異世界うるるん滞在記~実録!子連れJK24時!!~(13)
その行為が示す意図。それってつまり…
「夕映さんを、護衛している人達が居る可能性ね?」
「そういう事よ。」
あたしの問い返しに対し、つまらなさそうに返事をして彼女は、そこでようやくタバコを口に咥えて火を点した。
「…フゥー、折角勿体ぶって教えてやろうと思ったのに、あっさり夕映の正体を見抜くんだもの。面白味が無くなっちまったよ。」
そして、勢いよく紫煙を吐き出したかと思うと、こちらをジロリと見据えて文句を垂れる。んなこと言われてもなぁ~
けどまぁ、なんかご立腹みたいだし、とりあえずテヘってして誤魔化しとこ。テヘ☆
「…おちょくってんのかい。」
更にご立腹になっちったんz
「Hey.優姫?」
「うん?」
「さっきの女性が、General島津の血縁者だって言うのなら、身辺警護をする人が居ても可笑しくないよ?でも逆に考えて、それだけの要人を普通に働かせておくかしら。」
「もっともな意見だけど、その辺は当人の意思なんかもあるだろうから、一概には言い切れないんじゃない?実際に働いてる訳だし。」
「Uh-huh.」
「それに、今聞いた心当たりの二と三が、同勢力の人達だったとしたら、色々腑に落ちるし。」
「I See!彼女達を助けてくれたのは、General島津側の人かもって事ね。だから一緒に警護してくれてると。」
「或いは、元々着けていなかったけど、ファティマさん達に手を貸した事をきっかけに、護衛を付ける様になったか、ね。まぁ、どっちが先か後かなんて、今はどうでも良いか…」
ミリアとの会話を、そう言って締めくくったあたしは、一旦考えを纏める為に思考を開始する。
ミリアの言う通り、彼女達に手を貸したのは、島津将軍の仲間で間違いないでしょうね。リズリットさんの手当をするだけなら、中央から近い病院に運べば良いだけだもの。
ただ、今感じている視線の持ち主が、そうである可能性は残念ながら低い。薄汚い欲望染みた物を感じるのよ。
だから監視者に関しては、チェコロビッチの手の者って線が濃厚。なんだけど…
あたしの潜入をあっさり看破した島津将軍が、この状況を予期していないとは到底思えない。だとしたら、そっち側の監視者が居ても良い筈なんだけど…
あたしが感知出来る範囲よりも外で、チェコロビッチの監視者達を見張ってる?其処まで広くないから、あり得なくも無いけど…
その場合、護衛者との距離が離れ過ぎてて、いざって時の対処が心配だし。それじゃまるで、彼女達を餌にしてるみたいじゃない。
伝え聞いた限りだけど、島津将軍の人柄からしてそれも考えにくい。だし、それで得られるメリットが解らない。
問題を起こさせてから取り押さえても、無罪放免なら意味が無いもの。それなら、見える範囲に護衛を置いた方が、相手への牽制や抑止に繋がるし…
そもそも、抑止と牽制役なら夕映さんの方が効果的よね。多分、それも織り込み済みで、二人をこの病院に避難させてるわよね。
考えにくいけど…それで十分と判断されて、そもそも護衛を付けていない?
でもそれだと、ファティマさんが外で一人だった時に、襲われていてもおかしくない。病室で一人だった、リズリットさんも無事だし…
そうすると、二人が目的じゃ無い?でも、この視線の感じは…
鈍い痛みを感じながら、其処まで考えを纏めた次の瞬間――
「あら、皆さん。」
――不意に聞こえたその声と共に、それまで感じていた視線の向きがガラリと変わる。
途端に理解した。護るべきは、二人だけで無く他にも居たのだと。
「まだお話しされていたんですね。」
廊下の先。角を曲がって姿を現した夕映さんが、あたし達を見つけて声を掛ける。
遅れて角から姿を現す、もう一人の女性。さっきも彼女と一緒だった看護師さんだ。
「あぁ、夕映さん。先程はどうもありがとうございました。」
「Good Job!検診はもう済んだの?」
「えぇ、今は巡回中です。」
「そうなんですね。お仕事ご苦労様です。」
「これはご丁寧に。ありがとうございます。」
お辞儀しながら労いの言葉を口にするあたし。それに倣ってか、ペコッとお辞儀で返してくる夕映さん。
何とも律儀な人だわね。島津将軍にそう教わったのかしら?
そんな事を考えていると、ふと彼女の視線がファティマさんに向けられる。
「今日も病室に泊まっていかれますよね?」
「えぇ、そのつもりよ。」
「ではお夕飯と、寝具も後ほど運んでおきますね。」
「そこまでして貰うのも悪いし、寝具ぐらいは自分で運ぶよ。」
「そうですか?では、お話が終わったら声を掛けて下さい。リネン室に案内しますので。」
「えぇ、お願いするわ。」
そう答えて、短くなったタバコを灰皿に押し込む彼女。その様子を夕映さんは、終始ニコニコ顔で眺めている。
マジでタバコ注意されんのか…
「お二人はどうされますか?」
なんて思っていると、そのニコニコ顔があたし達にまで向けられる。社交辞令か素で聞いてきてるのか、いまいち読み取れないわね…
「気を使って頂いて、ありがとうございます。けど、あたし達は大丈夫です。」
「あら、そうなんですか?」
「Yeah.私達、この後もまだ街を散策する予定なのよ。」
「散策ですか…けど、もうすぐ日も暮れてしまいますよ?」
そう言って、窓の外を気にする夕映さん。その様子からして、どうやら社交辞令じゃなく、素で聞いてきたみたいね。
「はい。ですからこれから、酒場とかで色々話が聞けるかなって思ってて。昨日とか、どんちゃん騒ぎしてて、話を聞ける風でも無かったんで。」
まぁ、あたしは見てないから知らんが。
「あぁ、昨日は確かにそうですね。」
「折角の申し出なのに、すみません…」
「いえ、そんな。こちらこそ、出過ぎた真似をしてすみませんでした。」
そう言って、深々と頭を下げてくる彼女。でっち上げた言い訳だけども、納得してくれて何より。
「では、我々はそろそろ巡回に戻らせて頂きますね。」
「あ、はい。先程に引き続き、またお仕事の邪魔をしてしまって、すみませんでした。」
「とんでもありません。そもそも私の方から話し掛けた訳ですし、お気になさらずに。」
「Thanks!この後のお仕事も頑張ってね!」
「ありがとうございます。」
「仕事が落ち着いた頃に、そっちに行くからよろしくね。」
「承知しました、おまちしておりますね。」
終始笑顔で対応してくれる夕映さん。最後にそう告げ踵を返すと、同僚の看護師さんと一緒に去って行く。
その背中を、見えなくなるまで見送る。
「あの人、いい人ね。」
「Yeah.」
「えぇ、そうね。貴女達と同じで、見ていて危なっかしくなるよ。まぁ…父親が王様付きの騎士団隊長で、祖父が将軍様ってんだから、ちょっかいだそうって悪い男は、そうは居ないと思うけどさ。」
「…だと、良いんですけどね。」
彼女の言葉に、眉間に皺を寄せながらそう答える。そして、軽くため息を吐き出すと共に、気持ちと思考を切り替えた。
「さっき夕映さんと話してましたけど、病室に泊まり込んでいるんですか?」
「えぇ。リズを連れ出して以来、宛がわれてた部屋に戻る訳にもいかないからね。」
「oh...大変ね。」
「別にそんな事も無いよ。元居た世界と比べりゃ、寝床は上等だし食うに困る事も無いからね。」
「Uh-huh.それなら良いのだけど、何か困っている事とか無い?」
「困ってる事?そうね…今の所は無いわね。」
「そうなんですか?例えばですけど、リズリットさんの容態が良くなったら、この国を出ると…?」
深く考えもせず、思い付きで口に出したなんて事の無い提案話。けどそれは、ファティマさんの表情がみるみる深刻な物へと変わった為に、途中で切り上げざるを得なかった。
「それは…難しいだろうね。」
「why?どうしたのよ突然。」
「一体何が在るんですか?」
あまりにも深刻そうにする余り、あたし達の反応も自然と強張り、図らずも問い詰める様な姿勢になってしまった。そして訪れる沈黙。
「…ファティマさん。」
どれだけそうしていただろう。気が付けば、窓から見える風景はすっかり薄暗くなり、廊下に電灯の明かりが降り注ぐ。
その頃になって、沈黙に耐えかねたあたしが声を掛ける。すると彼女は肩をピクリと震わせ、ゆっくりと顔を上げてこちらを見やる。
その表情たるは、どうして良いか解らないといった様相。どうして良いのか解らないから、考えない様にしていたのに、と言いたげな有様だった。
「話して下さい。」
「知った所で、貴女達に出来る事なんか無いよ。」
「だとしても、一人で抱え込んでても、解決しません良い?」
「Yeah.それに、一人で思い悩むのは辛いだけよ。」
拒絶を示す彼女に対し、それでも尚二人掛かりで手を差し伸べる。
一瞬、何かを言いかけ、しかし直ぐに思い留まるファティマさん。思い悩む表情を浮かべて、視線を落とした。
其処から更に一拍置いて――
「リズの背中にね、奴隷紋があるのよ。」
――その事実が明るみとなった。
良い所なんで、キリ良いところまでこっちに集中します




