いちから(もう略して良いよね?(のーまる)
リンダとの模擬戦から、大体2時間位経ちました。あれから汗かいたんで沐浴して、身支度済ませて昼食済ませ、あたし達は今やおなじみとなった、エルフの集会所の前に集まっていた。
ここで言うあたし達って言うのは、あたしとエイミーにジョン、そしてリンダとシフォンに加えて、昨日盗賊団から救い出した8名と、縄で捕縛されている、盗賊団の残党達5名。それと里のエルフ達が10名位と、結構な大人数が集まっていた。
ここまで状況説明したら、これからどうなるのかは、説明しなくても解るわよね?そう!いよいよこのエルフの里から旅立って、広大な異世界の外の世界へと、旅立つ時が来たのですよ!
「どうやら準備も整ったようですわね
「えぇ。救出した方々は、里の者達が責任を持って、それぞれの村に送り届けてくれる事になりました。捕縛しているとは言え、彼等と同行させるのは酷でしょうから。」
シフォンの言葉に、エイミーが頷いて答え、捕縛された盗賊団の残党を一瞥する。彼等は、両腕を後ろで縛られた上で、胸の辺りまで念入りにロープでぐるぐる巻きにされ、更に全員がロープで繋がれていた。
「その方がよろしいですわね。リンダ、あの方々はあなたに任せましたわよ
「あいよ、大将。」
シフォンにそう振られて、リンダは快活に頷くと、盗賊団の残党の元へと近づき、彼等が逃げたりしないよう見張っていた、一人のエルフへと近づいていき、その手に握られていた盗賊団の手綱を受け取った。
「さぁ、おまえ等はこっちさね、キリキリ歩きな。さもないとまた手酷…もとい、手荒い仕置きを受けるよ。」
そう言って、盗賊団の縄を引っ張り、彼等を歩かせてあたし達の元へ向かってくる。言い直していたけど、手酷い仕置きってシフォンが行った尋問の箏よね、きっと。
う~ん、どんな箏したのかしらね?盗賊団の連中、こっち向いた瞬間、シフォンの箏を見た瞬間、青ざめてんだけど。あの様子だと、絶対変な気を起こしそうに無くて良いんだけどさ、あのならず者達が、雨に打たれて迷子になった子犬かって位、プルプルしてるとか、もはや調教の域よね?
「…ねぇシフォンさん。どんな調教して、あの野良犬どもの牙と爪を引っこ抜いたの?
「調教って…それに野良犬のほうがまだ可愛らしいですわよ
「優姫さん、聞かない方が良いですよ?彼女、見かけによらずサディストなんです
「そうさね。牙は引っこ抜いちゃいないけど、爪は引っこ抜いてたからねぇ。」
おぅ、マジですか…
見かけによらず過激な箏すんのね、シフォンたんって。ん?でもちょっと待って…
「爪はいだって、そいつらの手なんともないじゃない?」
そう言って、あたしは盗賊団の残党達を指差して聞いてみた。爪はいだって言うんだったら、包帯位巻かれてても良いもんだけど、その手には何も巻かれていないし、血や傷の跡も見当たらなかった。
ちなみに、この世界にはゲームとかでよくある、立ち所に傷や体力を回復するような、いわゆる回復薬と言った類いの物は存在しないそうだ。あるのは精々、あたし達の元居た世界にもあった程度の、傷薬や消毒薬と言った程度の代物らしい。
ただ回復魔術と治癒魔術は存在するそうで、中位以上の魔術師系冒険者なら、基礎の治癒魔術はある程度使えるって話なので、シフォンが使えてもおかしくないんだけど、高位の術になっても、精々傷が塞がる程度だそうだ。
ただ、回復魔術って方は、治癒魔術の完全上位互換魔術だそうで、こちらは高位になると傷を負ったばかりだったら部位欠損さえ直す事が出来るそうだ。ただし、上位互換とは名ばかりで、治癒魔術とは全く違う体系の物らしくて、特別な才能が無いと使用する事さえ出来ないってのは、いつも通りのジョンキュン先生の言葉。
「「それはシフォンが、回復魔術の使い手だからですね。」」
と、あたしの疑問に単純明快な答えが、見事なステレオ音声で返ってきた。デスヨネー
うん、なんとなくだけど想像できてた。けど、ジョンキュン先生の話だと、回復魔術の才能がある魔術師は、全魔術師の中でも2~300人に1人の割合で、もし才能があると解ったら、国家規模で優遇される程の逸材なんですって。
それだけ貴重で、希有な才能って箏なんでしょうね~かのブラック○ャック先生だって、触れずに外傷は治せないだろうし。シフォンが回復術士だって解った途端、キョンキュンの視線が、今まで見た事無い位キラキラしちゃってるわ。
けどジョンキュン、そのキラキラした視線を向けるのは待って欲しい。リンダは確かに言った、爪は引っこ抜いたって。
それが元に戻っているって言う事は、つまり剥いだ後治したって訳で、つまり剥いでも治せるって訳で。その程度であのリンダがウンザリした表情をするはず無い訳で。
あ、はい。なんとなく理解しました。要するに歯は引っこ抜いてないけど、爪は剥いだり何か削いだりはしたって箏ですね、シフォンさんマジパネェっす。
「どうやら色々察したようだねぇ。」
キラキラした視線を向けるジョンキュンとは対照的に、苦虫を噛みつぶしたみたいな表情だったろうあたしを見て、あたしが何に思い至ったか察したリンダが、苦笑を浮かべてそう呟いた。要するに傷つけて治したって箏よね、嫌なマッチポンプだわ~
「気持ちはわかるよ…こんな可愛い顔して、中身は鬼だからねぇ…
「シフォンったら、敵と認識した者には、昔から容赦が無かったんです。シフォンには『白銀の魔女』ともう1つ『黒の拷問姫』という通り名が…
「うわぁ…ツンデレでロリ巨乳でドSとか、キャラ立てすぎじゃ無い…
「な、何なんですの!さっきから!!もうっ!!」
あたし達3人の冷ややかな会話に、耐えかねたように響くシフォンの叫びを、いまいち理解出来ていないらしいジョンキュンが、きょとんとした表情で見ているの図。ジョンキュン、お願いだからあなたは、そのまま無垢に育ってください、いや若干マジで。
なぜそう思うかって言うと、それは…
「さて、大将弄りはこの位にして
「ちょっと待ちなさいな!今の聞き捨てなりませんわよ!?
「それじゃそろそろ出発するかね?
「無視しましたわね!?今無視しましたわね!?頭を撫でるの止めなさいな!」
じゃれ合ってる2人のやり取りを、微笑ましくニヤニヤしながら眺める。年齢的には、シフォンの方が年上だけど、見た目的にはリンダの方が年上にしか見えないのよね~
「そっちも問題ないよね?
「えぇ、もちろん
「は、はい!」
そう言われてリンダに振られ、あたしとジョンが共に返事を返した。そう、ジョンもあたし達と一緒に、この里を出る事になったのだ。元々エイミーの弟子みたいなものだったから、彼女が里を出ると聞いて、彼も里を出ると決めたみたい。
もともとジョンは、冒険者に憧れていたから、遅かれ速かれ里を出るつもりでいたみたいだし、それが少し早まっただけだしね。ただし問題は、この里を出た後なのよね~
あたし達5人は、盗賊団の残党達の移送を兼ねて、ここから一番近いギルドを目指す事になっていた。そこでまぁ、なんやかんやとやる事があるんだけれど、そこからは二手に別れる事になっていた。
あたしとエイミーは、当初の問題でもある、あたしがこの世界に召喚された原因と、あたし達の間に存在しているという、見えないパスをどうにかする為に、ひとまずエイミーが当初召喚する筈だったという精霊、イフリータに話を聞きに向かう事になっていた。
そして、リンダとシフォンは、ギルドに残党達を引き渡して、手続きを終えたら、そのまま拉致された人達の足取りを追って、出発すると言う箏だった。金と銀の冒険者ともなると、ゆっくり休んでもいられないのかしらね、大変だわ~
そしてジョンはと言えば、元々冒険者志望だった訳だし、魔法に関してはエイミーよりも、シフォンの方が優れていると言う事もあって、彼女達に同行する事になったのだった。だからあたしは、ジョンキュンがリンダに毒されないか、ただただそれだけが気になっていて仕方ないのだった。
え?あたし達に着いてきたって、あたしの毒牙に掛かるじゃないって?うん、否定はしない(キラッ☆
「では行きましょうか
「おう、そうだな。」
エイミーの一言に、リンダが頷き動き出す。それに引かれるように、ロープで繋がれた盗賊団が続いて歩き出し、その後をシフォンが続いた。
「では後の事は任せますね
「はい!
「では、私たちも行きましょうか
「は、はい
「えぇ。」
近くに居たエルフの男性にそれだけ伝えると、あたしとジョンに向き直り、微笑みと共にエイミーに促され、あたし達の先頭を歩き出す。それに続いて、ジョンとあたしも歩き出した。
そんじゃま、いっちょ異世界観光としゃれ込みますか~無視できない事もあったけど、現状じゃ答えなんて出ないしね、気にしない気にしない。
そんな風に自分に言い聞かせて、一路ギルドのある辺境では一番大きな街、カタンへと出発したのでしたとさ。
後々になって『やっぱフラグだったか~…』って思う事になる事を、この時のあたしはネタ位には思っていました。
 




