異世界うるるん滞在記~密着!子連れJK48時!!~(3)
「足りないって…」
「元より人手不足は承知の上だったろう。それでも、どうにか出来る算段だったんじゃないんかい?ここへ来て、なんでまた急に…」
リンダの口から吐いた、もっともな疑問。それを受け彼女は、再び吐息を漏らしながら二口目を啜る。
「それはあくまでも、当初の思惑通りに事が運んだ場合は、ですわよ。現在の状況は、既に想定から随分とかけ離れております。その最たるのが、破壊する拠点が三箇所も存在するという事実。」
「当初は一箇所のつもりで計画を建てましたものね。」
「えぇ。単純計算、労力三倍に増えた訳だからね。」
「っつってもよぉ、眷属ってのを設置して、爆破して破壊するだけなんだろう?」
軽い口調で、そう聞いてくる彼女。しかしそれをあたしは、口で応えるよりも先に首を横に振る。
ただ爆発させるだけならその通り。けど、今作戦の要とも言えるその部分は、複雑にして繊細――
「事はそう簡単な話しじゃ無いのよ、リンダ。銀星の思い付いた方法は、あたし達の世界じゃ割と取り入れられている、建築物の解体方法でもあるのよ。」
そのものズバリ爆破解体法。テレビでたまに、解体ショーと称して放映される、専門知識必須の職人芸。
「そうよね、ミリア?」
「Yeah.ステイツじゃビルを解体する場合は、基本この手法を使うね。専門外だから詳しくないけど、確か…火薬で支柱を破壊して、建築物の重みを利用して押し潰すよ。」
「この方法の利点は、少人数でも十分準備が可能な点と、爆発の規模を調整すれば、目的の建物だけを狙って破壊出来る点。」
「But.狙った通りに破壊するには、その建物の具体的な構造を知る必要があるね。爆発の規模が大きければ、他の建物にも当然影響が出るよ。逆に、不十分だった場合も同様ね。倒壊しなかったり、或いは変な方向に倒れたりして、余計な被害が出るかも知れないよ。」
「えぇ。ですから、建物の構造を把握するにも時間が掛かりますし、。」
「ふぅん、大変なんだねぇ。」
あたし達の説明に対し、何とも気のない返事で返すリンダ。その様子からして、多分途中から聞いてないわね。
全く、誰の為の説明だと思ってんだか…
「まぁ原因は解ったよ。それで、どうすりゃ良いんだい?」
「銀星さんからは、出来れば夜天さんを此方に回して欲しいと要望を受けております。」
「夜天を?」
そう聞き返しつつ肩越しに振り返る。
「んえ、わたし?」
「えぇ。どうでしょう?」
「ん~…どうって言われてもなぁ~」
「銀星さんからは、夜天さんが渋っても構わず連れてこい、と仰せつかっているのですが…」
「銀ってば、もう…横暴だなぁ~」
そう言って、困り顔で苦笑し合う二人。その様子を、不安そうな表情で見守る人物。
メアリーだ。仕方ない事とはいえ、ずっと側に居た夜天と離れるのが、心配なんでしょうね。
心配で不安だけど、どうしようも無いから黙っているしかない。而してそれが、言葉にしなくとも伝わっているから、二人とも困り顔なのだ。
今の彼女は、救出した当初と比べて、状態はかなり落ち着いている。けどそれは、夜天の存在があっての結果とも言える。
人手不足が浮き彫りとなった現状、夜天がこっちに加わってくれるか否か。その選択によって、今後の展望は大きく違ってくる。
それは解っているんだけど…今二人を別々にするのも考え物なのよね~
あんな、不安そうにしている表情を見たら尚更。はてさて、どうしようかしら…
「はい!はいはい!!」
そう思い、思案する中で響いた元気いっぱいの声。
「どうしたの、オヒメちゃん?」
「はい!あのね、夜ちゃんの代わりに姫華がお手伝いするよ!!」
「姫華さんがですか?」
「うん!良いよね、ママ!?」
相も変わらず元気よく。そう言って、あたしに確認を求めてくるオヒメ。
間違いなく、メアリーの心情を察しての申し出。気持ちは解るけど…
「ん~…やる気になってる所悪いんだけど、それはちょっと無理かな~」
「えぇ~!!なんでなんで!?」
「何でって、あんた…この後の自分の予定、ちゃんと解ってる?」
「う?うん!エイミーに来てって呼ばれたら、姫華がお手伝いに向かえば良いんだよね!?」
成る程、そう言う認識なのね…
「うん、まぁそうなんだけど…早いと今日のお昼前には、エイミーからお呼びが掛かるのよ。」
「そうなんだ!思ってたよりも早いんだね!!」
「えぇ、そうね。けど監視役の補充が必要な時間は、お昼以降も続くのよ?」
「えっ!?」
そう言って聞かせるや、素っ頓狂な声を上げ驚くオヒメ。ようやく、状況を飲み込めたみたいでママ嬉しいわ~
「…そうなの?」
「えぇ。」
「そうなのよ、オヒメちゃん。」
「お申し出は大変嬉しいのですが、そういう訳ですので、姫華さんにお願いする訳にはいきませんの。申し訳ありませんわね。」
「うぅ…」
あたし達の言葉に、分かり易くしょんぼりと落ち込むオヒメ。そのまま夜天達へと向き直ると、申し訳なさそうにペコリとお辞儀する。
「ごめんね、夜ちゃん、お姉ちゃん。姫華じゃ駄目だって…」
「そ、そんな!謝らないで姫華ちゃん。」
「そうだよ~姫ちゃん。ぜぇ~んぜん、気にする必要無いよぉ~」
「でも…」
俯き言い淀むオヒメ。不意にその手をメアリーが掴んだ。
「気を遣ってくれたんだよね。ありがとう、姫華ちゃん。私は大丈夫だよ…」
「うん…」
続け様にそう言って、精一杯の笑顔を向ける彼女。しかし、姫華の表情は今も暗いままだ。
それもその筈。口では大丈夫と言っているけど、その言葉とは裏腹にもう片方の手で、彼女は今も夜天を抱えたままだ。
ここで手放していたなら、一人でも平気と判断出来たけど…やっぱり不安なのね。
やっぱりまだ、二人を別々にするのは厳しいわね。そうなると、あたし達の中から一人削って監視役に宛てるか、或いは――
「――あの!」
その瞬間、皆の耳に届いた新たな声。一斉に、その声の主に視線が集まった。
その者は、報告会が始まって以降――いやさ、二日前から積極的に話そうとしなくなった人物…
「どうしたの?マリー」




