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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第四章 軍国編
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間章・踊る阿呆に見る阿呆。同じ阿呆なら踊りだせ!(4)

 チェコロビッチの言葉を悉く遮り、怒鳴りつける彼女。その勢いに気圧され口を閉ざす。


 その反応を見るなり、もう興味は無いと言わんばかりに顔を背ける彼女。そのまま駆け出し、街路の先を目座す。


「大変さね!大変さね!!奴隷が建物に爆発物物を仕掛けて逃げ出たさね!!手の空いてる奴は、逃走した奴隷の捜索と建物の消火活動に別れるさね!!」


 現れた時と同じく、周辺の兵士達に火急の報せを告げる彼女。遠ざかっていくその背中を、而してチェコロビッチは、顔を真っ赤にさせ忌々しげに見送っていた。


「クソが!!この俺に舐めた口叩きやがって…」


 次いで吐き捨てるかの様にそう告げると、そのままの表情で部下達へと視線を転じる。


「おいっ!帰ったらアレが誰か調べとけ!!」

「わ、わかりました!」

「それからお前!」

「は、はい!」

「シュナイダーの元に走って、こっちに合流するように伝えろ!!」

「了解しました!」

「お前等二人は、爆破された建物に向かって状況確認!特に逃げた奴隷共の特徴について詳しく聞いてこい!!」

「「ハッ!!」」

「残りの連中は二人一組に分かれて逃げた奴隷共の行方を捜せ!!こんな事が出来るって事は紋無しだ。詳しい外見が判明するまでは、片っ端から背中を確認しろ!!」

「「「「了解!!」」」」

「よし、行け!!」


 その号令と共に踵を返し、巨大街路へと向かって行く兵士達。


 部下達も見送り、一人その場に留まったチェコロビッチ。忌々しげな表情はそのまま、遠く立ち上る黒煙を睨み付ける。


「よりにもよって、この俺が見回りに出ているタイミングで爆破だと?クソッタレが…この間っから、何一つとして上手く行かねぇ…」


 そして一人、誰に聞かせるでも無くそう吐き捨てたのだった――


 ――…』


『………』


『あたいだよ。大将の指示通り、見回りの兵士共を煽ってきたさね。』


『承知致しましたわ。』


『手出さなかったん?』

『そらお前、殴りたかったけど我慢したさね。』


『……』


『んで、どうなったさね?』


『それは勿論、上手く行きました。警邏中の兵士達は勿論、城内からも兵士達が出動して、左側ブロックに移動しています。』

『予定通りですわね。よくやりましたわ、リンダ。』


『リンダ、ナイッスゥー』

『ないっすー!!』


『あんがとよ。』


『…』


『したら優姫、合流地点で会おうさね。』


『了解。遅かったら一人で行っちゃうんだから早く来てよね?』

『へぇ~へぇ~善処するさね。』


『――


 ――バージナル国軍総司令部・将軍執務室


 相も変わらず殺風景な室内に、カリカリとペンを走らせる音だけが響く。


 部屋の端に設けられた執務机。そこで書類作業に没頭しているのは、謹慎処分を言い渡された筈の島津加々久その人だ。


 ――ドオオオォォォーン…ドカン、ドゴオオオォォォーン…


 不意に、室内に届いた爆発音。その音に、書類の上を走るペン先がピタリと止まる。


 けれどそれは、ほんの一瞬の事。次の瞬間には、まるで何事も無かったかの様に、書類の上でペン先が軽快に踊る。


 それを操る当人は、状況を確認するでも、視線を転じる事も一切無い。平静を通り越して、全くの無関心。


 その代わりとばかりに、室外の様子が段々騒がしくなっていくのが気配で伝わってくる。その内、バタバタと忙しない足音が、この部屋に向かってくる。


 ――ドン、ドン!


「将軍!シマズ将軍!!」ドン、ドン、ドン!!


 その足音が部屋の前で止まったかと思えば、直後に扉が荒々しく叩かれた。それと共に、扉の向こう側から響く怒鳴り声。


 そこでようやく作業の手を止めた島津将軍。素知らぬ顔で、今し方殴打された扉に視線を転じる。


「そんなに強く叩かなくても聞こえている。開いているから入ってきなさい。」

「は、はい!」ガチャッ


 入室を促すと共に、扉が勢いよく開かれる。而して、その向こう側に立っていたのは、表情を強張らせた文官だった。


「失礼します!」

「どうしたのかね?」

「た、大変です将軍!先程、市街地区にて爆発が起こりました!!」

「ほぉ、爆発。先程の音はそれか…」

「は、はい!」


 入室するなり、緊急の報せを将軍に伝える文官。切迫したその様子や、通路の奥から聞こえる幾人もの怒鳴り声からして、事態は相当混迷しているらしい。


 にも関わらず。而して島津将軍は、終始落ち着き払った様子で、文官の報告を聞きいっていた。


 所か、報告を聞き終えるや否や、視線を机に戻し書類作業を再開する。にべもない、と言うより無関心と表すべき様なその態度。


「あ、あの…将軍?」


 その反応に、先程迄の切迫した様子から一転、戸惑いを露わにする文官。恐る恐ると言った様子で、島津将軍に声を掛ける。


「報告、ご苦労。」

「あ、はい!」

「だが、君も承知の事と思うが、今の私は謹慎中の身でね。指示を求めて来てくれたのだろうが…ここで私が口を出すと、追々面倒な事になるのだよ。」

「えっ!?じゃ、じゃぁ…」

「あぁ。すまないが、大臣方にその報告を送り、どうすべきか指示を仰いではくれないだろうか?」


 報告書にペンを走らせながら、淡々とした口調でそう告げた島津将軍。その言葉を受け文官は、あからさまに愕然とする。


「し、しかし!お言葉ですが将軍、周辺住民の安否も危ぶまれるこの緊急時に、その様な事を言ってる場合では…」


 直後、文官の口を吐いた反論の言葉。その言葉を受け、将軍のペンを持つ手がピタリと止まる。


「緊急時故に、であるよ。」


 直後、文官の方を再び向いた島津将軍。その表情たるや、酷く申し訳なさそうであった。


「ここで私が動けば、将軍職から私を降ろしたい連中に、体の良い口実を与えてしまう事になる。それを避ける為には、大臣達から私に指示を仰ぐようにとの言質を取る必要が在るのだよ。」

「それは…そうかも知れませんが、大臣達がそんな事を言う筈が…」

「解っている。だが、この順序はどうあっても守らねばならぬのだ。それが王からの勅命でな…」

「…解りました。」


 島津将軍からの話を聞き、渋々といった様子で文官が頷く。まるで納得していないのは勿論、それ以上に分かり易い落胆の色…


「失礼しました。」


 続け様、文官はそう告げて、将軍の反応も待たず扉を閉める。締め切られたその扉を暫く眺め、将軍はため息を漏らした――


 それから、どの位の時間が経っただろう。部屋の外からは、相変わらず慌ただしい気配が伝わってくる。


 そんな中、こちらも相変わらず書類仕事に勤しむ島津将軍。


 と――


「…そろそろか。」


 不意に、そう呟くと同時、ペンを走らせていた手を止める。次いで、椅子の背もたれに身体を預けると、瞼を閉じて気怠げに吐息を漏らした。


 暫くの間、そのままの姿勢で過ごす島津将軍。やがてまぶたを開くと、意を決し椅子から立ち上がった。


 続け様、背後を振り返ると…


「…無用の長物に済めば、良いのだがな。」


 壁際の台座に安置された愛刀を見やり、独りそう漏らしたのだった――


 ――…』


『あ、来た。』

『大将、優姫と合流したさね。』


『承知致しましたわ、いよいよ大詰めですわね。』


『………』


『捕虜から引き出した情報によれば、我々の最終目的である御二人は、それぞれ別々の場所に捕らわれているそうです。有翼人の男性は王城の地下牢に。一方黒豹の女性は、王城と軍部との中間にある、例の異世界人率いる部隊の詰め所内に。』

『リンダさん、それぞれの場所の位置は大丈夫ですか?』


『地下牢は問題無いさね。ただ詰め所の方は、ちと曖昧だねぇ…』


『了解しました。では、王城を出たタイミングで連絡をください。こちらで誘導を行います。』


『あいよ。』

『頼りにしてるわね、銀星。』


『……』


『姫華さん、一旦こちらに合流してくださいますか?精霊界に戻ります。』


『はぁ~い!』

『銀星さん、マリーさん、後お願いします(解りました)(任されました!)』


『ミリア、援護任せたわね。』

『Ok All Right!!』


『お二人とも、気を付けてくださいね。』

『頑張ってください!!』


『あんがと、エイミー、ジョンもさんきゅ!』


『優姫の事は、あたいに任せときなよ(ちょっと!どういう意味よそれ)そのままの意味さね。』


『…』


『もしも~し、マスタ~』


『うん?どうしたのよ夜天。』


『あのね、メアリーが一言物申~す!!だって~(ちょ、夜天ちゃん!そんな事一言も…)』

『ほほぉう?それはまた、面白い事言ってくれたじゃないのよ。』

『でしょ~?代わるね~(もう、酷いよ…)』


『あ、あのメアリーです!その…』


『え、えっと…』


『ッ…優姫さん、リンダさん。メアリさんとバァートンさんの事…』


『どうか、よろしくお願いします!!』


『――


「あぁ、任されたさね。」

「あたし達に、任せんしゃ~い!」


 不敵に笑いながら、口々にそう告げるあたし達。


 時刻はまだ宵の口。けれど、周囲に人の気配はまるで無い。


 この国で、一番に護るべき王城の目の前だと言うにも関わらず、だ。


 通信リングに向けていた意識から一転。目の前の王城へと視線を向ける。


 真っ暗な空を背景に佇む伏魔殿。この旅の終着地点でもある場所――


「さぁ~て。んじゃま、ちょっくら行きますか。」

「あいよ。」

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