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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第四章 軍国編
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異世界うるるん滞在記~潜入!子連れJK51時!!ラストミッションのお時間です~(5)

 階段を上り、程なくして地上へと戻る。すると、先に地上へと戻っていた将軍が、律儀にも待機して待っててくれた。


「こちらだ。」


 短くそう告げ、こちらに背を向け歩き始める島津将軍。あたし達は、一定の距離を保ちつつ、その後を追いかけた。


 敵地のど真ん中で、敵の総大将に案内されてるなんて、何ともおかしな状況だわね。


「早速だが、要求への返事を返そうか。」

「お願いします。」

「まずは、市街地で君達が起こした、騒動の後始末だったな。」

「はい。こちらで確保してる、犯罪組織の構成員の身柄引き渡しと、爆破させた建物の残骸処理もお願いします。」

「部下からは、構成員の処遇については、こちらに一任すると伺っているが、相違ないかね?」

「それで間違っていません。ですが…」

「解っている。その者達は、終身奴隷として前線に送るつもりで居るよ。」

「そうですか、よろしくお願いします。」


 追いつくと同時に始まった要求への回答。今の所異論は無いので、お願いする立場として丁寧に応答。


 と…


「終身奴隷?」


 不意に上がった怪訝そうな声。それを聞き、肩越しに背後を伺う。


「おかしな事を言うねぇ。バージナルの奴隷は、例外なく解放される事は無いって聞いたさね。なのにその言い方じゃ、他の国と同じ奴隷制を施行してる様に聞こえるねぇ?」


 続け様に、問い掛けられたその疑問。いやさ嫌味か。


 どちらにせよ、リンダの放ったその言葉が、先頭を歩く紅い背中に容赦なくぶつけられた。


 背後に向けていた意識を、前方へと戻し反応を待つ。直ぐさま言い返すでも無く、かと言って気を悪くした様子も無く、暫く無言で歩を進める島津将軍。


「…そう受け取られても仕方が無いな。」


 暫く待った後。不意に聞こえた、自嘲を感じさせるその呟き。


 たった一言。ほんの僅かな言葉でしかなかったけれど…


 この国の、延いてはこの世界の奴隷制について。将軍が本心でどう思っているのか、その一端を知るには十分な気がした。


「それについては、後ほど少し説明しよう。」

「説明だって?」

「あぁ。君達の要求にも、関わってくる話だからな。だが今は、先に要求への回答を答えさせて欲しいな。」


 だからだろう。その言葉を受け、徐に背後を振り返ったあたしは、視線で訴えを掛ける為に無言でリンダを見据える。


「…わぁ~ったよ。」

「続きをお願いします。」


 その意図を察した彼女の返事。少しふて腐れていた事に、心の中で謝罪しながら視線を戻す。


「取り締まりの件に関しても、全面的に受け入れる。今後我が国は、正規ルートから外れた奴隷を、全面的に禁止すると約束しよう。」

「本当ですね?」

「あぁ。加えて、君達と君達が救出した者達の今度についても保証しよう。そちらのお嬢さんと魔女殿の手配書に関しても、数日中には取り下げられる筈だ。」

「つまりは、こちらが提示した要求の一切を、受け入れると?」

「そういう事になる。意外かね?」

「いえ。恐らく受け入れられるだろうという事は、昨日お会いした部下の方の返答を、頂いた時から予想は出来ていましたから。」

「そうかね?では、何故そんな怪訝そうにしているのかね?」


 不意にそう問われ、思わず眉を顰める。会話中ずっと、歩を緩めるどころか、肩越しに伺う素振りも見せなかったのに、何故そう思ったのだろう。


 背中に目でも着いてんのかしらね?


「そんな言われる程、怪訝そうにしていましたか?」

「あぁ。少なくとも私には、そう感じたね。」

「そうですか。考え事が、言葉の端に出てましたかね…」

「そうかもしれんな。この際だ、気になる事があるのなら遠慮無く聞いてくれ。その方が、私としても助かるよ。」

「そうですか。なら遠慮無く…」


 そこまで言ってあたしは、前方をキッと睨み付け――


「何処までがあたし達の思惑で、何処からが島津将軍の思惑なんです?」


 ――先を行く紅い背中に向かって問い掛けた。


「…まるで、私がお嬢さん達をけしかけたような言い草だな。」

「二日前に、あたしを見逃してくれた時から、ずっとそうだったとは言いませんよ。けど、途中からは事実そうでしょう?街で騒ぎが起きると知っていながら、それを放置した。」

「謹慎中であるからな。」

「あたしの提示した要求を、全て受け入れたのも。こうして、わざわざ出向いて道案内しているのも。謹慎中だからですか?」


 立て続けに口にした、嫌味混じりの問い掛け。それに沈黙を以て答えとした島津将軍。


 歩く速度はそのまま、こちらを気にする素振りも無い。その様子に思わず、呆れながらにため息を漏らした。


 皆まで言わない姿勢は結構だけど、反応位返して欲しいわね。これじゃまるで、あたしが幽霊みたいじゃない。


 そんな事を考えつつ、会話を再開すべく口を開いた。


「さっき仰ってた、要求にも関わってくる話しについて、そろそろ伺っても良いですか?」

「そうだったな。」


 それは少し前、将軍自らが口にした話題。そろそろ頃合いかと思い切り出すと、そこで初めて、肩越しにこちらの様子を伺ってきた。


「その前に聞きたいのだが…」

「なんでしょう?」

「お嬢さんは、こちらの世界に来て長いのかね?」

「いえ、つい最近です。」


 続け様、何を聞いてくるのかと言えばそんな事。話にどう関わってくるのか知らないけど、答えにくい事でもないので素直に答えた。


「そうか。では、この国については、あまりいい話を聞かなかった事だろうな。」

「えぇ、まぁ。」

「お嬢さんから見てどうかね。聞いていた通りだったかね?」


 更にそう問われ、そこでようやく質問の意図を察し。要するに、あたしから見たバージナルの印象聞きたい訳ね。


「そうですね…聞いてた通りだった部分も、確かにありましたよ。けど大半は、あたしが想像していたよりずっとマシでしたね。」

「ほぉ…と言うと?」

「一番はやっぱり、街で見かけた奴隷の人達ですね。格好こそ見窄らしいけど、どの人も身体は小綺麗に保たれてたし、血色も良かった。食事に睡眠は勿論、水浴びか沐浴もされてるんですよね?」

「勿論だとも。他に想像と違った点は無いかね?」

「そうですね…街の人達の態度ですかね。」

「態度?」


 それまで会話に参加していなかった、リンダからの問い返し。それにあたしは、歩きながら肩越しに振り返る。


「えぇ。この国の他種族に対する差別感情は、神代の頃の確執がそもそもの原因な訳じゃ無い?」

「んまぁ、そうさねぇ。」

「その頃からずっと語り継がれて、今尚差別意識があるって事は、当時はもっと酷かったと思うのよ。それこそ、激しい怒りや憎しみを抱いてたんじゃ無いかなって。」

「そうだとして、何だってんだい?」

「根底にあるのが怒りや憎しみ(ソレ)なら、どんな聖人君子だって、何時か魔が差すかもしんないって話しよ。ましてや、うん千年と続いてきたなら尚更ね。」


 怪訝そうにする彼女にそう答え、視線を元へと戻し更に続ける。


「今回の件で、街の人と話す機会は何度もあったわ。その中で、他種族に関する事について聞いてもみた。結果は、嫌な顔をする人ばかりだったけど…でもだからって、目に入ったその人達に、酷い事をする住民は一人も居なかったわ。」


 それが、この国を訪れて一番安心した事。この国に住む一般の人達まで、嫌いにならずに済んでホッとした事だ。


 そう思っていた――


「…そうか。お嬢さんの目には、そう映ったか。」

「え?」

「五十年。お嬢さんの目に映った街並みにするのに、我々は五十年も掛けてしまったよ。」


 ――それはつまり、五十年前にはあたしの想像していた通りだったという事。


「私がこの国に召喚された頃の奴隷達への扱いは、それは酷いものだった。汚泥にまみれた身体で、禄な食事も与えられず、休む間もほとんど無しだった。その上、住民達からは罵声を浴びせられ、石を投げつけられるのも当たり前。その様な環境下だ、日に何人もの死者を出していたよ。」


 想像通りの地獄が、この国では横行していたという事…


 元より覚悟はしていたつもり。でもだからって、理解など出来る筈が無い。


 だからあたしは、聞かされた事実にただただ反吐を堪え、眉間に深い皺を刻み耐え忍ぶ。人が人として扱われない不条理に、激しい憤りを感じながら。


「そんな状況から、よくもまぁここまで変えられたもんだね。」

「未だ道半ばではあるがね。それでも、当時と比べて死者は大分減ったよ。」


 リンダも同じ気持ちなのか、声の感じが何時になく硬い。そして、それに答えたその声も…


 続け様、再びこちらを伺う素振りを見せる島津将軍。


「私の思惑が何処にあるか、気になっていたね?」

「はい。」

「君達が潰してくれた闇奴隷商達は、五十年前以前からこの国で活動していた。彼等がこの国でも商売を行えた原因は、国民達の他種族に対する不当な扱いだった。」


 低く、落ち着き払ったその一言。それを聞いてあたしは、眉間に再び皺を刻む。


「年間の死者数が、正規ルートで流入してくる人数を超えてたんですね?」


 そして気付けば、核心に迫る質問を自然と口に出していた。これに将軍は、背中越しに無言で頷く。

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