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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第四章 軍国編
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異世界うるるん滞在記~潜入!子連れJK51時!!ラストミッションのお時間です~(6)

「…私はそれを是正したくてね。」


 そして、ぽつりとそう一言。


 聞き取るのもやっとだったその呟き。けれど、その内に秘めた、憂う思いの深さを知るには十分だった。


 本心からそう願っていると理解するには、十分過ぎる程だった。だからこそ許せない。


 それならどうして、バァートンさんを見殺しにしたのか。どうして、メアリさんの身柄を護ってくれなかったのか。


 やんごいとなき事情があったんだろう事は、あたしにだって解る。しかし、それを推してでも動いてくれなかった事実が、ひどく残念でならない。


 まぁ…それは当人が一番感じてる事だろうけどさ。


「…事情は解ったさね。詰まる所、年間の増減差が丁度良くなったんで、日陰者共が用済みになったって話しだろう?」


 そんな事を考えていると、背後から悪態をつくリンダの声。それを耳にすると同時、警戒心が薄らいでいた事に気が付き、慌てて気持ちを切り替える。


 敵地のど真ん中だってのに、これは幾ら何でも迂闊過ぎね…気を付けなくちゃだわ。


「あんたのしてきた事は、きっと正しい事なんだろうよ。けどそれはそれとして、今まで散々利用して、要らなくなったらポイってなぁ、随分と手前勝手な話じゃないか。」

「…そうだな。その上、後始末をお嬢さん達に任せてしまったのだから、我ながら情けないと思っているよ。」

「別に、それに関しちゃ気にしちゃいないよ。こっちの都合で、動いただけだからねぇ。」

「そうね。それに、あたし達が関与しなくても、いずれは取り締まるつもりだったんですよね?」

「あぁ。しかし、お嬢さん達の介入が無ければ、後三月は掛かっていただろう。」

「随分と慎重なこったねぇ。」

「相手が相手でね。慎重にならざるを得ないのだよ。」

「なんだい。相手は唯の犯罪者共だろう?」

「その犯罪者共をこの国に招き入れ、商売を許可したのが前王時代からの重鎮達でね。」

「成る程、そいつ等が填めたい政敵ですか。」

「そうなるな。現王を推挙させるのに協力を請うた手前、我々としても強く出れなくてね。だからお嬢さん達の介入は、正直渡りに船であった。」


 そう言うと同時に、差し掛かったT字廊下を左へと曲がる島津将軍。その後を追って曲がると、右手に明かり取りの窓が等間隔に並ぶ通路が続いている。


 その窓から見える夜景は、けれど植物のほとんど育たないルアナ大陸だけ在り、剥き出しの大地が月明かりに照らされるだけという、何とも物寂しい風景だった。


「裏で糸を引いてる人物がいるのは解りました。けどそれって、昨日今日の問題でも無いですよね。今になって、取り締まる気になったきっかけって、一体何なんです?」


 その寂れた夜景を。見慣れているであろう光景を眺める背中に、気づけばそう問い掛けていた。


 我ながら、随分踏み込んだ事を聞いたなと。それを知った所で、あたし達には関係ないというのに。


 けど、聞いておきたかった…いや、()()()()()()()()あたしには感じたのよ。


 ふと、こちらを一瞥する島津将軍。直後、まるで顔を背ける様に、進行方向へと顔を戻し――


「…お嬢さん達が壊滅させた闇奴隷商達の中に、邪教と通じる者の存在が確認されてね。」


 ――一拍置いて、聞き慣れない単語を交え静かに語った。


「邪教…ニュアンスからして、邪神を崇拝する教団か何かよね?」

「あぁ。けどありゃ、大昔に排斥されて今や跡形も無いって話しさね。」

「そのように伝わっている様だがな。しかし奴等は、今も世界の裏側で暗躍しているよ。主立った大国の首脳陣達も、公にしないだけでその存在を確認している筈だ。」

「マジかよ…」

「その組織とも、お偉いさん達が繋がっていたから、取り締まる事になったと?」

「あぁ、その通りだ。邪神の軍勢に立ち向かうべき我が国が、その首魁を崇める者達と通じていたなど、在ってはならぬ話しだからな。」


 しかもそれが、邪神と呼ばれる以前の神が、統治していた国なら尚の事、か。成る程ね…


 そう結論付け納得すると同時。それまで歩みを止める事の無かった将軍が、不意にその場で立ち止まる。


 一瞬遅れであたし達も立ち止まり、向こう側を確認。見るとその先の壁に、ぽっかりと空いた通用口があった。


 どうやら案内はここまでらしい。


「ここを出て、道なりに進んだ先に壁に囲まれた建物が在る。其処がチェコロビッチ率いる部隊の待機所だ。」

「そうですか。」

「報告によれば、黒豹の彼女の他にも数名居るそうだ。」

「…わかりました。」


 短くそう答え、リンダと共に歩き出す。二人並んで将軍の脇を通り過ぎ、一歩二歩と進んだ所であたしだけ立ち止まる。


 続け様、その場でクルリと振り返ったあたしは、真剣な眼差しでかの人物を見据えた。


「最後に一つ、お聞きしても良いですか?」

「何かね?」

「島津将軍達は今後、この国の奴隷問題をどう導いていくつもりなんですか?」

「そうさな…最終的には、この世界で一般的に施行されている奴隷法を、この国に取り入れたいと思っているよ。」

「なら、今この国で働いている人達は、いずれ解放されるんですね?」

「そういう事になる。まぁ、解決せねばならない問題が山住であるから、まだ大分先の話だがね。」

「そうですか。」

「私からも最後に良いかね?」

「えぇ。なんでしょうか?」

「謝罪も礼も要らぬと言われたが、これだけはどうしても伝えたくてね…」


 そう言って、再び深々と頭を下げ――


「この国の将軍としてでは無く、一人の好々爺として、お礼を言わせて欲しい。夕映を…孫娘を助けてくれてありがとう。」


 ――冗談めいたお礼の言葉を口にする島津将軍。ふと、その姿がうちのじいちゃんと重なって見えた。


「あぁ…はい。そのお礼は、喜んで受け取りますよ。」


 そう感じたからだろう。警戒する事をまるで忘れ、思わず微笑みながらそう答えていた。


 嘘偽りの無い素直な気持ち。まったく、我ながらチョロいわね…

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