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剣道少女が異世界に精霊として召喚されました  作者: 武壱
第四章 軍国編
299/398

間章・どうしてこうなった?その経緯がこちらだ☞☞☞(5)

 ――現在、バージナル国内側軍門前、閲兵式典広場


「…ふむ。」


 ――ズゴゴゴゴ…ズズゥン!!


 式典の為に急遽用意された台の上。そこに立つシマズ将軍が、不意に声を漏らした。


 直後、轟音と共に軍門がその間口を完全に締め切る。それを見届け、将軍が肩を落としため息を吐き出した。


 小一時間程、その場から微動だにせず、主君と多くの兵士達を見送ったのだ。一仕事終えた達成感から、安堵の吐息が漏れたのだろう。


 そう思って様子を伺うと、しかしどうやらそうじゃ無いらしい。何故なら将軍は、しかめっ面で思い切り眉間に皺を寄せていたからだ。


「まさかとは思ったが、やはり私の視線に気付いて、警戒されたか…」


 続け様に将軍は、独り言を口にし再びため息を吐き出す。察するに、自身でも予想外の展開に、酷く残念がっている――と言った所だろうか。


 だとして、しかし一体何をそんなに残念がっているのだろうか?何の滞りも無く、無事に軍隊を送り出したというのに…


 まるでその事自体が不満――或いは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そんな風にも取れるが――


「――しょ、将軍!シマズ将軍!!」


 不意に、後方より誰かに呼ばれて、肩越しに振り返る。見ると視線の先、軍部の制服を着た若い文官が、シマズ将軍の元目掛けて全力疾走する姿があった。


 その姿を確認するや将軍は、身体毎振り返ると同時に台から下る階段へと足を向ける。ふと気になり表情を窺うと、先程までのしかめっ面と打って変わり、涼しい表情となっている。


 さておき。その若い文官がシマズ将軍の元へと辿り着いたのは、将軍が階段を降りるのと同時だった。


「どうしたのかね?そんなに慌てて…」


 文官が辿り着くや、将軍の方からそう訪ねる。それに対して若い文官は、両膝に両手をつき肩を激しく上下させるばかりだった。


「そ、それが…さ、先程…ぜ、前線から…」

「あぁ、いや…私が悪かった。慌てなくて大丈夫だから、まずはしっかり呼吸を整えなさい。」

「は、はい…す、すみません…」


 それでも、なんとか将軍の問い掛けに答え様と口を開くも、しかし見かねた将軍によって直ぐさま制止され、更には階段に腰掛ける様、勧められて素直に応じる。


 待つ事数分――


「落ち着いたかね?」

「は、はい。申し訳ありません将軍…」

「結構。で、何があったのかね?」


 すっかり落ち着きを取り戻した様子の若い文官が、気恥ずかしそうにしながら頭を下げる。それを見て、シマズ将軍が満足そうに頷いた所、再度問いかけと相成った。


「は、はい。それが、先程我が軍の前線基地から、緊急の連絡が入ったのですが…」

「…察するに、ユニコーン達の姿が目撃された――かね?」

「は、はい!その通りであります!!」

「そうか…」


 そう呟きながら、何やら考え込む仕草を見せるシマズ将軍。今の報告に、何か思う所でも在るのだろうか…


「あ、あの~将軍?」


 そんな将軍に対し、恐る恐ると言った雰囲気で声を掛ける若い文官。瞬間、ハッとして彼の事を見やった。


「まだ他に報告があるのかね?」

「は、はい。その、今までに無い報告だったので、耳を疑ったのですが…」

「何だね?」

「そのですね…目撃されたユニコーン達の背中に、それぞれ人が跨がっているのが確認されていまして…恐らく、行方の解らなかった守護者2名では無いかと…」


 困惑気味に語る、若い文官の報告を聞き進める内にみるみる表情を曇らせて、終いには空を仰ぎ始めるシマズ将軍。何を思いその様な反応をしたのか不明だが、悲壮感とも取れる雰囲気を醸しでいるのは、恐らく気の所為では無いだろう。


「あの、将軍?」

「…うん?あぁ、すまんすまん。余りの事につい、な。」

「はぁ…」


 報告を終え、心配そうに気遣う若い文官にシマズ将軍は、空に向けていた顔を彼に戻すと、苦笑交じりにそう答える。直後にため息1つ吐き出して、それをきっかけに表情を引き締めた。


「報告ご苦労。この件は大臣方にも、申し送りされているのかね?」

「はい!既に他の者が向かっています。」

「そうか。ならば引き続き、何か動きがある度、大臣方にも逐一報告を送る様にな。」

「ハッ!」

「それと、繰り返しになって済まんが…大臣方から何か指示が在った場合は、それを優先して行うように。」


 続けて為されたその指示に対し、しかし若い文官は返事を躊躇い、眉間に皺を寄せて口籠もってしまった。そんな彼に対して将軍は、自嘲気味な苦笑を浮かべて、その肩にポンと自分の手を添える。


「そうあからさまに不安そうな顔をするなよ。誰が見ているか解らんのだからな。」

「は、はい。申し訳ありません将軍…」

「謝るのは、寧ろこちらの方だろう。すまんな、迷惑を掛ける。」

「そ、そんな!将軍が謝る必要なんて…」

「いや、良いのだよ。皆にもすまないと、伝えてくれるかね?」

「は…はい。了解しました…」

「よし。では本部に戻りたまえ。」

「ハッ!」


 そう言って、若い文官を送り出親しまず将軍。そのまま、遠ざかっていく彼の背中を見送って、程なく――


「――さて。」


 不意に、誰に向けてでも無くそう告げると、何故か肩越しに後方の様子を窺うシマズ将軍。そのまま、目を細めてある一点をジッと凝視し始める。


 将軍が視線を向けた先。そこには、至って平凡な民家が一棟建っている。


 平凡と言っても、それは『この国では』と言う前置きが必要か…横に狭く縦に長い、一目見て3階建てと解るレンガ造りの古びた民家。


 その民家の一番上に当たる屋根部分。緩やかな傾斜の何の変哲も無いその部分を、無言のままにジッと見つめる。


 だが、特に他と変わった様子も無ければ、何らかの変化が起きる気配も無い。しかし、それでも将軍はその一点をジッと見つめ続ける――


「――ふむ。気の所為だったかな。」


 どれだけそうしていただろう。不意にポツリと呟いて将軍は、ようやくその屋根から視線を外す。


「妙な気配を感じたのだがな…しかし、何も見えぬのならば仕方ない。」


 次いで、()()()()()()()()()()()()()に、これ見よがしに独り言を呟くと同時、徐に歩き出して広場を後にする。


 立ち去り際、何とはなしにその表情を窺うと、何故だか不敵な笑みを浮かべていたのだった――


………

……


 ――シマズ将軍がその場を去ってから5分後…


 一見、何の変哲も無い古びた民家。横に短く縦に長い、3階建てと一目でわかる建物上部。


 なだらかな傾斜が付いたその屋根の上。そこは、先程迄シマズ将軍がジッと見つめていた一点だ――


「――やっば~…あれってば、確実にあたしの事バレてますやん…」


 その部分から不意に、そんな間の抜けた似非関西弁が聞こえてくる。しかし、何処からどう見てもその部分に、人の姿は一切無かった――

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