異世界うるるん滞在記~潜入!子連れJK51時!!ラストミッションのお時間です~(8)
「マリー、街の状況はどうなってるの?」
『あ、はい!今も爆発のあった建物を中心に、兵士の人達が集まってますよ。あちこち動き回っていますけど、お城に近づこうとする人は今の所見当たりませんね。』
「そう…」
って事は、まだ居もしない逃走者達を探してくれてるのね。ご苦労な事だわ。
「解ったわ、ありがとう。そのまま監視を続けて、何か変化が起きたらこっちの状況に関わらず連絡を頂戴。」
『はい!解りました!!』
「…優姫。」
通信中。不意の呼び掛けに反応して、先行するリンダの背後から、その先へと意識を向ける。
直後、眉間に皺を寄せながら、行く手に現れた石造りの壁を睨み付けた。
アレね…
「…銀星。」
『はい。』
「目的の場所に着いた。周辺の警戒は、もうミリアだけで大丈夫だから、銀星も街の監視に回ってくれる?」
『了解しました。』
「って訳でミリア、後は任せたからね?」
『OK!任されたね!』
『ご武運を。』
『気を付けてくださいね。』
「えぇ。」
そう答え通信を切ると同時、件の石壁に到着。一旦その場で立ち止まると、すかさず石壁に沿って視線を巡らせる。
すると程なく、右手に少し行った先に入り口を発見。夜陰の中でも直ぐにそうと解ったのは、開き戸が開け放たれた状態で、其処から明かりが漏れて見えたからだ。
どちらからともなく、顔を見合わせ頷き合う。そしてそのまま、壁伝いに入り口へと忍び足で移動。
そこから漏れる明かりの揺らめきが、ハッキリと見て取れる距離まで近づくと――
「――」
「――」
――その向こう側から、僅かに感じた人の気配と話し声。
…この位近づけば十分かな。
そう判断したあたしは、不意に立ち止まり視線で合図を送る。すると、その視線に気付いたリンダが、その場で停止し僅かに頷く。
それに頷き返すと同時、彼女から視線を逸らした。そして、自然体となり両目を閉ざすと、ゆっくり大きく深呼吸。
感覚を研ぎ澄ませ、背中越しに向こう側の様子を探る。
…ミリアからの情報通り、見張りは二人で間違いないみたいね。距離は…大体十メートル前後か…
あたしん家の本家筋、武神流の初伝で修めさせられる気配察知法。家一棟は流石に無理だけど、壁一枚越しならお手の物だ。
まぁ、明陽さん達と比べたら立つ瀬が無いけどね~
さておき。必要最低限の情報を読み取ったあたしは、最後に大きく息を吐き出し瞳を開いた。
「ここから見張りまでの距離は約十メートル。障害物になりそうな物は感じなかったわ。」
続け様、読み取った情報をリンダと共有すべく、そちらに向かって顔を近づけると、周囲に気を配りながら小声で話し掛けた。
「十メートルか。その位なら、距離を詰めるのに二秒と掛からんが…」
「騒がれずに制圧出来るか運次第ね。」
「だねぇ。どうするよ、それでも構わず強行突破するかい?」
「ん~…流石にそれは早計かな。建物内に他の兵士が居ないって保証が無いし、出来れば穏便にすませたいわね。」
「けど、居たとしてせいぜい数人だろう?大した脅威にゃならんさね。」
「脅威は無くても救助者が居るでしょ。中の状況が解らない以上、騒ぎを起こすのは得策じゃ無いわ。」
「ならどうするってのさね。よ。」
「そうね…」
そう呟くと同時、思考を巡らせる。
安全策を取るのなら、死角になる場所まで移動して、塀を乗り越えるのが無難だろう。けどその場合、移動と安全確認に時間を掛けなくてはならない。
仲間達のサポートが在るとは言え、何時まで潜伏していられるか解らない以上、無駄に時間を掛けるのは好ましくない。
となれば、困った時の眷属器。またぞろ透明化して、近づくってのも手ではある。
けど、それこそさっきの話。監視されてる可能性のある今、接近する為だけに手の内を晒すような真似は避けたい。
って、なったら…
「…なんだい?」
考えが纏まり、横目でリンダの姿を確認。その視線に気付いた彼女が、怪訝そうな声を上げる。
そんな、バージナル兵姿の彼女|に対し、あたしはニヤリと人の悪い笑みを浮かべる。
「その様子からして、どうやら良い案が浮かんだようだねぇ。」
「どうかしら?シフォンやエイミーだったら、きっと呆れられると思うけど。」
「って事は、碌でもない作戦ってこったね。上等だよ、乗ったろうじゃないか。」
そう言って、一人勝手に盛り上がりを見せる彼女。作戦を聞く前だってのに、何とも頼もしい限りだわ。
ってか、碌でもないとか言い過ぎちゃうん?
「んで、あたいはどうしたら良いんだい?」
「色々考えたんだけどさ、リンダには正面から乗り込んでもらおうかなって。」
「正面から?」
「うん。それが一番手っ取り早いし、面倒も少ないでしょ?」
「そりゃそうだがよ…って事は結局、強攻手段かい?」
順序立てて説明していた途中、勝手にそう結論付け落胆する彼女に思わず苦笑。同時に拳を振り上げて、そのまま眷属越しに彼女の胸板を軽く小突いた。
「そんな単純な訳無いでしょ。自分の格好忘れてんの?」
「格好って…おい、まさか。」
「そのまさかよ。今のリンダなら、正面から堂々と敷地内に入っても、直ぐに侵入者とは思われないでしょ?」
「そら、あたいはそれで良いかしんねぇけどよ。優姫はどうするつもりさね?」
「勿論、一緒に着いて行くわよ。リンダの背後に隠れてね。」
「背後に?流石にバレやしないかねぇ。」
「日の昇ってる時間ならね。けど今は夜で視界も悪くなってるし、ピッタリ張り付いてけば十分いける筈よ。」
そう語った直後、兜越しに鼻を鳴らす彼女。そして――
「まぁ、あたいはガタイがデカいからね。」
何処まで本気なのか解らないその言葉に、思わずあたしは肩を竦める。
提案した時点で、その台詞は織り込み済み。だってこれは、あたしとリンダの体格差在っての作戦だからね。
「言っとくけど、他意は無いわよ?」
「んな事は解ってんよ。それはそれとして、遠慮の無さに容赦が無いなと、改めて感じただけさね。」
「あら、ご挨拶。背中を預ける者同士、この位当然だと思うけど…傷付いちゃった?」
「ったく、言ってろってんだよ。」
こちらの軽口に対し、うんざりしたような口調で返す彼女。その様子にあたしは、悪戯っぽく笑いながら、再びその胸板を軽く小突くと…
「ハリウッド女優張りの名演技、期待してるわね。」
しれっとそう言ってリンダに道を譲る。これに彼女は、諦めた様子でため息を吐き出すと、入り口に向かってゆっくりと歩き出した。




