いちはじ!(は~ど?)(3)
そうこうしているうちに、あたし達は目的の場所に到着した。その建物は、遠くから見えていた通り、他の建物とは明らかに規模が違い、縦横共に倍以上の大きさがありそうだった。
「うわ~…大きいですね~
「そうね。」
と、素直に驚いて、その建物を見上げながら感嘆の声を漏らしたジョンに、あたしも同じように、建物を見上げながら同意の声を漏らした。
「一応、この街には、ギルドよりも高い建物を、作ってはいけないという決まりがありますからね。どの建物も、似通った高さになってしまうのですよ
「あぁ、やっぱりそう言う決まりがあったのね。にしたって、でかすぎじゃない?色々…扉とか。」
建物を見上げたまま、そんなエイミーの説明に相づちを打ちつつ、思った事をそのまま口に出していた。いやだってさ、明らかにでかすぎんだもん。
その建物は、遠目から見て思ってた通り、4階建ては4階建てなんだけど、1階部分だけ、なんかやたらと高く作られていて、正確に言うと4.5階建てって言った方が良い位の高さはありそう。そして、一番気になるのは、その建物にしつらえられた扉の大きさでしょうね。
建物なんだから、扉があるのは当然なんだけど、その大きさがまた異様にでっかいのよね。両開きの扉なんだけど、目測で高さにして大体3メートル、幅は片側およそ2メートルで4メートル近くはありそう。
いやこれ、明らかに人間やエルフのサイズを、想定して作られてないよね?これはまさにあれよね、どんだけ~(サーセン
「冒険者ギルドですからね、巨人族の方も利用されますから、1階部分はどこのギルドも高く作られているんですよ。この街では、ここが役所としても機能していますからね、どうしてもこの位の規模は必要になってしまうんです
「あぁ、それなら納得だわ。しっかし巨人族ね~あたしのイメージより、随分小さいわね
「そうなのですか?異世界では巨人というと、どの位大きいのですか?」
そう問われて、首を傾げて想像を巡らせてみる。そもそも、元の世界では巨人なんて、架空の存在だからね~
真っ先に思い浮かぶ巨人と言えば、○撃の~とかエ○ァとかかしらね?ウケ狙いで、巨人違いのジャ○ット君の身長答えても、通じないのが残念で仕方ないわ、うち巨人ファンなのよ。
「巨人自体架空の存在だからね、空想の勝手なイメージなんだけど、そうね…この建物位かしら
「それは大きいですね。こちらの世界で、この建物位の大きさの生物と言ったら、それこそドラゴン位でしょうか。」
それを聞いたあたしの感想。それなんてキング○ドラ?
「では中に入りましょうか。シフォン達も中で待っているでしょうし
「そうね
「は、はい!」
エイミーに促され、あたし達は建物の扉へと向かって歩き出す。若干、ジョンキュンの顔が緊張から強張っているけど、彼にしてみたら、いよいよ憧れの冒険者ライフが始まるんだから、無理も無いわよね。
ちなみにあたしは、相変わらずのほほ~んとしてます、いぇ~い☆
「…あてられないでくださいね?
「ん?」ギイイィィ…
そんな、のほほーんとしていたあたしに、扉を開こうとエイミーが手を掛けた瞬間、彼女はあたしに向かってそう呟いた。最初はその意味がくみ取れなかったけれど、扉が開いた瞬間、その言葉の意味を悟って、のほほんとしていた自分を自制した。
正確には、反射的に殺気を放ちそうになった自分に対して、自制を効かせたんだけどね。警告されなかったらやばかったわ~
何でかって言うと、扉が開かれた瞬間、得も言われぬ緊張感が、中から伝わってきたからだ。ギルド内の雰囲気は、さっきエイミーも言っていたけど、まさに役所って感じだった。
扉を開けた先に、受付と思われるカウンターと、その裏手に上階へと上がる為の階段。右手は、多分飲食スペースなんでしょうね、いくつものテーブル席と、そこで食事を摂っている人達の姿。
そして左手には、いくつもの人の列と、その列の先に見える、銀行のカウンターのような窓口。その光景は、テレビとかでよく見るような、年末の宝くじ売り場って感じね。
あちこちで、せわしなく人が行き交い、活気に満ちた雰囲気。そんな中で、その場に似つかわしくない雰囲気を纏っている、随分と穏やかじゃない連中が、数名混じって居た。
見るからに、いかにも武闘派って感じの人達ね~ムッキムキの筋肉質な肉体に、重そうな武器や鎧を身につけた、絵に描いたような冒険者って言うか、無頼漢って感じかしら。
その連中が、あたし達が扉を開いた瞬間、その穏やかじゃない雰囲気…要するに、殺気だとか闘気って類いのそれを、不躾に向けてきたのよ。それに思わず反応して、腰に下げた兼定に、手を掛ける所だったわ。
「気にしないでください。あの手の方々にとっては、挨拶みたいなものなので
「…ああやって、よそ者を威嚇でもしてるの?
「と言うよりも、舐められないようにしているんですよ。冒険者稼業は面目も大事ですから
「あぁ、そう…」
発想がヤクザやチンチラと変わんないわね、と口に出さなかったのは優しさです。ちなみに、殺気や闘気を感じられないだろうジョン君は、あたし達が何について話していたのかわからない様子で、頭にクエスチョンマークを浮かべていました。
汚れを知らない、そのままのあなたで居て、ウッ(泣
向けられた敵意を、全く意に介した様子のないエイミーは、そのまま正面の受付と思われるカウンターへと、足取り軽やかに進んでいく。歴戦の冒険者様とも成ると、この程度の悪意なんて、そよ風みたいな物なのかしらね?
その後に続いて、あたし達も着いていく。その頃には、あたし達が全く気にした様子もないから、興味を失ったのか、向けられていた敵意も無くなっていた。
「ようこそご来館くださいました。ご用件をお伺いいたします。」
あたし達が受付に近づくと、見事な営業スマイルのお姉さんが、お出迎えしてくれました。こう言うのって、どこの世界でも変わらないのかしらね~
「シフォン・マスカローネが、先に来て要件を伝えていると思います。彼女の連れです
「あっ!お待ちしておりました!エイミー・スローネ様ですね!!お目にかかれて光栄です!」ザワッ
受付のお姉さんが、エイミーの名前を口にした瞬間、ギルド内の空気が一変した。それまでの活気が嘘のように収まったかと思うと、その場に居たほとんどの人達の視線が、あたし達に向けられたのが解った。
まぁ、あたし達って言うよりかは、エイミーになんだけどね。その証拠に、次いで聞こえてきた、周りの会話の内容の中に、リンダから聞かされた、彼女の二つ名である『金色の精霊姫』って単語が、ちらほら聞こえてきてんのよね。
「ご用件はお伺いしております!エイミー様のギルド証の再発行と、お連れ様のギルド登録でございますね!
「えぇ
「それでしたら、お連れ様はあちらの列にお並びください
「わかったわ
「は、はい!」
受付のお姉さんが、手で指し示した先に視線を向けて、行き先を確認した後、あたしとジョンはそれぞれ彼女に対してお礼を述べた。
「エイミー様は2階に上がりまして、突き当たりのカウンターでお手続きをお願いいたします
「ありがとう。」
次いで案内された内容に、エイミーもまた彼女にお礼を述べる。それに対して、受付のお姉さんは、腰を大きく曲げて、優雅で丁寧なお辞儀で返した。
う~ん、凄い教育が行き届いてるわね~言っちゃ悪いけど、ここに入った時の、悪意のこもった雰囲気が、出迎えるような場所には、ちょっと似つかわしくないわね。
「では、まずはお2人の方から済ませてしまいましょうか
「あぁ、ようやく来たのかい、あんた達
「あ、リンダさん。お待たせしました。」
そう言って、エイミーが振り返ってあたし達を促そうとした、ちょうどその時だった。あたし達の居る受付の裏手にある階段から、ちょうどリンダが降りて来て、あたし達を見つけて声を掛けてきた。
「ちょうどあんた達を、迎えに行く所だったんだよ。あんた達、ちょいとこっちに来てくれないかい?
「それは構わないのですが、まだお2人のギルド証登録の手続きを、済ませていないんですよ
「なんだい、まだなのかい?なら、用紙を持ってきてもらうから、向こうで一緒に書いちまいな。」
そう言ってリンダは、指で自分が今来た方向を指で指し示しながら、あたし達を招く仕草を見せた。そんなリンダの、少し急かすような態度に、あたし達3人は顔を見合わせ、首を傾げながらも、彼女に促されるままに、受付裏手の階段へと足を向けた。
「何か問題でも起きたの?」
階段に近づきつつ、不審に思ったあたしは、何とはなしに階上のリンダへと疑問をぶつけた。すると彼女は、苦笑を浮かべて肩をすかしつつ、たった今降りて来た階段を、再び登る為に背中を向けた。
「別に問題なんて起きてないさね。ただ、あんた達に話を聞きたいって奴が居てね
「私たちにですか?
「エイミーさんだけなら解るけど、なんであたしとジョン君まで?」
そう言ってあたしは、再び疑問を彼女にぶつけた。元々金等級の冒険者だったエイミーが、冒険者に復帰するって成ったら、そりゃ話の一つも聞きたいって人が居ても、そりゃおかしくないけどね~
彼女の口振りだと、無名のあたしやジョン君まで、呼ばれているようなのよね。さすがにあたし達まで、そこに同席する必要は無さそうじゃない?
まぁ、あたしは異世界人って立場だから、その辺りの事でって可能性はあるけどさ。
「盗賊団のアジトで、大立ち回りして見せた奴は、一体どこのどいつだい?
「あ~…あっはははは…」
リンダの一言に色々察しつつ、頬を掻きながら笑って誤魔化した。
あ、はい。それ、あたしです、サーセン…なるほど、要するに事情聴取って訳ね。
納得した所で、先頭を行くリンダの後ろを、あたし達は着いてゆく。2階に上がり、3階へと上がって、更にその上へと…
「リンダさん、もしかして私たちを呼んでいるのって…」
4階へと続く階段に、リンダが足を掛けた所で、エイミーが何か察したのか、先頭のリンダへと声を掛ける。
「あぁ、ここのギルマスだよ。」
その後に続く言葉を、リンダが引き継ぐ形で答えた。ギルマス…要するにギルドマスターって事よね?
つまりこのギルドの長が、直々にあたし達から話を聞きたいって事?盗賊団を退治したくらいで?
まぁ、くらいって規模じゃ無いんでしょうけど、それにしたってそんな偉い人が、わざわざ手ずから対応するかしら?なんか嫌な予感がするわね…
チラッとエイミーに視線を向けると、おそらく彼女も、あたしと同じ事を思ったのか、少し険しい表情を浮かべていた。
「今大将が相手してるんだけどね。ま、割と気さくな人だから、緊張しなくて大丈夫さね。」ガチャッ
そう言ってリンダは、1つの扉の前で立ち止まると、流れるような動作でドアノブに手を掛けて、そのまま無造作に押し開いた。




