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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第四章 軍国編
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間章・ただ、『ありがとう』って伝えたくて。それだけが、どうしても伝えたくて…(2)

「優姫さん達がお城に向かってから、もう結構経つよね?」

「そだね〜」

「連絡ってまだきてないの?」

「うん。残念ながらね〜」

「そっか…」


 嘘だ。この時点で、既に一人救出したとの報告を受けている。


「やっぱ心配だよね〜」

「うん…酷い目に遭ってないと良いんだけど…」

「きっと平気さ〜マスター達が話してたでしょ?シマズ将軍って偉い人の事〜」

「あ、うん。優姫さんと同じ、日本の方なんだよね?私の事を知って、出来る範囲で逃すのに協力してくれたって…」

「そ〜そ〜その人が側に居るんだし、メアリーが思う様な『酷い目』になんて、あってる訳無いよ〜」

「うん…」


 これも嘘。将軍側の事情についても、夜天は報告を受けている。


 更に言えば、メアリーが想像出来る範疇の『酷い目』それ以上の仕打ちを、二人が受けていると言う事も…


「そう…だよね。」

「そ〜そ〜考えすぎ考えすぎ〜」


 そうした都合の悪い事実を夜天は、いつもの能天気な態度で包み隠した。


 偽善からくる詭弁を用いた欺瞞。その通りでは在るがしかし、ありのままを伝えるのが必ずしも正しい訳じゃ無い。


 知らずに済むのなら、それに越した事は無い。特にメアリーの様な、何処にでも居る平凡な少女ならば尚更…


 故に夜天は、笑顔のままで嘘を吐いた。彼女の心を護る為の、やさしい嘘。


 そしてそれは、更に続く…


「時間が掛かって心配になる気持ちもわかるけどさ〜考えてもごらんよ。」

「えっ、何を?」

「広〜〜〜いお城の中を、マスター達は歩って移動してるんだよ?こんくらい時間掛かっても、仕方ないとわたしは思うよ〜」

「あっ…うん、そうだよね。」

「そ〜そ〜だからそんな心配しなさんなって〜」

「うん…ありがとう、夜天ちゃん。」

「どういたしまして〜」


 夜天の言葉に納得したのか。先程迄の暗い様子から一転、柔らかく微笑むメアリー


 それを見て、夜天は誇らしげに笑う。だってそれが、彼女の護りたかったものだから…


「…よし!」


 暫くそうして笑い合っていた二人。けれどそれは、メアリーの気合いを入れる為に発した掛け声によって終わりを迎える。


「もう休憩終わり〜?」


 続け様、意気込んだ様子で立ち上がる彼女。それを目にした夜天が声をかける。


「うん。メアリさん達、きっとお腹空かせてるだろうから。だから、いつ連絡来ても良い様に準備しておきたくって。」

「そっか。いよいよってなって、メアリーも気合い入ってるねぇ〜」

「えぇ?そ、そうかな…」

「そうさ〜今まで、ずっと一緒だったわたしが言うんだもん。間違いないって〜」

「そんな大袈裟に言うほどなの?」

「そりゃね〜」


 そう言って悪戯っぽく笑う夜天。それに対してメアリーは、複雑そうな顔で愛想笑いを浮かべると、踵を返してキッチンへと向かう。


「メアリーの手料理、早く二人に食べてもらえると良いね。」

「うん…でもその前に、ちゃんとお礼を伝えたいな。」


 その後を追って、背後から投げかけられたその問い掛け。それに彼女は、振り向きもせずそう答えた。


「助けてもらったお礼か〜大事だもんね。」

「うん。」

「感動の再会は、第一声が肝心だよ?」

「感動の再会って…夜天ちゃんは言うことが大袈裟だなぁ〜」

「そ〜お〜?んで、何て言うかは決まってんの?」

「えぇ〜?ん〜そうだなぁ…強いて言うなら、やっぱり――


………

……


 ――同時刻


 ――ガチャッ、ぎぃ…


 建物内に侵入したあたし達。先程入手した情報通り、玄関ホール正面の扉を開き、奥に通じる廊下を発見。


「この先ね。」

「あぁ。とっとと行くさね。」


 言うが早いか、扉をくぐりさっさと奥へ進んでいくリンダ。


 兵士が居ないとは言え、一応警戒はしようよ…


 なんて事を心の中でぼやきつつ、思わずため息。気を取り直して、扉をくぐり廊下へと足を踏み入れる。


 その直後――


「――ちょい待ち!」


 あたしが足を踏み入れたとほぼ同時。先行していたリンダが、いきなり声を荒らげたのでその場で停止。


「どうしたの?」

「嫌な匂いがするねぇ…」

「匂い?」


 その物言いと、彼女の様子からして、比喩的な意味合いではないのだろう。そう感じ取ったあたしは、その場から鼻に意識を向けつつ空気を取り込む。


 すると、埃臭さやカビ臭さといった、所謂すえた生活臭に混じって、花の蜜の様な甘い香りを微かに検知。


「なんか、甘い匂いがするわね。」


 あまり意識せず、そのまま口に出した所…


「あんまり嗅ぐなよ?」

「え?」

「残り香みたいだから大した効果は無いがよ。こりゃ、催淫香っつぅ厄介な代物の匂いさね。」


 続け様に返ってきた単語に、思わずギョッとなった。催淫って言うと、つまり…


「異世界で物で良くある、えっちな気持ちになっちゃうやつ⁉︎」

「あ?なんだいその間抜けな言い方。生娘でも在るまいし…」

「失敬な!どっからどう見たって純度100%の生娘でしょ⁉︎って、そうじゃなくって!」


 って、思わず突っ込み。して、ハッと我に返り慌てて軌道修正。


 今回、あたしメインじゃ無いから、あんま脱線し過ぎんのも良く無いしね〜(メタ発言してサーセン


「連中、そんな物まで持ち合わせてるの?」

「みたいさね。一応、表立っては違法なもんだし、各国からの支援物資の中にあったとは考えにくい。コイツも例の奴隷商共が入手したんだろうよ。」

「頭の痛くなる話ね、早めに潰して正解だったわ。」

「違いねぇ。んで、どうするよ?」

「ん?どうするって⁇」

「あたいは耐性があるし、この程度なら問題は無いが…優姫にゃそれが無いんだし、影響が出るかもしれないぜ?」

「それって、つまりここで待ってるかって事?」

「まぁそう言うこったね。」


 思いもよらない場面で進退を問われ、答えるよりも先に苦笑で返す。


「ここまで来て、無い選択肢よソレ…」


 続け様にそう返しながら、襟周りに魔力を送り込んで布地を生成。何時ぞやみたく顔半分まで覆い隠くし、簡易マスクとして利用する。


「これでよしと。」

「そんなチャチな造りで大丈夫なのかい?」

「問題無いわよ。見た目で心配だってんなら、遠慮なくコッチ装着するけど?」


 そう言って、防毒マスクを召喚し見せびらかす。本当はこっち装着したかったんだけど、TPOの観点からやめたのよね〜


「んな奇天烈なもん顔に着けた奴と、一緒に歩きたく無いねぇ…」


 …なにもそこまで言わんでも…

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