異世界うるるん滞在記~子連れJKが、肩をぐるんぐるん回してアップ始めました~(3)
『なんじゃい。情けない返事じゃのぉ~』
頭を抱え蹲っていると、リング越しにそんな台詞が聞こえてくる。それにあたしは、でっかいため息で応答。
『こりゃ!何じゃその反応は!!儂だってそれなりに頑張って渋ったんじゃぞ!?』
『ま、まぁまぁ…』
『優姫さんの心情を察すると、そんな反応にも成りますでしょうよ。』
『Yes...優姫も大変ですね。』
「そう思うんだったら誰か変わって…」
あたしがそうぼやくと同時、さっきまであれだけ賑やかだったのに、誰も何も語ろうとせずシンと静まり返る。待つ事一刻――
『――それはそうと。』
あ、はい。あたしの要望は、受け入れられなかったらしいです。
なんだろう…目頭が熱くなってきちゃった…
『では、スメラギさん方は、現在龍王様の元にいらっしゃいますの?』
『うんにゃ。奴とはユニコーンを介し念話でやり取りしとっただけじゃよ。儂等は予定通り、バージナルの前線基地を横切る形で素通りし、今は不可侵エリアの境界線手前まで来ておる。』
『境界線の手前ですか?』
『予定じゃ、バージナルの基地が一望出来る地点で、派兵された軍が到着するのを待つんじゃ無かったのかい?』
『いや、当初はそのつもりじゃったんじゃが…』
寒空の元で1人心の中でむせび泣きながら、仲間達のやり取りを聞いている内、会話の内容が気になり始め、仕方なしに気持ちを切り替え。
『これも龍王の奴めに頼まれてのぉ。ユニコーン達を御主等の目的の為に利用するのを黙認する代わりに、エリア内に居るフエンリルに同胞の訃報を伝えろと、これまた面倒な事を言いつけられてのぉ。』
『Oh!エリア内に居るフェンリルとは、噂に聞く『封印の要を護る最強の獣』ですか!?』
明陽さんの口から一頻り経緯を聞き終えた直後、ミリア珍しく興奮気味に食い付いた。なんとも厨二心をくすぐるご大層な二つ名を、嬉々として口にしてたけど…
ってか、ルアナ大陸ってまだ守護獣居たんかい!
『あぁ…って、最近はそんな風に呼ばれとるんか?』
『Yes!不可侵エリアのその奥で、女神が施した封印を護っていると聞きました。何者も訪れる事無く、誰の力も借りずにたった一体で封印を護る孤高の獣…しかしその姿は誰も目にした事が無いから、存在が疑問視されてるって聞きました!』
『お、おぉう…そ、そうか…』
続く明陽さんからの問い掛けに、やはり興奮気味に嬉々として語るミリア。余りの勢いに、珍しく明陽さんが引いちゃってるし…
ともあれ、今のやり取り聞いててなんとなく察し。彼女、UMAとかそういうのが好きなんじゃね?
『その様な事を依頼されたのですか?』
『うむ。』
「けどそれって大丈夫なんですか?不可侵エリアの中って、時間が停止しちゃってるんですよね?」
『あぁ。じゃが、クロノスの加護を持つユニコーンが一緒じゃからな。こやつ等に置き去りにされるでもしない限りは平気――痛ッ!?角で突くでないわボケェ!!』
内容が内容だだったので、心配になったあたしも会話に参加。しかし、そんな心配が無駄に思う位、全く気にした素振りの無い返事が返ってくる。
所か、話題となってるユニコーンさんと、悠長にじゃれているご様子。い~な~
『ともあれじゃ。儂等が受けた依頼も御主等には関わりない事じゃて。じゃから、儂等の事は気にせず、そちらの事に集中せいよ。』
「解りました。こっちはこっちで頑張るんで、明陽さん達もどうかご無事で。」
『(エイミー貸して!貸して!!)おばあちゃん達!頑張ってね!!』
『おぉう姫華。あちがとうのぉ~頑張ってくるよ。ついでに優姫も。』
取って付けた様に言われ、苦笑交じりにため息1つ。デスヨネー
『ではボチボチ行くとしようか。中に入ったら一切のやり取りが着なくなるが…儂等が聞いとらんからといって、無様な真似だけはするでないぞ、優姫よ?』
「そこだけあたしを名指しですか、そうですか。そうならない様努力しますよ、こん畜生!」
そう返した直後、明陽さんが楽しそうに鼻を鳴らしたかと思うと、それ以上何の反応も返ってこなくなった。全く…
『ちゃんと無事に帰って来なかったら、不可侵エリアの中まで2人の事迎えに行っちゃうんだからね!』って、言う暇ぐらい残して置いてよね。
『…どうやら向かわれた様ですわね。』
『その様ですね。』
『では、こちらもそろそろ次の行動に移りましょうか。優姫さん、今どちらにいらっしゃりますの?』
「ちょっと待って。え~っと…」
不意にそう聞かれたあたしは、その場で制止し振り返ると、今し方通ってきた建物の屋根に視線を向ける。
「軍門広場の奥まった場所に立つ建物から――」
言いつつ、視線を進路上へと戻した。
「――あそこがきっと王城よね。に向かって、屋根伝いに150メートル程進んだ場所に張り付いてるわ。」
『インビジブルの効果は発動されておりますか?』
「とっくに切れてる。だから今は、夜影に隠れられるよう全身黒で統一してるわ。」
『解りました。では、こちらで誘導致しますので、少しその場でお待ちください。』
「了解。」
と、シフォンの指示に従って待つ事数秒――
『――確認致しましたわ。本当に全身黒ずくめですわね…』
「おっ!じゃぁ今あたしがどんなポーズしてるか言ってみて。」
言うが早いか、シフォンが潜伏する山に向かって、ウェ~イって感じでWピース!
『…両手てピースしておりますわね。』
「正解!」
『優姫…』
『マスター…』
『なぁ、今のくだりは必要だったのかい?』
直後、返ってきた仲間達の反応に、浮かべた笑みを引きつらせるあたしです。あれ~?
ちょっとした茶目っ気のつもりだったんだけどなぁ…サーセン。
『…まぁ良いですわ。それよりも、誘導しますからそこから移動してくださいな。』
「オッケー」
呆れながらにそう告げる彼女に対しそう答えたあたしは、言われるがまま誘導に従い移動を開始。程なくして、案内された場所に到着。
そこは、街灯も何も無い狭い空間。四方を建物の高い壁で囲まれた、街中にぽっかりと空いた空間だった。
何処を向いても完全なる行き止まり。表に出られる通路なんて無く、故に誰も入ってこれそうに無い完全なるデッドスペースだ。
この場所に出入りするとなると、建物の窓からって事になるんだろうけど…地面に近い窓はどの建物も小さく、ギリギリ細身の女性が通れるかってくらいの代物だった。
「はぁ~…こんな場所、よく見つけられたわね。」
さほど広くないその空間を、ぐるりと見渡しつつ感嘆の声を漏らす。ここまで妙ちくりんだと、どんな経緯があってこんな風になったか気になっちゃうわね~
『使い勝手は余り宜しくないでしょうが、そこでしたら優姫さんの眷属を隠すのには、打って付けな場所でしょう?』
「なるほど。確かにそうね。」
そう返しつつ適当にオリジナル眷属召喚して、各建物の窓から見られても目立ち難そうな場所に設置。これでこの場所が、バージナルで活動する上での拠点に成った訳だ。
『眷属は設置しましたか?』
「うん。」
『では、1度精霊界に戻ってエイミー達と合流してください。銀星さん、例の物を持ってあちらに合流してくださいな(わかりました)』
「おっ!」
リング越しに聞こえる、シフォン達の会話の中に出てきた例の物って単語に、ピンときたあたしは思わず声を上げて反応する。
「もう地図出来上がったの?」
『えぇ。』
続け様にそう聞くや、返す言葉でハッキリと断言するシフォン。さっすが、見かけ通りに仕事が早いわね~
初めて訪れる場所で、こそこそ活動しようってんだもん。最低でも街の地理を把握しておかなきゃ、まともに活動なんて出来ないわ。
けど、外から訪れる者がほとんど居ないというバージナルの性質上、他国にかの国の地図が流通されるなんて事はまず無い。ならどうするか?
街並みを一望出来る様な場所から全体を見下ろし記憶するか、或いは一から作成するより他に無いわよね。
前者は、リアルチート能力の代表格『写真記憶』持ちなら可能だけど、生憎誰も持ち合わせてないからね。あたしはまぁ、記憶のテラリウムに潜れば似たような事出来るけど…
能力使用中は他の事一切出来ない上、使用したら反動で暫く頭痛に苛まれるから論外です☆
そうなると、選択肢は自然と後者になる訳で。街を一望出来る場所から、バージナルの状況を監視してるシフォン以上に、適任者が居ない訳で――
『――全く…街1つマッピングするなんて…銀星さんも協力してくださいましたが、本当に大変でしたわ。』
デスヨネー
しかもシフォンってば、魔法器の生産と平行してだからね。実際、かなり大変だったと思う。
「シフォンにばかり負担を掛けちゃってごめんね。でも、そのお陰ですっごく助かったわ、ありがとう!」
だからこそ、感謝の気持ちを言葉に乗せて、お礼の言葉を素直に贈る。直後――
『――あ、あの!ありがとうございます。』
ここへ来て初めて聞いたメアリーの言葉は、少し緊張している様に聞こえた。
『…まぁ、乗りかかった船ですからね。今更、協力は惜しみませんわよ。』
彼女の言葉にシフォンは、少しぶっきらぼうに答えた。もしかして照れてる?




