異世界うるるん滞在記~子連れJKが、肩をぐるんぐるん回してアップ始めました~(19)
「あのねぇ…」
そう、ため息交じりに呟くと同時、それを耳にしたメアリーがビクッと肩を振るわせる。その様子を見て、今度は苦笑が漏れてしまった。
反射的に、怒られるとか思ったんでしょうね。そんなつもり無いんだけどなぁ~
なんて事を思いながらあたしは、小動物みたいな反応を示すメアリーに対して、表情を引き締めながら身体ごと改めて向き直る。怒るつもりは無いけれど、しかしそれに近しい事は言わんといかんからね。
「何か誤解があるみたいだけど…自分がどれだけ重要な役割を任されようとしてるんだか、ちゃんと理解してる?」
「…え?」
「よく考えてみて欲しいんだけど。ここまで一応作戦通りにいって、バージナル国内に無事潜入する事が出来た。」
「はい…」
「けどこの先は、文字通り時間との勝負なの。ほぼ手掛かり無しの状態から、いち早くあなたの恩人2人が遣っている居場所を特定しないといけないのに、あたしの個人的な理由の為に、手分けしないといけなくなっちゃってるからね。」
「解ってます。だから私も――」
手伝いたい。そう続く筈だったろう彼女の言葉を手で遮り、無言のまま静かに首を横に振るあたし。
気持ちは買うし解るのだけれど…しかしこればっかりは、想いだけじゃどうにもならんからね~
「全てが順調にいって、1日2日で救出までの段取りが付けば一番だし、勿論そうなるようあたし達も務めるけど…流石に、そうそう上手く行くなんて思っていないわ。情報を集めるだけでも最低2~3日、場合によってはもっと掛かるかも。ここまでは良い?」
「…はい。」
「それに対し、あたし達がバージナル国内で比較的自由に行動出来るのは、国内の警備が手薄になっている今の間だけ。それもそう長い事続かないってのは、軽くだけど説明したわよね?」
「はい、聞きました。」
だから、少しでも人手が必要なんですよね――そう、彼女の表情が物語っている。
けど、決して口に出さない。出した所で、またあたしに手で遮られると解ったんだろう。
実際、そう言い出したら、そうするつもりでいた。ので、彼女の気持ちを汲み取らずにあたしは、淡々とした口調で話しを続ける。
「時間的に余裕が無いって事は、この先十分な休息が取れるかどうかも怪しい。休息が不十分だと疲労だってどんどん蓄積されていく。それだけでも結構なストレスなのに、食事さえも禄に取れなかったら?」
そうして言葉を続けていくと、徐々に彼女の表情に変化が現れる。最初の内は確かに不満げで、何やら物言いたげだったけど、段々表情が引き締まり真剣味も増していった。
と同時に気付く。彼女がその身体を、何かを堪えるように強張っている事に…
我ながら、なんて意地が悪いんだと思う。彼女はついこの間まで、似たような境遇に身を置いてたんだからね。
けど、だからこそこう告げるのが一番手っ取り早いとも思ったのよ。彼女に任せたいと思っている事が、如何に大事かってのを解って貰うのに。
「1日2日だったらそりゃ我慢の仕様も在るけれど、それが何日も続くとなったら流石に話は別よ。どんなに強靱で屈強な精神力の持ち主だって、過度なストレスにずっと晒されて、最高のパフォーマンスを発揮し続けるのは至難の業なの。」
「…はい。」
「あたし達のパフォーマンスが下がれば、作戦行動中に何らかの影響が出るかもしれない。それら1つ1つは特段大した事無くっても、幾つも積み重なれば、それがこの作戦の成否を別つ決定打にだってなり得るの。そうなった時に、一番に困るのはメアリーでしょ?」
「はい、そうです。」
あたしの問いに、シュンとした表情で応えるメアリー。さっきに続いて、今のも相当意地の悪い質問なんだし、そら当然の反応よね~
んでもま、起こりうる可能性の中で一番最悪な場合は、最初からしっかり頭ん中に入れといて貰わないとだからね。最悪の最悪、誰かが犠牲になるかもって口走んなかっただけ、あたしの良心を感じて欲しいもんだわよ。
…まぁ、ぶっちゃけそう成るって判断した時点で、後の事なんて考えずに精霊王の力ブッパして、ゴリ押しで問題解決するつもりですけれども。なので、万に一つもそんな事態起こさせないですけれども。
而して、んな事おくびにも出そうもんなら、間違いなくみんなから叱られるので、恐たんだから決して口には出しませんけれども。さておき――
「自分から言い出した無茶なお願いで、あたし達を危険な目に遭わせるのを心苦しく思ってるのは解る。けどねメアリー…厳しい事を言うけれど、だからってあなたに危険な役割を任せて、それで軽くなるのはあなたの心の負担よ?」
「ッ…」
「だし、それであなたの身に何か在ったら、例え目的の2人をちゃんと救出出来たとしても、あたし達は全然喜べないのよ。それはきっと、あなたの恩人達だってそうよ?」
「優姫さん。」
「だし、あなたが無事なのは勿論だけど、その時あたし達も全員無事じゃ無いと、今度はあなたが心から喜べないでしょ?」
「はい…」
尚も意地の悪い質問を続けていくと、いよいよ居たたまれなくなったらしいメアリーが、小さな身体を更に縮こまらせ暗い表情で項垂れる。
これじゃ、まるっきりあたしが悪者ね。実際、周囲からの視線がめっちゃ痛いし。
特に、エイミーのあたしを見る目が一番キツい。なんせ途中、『言い過ぎだ』って視線に気が付いてんのに、敢えて知らんぷりして続けてたかんね。
きっと、後でお小言言われんだろうなぁ~まぁこの件以前に、潜入ん時の無茶で絶対お小言言われるだろうから、今更一個位増えてもへ~きへ~き(この後、めっちゃ怒られて涙目になりました、かしこ
と、それはさておき。鞭はもう十分過ぎるだろうから、そろそろフォローという名の飴ちゃん上げますかね。
なんて、偉そうな事を1人考えながらあたしは、それまで彼女に対し向けていた表情をふっと緩めた。
「なにもさ、腕っ節の強さだけが戦いの全てじゃ無いし、危険に飛び込むだけが勇気を示す方法じゃ無いのと一緒よ。」
そしてそう語り始めつつその肩に手を置き、彼女に顔を上げさせた。
「メアリーに出来る戦い方で、あたし達の事を助けて欲しいの。」
「私に出来る戦い方…ですか?」
「そう。」
頷きながら答えたあたしは、そこで一旦言葉を切り微笑むと――
「そういう強さだって在るし、そういう勇気の示し方だって在るのよ。」




