間章・ただ、『ありがとう』って伝えたくて。それだけが、どうしても伝えたくて…(1)
あなぁ〜た〜を〜見つぅ〜めるぅ〜けどぉ〜
サブタイこれに決めてから、ずっと脳内再生されんのよ、この曲z
バージナル内にて、優姫達が懸命な思いで作戦に当たっているちょうどその時。何千キロと離れた場所で、彼女達とは違う形で作戦に貢献する者達が居た。
――トン、トン、トン…
「お野菜の皮剥き終わりました〜」
「あっ、ありがとうございます!」
――グツグツ…
「このまま切っちゃっても平気ですか?」
「勿論です、お願いします!」
「こっちも下処理終わりました。」
「あ、じゃあそのまま調理に入ってください!」
観光都市リリに在るセーフハウス。そこのキッチンで、慌ただしく炊き出しの準備を進める女性陣――
「――わかりました、メアリーさん!」
その中には当然、メアリーの姿もあった。
「出来上がったら、どんどん夜天ちゃんに渡してください。」
「わかりました。」
「あ、夜天ちゃん!こっちもうすぐ出来るから、お皿の用意お願いしてもいい?」
「ほいほ〜い!」
「食器の片付け終わりました!」
「あ、はーい!ありがとうございます。そうしたら、こっちに来て切菜のお手伝いしていただけますか?」
「わかりました、今行きますね。」
「お願いします!」
自ら腕を奮い、同時に他の女性達への指示出しも行うメアリー。その堂に入った態度からは、以前までの不安さや心許なさ等はまるで感じられない。
何故この様な事になったか。きっかけは、数時間ほど前まで遡る。
救出した被害者達の中から三名。メアリーと共に炊き出しをする事となった訳だが、そこは勝手知らない他人の家。
キッチンの何処に何があるか解らない上、さして広くもないキッチン内で、複数人が作業を行うなんて邪魔でしかない。となれば、指示役が必要となるのは自然の流れ。
その指示役に、一日の長たるメアリーが選ばれるのもまた、自然な流れだった。
とは言え、引っ込み思案な彼女の性格。最初の内は、酷いものだった。
指示出しはいちいち遠慮がちだし。かと思えば、指示出しばかりに気が向いて、自身の作業で火傷や切り傷を作る始末。
それでもメアリーは、泣き言も口に出さず懸命に、自らの役割を全うしようと心掛けた。その結果、今の様な状態へとなった。
その姿を、誰よりも彼女の側で過ごした夜天は、嬉しそうに眺めていた。
「夜天ちゃん!出来上がったからそっちに持っていくね。」
「ほいほ〜い。んじゃ、盛り付けはわたしがやるよぉ〜」
「あ、うん。ありがとう、じゃぁお願いするね。」
「うぃ〜」
「お野菜切り終わりました〜」
「あっ、は〜い!そしたら調理もお願いします。」
「わかりました〜」
「こっち手空きますけど、盛り付けのお手伝いに加わりますか?」
「えっと…」
「わたしはどっちでも良いよぉ〜」
「じゃぁお願いします。」
「はい。」
「夜天ちゃん。ある程度終わったら盛り付け任せちゃって、提供する方に回ってほしいな。」
「ほぉ〜い、りょうか〜い。」
………
……
「こっち調理終わりました。」
「あっ、ありがとうございます!」
「したらこっち持ってきて〜一緒に盛り付けちゃう〜」
「うん、わかった。」
「じゃぁ私は、コレの処理に入って良いですか?」
「えっ、どれです?」
「コレですよ、コレ。ガザ虫(活)です。」
――うぞうぞ…
「ひっ…」
「うわぁっ!なんで買ってないのに在るのソレ⁉︎しかも生きてるし‼︎」
「え?表に居たの捕まえたんですけど…」
「だ、だめだめ!そんなのメアリーに見せちゃ――」
――バタンッ!
「うわぁっ⁉︎メアリーが倒れた‼︎」
「えぇっ⁉︎」
「だ、大丈夫ですか⁉︎」
――ドタ、バタッ!ドタバタ…
…
戦場の様な慌ただしさから数十分。一区切りつけたメアリー達は、休憩を取る為にキッチンからリビングへと移動してきていた。
「ふぅ…」
ふかふかのソファーに身体を預けながら、思わずため息。このまま目を瞑ればきっと、あっという間に眠りに落ちるだろう。
そんな心地よい疲労感を感じながら、空中をふよふよと泳ぐ様に近づいてくる存在に視線を向ける。
「お疲れ〜メアリー」
「うん。夜天ちゃんもお疲れ様。」
「大丈夫〜疲れてんじゃない〜?」
「それはまぁ…でも、少し休めば平気だよ。」
「そぉ〜?無理はしちゃダメだよ〜?」
「うん、ありがとう。」
心配する夜天を他所に、穏やかに微笑みながら答えるメアリー。その笑みの、なんと自然な事か…
以前までなら、きっと愛想笑いで返していただろう。そう考えると、随分性格が明るくなった。
いや…在るべき姿に戻ったと言うべきか。
年相応の、この世界に飛ばされる以前の、何処にでも居る様な普通の女の子の姿に――
「…ねぇ、夜天ちゃん。」
そんな彼女が、ふと見せた暗い表情。
もう見たくないと。どうしたらそんな表情をさせなくて済むのかと、考えずにはいられない、そんな顔…
「うん?な〜に〜」
そんな思いをお首にも出さず、何時もの脳天気な調子で問い返した。




