚。地を揺るがす程の力を発生させ、それを更に全身のバネを使って増幅。


 そして、右足に全ての力を伝えると、矢を放つが如く解き放ち――


 ――ゴッ‼︎


「グッ‼︎」


 相手の延髄目掛けて渾身の蹴り。無理矢理作った死角からの不可避の一撃は、まるで吸い込まれるかの様、狙い通りの急所に決まった。


 これで、決着が着いてくれれば楽なんだけど…


「…ハッ‼︎」


 ――ガシッ


 事は、そう上手くはいかない。不意に、ヘボの口元が三日月型に釣り上がる。


 直後に感じた、右足首を掴まれる感覚。ヘボの左手が、あたしの右足を捉えたのだ。


「捕まえたぞ小娘…これで――」


 続け様、勝ち誇ったかの様なその台詞。それを言い終える前にあたしは…


「ありがとう。わざわざ()()を作ってくれて。」

「――あぁ?」


 そう告げると同時。掴まれた箇所で、あたしの全体重を支える為、筋肉を絞める。


 次いで左足で地を蹴ると、腰を支点と定め上体を思い切り背後に逸らす。そして――


 ――バキッ!


「ッ⁉︎ちぃっ‼︎」


 振り子の原理と、右足で身体自体を持ち上げてのサマーソルト。ガラ空きだったヘボの顎に見事命中。


 それを見届けるなり視線を頭上へ。上下逆さまとなった視界で、地面を見つけて手を伸ばす。


 触れると同時に手で接地…これは流石に片手でって訳にいかないので、鼻摘むの止めましたんz


 さておき。地に手が着いた所で、全身のバネと筋肉を最大限に発揮し、右足首の拘束を振り払おうと試みる。


 立て続けに、相手の視界を揺さぶったのが功を奏し、無理矢理ひっぺがす事に成功。多少の痛みは仕方なしと我慢。


 続けてあたしは、ぐらつく姿勢を逆立状態でコントロール。一瞬でそれを終えると、屈伸でもするかの様に足を折り畳み力を貯める。


 視線を足元へ。ヘボの様子を伺うと、さっき入れたサマーソルトの影響で、顔を上向きに仰け反らせている状態。


 であれば狙いは決まりね。両腕で思い切り地面を持ち上げ、宙へと飛び出し――


「――空○弾‼︎」


 ――ズンッ‼︎


 某格ゲーのイケメンキャラの技名叫んで、ガラ空きだったヘボの喉にドロップキック。


 その衝撃で身体が浮き、後ろに下がりながら倒れていくヘボのビッチ。そのヘボの身体を足場にし、あたしは後ろへと飛んだ。


 ――…ズシンッ


「た、隊長⁉︎」

「チェコロビッチ隊長!」


 背中から地面に倒れ込むと同時。動揺した兵士達のどよめきが、塀の向こうで巻き起こる。


 その様子を観察しながら、少し遅れて地面に着地。するとそれに併せたかの様に、リンダが感嘆の口笛を背後で鳴らす。


 それを背中で受けながら、その場でスッと立ち上がる。続けて両手を広げて掲げると――


「ぱぱーん!十点、十点、十点!満点‼︎」


 高らかに宣言して決めポーズ‼︎


 なんてしてたら一転。背中に突き刺さる冷たい視線…


 これも煽りの一環だって説明したら、信じてもらえるのかしらん…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ