異世界うるるん滞在記~実録!子連れJK24時!!~(6)
「そら見ろ!その反応、やっぱり知ってるんじゃないか!!」
なんて、思っていた所に響いた店主の言葉。それでハッとなったあたし達は、慌てて正面に向き直る。
「ご、誤解ですよ!確かにその人の名前は知ってますけど、聞いただけで会った事もありませんから!!」
「Yes!私達、昨日着いたばかりだから、そもそも街に知り合いなんていないよ!!」
「あぁ?昨日着いたばかりだぁ?」
必死取り繕うあたし達の言葉を受け、怪訝そうに聞き返してくる店主。全然信じてくれて無さそうだけど、一先ず聞く姿勢には成ってくれた。
ならばこのチャンス、見逃さずにおくべきものか!
ここで一気に畳み掛ける。くらえ!『決めてて良かった身の上話』!!
「えぇ、そうなんですよ。先日大陸入りして、ギルドの前線基地に向かう予定だったんですけど、こちらの国であたし達みたいな異世界人を、積極的にスカウトしてるって聞いて。」
「Yup.色々サポートしてくれて、生活に困る事は無いって聞いたから、それならと思って試しに来たよ。」
「でもそれなのに、この国についての説明受けてる途中で、蟲人の侵攻が起きちゃって、それどころじゃ無くなって…」
「Yeah.説明の途中でほったらかしにされて、とても困ったよね?」
「えぇ、ほんとに…蟲人の侵攻がどれほどのものか、知る為にこの大陸に来たって言うのに。折角の機会を棒に振るわ、待ちぼうけを食らうわ、食事も出されないわで、散々な目に遭って。」
「Regret.昨日一日、無駄にした気がするよ。私達の事、完全に忘れてたよね、あれ…」
「それな!」
っとまぁ、それっぽい設定は、事前に話し合って決めておりました。果たして結果は――
「そうだったんかい。」
――どうやら信じてくれたっぽい。ホッ…
この街に住む人なら、蟲人の侵攻を防ぐのに意欲的なところを示せば、邪険にはされないだろうと思っての、この設定だったんだけど…思惑通りで何より。
ってか、このおっちゃんが人良いってのも在るんだろうなぁ~
「それで、担当の人が居ないとか言われて、説明途中のまま放り出されちゃって。一先ず、この街について色々聞いて回ろうって話になって。ねぇ?」
「Yeah.そういう事ならやっぱり、お店屋さんが良いだろうってなったから、朝から営業してる所を探していたね。そしたらおじさんが作業してるのが見えてね。」
「えぇ。てっきり営業準備してるものだと思ってたら…」
そこで言葉を切ったあたしは、破壊された商店へと再び目を向ける。改めて見ても酷い状態ね…
「事情は解ったよ。怒鳴って悪かったな、気が立ってたんだ。」
不意に聞こえた、その謝罪の言葉。視線を正面に戻すと同時、おっちゃんの申し訳なさそうな表情が目に映った。
「解って頂けたなら良かったです。ね?」
「Uh-huh.気にしていないよ。大事なお店がこんなにされたら、誰だって気が立つよ。」
「そうそう。謝る必要なんて在りませんよ。」
「ありがとよ、嬢ちゃん達。」
苦笑を漏らしながらそう言って、おっちゃんは深いため息を吐き出した。その吐き出された吐息には、様々な感情が籠もっている事だろう。
単なる通りすがりだって、その位解る。ようやく話を聞ける状態になったけど、どうしたものかしらね…
そんな事を考えつつ、隣に立つミリアへと視線を向ける。すると、その視線に気が付いた彼女が、口角を吊り上げこくりと頷く。
判断はあたしに任せるって事?なら、ちょっと付き合って貰おうかな~
「けど、すまねぇな嬢ちゃん達。」
「what?何故謝るのです?」
「当たり散らして、みっともない所を見せといて手前勝手だがよ。こんな状態の店をそのまんまにして、悠長に嬢ちゃん達の質問に答えるって訳にもいかないんだわ。」
「Oh...そうですよね。」
「悪いな。」
残念そうに呟くミリアに対し、酷く申し訳なさそうに答えるおっちゃん。
ですよね。うんうん、想像出来てましたとも。
なので、ここからあたしのターン!ドォーンッ!!
「あの、それについて何ですけど、あたしから一つ提案があるんです。」
「提案?」
「はい。ここで通りかかったのも何かの縁ですし、あたし達もお店の片付けに協力します。」
「Oh!それナイスです、優姫!!」
「でしょ?このまま立ち去るなんて気が引けるしね。」
「Yes, That's Right!!」
「いや、俺としては助かるけどよ…良いのかい?」
あたしの出した提案に、2つ返事で賛成してくれたミリア。一方、おっちゃんは困惑気味だ。
まぁ当然の反応よね。けどこれは、単なる同情からの考えでは無く、あたし達にも利があっての提案だ。
「勿論!その変わり、片付けながらで良いんで、あたし達の質問に色々と答えて下さい。」
「あぁ、そりゃもちろん構わないが…そんなんで釣り合いが取れるのかい?」
「そう思うんでしたら、結構踏み込んだ質問とかにも答えて貰えますか?例えば、この国にまつわる黒い噂とか、街の人達から見たこの国の実情とか。」
そう答えつつ、心の中でニヤリと笑う。
情報収集には飲食店が打って付け。とは言え、それなりに踏み込んだ情報ってなったら、それなりの関係性が必要となってくる。
その関係性を構築するのに、この状況は正に打って付け。一見、遠回りに見える様な行動が、実は近道だったりするのよね。
…弱みにつけ込んでる様で、あんまいい気はしないけどね。
「そりゃ、俺に答えられる範囲なら教えてやるけどよ…んな事知って、嬢ちゃん達はどうしようって言うんだい?」
そんなあたしの魂胆が、うっすらと見え隠れでもしていたのか。そう問い掛けるおっちゃんの表情からは、警戒の色が覗える。
まぁ、それも当然か。通りすがりの小娘が、聞きたがる様な内容じゃないものね。
けど、その質問に対する返しは既に用意済みだ。
「どうしようって気も無いですよ。ただ、自衛手段の一環として、いろんな事を知っておきたいだけなんです。」
「自衛だって?」
「はい。見ての通りあたし達は女二人組。腕っ節が物を言う冒険者稼業で、見た目で判断されて舐められる事がしょっちゅうあって。」
「あぁ、まぁ解るよ。そう言う世界だろうからな、冒険者ってのは。」
「えぇ。それに嫌気が差してた所でこの国の事を知って、拠点を移して良いかもって話し合って来たのに、この状況。あたし達と同じ、異世界人の仕業なんですよね?」
「あぁ、そうだよ。」
頷きながら、苦々しそうに答えるおっちゃん。直後、ハタと何かに気が付くと共に、あたし達に向けていた警戒の色が弱まった。
「成る程。そう言うのが煩わしいって嬢ちゃん達からしたら、そりゃ不安になるわな。」
「えぇ。その上、お店がこんな酷い状況なのに、被害状況を確認する兵士の一人も居ない。ってなったら、国がちゃんと取り締まってくれるのか、疑問に思っちゃうじゃないですか?」
「だから自衛か…」
そう呟いた後、おっちゃんはあたしに向かってニヤリと笑う。
「良い読みをしているな、嬢ちゃん。若いのに大したもんだ。」
「そうでも無いですよ。この位は、乙女の嗜みってレベルですよ。」
「その上、小洒落た軽口まで叩きやがる。気に入ったぜ!」
そのおっちゃんの一言に、あたしとミリアは三度顔を見合わせる。
「って事は…」
「あぁ!嬢ちゃん達の申し出、ありがたく受け入れる事にするぜ。」
「Wow!それじゃ、色々質問しても構わないのですね!?」
「おうとも!俺の知ってる事なら、街の何処に何があるかから、国のえばり腐った大臣共の黒い話しまでな!」
「マジで!?おっちゃん太っ腹!!」
「Thank You Very Much!!そう言ったゴシップ、大好物よ!」
「そうかそうか!」
あたし達の反応に気を良くしたのか、楽しそうにガハハと笑うおっちゃん。さっきまでの、ギスギスしたやり取りが嘘みたいだ。
けど、この方が良い。全然良いわ。
「おっしゃ!んじゃ早速、片付け手伝うとしますか!」
「OK!まず何から始める?」
「なら、嬢ちゃん達は店内の方を頼むよ。表はガラスとか散らばってて、危ねぇからな。」
「了解!おっちゃん、気遣い出来ていい男ね。」
「ったりめぇよ!けどおだてたって、これ以上は何も出ねぇぜ?」
「Oh.それは残念ね。」
そんな冗談を交わしつつ、指示された通りにあたし達は店内へ。外も酷かったけど、中も相当酷いわね。
「とりあえず、テーブルと椅子類を表に出してくれ!それが終わったら掃き掃除を頼む。」
「はいよ~」
店の外に向かって返事を返し、長い袖を捲り上げたら、お片付けスターティン☆




