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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第二章 訪問編
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いちからはじめるいせかいかんこう(のーまる?)(6)

「さて、そしたら再開するかねぇ。少しギアを上げるが、ちゃんと着いてくるんだよ?」


 そうリンダが言った瞬間、彼女から感じる圧が明らかに変わった。その身体は淡く黄色く光り、ゆらゆらと全身から湧き出るように立ち登っていた。


 ギアを上げる…ね。言葉通り捉えるなら、今までは下位スキルだけだったけど、ここからは中位なり上位スキルも使用するって事なんでしょうね。


これは気を引き締めないと、一瞬で決着が着いちゃうわね~折角、この世界のスキルについて、その真価の一端が見れるって言うのに、それじゃつまらないしね。


 そんな事を思いながら、油断なくリンダを見据えながら、次の一手を想像しつつ、それに対応出来るように、全方位に意識を向け集中する。深く息を吐きながら呼吸を整えて気を静め、あたしの最大の武器である集中力を高めていく。


 こちらに来たあたしの、仮初めじゃ無いあたし自身の力だ。そして現状、この世界のスキルという技術に対抗しうる武器でもあるしね、最大限活かさなくっちゃ。


「…タイムリミットも迫っているみたいだしね、さっさと始めるよ?

「そうね、いつでも良いわよ?」


 リンダの言葉を肯定しながら、握った拳に力を込める。彼女が言ったタイムリミットってのは、まぁあたし達を止めに入る人達が来るまでって事でしょうね~


「いくよ。」


 そう彼女が呟いた瞬間、その姿が忽然とかき消える。同時に背後に気配を感じ取って、あたしは軽く舌打ちをする。


 速すぎる!あたしの動体視力を完全に凌駕してるじゃない!!下位スキルとその上とじゃ、ここまで差が出るって訳ね…


 なんて、頭の中では至って冷静に状況を分析しつつ、ほとんど脊髄反射で、あたしの身体は次の行動に移っていた。振り向いてリンダの攻撃を確認する暇は無いと、瞬時に判断したあたしの身体は、右側から攻撃が来ると直感で判断して、右足を大きく踏み込んで、力ずくで無理矢理半身になりつつ、上体を前のめりにしていた。


 ブオンッ!!「流石。初見で避けるのかい。」


 直後に、ものすごい風切り音を響かせて、あたしの背中すれすれに、リンダの太い腕から繰り出された正拳突きが通り過ぎ、同時に感心した様な声が聞こえてくる。


 いやいや、感心されても困るんですけど!今避けられたのほとんど偶然だし!って言うかそんな突きくらったら背骨折れるわ!!


 なんて、心の中で悪態を吐きながらも、呼吸を整える事だけを第一に考えていた。人が自然と無自覚に行っている呼吸だけど、人が活動する上でこれ以上重要な要因は無いと、あたしはそう思うのよね~


 運動をする人、特にランニングをする人なんかは、特によくわかると思うんだけど、走る上で苦しくないテンポの呼吸の仕方って、人それぞれだろうけど有るのよね。わかりやすい所だと、長距離走と短距離走じゃ、呼吸の仕方って当然違うじゃ無い?


 それと一緒で、呼吸の仕方1つで、身体能力の制御って割と出来ちゃうのよね。制御って言うと大げさに聞こえるけれど、様は疲れにくい呼吸の仕方だとか、心を落ち着かせる呼吸の仕方だとか、まぁそう言った箏なんだけれど。


 武道や格闘技においても、呼吸法って言うのは当然重要で、相手の呼吸を読んだりして、攻撃のタイミングを計ったり、合気道の考えだと相手の呼吸に合わせて、その攻撃をいなしたり、逆に利用したりするのよね。


 その位、呼吸法って言うのは、人が活動する為以上に、重要な行為なんだけれども、逆にそれさえ乱さなければ、疲労だって最小限に抑えられる。呼吸が乱れなければ、脳の活動だって乱れないから、激しい動きの中でだって、集中力が乱れないのは道理って訳。


 だからあたしは、本気で何かに挑む時は、必ず呼吸を乱さない事を第一に考えて行動している。まぁ、言うのは簡単だけどね、試合になれば、否が応でも緊張から心臓が早鐘のように動いて、呼吸を乱そうと邪魔するのよね~


 それが、リンダのような格上の強者なら尚更だ。今だってあたしの心臓は、バクバクと激しく脈打って、口から飛び出さんばかりの勢いで活動している。


 それを、呼吸法で無理矢理押さえつけて、コントロールする。暴れ跳ね上がるじゃじゃ馬を、手綱を握って必死に押さえ込もうとする騎手の気分だわね。


 あたしは、踏み込んだ右足に重心を移しながら、同時に左足を背後に下げて、身体の向きを一気にリンダの方に向かせる。向き直ると同時に、ボクシングのファイティングポーズを取って、インファイトの準備を取った。


 何でかって?リンダが既に次の一手を打ってきてるからに決まってるでしょーう!


 繰り出された左のフックを、更に右足を引きつつ重心を背後に移して、上体を反らして躱し、次に来る右のストレートを、左腕で軌道を逸らしつつ、右に重心を移動させて躱す。その後、2手3手と続く彼女の連撃を、あるいは避けて、あるいは逸らして(しのぎ)続ける。


 彼女の攻撃に、対処出来ているように思うかもしれないけれど、実はかなりギリギリだった。この短時間であたしの動体視力が、そうんな速く対応出来るようになった訳じゃ無い。


 今でもリンダの攻撃は、目に留まらない位の速さで、あたしに迫ってきている。けれどそれは、留まらないであって、()()()()速さという訳じゃ無い。


 その僅かに映る影と、全神経を尖らせて相手の気配を読んで得た情報と、あたし最大の武器である集中力。あと最初の攻撃を避けた時に活躍した女の勘(笑)で、彼女の動きをギリギリの所で先読みして、なんとか対処していると言った所かしらね。


 流石に、これじゃ瞬きする事さえ出来ないわね。おまけに、徐々にだけどリンダのスピードも上がってきてるし、このままじゃいずれ攻撃を喰らうわね…けど。


「どうしたい!今度は防戦一方かい?さっきみたいに仕掛けてごらんよ!!」ブオンッ!

「ッ!」


 死中に活を見出すとしたら、やっぱりそこなんでしょうね…


 正攻法で戦えば、十中八九あたしはリンダに勝てないでしょうね。なら、()()()()()()()()()()()()()()


 あたしの一族に限っての話だけれども、あたしの武の才能は、一族の中では平凡も良い所だ。家族に言わせると、あたしは自分を過小評価し過ぎだと言われるけれど、それでも、過大評価して痛い思いをしないよう、慎重になっていると思えば、それはそれで悪い事じゃないと、そう思っている。


 あたしはそこまで強い人間じゃ無い。だからこそ慎重になれるし、勝つ為にどうすれば良いのかを、何をするべきなのかを考える。


 その結果が10を超える習い事だったり、相手をわざと挑発して、冷静な判断を削ぐように仕向けたり、相手の意表を突いて、奇襲を仕掛けてみたり、戦術や戦略を駆使する戦い方を、身につけた訳なんだけど。要するにあたしは、人を欺いて、奇襲や不意打ちをする事に、全く抵抗を感じないって箏だ。


 誤解しないで欲しいんだけど、ここで言う奇襲不意打ちって言うのは、全く無防備の相手を、背中から音も無く襲うとか言う卑怯な戦法じゃ無くて、相手に誤情報をすり込ませて、自分の力量を軽く思わせるだとか、相手の死角を利用して、錯覚を起こさせたりと言った、れっきとした技術ありきの戦法の事だ。


 それをなぜ今語るかと言えば、それは今まさに、リンダがあたしの与えた誤情報で、()()()()()()()()()()()からだ。

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