間章・踊る阿呆に見る阿呆。同じ阿呆なら踊りだせ!(3)
『今、エイミー達が建物から出ました。予定通り、警邏の兵士に目撃され逃走中です。』
『了解。』
『エイミー!ジョーンー!がんばってぇー!!』
『ちょ!?姫華!大声出すんなら通信切ってからにしなさいよ!!』
『ハッ!?ご、ごめん銀ちゃん…』
『………』
『中間地点を通り過ぎました!』
『そろそろですわね。お二人とも、準備は宜しいですわね?』
『うん!!』
『何時でもオッケーよ。』
『……』
『承知致しましたわ。銀星さん、カウントをお願い致します。』
『解りました、カウントいきます。三…』
『ミリアさん、例の一団に目立った動きはありませんわね?』
『Yeah!中央の巨大街路に向かって、だらだら歩いてるね!』
『二…』
『承知致しましたわ。今暫く、その場で見張りをお願い致します。』
『OK!任せるね!!』
『…』
『リンダ、もう移動を開始して構いませんわ。』
『一…今です!』
『あいよ。』
『オヒメ!』
『うん!!』
――ドオオオォォォーン…ドカン、ドゴオオオォォォーン!
『爆発を確認しました!』
『したらあたいは、そのまま優姫との合流地点に向かうさね。』
『えぇ、お願い致しますわ。こちらからも爆発を確認致しました。』
『来た!エイミー!ジョーン!こっちこっち!!(お待たせしました、オヒメちゃん)(はぁ!はぁ!!)』
『姫華さん、エイミー達を精霊界に送り届けたら、次はミリアさんの元に飛んでくださいまし。』
『はぁーい!(にゃはははっ!この位で息が上がるにゃんて情けない少年にゃ!)(体力馬鹿の手前等と一緒にしてやるなよ)』
『賑やかなこって、楽しそうですなぁ~エイミー、ジョン、お疲れ様。』
『は、はいぃ~…』
『フフッ、ありがとうございます。』
『――
――下ブロック、巨大街路に通じる大通りの一角。其処に、十人程の兵士達が隊を成し歩いている。
見回りの兵士達とは、装備が若干異なるその一団。頭まで鎧を身に着けた兵ばかりの中、兜を被っていない者が一名。
その者を中心に隊列が組まれている事から、隊長格であるのは間違いない。黒髪白人の異世界人――
「――ったく。なんで俺まで見回りに出なきゃならないんだ。お前等だけでやってこいってんだよ。」
部下を従え歩く様は、まるで規模の小さな大名行列。その最中、不意にチェコロビッチが不機嫌そうに文句を垂れる。
「まだ言ってるんですか、隊長?いい加減諦めてくださいよ。」
「そうですぜ。王からの命令なんですし、形だけでも参加して貰わないと後が面倒だって、シュナイダーも言ってたじゃないですか。」
そんな上司に対し、前を歩く部下の中から窘める声。それを聞き、チェコロビッチの不機嫌さが一層強まった。
「そんな事は解ってんだよ!だからこうして付き合ってんだろうが!!俺の独り言にいちいち反論してんじゃねぇよ!!」
「「す、すいません!」」
続け様、そちらをジロリと睨み付け、理不尽な物言いで一喝。声を掛けた部下達が、直ぐさま謝罪の言葉を口にする。
その様子を、背中越しに伺う前方の兵士達。身を寄せ合い、ひそひそと内緒話をし始める。
「なぁ今日の隊長、何時にも増して不機嫌じゃねぇか?」
「あぁ。一昨日の振る舞い酒の途中からは、機嫌が直った様に見えたのになぁ…なんかあったのかな?」
「何だ、お前等知らないのか?」
「知らないって何がだよ。」
「一昨日の酒の席で、ロズ共が隊長と女を攫ってくる算段してたのをだよ。」
「はぁ?マジでか…え、相手は誰だよ?」
「それがよりにもよって、あのユエ・シマズだって話しでな…」
「将軍の孫娘だろ!?それは…幾ら何でも不味いだろ。」
「あぁ…だが本人達はえらく乗り気でな…飲みの翌日から、ロズ共が居なかったろう?」
「そういえば…って、もう実行に移ってんのかよ!?」
「この間、将軍に新しい玩具の入荷を邪魔された、意趣返しのつもりなんだろ。」
「だからって気が早すぎだろ…後の事とか考えてんのかね?」
「知らん。どうせ最後は、例のお偉いさんに丸投げだろ。」
「だろうよ。んで、機嫌が悪いって事は、それが上手く行かなかったって事か?」
「と言うか、今朝からロズ共の消息が解らなくなったなったらしい。」
「はぁ!?ちょ、それ不味くないか?」
「将軍の孫娘って事は、護衛が居てもおかしくないだろ。捕まってたりしたら、マジで厄介だぜ…」
「だな。その場合、俺達にまで火の粉が掛かるぜ…」
等々。部下達の内緒話は後を絶たなかった。
不機嫌な上司の目が届かなかった事も、それに一役買っていた――
――ドオオオォォォーン…ドカン、ドゴオオオォォォーン!!
「「「ッ!?」」」
そんな折に、突如として街中に響き渡った轟音。都合三つの爆発音に、その場に居た兵士達のみならず、道行く通行人達も、何事かと立ち止まる。
「何だ!?」
「爆発か!?」
「あ、あっちだ!煙が上がってるぞ!!」
続け様に上がる、人々の状況を把握しようとする声の数々。その内の一つに導かれるようにして、遠くで立ち上る黒煙に衆人の視線が向いた。
と――
「大変さね!大変さね!!」
――火急の報せを告げる女性の声。
「登録に無い奴隷が逃げ出したさね!建物に爆発物物を仕掛けて逃げ出したさね!!」
「何!?」
「どういう事だ!!」
その声は分かり易く、煙の上がる方角より聞こえてくる。誰とも知れないその声に、衆人の意識は黒煙から声の主へと移っていった。
やがて、道の先から姿を見せる、全身鎧の一人の兵士――
「大変さね!大変さね!!手の空いてる奴等は、急いで黒煙の上がってる方に向かってくれさね!!」
「おい!!」
道の先から現れた兵士に向かい、チェコロビッチが苛立たしげに声を上げる。その声に反応し、彼へと視線を向ける彼女。
「あんたらも急いで向かうさね!!」
「それよりもお前――」
「人手が足りないさね!!消火活動と、逃げた奴隷の捜索!!」
「あぁ!?んな事よりも――」
「逃げた奴隷はエルフ三、獣人一!!」
「んな事聞いてねぇだよ!!それよりもまず――」
「あたいはこの事を早く他にも伝えないといけないさね!!ぐだぐだ言ってないでとっとと向かうさね!!」
「あぁ!?テメェ俺誰だと――」
「知るかウスノロ!!部下連れて馬鹿面晒してないでやる事やりな!!」
「ぐっ!!」
 




