異世界うるるん滞在記~密着!子連れJK48時!!~(11)
そうこうしていると…
『こちら、エイミーです。』
不意に、リングに届いた定時連絡外の着信。それにあたし達は、兜越しに顔を見合わせると同時に沈黙する。
『銀星です。どうされました?』
『調査の結果、例の場所が犯罪組織のアジトであると確定しました。これより潜入を試みます。』
『了解しました。気を付けてくださいね、エイミー』
『えぇ。ありがとう、銀星ちゃん。』
『マリーです!エイミー、頑張ってください!!』
『フフッ、えぇ。マリーもありがとう。』
続け様に聞こえてきたそのやり取り。別れて一時間位しか経ってないのに、もうそこまで準備が整うなんて、流石と言うより他に無いわね。
それに、エイミーの口調や声のトーンから、はっきりと余裕が感じられた。彼女の性格からして、余程の自信が無いとこうはならない筈。
それだけ順調って事よね。面子も面子だし、トントン拍子に事が運んでるようで何より…
「なぁオイ聞いたかい?こりゃ、あたい等も負けてらんないさね。」
「いやいや、別に競争とかしてないからね?」
…やはり隣の芝生は青かったか(確信
さておき。気を取り直して、通信リングに魔力を込める。
「こちら優姫。聞こえてたわ、エイミー。随分と順調みたいだけど、油断しないようにね。」
『フフッ、そうですね、気を付けます。優姫の方は順調ですか?』
「まぁ、ボチボチかしらね…銀星。」
『はい。』
「こっちも地図に記載された例の場所に着いたわ。確証はまだだけど、透明化して潜入してみる。」
『大丈夫ですか?』
「あたしとリンダだし、滅多な事にはならないわ。だし、穏便に制圧出来ないって解ったら、ちゃんと退かせるから安心して。」
「それあたいに言ってるのかい?」
「他に誰がいんのよ。」
会話の途中、横から割り込んで声に思わずツッコみ。心外だと言いたげに、肩を竦めたリンダに対し、苦笑しながら口を開いた。
「ま、そういう訳だからさ。それに、あたしとリンダを組ませたのよ?多少の冒険は、大目に見てほしいってなもんよね。」
『解りました。そこまで仰るのでしたら、マスターの判断に任せます。』
「あんがと、銀星。その期待に、行動で応えるからね。」
『お願いします。』
『優姫、気を付けて下さいね。』
「ん、エイミーもね。」
そう応えつつ、辺りを見渡し人目が無い事を確認。身に着けたバージナル兵の鎧を送還して、代わりにインビジブルマントの複製品を装備。
リンダの腕に手を伸ばし、触れると同時に効果を発動。これで第三者から、あたし達の姿は見えなくなった。
「これより優姫班も、敵アジトと思しき建物に潜入するわ。緊急でない限り、通信には応答しないからそのつもりでお願い。」
『ではこちらも。暫く通信に応えられないので、よろしくお願いします。お二人とも、行きましょう――』
『了解しました、両班の健闘を祈ります――』
『皆さん、頑張ってください――』
その、それぞれの言葉を最後に、通信がプツリと途絶える。
直後にあたしは、リンダへ不敵な笑みを向け、例の建物を顎で差し示す。
「んじゃま、ボチボチ行きましょうか。」
「あいよ、ボス。」
続け様にそう言い合い、恋人さながら仲良く腕を組んで歩き出す。
今から個別に透明化しちゃうと、お互いに認識出来なくなっちゃうので、仕方の無い処置です。特に下心はありません。
流石のあたしも、中身が女子だからって、フルプレートに抱き着く趣味は在りませんぬz
さておき。人通りの少ない路地を、周囲を警戒しながら目的地を目指す。
姿が見えなくなっただけで、存在自体が無くなった訳じゃ無いからね。急いだらその分、違和感が生じてしまう。
かと言って、慎重に為り過ぎる余り、動きを遅くすれば良いって話しでも無い。透明化時の一番の天敵って、実は人だからね~
向こうからしたら、人が透明化して其処に居るなんて思いもしない。だから当然、躊躇無くぶつかってくる訳ですよ。
幾ら人通り少ないからって、全く無い訳じゃないからね。その辺にも、気を着けないとなのですよ。
そんなこんなで、周囲を警戒しながらゆっくり歩く事暫く。目指す二棟の建物が、目と鼻の先に迫った頃。
不意に立ち止まると、隣のリンダを見上げながらハンドサイン。と同時に、其処に居る風華に意識を向ける。
『風、悪いんだけどリンダに、手前の建物から攻めようって伝えてくれる?』
『あ、うん。任せてママ。』
その返事が伝わってきた直後、こちらに向かって頷くリンダ。
同種の精霊間で行えるテレパシー。それを利用した、意思疎通方法。
正直、制限があるし口答のが手っ取り早いから、今まで余り出番が無かったのよね。けど今回みたいな状況だと、思いの他便利よね。
『伝えたよ!』
『ありがとね。じゃぁ今度は、試したい事があるから少し待って。って、そう伝えてくれる?』
『試したい事?』
『えぇ。ほんとに思い付きだし、今の状態で出来るかも解んないから、自信ないんだけどね~んでも、成功したら手間が一気に省けるのよ。』
『ふ~ん…あたちには、難しい事はよくわかんないけど、なんだか凄そうだね。わかった、伝えるね!』
『えぇ、お願い。』
そう伝え、待つ事一瞬。再びリンダが頷いた。
理解が得られた所で、早速行動開始。まずは呼吸を整え、何時ものルーティーンを行い過集中を発動。
直後に感じ始める鈍い頭痛。けどまぁ、この位なら我慢出来るかn…
痛みが走ってる時点で、危険信号だなんて正論は聞こえないですから!(ぇ
ほんと、直ぐ終わらせるんで大丈夫ですから!だからどうか、エイミーにはご内密に(ガクブル
と、冗談はこの位にして。宣言通り、ちゃちゃっと終わらせる為、例の建物に向かって手を翳す。
続けて意識を建物に向け、意を決した次の瞬間――
――ブゥンッ!
目の前から建物が消失し、直後に出現。
『な、何したのママ?リンダもビックリしちゃってるよ!?』
でしょうね。
思わずそう呟きそうになるのを堪えながら、過集中を一旦解除。苦笑しながら、リンダへと向き直った。
『別に、そんな大した事してないわ。ただほんの一瞬、あの建物を精霊界に送っただけ。』
『精霊界に?』
『そう。シフォンが魔法を使って、建物の構造把握を行うって聞いた時、思い付いちゃったのよね。精霊界に建物毎持ち込んじゃえば、あたしにも似たような事出来るんじゃ無いかってね。』
『はぁ~…』
呆気に取られたような反応を示す風華。遅れて、彼女から事情を聞いたんだろうリンダが、わざわざ面頬を押し上げて、ジト目でこちらを見つめてくる。
『思い付いたからって、普通やらないだろうそんな事。』と、言いたいんですよね、わかります。
でもしょうが無いじゃん!検証してみたかったんだもん!!
きっかけは、本当に些細な好奇心。建物の構造を空間魔法でどう把握するのか、興味本位で尋ねたのが発端だ。
その時の説明曰く。建物を覆うように自身の魔力で満たし、魔力干渉の微妙な差異によって、空間内に存在する物体の大きさや形が判断出来るんだそう。
要は、異世界版の3Dスキャナーみたいな感じかな。異世界版Ale〇aこと防犯魔具といい、意外とIT技術進んでんの何なん?
まぁ、そんな感想はさておき。あたしが注目したのは、魔力で空間を満たして、その内部を判断するって点。
それってさ、精霊王の権能である『精霊界』の副次的効果と一緒なのよね~
って為ったら、試してみたくなっちゃうじゃん?
『だからって、建物毎取り込むとか大それた事するかよ。』と言いたげな視線で、未だこちらを見てらっしゃるリンダさん。
(ただの妄想だけど)デスヨネー
んまぁでも、取り込んだの時間にしてコンマ数秒だし。リンダ達みたく、意識して注意深く見てない限り、誰にも気付かれないだろうから平気よ。
それは勿論、建物内部に居る人達もね――
『それよりも風。入り口の向こうに人の気配は無かったから、今の内に侵入するわよって、リンダに伝えてくれる?』
『あ、うん!』
『それから、外からじゃまるでわからなかったけど、この建物には地下もあるみたい。人の気配は、二階部分と地下からしたわ。正確な人数までは解らなかったけど、って。』
『はぁい!』
その返事の後。暫くしてから頷き、ようやく面頬を下げるリンダ。
それを確認し、行動再開。今し方様子を確認した方の建物へ、慎重に歩を進める。
程なくして、玄関前へと辿り着いたあたし達。周囲を警戒しつつ、ドアノブに手を掛ける。
鍵掛かってないと良いなぁ~なんて淡い期待を胸に、ゆっくりとノブを捻ってみる。
――…カチャッ、きぃ
…あっさり開いちゃったわよ。マジか…




