異世界うるるん滞在記~実録!子連れJK24時!!~(10)
見つかりませんでした~
まぁね。これで見つかってくれたら、あたし達としても苦労は無いのよ。
ってか、それはそれとして。病院側の対応酷かったなぁ~
あたしが『有翼人の男性って入院してません?』って、ストレートに聞いてみたら、『はぁ?居る訳無いでしょ、何言ってんの?』って顔されたからね。
他種族に対し、辺りが強いってのは聞いてたけど、此処まで徹底してるとはね。何事も肌で感じないと、わからない物ね。
まぁ、お国柄事情は今回は目を瞑るとして。空振りかに思える聞き込みだったけど、一応収穫もあったのよね。
病院側の対応が酷かった所為で、とある疑問がふと思い浮かんだ。それが何かというと、奴隷の人達が病気に掛かった時にどうしているのか、という点だ。
あの反応からして、街中にある市民病院は国民専用の施設なんだろう。なら奴隷の人達は?
街中で清掃活動を行っている奴隷の人達だって、病気に掛かるし怪我だって負う。そのまま放置していれば、最悪死に至る事もあり得るだろう。
それを更に放置するようなら、奴隷の人達に感染症が蔓延しててもおかしくない。そうなってくると、一緒の空間で生活している国民にだって、感染者が出ている筈。
しかし、見た所そうは成っていない。奴隷の人達も、服装はボロボロだけど、身体は小綺麗に保たれているし、血色の酷い人も今の所見ていない。
これは最低限の衛生管理が行われているという証拠だ。ならきっと、奴隷の人達向けの看護施設もありそうよね。
そう考えて病院の人に聞いてみた所、超嫌そうな顔されながらだったけど、奴隷居住施設内に設けられていると教えてくれた。
となると、市民病院よりそっちのが可能性として高いわね…こりゃ、一度報告して相談案件かな~
なんて考えつつ、その場を立ち去ろうとした瞬間――
『Hi!こちらミリアよ。少し相談したいのだけど…』
――定時連絡外でのミリアからの呼び出し。
声の様子からして、緊急と言う訳では無さそう。ならということで、そちらに意識を向けつつ、大通りに向かって歩き出す。
『こちら銀星です。何か問題が発生しましたか?』
『Yeah.問題と言えば問題ね。私一人じゃ判断が難しいね。』
『シフォンですわ。順を追って説明していただけますか。』
『OK!私は今、予定通り左上ブロックの市民病院に居るの。そこでアラブ系の女性に話し掛けられたよ。』
「ッ!!」
歩き出して直ぐ。聞き捨てならない単語を耳にし立ち止まる。
思わず声が出そうになるのを必死に堪え、辺りを見渡して人気の無い場所を探して、成るべく目立たない様急ぎ向かう。
『アラブ系…異世界の方ですか?』
『Yeah.今までその人と話してたんだけどね、かなり面倒な状況にあるみたいで…』
『成る程。それで、助けを求められたりしたという訳ですか?』
『それは…NO.でも、出来れば助けてあげたいのよ…』
『そうですか…』
「こちら優姫。ごめん、人気の無い場所探してて、直ぐ反応出来なかったわ。」
『Oh!優姫!連絡待ってたよ!』
「解ってる。シフォン、銀星、今からあたしミリアと合流するから。」
『承知しました。その方が宜しいかもしれませんわね。』
「ミリア、人目に付かない場所を探してそっちに飛ぶから。その間に、もう少し詳しい話しをお願い。」
言うが早いか、人の気配が少ない方を選び、足早に開始するあたし。
『Ok!そのつもりでいたから、もう人の居ない所に居るよ。待ってるね――』
遅れて聞こえた返事の後、通信リング越しに状況説明が始まった。
ざっくり説明すると概要はこうだ。一つ目の病院を確認後、予定通り二つ目の病院に向う途中で、件のアラブ人女性に話し掛けられた。
その人は、自分の事をファティマと名乗ったそう。彼女はミリアを一目見て、同郷の人と判断し声を掛けたらしい。
最初はミリアの格好を見て、危ういと思い注意する為だったらしい。何に対する注意かって言うと、ここでも出てきたチェコロビッチ。
おっちゃんに引き続き、通りすがりの同郷の人にまで心配されるなんてね。ここまでなら笑い話の一つとして、済ませられるんだけど~
けど問題はこの後。ファティマさんによると、ミリアが向かおうとしていた病院に、また別の異世界人が入院しているとの事。
それを知ったミリアが、話の流れで入院理由を尋ねたらしい。すると彼女は、『精神を病んでしまった』と答えた後、『貴女も気を付けてね』と言われたそうだ。
それを聞き、今までの経緯もありピンときたミリアが、あたし達に相談してきたという訳らしい。
思い過ごしであって欲しいけど…嫌な予感しかしないわね――
ミリアと合流後、待たせているというファティマさんの元へ急ぎ向かう。人気の無い路地裏を抜け、石畳の通り沿いにその女性は立っていた。
「あの、すいません!」
こちらの存在に気が付き、振り向いてきた彼女に声を掛ける。黒髪褐色の、彫りの深い長身な女性。
振り向きざまに彼女は、駆け足で向かうあたしの事を、頭の天辺からつま先まで見やった後に眉を顰める。なんか、値踏みされたみたいで嫌な感じ。
「ファティマさんですか?」
「そう。貴女がミリアの言ってたお仲間さん?」
「はい。優姫って言います。」
そう答えた直後、酷く残念そうにため息を吐き出すファティマさん。ほんと感じ悪いな!
と、内心思ってると…
「まだ子供じゃない。こんな子を冒険者として戦わせるなんて…」
そう言って、非難の目をミリアへと向ける彼女。成る程、そう言う理由…
「What!?酷い誤解よ!私が無理矢理戦わせてるとかじゃ無いね!!それに、優姫は私よりも断然強いね!!」
「そんな話、信じられる訳無いでしょう。」
「why!?」
あらぬ誤解を掛けられ、ミリアが必死に弁論するもまるで信じて貰えない。認識阻害の効果が、変な風に働いちゃってんのかな?
「え~と、ファティマさん?」
「…何かしら?」
「彼女の言葉が信じられないのも、まぁ無理ないと思いますけど。だからって、勝手な決めつけるのはどうかと思いますよ?」
「決めつけですって?」
あたしの言葉に、そう苛立たしげに答えた後、視線を下にずらし鼻で…って、ちょっと待て!
今この人、あたしの何処見て鼻で笑いやがった!?
お胸か?あたしのお胸見て、笑いやがったのか!?
そこであたしを子供だって判断したんか!よっしゃ解った、戦争だこん畜生――
「見た目で判断されるのもどうかと思いますよ?」
――って思いを必死に抑え込み。引きつった表情で、無理矢理笑みを作ってそう続ける。
落ち着け~落ち着くのよ、あたし…今は駄目だ。
「見た目で判断するなって?尻の青そうなガキが、生意気な事を言うね…」
そんなあたしの苦労を知ってか知らずか、まるで小馬鹿にするかの様に、そう言って懐からタバコを取り出すファティマさん。一本口に咥えたかと思うと、流れる様な動作で火を点す。
「フゥー…」
次いで、肺いっぱいに紫煙を吸い込んだかと思うと、ため息でも吐くかの様に、深々とそれを吐き出す。これで吐き出す先が、あたしの顔だったりしたら、絵に描いた様な嫌味な女だけど…
流石にそんな事はしない。と言うか、どことなく残念そうに見えるのよね~
まぁそれはそれとして。このまま誤解されっぱなしってのは、あたしとしては面白くない。
でも、これ以上何か言った所で信じては貰えないでしょうね。
なら話は簡単。あたしがただの子供じゃ無いって、信じさせるだけの証拠を見せれば良い。
そう思うや、浮かべていた愛想笑いをスッと消し、真顔に戻って彼女を見据える。
「ファティマさん。」
「…まだ何か?」
続け様に彼女を呼び、不機嫌そうな返事が返ってきた所で、一歩踏み出し顔を近づける。そして――
「貴女、監視されてますよ。」
 




