異世界うるるん滞在記~密着!子連れJK48時!!~(4)
「その役目、私にやらせてもらえませんか?」
「アクアさんにですか?」
「はい!夜天ちゃんでも良いなら、私でも良い筈ですよね?」
「それはそうですが…」
「だったら私にやらせて下さい。お願いします!」
「マリー…」
「お願いします!!」
居住まいを整え、思いつめた様子で頭を下げるアクア。当人にその気は無いんだろうけど、その格好はほぼ土下座だ。
何故そこまでするのか、理由は分かりきっている。先日交わした、あたしとのやり取り原因に決まってるわ。
その証拠に、終始あたしを睨むように見据えていたからね。それだけ悔しかったのか、憎たらしかったのか…
どちらにしても、あのままじゃ駄目だって解らせる事が出来たんなら、頭ひっぱたいて怒った甲斐はあったかな。
その結果、仲間に入りたがってる訳だけども。
「こう仰っておりますが、アクアさんを作戦に参加させないという判断は、そちら側の事情でしたわよね。どうするのです?」
「優姫。もう良いんじゃありませんか?」
不意に、背中越しに聞こえた二人の声。特にエイミーの一言によって、みんなの視線があたしに集まる。
わざわざ言うこっちゃ無いから黙ってるけど。アクアとの一件は、その場に居なかった仲間達も気が付いてる。
その上で、あたしがどう判断するか気を揉んでる訳ですよ。この期に及んで、まさか断らないだろうな、コイツ…って。
わかりみ~
けど実際問題、状況が変わったからって、掌クルクル変えるのはあたしの主義じゃ無いのよね。それに――
「…アクア。」
「は、はい!」
「この間の続きだってんなら、まず聞かせて欲しいんだけど。あなたがそうやって、頭を下げて願い出たのは何の為?」
「えっ、何の…?」
「この間とは打って変わって、必死に成ってんのは誰の為よ。」
「誰って、それは――」
あたしの出した質問に、反射的に応え様とするアクア。それを、睨み付けながら手で制す。
「ただし言っとくけど、みんなの為とか、困ってるからとか、そんな取り繕ったような答えじゃ、あたしは納得しないわよ。納得しないし認めない。」
「ッ!?」
続け様にそう告げると、途端に表情を強張らせる彼女。その反応を見るに、指摘した通りの事を口にするつもりだったんだろう。
「認めないって…だって、人手が足りないんですよね!?そんな事言ってる場合じゃ…」
「足りないけど、無い訳じゃないわ。それに何より、重要な役割を人手不足って理由で、いい加減な人に任せらんないし。」
「優姫、それは…」
『余りにも言い過ぎだ』と続く筈だったろう、エイミーの言葉も手で制す。
「いい加減って、私の事ですか…」
「あなたが一昨日のままならね。だから、ちゃんと考えて答えなさい。あたしが知りたいのは、上辺だけのごまかしじゃ無く、飾らない素直なあなたの本心。それが知れれば、いい加減なままかどうかハッキリするからね。」
そう言い終わってあたしは、分かり易く挑発するため、不遜な態度で鼻を鳴らす。直後、悔しそうに睨み返してくる彼女。
そのまま、睨み合う事暫く。朝食を兼ねた報告会の場が、一気に険悪な雰囲気に包まれる。
「…そんなに聞きたいならいいですよ、言いますよ――」
そんな中、今までに見た事無い位、怒り心頭と言った様子のアクアが、やけっぱち気味に告げる。
「私は!エイミーのお役に立てればと思って名乗り出ました!!けどそれが何か悪いんですか!?」
盛大な逆ギレ台詞を…
「優姫さんの言う通りですよ!好きですよ、エイミーの事!!大・大・大好きですよッ!!それが悪いんですか!?」
「マ、マリー…」
「oh...想いが爆発したね。」
「エイミーの側に居たくて、ママ達に無理言って同行しましたよ!ママの力を優姫さんに渡した後も側に居たくて、無理矢理同行しましたよ!!どうもすいませんッ!!」
「うわぁ~エイミーってば、愛されてるねぇ~」
「や、夜天ちゃん。シッ!」
「えぇ、えぇ!優姫さんの仰る通りですよ!浮かれてましたよ、すいませんッ!!けどしょうが無いじゃない!!エイミーが私の事覚えててくれたんだもん!!嬉しかったんだもん!しょうがないじゃない、バカーーーッ!!」
「誰が馬鹿やねん…」
「そら優姫さね。」
「同感ですわ。」
間々に入った、仲間達のぼやき声はさておき。勢いに任せ、言いたいだけ言って疲れたのか、肩を激しく上下させるアクア。
その様子を眺めつつ、呆れながらにため息一つ。
「それがアクアの本心?」
「…そうですよ。悪いですか!?」
そう問われ、思わずもう一つため息。
「馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけど、ここまで馬鹿だったとはね…」
「なんですか!呆れてるんですか!?」
「そりゃ呆れもするわよ、こんだけエイミー馬鹿ならさ。」
呆れ顔でそう言いつつ。一方で複製品を作成。
「エイミー馬鹿って…」
今し方、背後から聞こえた不服そうな声を無視!
して、作成したばかりのソレを、アクアに向かって放り投げる。
「わっ!?と、急になんですか!!」
自分に向かって迫るソレを見事にキャッチし、間髪入れずに怒るアクア。けど次の瞬間、受け取った代物を見て目を見開く。
「えっ、これって…」
「通信リング。アクアの分。」
「えっ、え!?」
「何、呆けた顔してんのよ。ただでさえアホの子なのに、一層間抜けに見えるわよ?」
「誰がアホの子で間抜けですか!?」
あたしの悪口――もとい。軽口に反応して、目くじらを立て怒り出すアクア。
呆けてたから、気付けに一言かましたったってのに、冗談の通じない娘ね~
「じゃなくて!今ので納得してくれたんですか?」
しかしそれも一瞬。次の瞬間にハッとして、そう聞き返してくる。
そんな彼女を前にして、苦笑しながら三度ため息。
「言ったでしょ、本心が聞きたいって。」
「でも、この間は…」
「あれは、あんたが余りにも浮かれてて、エイミーの気を引こうとばっかしてたからであって、好きってその気持ち自体を怒った訳じゃないわ。」
「うっ…」
「この間、あんただけじゃ無く敢えてエイミーも怒った理由、理解出来なかった訳じゃ無いでしょ?」
「はい…」
「なら、あれだけの啖呵を、みんなの前で切ったんだもん。もう同じ轍は踏まないでしょう?」
「ッ!勿論です!!」
それまでの暗い表情が一転。急にハッとなって、真剣な表情で頷くアクア。
それがなんとも可笑しくって、思わずクスリと笑う。そして――
「そういう事よ。監視役、任せるんだからしっかりしてよね、マリー」
「はい!――って、え?」
「何よ?ただでさえ間抜けなのに、そんな呆けた顔してたら、いよいよ残念な子よ?」
「なっ!?誰が間抜けで残念な子です――じゃなくって!!」
目まぐるしい表情の変化。う~む、見てて面白い。
「今、私の事マリーって…」
「何よ、そっちが正しい愛称なんでしょ?それとも、エイミー以外に呼ばれるのは嫌って訳?」
「いえ!決してそういう訳じゃ…」
「じゃ、決まりね。わかった、みんな?」
そう言って、肩越しに振り向く。するとまず、可笑しそうに微笑むエイミーと目が合った。
…なに笑ってんのよ。
「はい!は~い!!わかったよ、ママ!!」
「承知致しましたわ。リンダも宜しくってね?」
「あいよ、大将。」
「OK!任せたよ、マリー」
「よろしくおねがいします、マリーさん。」
「りょ~かい。メアリーも判った?」
「え、あっ…うん。」
そんなエイミーの様子はさておき。先の呼び掛けに応じる、仲間達の声が次々と上がる。
それに満足して、再びアクアと向き直る。見ると彼女は、またぞろ馬鹿面下げて呆けているご様子。
「みなさん…」
「なによ、マリーそんなポカ~ンとしちゃってさ。ただでさえ残念なのが際だって、へっぽんこつ感が増してるわよ?」
「なっ!?」
瞬間、顔を顰めて何か言いかけるも、直ぐさま我に返りグッと飲み込む。流石に、三度目ともなると煽り耐性が高くなるのかしら?
それならそれで重畳。長時間の監視任務なんて、我慢強さが何より重要だしね~
なんて、くだらない事を考え一人鼻で笑う。そしてそのまま、円座の話し合いに戻ろうと、マリーに対し背中を向け――
「あの、優姫さん!」
「ん~?」
「その…ありがとうございます。あと、すみませんでした。」
――背後からそう言われたので、振り向かずに片手を上げてそれに答えた。




